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魔物資源活用機構  作者: Ichen
幕間『散るも連れるも』
2850/2860

2850. 皆の状況・ドルドレンの現状・死霊の計らい・一日分報告①『イーアン』

 

 イーアンがタンクラッドと魔物の門に入り、トゥとルオロフが無人島で待たされ、ニダとオーリンが黒い船に残り、センダラがイングたち異界の精霊と、動力をほとんど壊し・・・


 カーンソウリー島へ戻ったミレイオとシュンディーンが、付き添った船を下りて、濁った水を清め、崩壊したものを消している時。


 先日ティヤーの古代檻を探したばかりのヨーマイテスに連れられたシャンガマックが、地上絵ならぬ、海岸から見える浅い海底の水中絵と遺跡に向かい合う、その頃。



 ドルドレンはショレイヤの背から地上を眺め、本当に人が消えてしまった世界に愕然としながら、たまに目に入る魔物を倒しては『これは魔物というよりも』と、死霊8割の相手に訝しむ。


 この、空に浮かぶ龍と勇者の影を、()()()()が追う。龍から降りない勇者を辿り、フラフラと影伝いに、影がなければ遠回りし、執念のように。



 魔物を倒す時だけ、地上に近づく勇者だが、迂闊に降りないよう気を付けている。


 連絡珠を使おうと思わなかったのではなく、イーアンたちが忙しいかもしれないことや、これほど人がいないと・・・変な話、()()()()()()()()()ので、とりあえず今は、残ったサブパメントゥにうっかり自分が捕まらないよう、そちらを気にすることにして、空を移動し魔物を探して倒し、その流れで仲間に会えば良いように思える。


 始まったと気づいた朝から一日しか経過していないのに、ティヤーは最短終了の雰囲気。しかし、爪痕は確実に残っており、決戦が長引かなくて良かったと、それに越したことはないのだ。


 見下ろす地上そこかしこに、人々が戦っていた名残がある。

 自分の目で現状を確認したいとずっと思っていた分、この速度を落とした飛行は、イヌァエル・テレンで山のように想像した心配が現実であったと教える時間。


 いくらも見て来た、辛い光景を重ねる。


 ハイザンジェルから始まって、テイワグナもアイエラダハッドでも。人が倒れ、家畜が殺され、息も絶え絶えの死にかけた姿や、逃げ延びて泣いて困惑する人々。行き場も食べ物もなくなった動物が、死体を食べる光景も。ティヤーでは、『人』がいないが。


 大量の魔物に襲われると、道も家も荒れる。

 日常を襲われることから火事の発生は確実にあり、豪雨や氾濫の水害が重なると火事は減るが、あっという間に汚物がそこらに流れ、死体も浮かんで移動する。


 ティヤーは丸一日嵐だったようで、地震で裂けた割れに、流れ込んだ草木や破損倒壊物が見えた。川辺や海岸も似たり寄ったりで、風と波で連れて来られた漂流物が陸との境目に目立つ。地すべり、上から水に押し流された人工物も溜まる。


 この溜まった所に、人の顔をした死霊と魔物の混ざりもの死骸も。

 場所によっては海岸線全体に、内側の川岸では湾曲に引っかかるように集中していた。陸に上がって倒された魔物も多く、家々の合間・通りで倒れた様子と、周辺に散らばる金属片の光などは、武器の応戦を想像できた。



 これまでと違うのは・・・側に()()()()()()()ことだけ。



「降りる前。ビルガメスに、少し聞いたが。『連れて行かれた者たち』は、全員が連れて行かれたのだな。『連れて行かれない者たち』がまだ残る。彼らは他の種族に認められたから。『連れて行かれた者たち』の中にも残る者が出てくると、馬車歌は歌っていたがそうではなかったな。

『尊い風を受けた者が残る』と(※2712話参照)決定していたか・・・にしても、動物すらいないような」


 家畜の死骸は、点々と見える。ただ、数は少ない。あまりの少なさに気づくと、不自然なほど。龍に少し高度を下げてもらい、数個の島の海沿いをゆっくり飛んで視認した限りでは、魚の死骸もなかった。


 海での戦いは経験が殆ど無いけれど、それにしても海の生き物が嵐で打ち上げられたり、一ヶ所に打ち寄せられて死ぬなどの話は聞いていたし、自分も少しは見たことがある。この、海だらけのティヤーで、魚たちの影が全くない違和感。


 ふと、先ほどから空に鳥が見えないとも思う。さっと見回し、鳥の声もしない空と関係があるのかを考えた。


「知らないことが・・・多そうだ」


 人と動物の姿がない。動物たちも、人と共に連れて行かれたのだろうか。


 考え込むドルドレンが、背中から左右を見下ろしている様子を、藍色の龍はそっとしておく。龍は、離れていてもサブパメントゥの気配に気づいていた。

 ドルドレンを狙う者かはっきりしないにせよ、自分が側にいるなら問題ない・・・背に乗せた勇者を、安全に仲間の元へ運ぶことにし、船にも連れて行かなかった。


 船のある方向は、生き残った人間の気配も()()()()ある。人の減った地上に、残っている人々をドルドレンが見たら、間違いなく降りようとするのを、龍は理解していた。サブパメントゥを避けて仲間に彼を届けるためには、地上の様子を見せながらも人間の姿を見せないことが大事―――



「本当にどれもこれも、死霊ではないかと思う」


 ショレイヤの気遣いに気づかない勇者は、視界に入る光景に思うことを呟く。


 魔物ですらないものを退治している、このおかしな状況。敵は魔物に見えず、人も動物もいない。俺が空に居る間に、何があったのか。掻い摘んだ話しか報告を受けていない身としては、疑問が増えるだけ。


『これらはどう見ても死霊の要素』と、何度も同じ疑問を口にする勇者は、藍色の賢い龍に守られて、ゆっくりゆっくり空を進み・・・時々、見つけた魔物を倒しながら、仲間の元へ向かう。



 *****



 離れた海で、死霊を放つ『アソーネメシーの遣い』は、この状態に悩んでいた。


 アソーネメシーから何も言われないが、このままで良いのかどうか。龍の気を大量に浴びた魔物は、あっという間に手持ちが終わってしまった。


 始まって一日そこら。ただでさえ少なかった魔物が、丸ごと消滅し、呼んでいた死霊も消え、これで終わりにして良いのか戸惑ったが、とりあえず、自分の采配が利く分で新たな死霊を呼び込んだ。


『勝手なことをしたと罰されなければ良いが』


 何の指示もなく、何の反応も来ない。アソーネメシーは急に怒るので、死霊の長もいつ消されるやらと気になるものの。一言、『もうおわり』とでも伝えてくれたら違うが、それも無しでは。


『手を引っ込めたら、()()()()()()()と言われかねない』


 仕方ないので苦肉の策、自分が使える死霊を・・・悪意の塊のような()()にとり憑かせようと考える。昨晩から空中を引っ切り無しに動き回っていた、あれら。


『魔物代わりだ。弱々しいが、無いよりマシだろう』


 生きた人間に入り込むようだが、食い込まれた人間は、どうも地上に残っている。あれで良いかと、言い訳も考え、配慮のつもりで死霊を操ろうとし、はたと感じ取ったものに浮かせた腕を止めた。


『んん・・・?ダメだ。あれもすぐ終わるのか。全部ではないが・・・あれが付いていない人間に比べて、食い込まれた人間の()()()()()()()



 死霊の長に見えて聞こえた、それらの寿命―――


 悪意の念が入った人間へ、死霊を回そうと照準に定めて流れてきた、それらが終わるまでの短さは、初回が半日もない。死霊と併せて戦わせるにも、勝手に死なれては役立たずどころか。



 くっくっくと苦笑して、死霊の長は筋肉むき出しの頭を左右に振った。


『何なんだ、この決戦とやらは・・・決戦でも何でもない。魔物の残りカスをまとめて出して、あっという間に片付けるだけの作業じゃないか。人間も、ティヤー(この国)ではそこそこ死んだけれど、半分以上がごっそり、よそへ連れて行かれた。

 誰のための時間やら。アソーネメシーに文句を言われても困るが、とり憑かせる魔物もなくて俺に出来ることはない。死霊の在る意味を問われかねん』


 少し前から思っていた。この行為はアソーネメシーの指示とは言え、他の強力な立場から見咎められないかを(※2803話参照)。


 すまないが、とアソーネメシーに謝り、死霊の長は、状況に合わせる方へ変えた。

 勝手に手を下げたと言われるのも心外にせよ、やりようがないまま試行錯誤でひねくり出すほどの事情がすでに無い。


『少しばかり、出て来た魔物を使って良いか。判断に悩むが、時空の裂け目から湧く魔物を探して、制限時間までは()()()()()


 遠くから感じる、時空の歪み。同時に生じる魔物の気配。あれにするかと、死霊の長はそちらへ移動する。とりあえず『魔物に死霊を』の命令に背いてはいない。終了の合図まではやる程度の気持ちで。


 忠実な死霊の長は、アソーネメシーが今、どこでどうなったか知るわけもない―――



 *****



「魔物の門は、龍じゃなくても壊せるはずだよな?」


 水を被る祠跡から飛び出したすぐ、白い龍の角の間でタンクラッドが尋ねる。ただの確認で、他でも開いていたらと、少し案じたこと。

 頭の上にいる親方を見ることもできないイーアンだが、言われていることは理解するので、軽く頷いた。


 ふーっと溜め込んだ息を吐いた剣職人は、濡れた顔にまとわり付く髪を後ろへ撫でつけ、背中の鞘に剣を戻す。カタン、と鞘口に音が鳴ると同時、すっと足元が抜け、次の一秒で人の姿に戻ったイーアンの尾に巻きつけられていた。


「尻尾か」


 ハハハと笑って、胴体に巻き付くフサフサの白い尾をポンと叩く。飛びながら振り向いたイーアンもちょっと笑って『龍気が減っていまして』と言い訳。それを聞いて、笑っていた親方は笑顔を引っ込め心配する。


「大丈夫なのか。お前は毎回、どの決戦でも龍気切れを起こしていたような」


「言わないで下さい。そうだけど」


「ティヤーの決戦はもう終わったようなもんだろう?これ以上ある気がしない。一度、空へ」


「うーん、そうもいかないんですよ。あなたも言いかけましたが、他でもこれが起きている可能性はあるとなれば、戻る暇はありません。ドルドレンも降りてくるかもしれませんし、エサイも」


 トゥたちを待たせた島へ近づく二人の会話に、『エサイはいない』とダルナが差し込む。頭に響いたトゥの知らせで、イーアンとタンクラッドは目を見合わせ、目と鼻の先の島へ急いだ。降りてみると、トゥとルオロフだけ。二人は落ち着いていて、トゥは『済んだか』と主に尋ね、ルオロフはイーアンの側へすぐ来る。


「ルオロフ、彼は?エサイ」


「ホーミットが来て、彼を連れて帰りました」


「あ・・・お迎え」


 イーアンがタンクラッドを振り向き、タンクラッドと目が合い、剣職人はデカいダルナに『最後まで言えよ』と抜けの情報を注意。トゥは『大したことじゃない』と流して、女龍を見た。


「次はどうするつもりだ」


「え?ああ、そうですね。次は治癒場行の人々が動くから、それまで魔物を探して倒しますが・・・あと、動力も全部倒さないと」


「あれはもう、イングが終わらせただろう。聞いてみろ」


「そうなのですか?イングに会う時間も無くて。センダラには少し聞きましたが」


「センダラ?」


 トゥとイーアンの会話に、タンクラッドが口を挟み、女龍はここで『情報共有しておこう』と一息入れる。


 人々の移動が始まる前に、少しだけでも。『念』についても話しておかないと、と思い出したイーアンは、剣職人とトゥとルオロフに、まずは自分の一日を大まかに伝えた。



【イーアンの報告】


 船を出てから―― 決戦開始前の朝。

 トゥの前で、太陽に連れて行かれたイーアンは、太陽から十二の面の使い道を聞き、それをバサンダに伝えに行った。戻って来て、『原初の悪』と一揉めあり、男龍の手伝いで解決。


 その後は、異世界へ行く人々のお守りになる粘土板を集め、回収後に託し、これが翌朝。


 次に、人々の迷いがないよう目印を設置し終えて、今度は世界の治癒場を巡り、精霊に見守ってもらえるようお願いして回り、戻って来て深夜。

 ティヤーの地震と津波が始まっており、朝まで一人で津波と魔物の対処を続け、『時空亀裂』が生じたため、センダラに頼り、センダラと閉じて回った。



「この時、センダラから聞いたのです。センダラは北で、動力を倒していました。彼女と同じように、動力対抗を準備していたイングは、センダラと会い、手分けしたそうです」


「あのセンダラが」


「はい。タンクラッドが驚くのも無理ありません。私も驚いた。でもまだ驚きますよ。彼らも時空亀裂の余波が届いたため、センダラは指示を渡し、イングたちはその指示で可能な範囲を実行しています」


「ダルナはお前以外の言うことを」


「聞かないですよ。センダラ曰く『イーアンならそうする』と伝えたら、実行したそうで」


 黙って聞いているトゥが、軽く違和感を示す首の曲げ方をしたが(※俺はやらない、と)誰も見ていなかった。面食らう親方に頷いて、イーアンは話を続ける。


「ということで、私はセンダラと巡回して亀裂の対処をしていたのですが、ビルガメスが」


 白い筒の発動、幻の大陸にザハージャングを降ろす、など予定を聞き、イーアンはコルステイン他異界の精霊に避難するよう報告し、ザハージャングが降りる幻の大陸へ向かった。



 ここで、ちらっと見たイーアンに、トゥは『聞いた』と連絡が回ってきたことを添える。ルオロフは知らないが、タンクラッドもここは聞いた話。



 幻の大陸に入ってエサイとラファルに会い、白い筒が発動する前にトゥが来て、ザハージャングが門番に決定し、馬車の民が大勢を連れて異世界へ旅立つ。

 見送って、門が閉じ、大陸を離れて、エサイは獅子が来ないから一時的に同行。


「今。アネィヨーハンには、オーリンとニダがいます」


 ルオロフとタンクラッドが目を見合わせ、その反応に二人は知らないと判ったイーアンは、事情を掻い摘んで説明。部外者を乗せないはずだが、事情が事情でニダは複雑な状況にある人物でもあり、とりあえず今はこれについて問答はせず。


「彼にニダといるよう伝え・・・クフムは」


「それは、知っている。俺が気づいた。ルオロフはクフムがいなくなる前に、外へ出ていて知らなかったが」


 三人は互いを見て、クフムが連れていかれたことを少し考え、沈黙も短く次の報告へ。

 イーアンは船を出て、エサイと一緒に動き、白い筒の二本目も対応した。続く連動は感じられず、こちらへ来ており、壊れた島で祠の時空歪みを発見―――



「で。俺か」 「はい」


「お前の報告には、質問したいことが山のようにあるが、今は我慢だ。次は俺の報告を。短くて済む。な」


 な、と二つ首を見上げたタンクラッドに、銀色のダルナは『俺が話してやっても良い』と簡素な報告を主の代わりに伝えた。

お読み頂き有難うございます。

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