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魔物資源活用機構  作者: Ichen
一の舞台『アスクンス・タイネレ』
2839/2954

2839. 幻の大陸について ~①三人召喚・ハイザンジェル、倒れたシャンガマックと彫像『原初の悪』

 

 アスクンス・タイネレは、近づくことの出来ない、遠目に見る大陸。


 大陸と呼ぶに値する大きさだが、視覚で把握する寸法に対し、幅の足りない海域も通る。在るのに、無いような。幻の大陸は年がら年中見られるわけではなく、忽然と消えもするし、掴みどころがない。


 これを知るのは、大精霊、外部から集められたヂクチホス他、同様の存在。

 創世から世界の成り立ちに関わる立場は大陸の意味も理解しているが、その後の種族―― 例えば、何でも知っていそうな龍族でも、現在の彼らは情報の一部しか与えられていないし、地上にいる精霊の多くも無論知ることがない。


 例外的にコルステインは、アスクンス・タイネレについて精霊から幾つか教わった。コルステインは大陸に()()()()を阻む役目も行う。家族もそれに倣い、コルステインの認めた極近い関係の者は、大陸に入り込むことも許される。だがこれは、滅多にないこと。


『近づく者』とは、この世の種族だけではなく、時空の歪みで入る輩も対象にしているので、コルステインたちが動く時は、守るべきかどうかを判断する大精霊が『守行け』と促す場合に限られていた。


 テイワグナ決戦時、ロゼールが手伝いで大陸に入ったが、こうした経緯により。



 ***



 ―――『亡霊が話していたのは、古代剣と、()()()()()()()存在が、その大陸に関係するよう(※2604話参照)』あの日、沈んだ島の亡霊から得た情報を、私はそう皆に伝えた。


 イーアンは幻の大陸の上で、飛び交う『念』の白い群れに落ち着かないまま・・・古代剣と大陸の関係を考え直す。ザハージャングはまだ来ておらず、男龍の龍気も上空から動かないので、センダラと待機中。


「古代剣と・・・幻の大陸(ここ)は、また違いますよね」


 ぽそっと呟いたイーアンに、センダラが少し顔を向けて『なにが』と聞き、イーアンは、独り言ですとすぐにかわす。


 丸一日続いた嵐はまだ止まず、この轟音で良く聞こえるなと地獄耳のセンダラに驚きつつ、思考は『別もの』に戻る。仮にルオロフの剣が大陸に関わるとしても、異時空を開ける剣だし、変ではないけれど。でも改めて思うが、大陸用ではないだろう。


 亡霊たちの認識は、生きていた当時、人間的な視点の記憶かもしれない。

 考えてみたら、古代剣はしょっちゅう使われていたのだし、大陸が開く使い方も出来るのであれば、欲深い人間がもっと入り込んだだろう。



 分からないことだらけの大陸を考える女龍は、センダラの溜息で振り向いた。妖精に『いつ来るのよ』とぼやかれ、知りませんと答える。

 上で何か手間取っているのかも知れないが、イーアンはビルガメスたちの適当さを熟知しているので、遅れても早まっても予定がひっくり返っても、あの方たちはそういうものと(※諦め)構えている。


「センダラ。あの、余計かも知れませんが、蛇の子は大丈夫ですか?」


 ふと、ミルトバンが心配になったイーアンが尋ねると、センダラはもっとデカい溜息を吐いて『そのくらい、万全で来てると思わないの?』と不愉快そうに答えたので、質問は終わった。早く帰りたそうな妖精だが、ミルトバンが安全な状態なら少しは良いのか・・・ 


 会話の消えたイーアンが再び大陸に目を落とすと、なぜかセンダラが『ねぇ』と強い口調で話しかけた。


「はい」


「あなた、行けば?」


「え?」


「降りてみたら、って言ってるの。男龍は待ってるんじゃないの?」


「・・・すみませんが、意味が」


 唐突なセンダラに戸惑う女龍。センダラは下を指差し『さっき話してたでしょ』と呆れがちに首を振った。きれいな金髪が揺れるが、言葉は辛らつ。


「あなたと他の二人が呼ばれるとかなんとか(※2835話参照)」


「あ・・・ええ。そうです。私と狼男ともう一人」


「呼ばれる意味がよく分からないけど、行かなくて良いの?行ったら、ザハージャングが降りるとか、ではないの?」


 イーアンの知る由ない答えを求められ、ええと、と濁すが。妖精のセンダラは、自分よりもこの世界の展開の速さを知っている。もしかしてそうかなぁと、イーアンは下を見て『呼ばれると思っていましたが』と首を掻いた。


「揃う、とか。その意味かも知れないわよ。暢気に待っていて何もなかったら困るじゃないの。ダメなら通じないだけなんだし、行ってきなさいよ」


 強制的センダラに命じられ、なぜセンダラが主導権をと眉根寄せつつ、イーアンもセンダラに言われるとそんな気がしてくる。あなたが降りられるなら、他の二人も呼べばいいじゃない、と正論なのか当てずっぽうなのか微妙なラインでセンダラは急かし、イーアンはとりあえず言うことを聞く(※流される)。



「では、行ってきます」


「ザハージャングを見たら、私はまた魔物退治に行くから」


 待っていないと遠回しに言われて、イーアンは頷く。これも必然かも知れない。女龍は、センダラにちょっと苦笑し、6翼を窄め、幻の大陸へ降下した―――



 *****



 これとほぼ、同じタイミングで。


「ラファル!!」


「バニザット!」


 ネズミが落下・・・ 『念』の間引きを方々で続けていた魔導士は、人の姿に戻って呪文を唱えている最中だった。アスクンス・タイネレ至近距離を通過した時、向きを変えた風に腰袋が煽られ、ネズミだけが振り落とされる。


 即、バニザットが魔法でネズミを押さえたが、魔法は次の瞬間、効力を失い、ネズミは落ちる。慌てて飛んだ魔導士の加速より早く、吸い込まれるように・・・ラファルは大陸を覆う靄の下へ。


「ラファル・・・!」


 魔導士が靄に突っ込む寸前、ぐわんと時空がうねって拒絶され、急いで止まる。


 ()()()()のかと、すぐに脳裏を掠めたが。もぎ取るような一瞬に、バニザットは消えた後を見下ろしたまま、暫し動けなかった。




 そして、獅子もそれどころではない事態の真っ只中で、エサイを()()()()。まさか、呼ばれたとは思わず。



 *****



「おい、エサイ。おい」


『ヨーマイテス。彼はそこに居ない』


 ファニバスクワンに教えられ、獅子は精霊を見る。右腕の狼歩面は無反応で、もぬけの殻そのもの。


『今は他の者を呼びなさい。お前の味方は他にもいるだろう。このダルナを運べる者を・・・私が示す場所へ』


 不本意そうだが、水の精霊は()()()()()()()から一番近い精霊の地上絵を教え、ヨーマイテスは了解する。息子バニザットの倒れた体を抱え、固化した白灰のダルナを運ぶ手伝いに、自分に従うキーニティ―を呼んだ。


『ヨーマイテス。地上絵で待ちなさい』


「分かった」


 空中にふらっと煌めく真鍮色の薄い板。ハイザンジェルの夜に金属色のダルナが現れ、彼は目にした状況に警戒して止まった。

 獅子はキーニティに『フェルルフィヨバルを移動できるか』とすぐ尋ねる。只ならぬ事態ではあるが、キーニティも『絵に変えよう』と答え、白灰の大岩は小さな紙の絵に入った。ひらりと舞う紙は、キーニティが手にする。


「フェルルフィヨバルに、シャンガマックに何があった」


「後で話す」


 倒れたシャンガマックの体の下に、獅子は首を突っ込み、背中に転がす。キーニティは『お前たちも移動するなら俺が』と手伝いを申し出て、獅子は遠慮なく頼んだ。


「瞬間移動じゃない。行先を示すから、そこまで飛んでくれ」


 キーニティは何も言わず、シャンガマックと獅子を乗せて・・・川沿いに輝く精霊をちらと見てから、夜空へ上がる。


 崖と谷が続く一帯に、細く流れる川。川から半身を出した水の精霊の後ろに、異様な彫像があった。

 黒い角を持つ(うずくま)った姿・・・夜の谷を包む黒に馴染んでしまうほど黒いのに、威圧を放っていたあれは。


 シャンガマックは、ぐったりしているが生きている。彼の手には風変わりな鞘に入った剣があり、そして、フェルルフィヨバルは石になっていた。

 キーニティが一番信じられないのは、()()()()()が石に変わった状態だった。フェルルフィヨバルの魔力と魔法は、ダルナの中でも上位にあるのに。


「キーニティ、高度を下げろ。海の手前に、精霊の地上絵があるはずだ」


 獅子に命じられてキーニティは高度を下げる。『地上絵は気配で分かるか』と訊くと、獅子も分からないようで『ただの絵の状態かも知れない』とのこと。目視で探す前提を理解し、キーニティはハイザンジェルを抜けた、アイエラダハッド最も南部の入り江をゆっくり飛び、間もなく地上絵を見つける。



「降りてくれ。ファニバスクワンを待つ」


「何があったと俺は聞いた。話すか?」


「降りてからな」


 地上絵に着いて事情を聴く間もなく、すぐに離れてしまうのを気にするダルナに、一先ず降りるよう急がせ、獅子は地上絵の広がる崖上に立つ。


 獅子は『絵を』とフェルルフィヨバルの絵を先に受け取り、背中にシャンガマックを乗せたまま、話せることだけ、真鍮色のダルナに伝えた。



「少し見た。あの黒い塊は」


「そうだ。精霊だ。なぜああなったかは、全く分からん。ファニバスクワンも分からないようだったが」


「シャンガマックとフェルルフィヨバルは」


「・・・無事だと思うが。無事でなければ、俺は許さない」


 ファニバスクワンが側にいたため、獅子は取り乱すことなく済んだが。大精霊が端的に物事の状況を教えたことで、ヨーマイテスはどうにか冷静を保てた。


 キーニティは獅子の声を聞き、彼が感情に囚われていないのを感じる。息子に何があっても極端な反応をする獅子が、この事態でよく自分を押さえていると、少なからず感心した。


「フェルルフィヨバルを戻す時は言ってくれ。俺の力ではなくても、魔法を変更する精霊かも知れないが」


「そうかもしれないが、『キーニティを呼べ』とは言おう」



 地上絵での会話は、急いだ割に時間を与えられる。ファニバスクワンはなかなか現れず、絵はただの絵でしかなかった。


 シャンガマックはピクリともしない。だが彼が握ったままの鞘に入った剣は、緩められない手にしっかりと掴まれていた。キーニティは、なぜ違う国にいるのかも尋ね、獅子はそれを話すだけの時間があり、ダルナはようやく流れを理解する。



 ―――シャンガマックの母国は先ほどの国で、フェルルフィヨバルと共に彼の故郷を訪れていた。理由は剣を手に入れるため。


 少し前に、彼は剣を故郷に・・・預けたと言うべきか、ここは面倒な事情のよう。とにかくシャンガマックは、剣を受け取った。恐らく、先ほどの谷と崖の険しい場所にあったのだ。獅子も見たわけではないから、目覚めないシャンガマックの持つ剣から想像。


 問題はこの続き。獅子は今日、ティヤーで『原初の悪』と呼ばれる精霊に襲われ、それを逃れた。

 息子にも危険が及ぶ心配から、彼と彼を管理する精霊(※ファニバスクワン)がシャンガマックを探しに行ったところ、あの場所に倒れるシャンガマックと、石になったフェルルフィヨバル、そしてあの黒い彫像があった。


 何が起きたかは分からないにせよ、シャンガマックも襲われた可能性があり、彼もフェルルフィヨバルも倒れた。だが、彫像―― 間違いなく『原初の悪』 ――も動けない状態で、獅子を連れた水の精霊は事態の対処をするため、先に獅子たちを返した―――



「魔物のいない国で、精霊に襲われるとは」


 キーニティが呟き、獅子が返事とも何とも取れない呻きをこぼした時、地上絵に清い青緑の光が渡る。ハッとしたキーニティが浮かび上がり、獅子は彼に『あとで呼ぶ』と言いかけ、強まる光に吸い込まれた。



 獅子は、息子の心配で頭が埋め尽くされていて、キーニティと話している間も・・・すっかり忘れていた、その狼男はというと。

 

お読み頂きありがとうございます。

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