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魔物資源活用機構  作者: Ichen
幕間『散るも連れるも』
2845/2953

2845. 『馬引き』他、魔物と死霊の消滅・ニダの事情・エサイ連れ、女龍の予定諸々

☆前回までの流れ

アスクンス・タイネレに入ったイーアンたちは、重要そうだったのに何をするでもなく。ザハージャングが門番に決定し、馬車の民が導く大勢の人々の到着に、迎えようとしたイーアンが翼を広げ、開門。精霊ポルトカリフティグは、イーアン他二人は『鍵そのもの』で、いつか世界を出るならここ、と助言。そして民は動き出し、イーアンたちは人々を見送り、門は閉じました。

今回は、大陸の外で起きた出来事から始まります。

 

 二つ首を持つ『門番』――― トゥが去り、ザハージャングが残った。


 ニヌルタとビルガメスは一度空へ戻り、コピー能力のあるシムを呼んで、時の剣と同じ状態を引き起こす予定で、連動する分裂遺跡を探しに出る。



 白い筒発生前に近場へ集まったサブパメントゥは、龍気にまんまとやられてその場にいた者は全滅。『馬引き』はニアバートゥテに伝えることなく、ここで消滅した。『燻り』は悪運強くまたも生き延び、戻って来た時の状態を見て、()()()()()怒りに囚われた。


 生き延びていると言えば、頭だけでも存在を保っている『呼び声』も同じで、存在が薄れたことと、コルステインたちが避難したことにより、こちらも悪運で回復の機会を得た。


 サブパメントゥが一気に減った日だが、魔物も減った。

 死霊に憑かれて数を増した魔物は、死霊の長に管理されており、状況を見ながら南部中心に放たれていたけれど、これが南部の東沖。ヨライデの関係でたまたまここだった拠点は、男龍の白い筒の爆発衝撃全てをもろに食らい、残り数なし。


 アスクンス・タイネレから離れていた。それでも。


 分裂遺跡の『白い筒』は、死霊の長が率いる魔物の拠点と大陸の間で起き、元から強くもない魔物は、凝縮して密度を高められた龍気の余波で呆気なく散った。



 *****



 イーアンたちは役目が終わったので、帰って良いんだろうかと相談し、帰ることに決定。


 大陸から魔導士へ発信は難しそうなので、イーアンがエサイとラファルを抱えて浮上。いつもなら茶化すエサイは、人のいなくなった世界の変化に無口だった。


 空へ上がり、イーアンは魔導士を呼ぶ。ラファルも『バニザット、聞こえるか』と普段の声量で呟き、少しして緑の風が吹く。ぐるっと翻った緋色の布は、もう一度翻って笑顔のラファルに、笑みで頷く。バニザットの眼中に、イーアンと狼男はいないことをこの二人は感じた(※無視)。


「どうだった」


「俺の出番は()()()()()()。居ただけだ」


 安心したのか、ハハハと笑った魔導士に、イーアンは『この人こんな笑い方するんだ』と驚いたし、エサイも意外そうに眺め、ラファルも苦笑して片手を彼に伸ばす。ラファルの腕を掴んだ魔導士は『ネズミにするか』と指を鳴らし、ラファルはまた白ネズミに変わった。


「よし。もう用事はないな」


「ないはずだが、俺も分からない」


「『念』も出なくなった。一先ず戻って話を」


「ちょ、っと待ってくれる?」


 二人の会話にイーアンが口を出し、魔導士はここでようやく女龍を見て、女龍は無視され続けたので咳払いして『バニザットたちはこれからどうするのか』を聞いた。魔導士は眉を上げ、片手に持った白ネズミも彼を見上げる。


「小屋へ戻るだけだ。魔物もほぼいない」


「そうなの?魔物が」


「僅かじゃないのか。反応が急に消えた。龍が白い筒に対応したからだろうな」


 偶然にも待機魔物近くで最初の筒が上がったため、魔物がいなくなった・・・ことまでは、魔導士も知らないが、あれをきっかけにいなくなったのは理解している。


「じゃ、これから残った敵を片付けて」


「ティヤーで目立つ残り物は『知恵』の悪用だ。魔物の残りと・『知恵』の悪用と。地上で、()()()()()()だ。お前は龍族のアレ(※白い筒)が後半の動きになる」


 状況を大まかに把握している魔導士はそこまで教えてやって、『決戦は終わるのが早い』これを挨拶に風に変わる。ラファルネズミが振り返ったが、お互い挨拶を交わす暇もなく、風はネズミを連れて嵐の空に消えた。


 嵐は、少し収まって来ており、気づけば雨も少ない。

 夜はもう終わりかけ、エサイとイーアンは空中に残されて少しポカンとしたが、イーアンは次の行動が待っている。とりあえずエサイを獅子に戻してからなので・・・・・


「エサイ。近くで獅子を呼べますか」


「呼んでも良いけど、来ないかもね」


「え」


 どうかな、と首を傾げたエサイだがそれ以上言わず、イーアンは彼を近い島へ運ぶ。魔導士が教えた通り、魔物の気配はめっきり減って、代わりに龍気が空気中を這うように感じ取れるのが気になった。


 近い島の民家群から離れた岬に立ち、エサイは獅子を呼ぶ。彼は暫く集中して風の強い中、一点を見つめ・・・それから『ダメだね』と女龍を振り返った。


「ダメ、ですか?どうして。さっきもあなたは、獅子が来ないかもと」


「なんとなくそう思ったんだ。大陸に来るまでの状況、話してなかったな。大陸話ばっかで」


 あのね、とエサイは前夜の事件を伝え、獅子も自分も『原初の悪』に襲われ、ファニバスクワンに助けられたことを伝えた。助けてもらった後で、獅子が別行動のシャンガマックを心配して、彼を探しに行くことになった・・・もしかすると、シャンガマックに何かあって来ない可能性があると話し、女龍は眉根を寄せる。


「シャンガマックが別行動です?エサイは知らないんでしょ?」


「俺は、呼ばれない限り、表のことは一切分からない。とにかくシャンガマックが別に行動している状況で、探しに行ったことだけは確か」


 イーアンはシャンガマックの無事を願うが、今はこれで立ち止まるわけにいかない。獅子が迎えに来ないなら、エサイを連れて戻るしかない。船に誰かがいるかもしれないけれど、居なくても異界の精霊は船を守っているし、エサイを預けることに決めた。


 エサイにそれを言うと、彼も『そうして』と了解。迷惑かける気はないと言うエサイを連れて、イーアンは黒い船へ飛んだ。


 そして、イーアンは船で慌ててエサイを隠すことになる―――



 *****



 アネィヨーハンに戻ったイーアンは、一昨日の朝に船を離れた以降(※2810話参照)こちらのあれこれを全く知らない。


 トゥはまだ戻っていないだろうと思ったので、銀のダルナがいないのは気にならなかった。彼の代わりに異界の精霊がいたが、船には他に、思わぬ人物もいた。



「イーアン」


 龍気に気づいて、夜明けの甲板にすぐ出てきたオーリンが驚く。イーアンの抱えるのは狼男で、よう、と片手をあげるデカい狼。


「オーリン、あなたが船に」


「ちょっと、ちょっと待て。今、ニダがいるんだ。その狼隠してくれ!気絶しちまう」


「ニダ」 「ああ?気絶?」


 急に言われたエサイは機嫌を悪くしたが、イーアンはエサイに『小さくなれないでしょ?』と普通に聞き、『んなこと考えたことないよ』とぼやかれ、とりあえず船橋(せんきょう)にエサイを上げた。


「少しここで待ってて。事情を聴きますので」


「俺が迷惑みたいな」


 違う違う、とイーアンは軽く流し、龍気の膜を広げる。魔法も使って、狼男を白い半球のカプセルに入れてあげると、この特別扱いにエサイは機嫌を戻した(※単純)。



 甲板に降り、オーリンに話を聞こうとして腕を引っ張られる。会ってやってと頼まれて、部屋に行くまでに話を聞いた。オーリンの部屋にニダを連れてきており、一人残されたニダは混乱でまだ不安定らしかった。


 扉を開け、オーリンが『ニダ。ウィハニだ』と即、紹介。ニダはオーリンの部屋の椅子に座っていたが、場所は部屋の片隅で、椅子の上に足を持ち上げ、膝を抱えている。怖がっている状態が続いているのが見て取れたイーアンは、オーリンの影から顔を出して『おはようございます』と最初の一言。さっとこちらを見たニダは、目を丸くして・・・それから俯いた。


 どうしていいのか分からないんだ、と理解し、イーアンは側に行ってニダに『オーリンが助けたのですね』と尋ねる。質問は答えられるようで、ニダは頷き、イーアンは椅子の横にしゃがみ、船で守るから安全である事と・・・それから、もうじき訪れる重要な出来事を伝えた。


「よく、聞いて下さい。あなたも含め、世界に残った人たちが一時的に精霊に守られます」


「う、ん」


「ね。守られるのです。守るので安全です。そのために、特別な場所へ匿われるでしょう。そこは私たち龍の力が働く場所で、外からの攻撃は一切ありません」


「・・・龍の。私」


「大丈夫ですよ、ニダ。大丈夫。怖がることはないの。もし、急にどこかへ連れて行かれるとしたら。まずは、この船から出る、でしょ?」


「はい・・・ 」


「この船から急に、あなたを連れて行けるのは精霊くらいです。精霊が連れて行った先は、龍の力が働くところ。だから問題ないのです。分かりますね?」


 ゆっくり、はっきり、イーアンは共通語で話し、ニダは所々分かりにくそうだったが、横に立つオーリンを見上げ、オーリンが頷くので自分も頷いた。女龍は微笑みを絶やさず、不思議な肌の色が美しく、太い二本の角は真っ白で綺麗で、微笑んでいるのに鳶色の目は力強かった。


「怖くありません。あなたがその場所から戻される時、オーリンはあなたを迎えに行きます。オーリンで手が足りないなら、私も探します。龍は約束を破りません。信じて大丈夫」


「あの。祈ったから?私が()()()()()()()()()()()から」


 不意に、ニダの確認に胸を突かれるイーアン。ピタッと止まりかけたが、すぐに微笑みを深めて頷き、『祈りは無駄にならない』と短く答えた。ついさっき、祈っても祈っても・・・連れて行かれた人たち大勢を見送ったばかりのイーアンには、声が震えかけるが、ニダを励ます。ニダは大きな目をじっと向けて、少し口元に微笑を湛えた。


「ニダ。私の鱗を持っていて下さい。もしも怖くなったら、私の鱗が守ってくれるはず」


 やっと微笑を浮かべた若者に、イーアンは尻尾を出して見せ、目を丸くしたニダにちょっと笑うと、鱗を一枚剥がして渡す。すごい!と嗄れた喉から感動を呟いたニダに、『守るはずですよ』と念を押した。


「龍の鱗ですから、戦う龍の風が現れるでしょう。あなたを守るために、白い龍の風が」


「・・・有難う。有難う、ウィハニの女」


「イーアンです。名前でどうぞ、ニダ」


 ニダは白く美しい鱗を両手に持ち、頬に当て、ホッとした。その表情に安心したイーアンとオーリンは目を見合わせ、一旦部屋から出る。


「エサイ。連れて来ちゃったけど、彼も事情があるのです」


「さすがにエサイは、ニダに刺激が強いだろ。立て続けに起こり過ぎて、ニダは自分を守るのにいっぱいいっぱいで必死だ」


「・・・『自殺未遂』じゃないんでしょう?頭痛が酷くて、薬を飲もうとして・・・って」


「それは本当だ。本人に聞いた。職人もいなくなって、頭痛に耐えられなくて、風呂場に置いてある薬を飲んだら、間違えただけ。頭痛薬の側に、塗料落としの溶剤が。手とか皮膚に付けて塗料を落とす溶剤だから、そんな強くはなかったらしい」


 生きてて良かったと、その話に怖くなるイーアンだが、とにかくニダは薬と間違えて溶剤を飲み、激痛で吐いて熱を出し、オーリンに助けられて船で大量の水を飲まされ、何度も吐いて、どうにか熱も下がったのが先ほど。



「俺が付いていてやらないと」


「うん。その方が私も心配しなくて済みます。ニダもきっと治癒場に連れて行かれるでしょうが」


「イーアンが話してくれて良かった。いつ話そうと思って、俺は言い難かった」


 後は頼みますとイーアンは頷いて、オーリンとニダを船に残し、甲板へ向かう。ここから、エサイを連れて行くことにした。白い筒でも何でも、狼男は影響しないから大丈夫だと思うが・・・・・


「って。オーリンはニダを、あんなに心配なのね。ミレイオにはもう伝えてあるのかしら。一緒に動いていたようだけど。ミレイオにも連絡しておこう・・・それと」


 昇降口の扉を開け、甲板に出る。イーアンは船内を振り返り、扉を閉めて、強い風が残る空を見上げた。


「クフム。行ったのですね。気を付けて」


 クフムは船にいなかった。彼は異世界へ行った。少しの間だけ一緒だった僧侶。彼もオーリンに懐いていた。オーリンはお手伝いさんで同行者だが、こうした運命の巡りも、深く考えさせられる。オーリンと一緒に行動したクフムは、明らかに性格も変わった。


 またいつか会えたらと心で呟いて、イーアンは船橋のエサイを包むカプセルを解き、エサイ同伴の大忙しを伝える。


「俺が一緒で足手まといにならない?俺は飛べない」


「私は両手が塞がっていても、大体のことはこなします。全開で挑まないといけない場面だけ、離れた所にいて頂きますが」


「それは良いけどさ。うん、じゃ。悪いけど」


「はい。同伴ね」


 クスッと笑ったイーアンは、ハハッと笑った狼の顔に、オーリンとクフム、ニダを重ねる。私たちは絡まらなければいけない運命にあり、誰かの指図と計画で一緒に生きる時間を持つ―――



 エサイとは相性が良いイーアン。気遣いも少な目で、それはエサイも同じ。

 よっこらせと背中から持ち上げて、狼男と浮上する。嵐の雨は引いており、残る風は強いものの、雲間が少しずつ広がっていた。太陽が千切れる雲を縫うように光を渡す。


「ではエサイ。移動しながら私の予定を話します。まずはミレイオ、仲間に連絡して状況確認。それから、龍気すごいのでコレを対処するでしょう。粗方済んだら、人型動力とか動物型動力とか倒して、魔物も見つけたら倒して、多分、それやってる間に、残った人たちが治癒場に連れて行かれるので・・・治癒場ってね」


 エサイがいつ、獅子に戻されても良いように。イーアンは早口で予定を伝え、うんうん、聞く狼男にテキパキ説明。殆んど魔物のいない―― そして、人間もいない ――ティヤーの海の上を飛び、大気に伝わる龍気に向かう。



 そちらに、シムとビルガメスとニヌルタを感じつつ、狼男の質問に答えつつ。

 連れて行かれた人たちと、これから治癒場に入る人たちを考えつつ。


 トゥが現れたことと、サブパメントゥの気配もがくんと減った、そのことも考えつつ。

 時空亀裂で祠が壊れたら、この場合は魔物が出るのかどうなのか、それも。


 イングたちは、時空亀裂に可能な対応をしてくれているかも、とか。

 センダラはもう、残った人型動力や動物型動力を倒したかしら、とか。


 ミレイオは。シュンディーンは。タンクラッドは、どうしているのか。

 ルオロフは・・・彼も特殊な立場ではあれ、大丈夫だろうか。シャンガマックは無事なのか、獅子は?など。


 そして、ちらつく『原初の悪』のことも。

 魔物の数が減る一方なのは、アイエラダハッドから続いている。どちらが敵で、誰が敵か、もう分からない。



 見えて来た、男龍と大きなアオファの影、その向こうに白い筒の薄っすらとした輪郭を見つめ、イーアンはちらっと高い空に目をやった。


「ドルドレン」


 あなたが降りてくる時、どんな状況だろう。今回はおかしな、なんだか妙な決戦です・・・ 心で、勇者に伝えてから、イーアンは『あれが全開必須の場所』とエサイに言い、エサイを少し離れた場所に降ろす。



 彼を龍気で守ってから、女龍は連動の筒へ―――


 倒す者すら減った地上で、何をしているのだろうと、若干の疑問を抱きながら。

お読み頂き有難うございます。

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