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魔物資源活用機構  作者: Ichen
一の舞台『アスクンス・タイネレ』
2838/2953

2838. 旅の四百六十日目 ~白い筒天地打ち合わせ完了・トゥ出発・コルステインの決定

 

 ビルガメスに突拍子もない連絡を受けたイーアンは、驚いて止めようとしたが、毎回の如くビルガメスは()()で・・・・・



 センダラと対処していた時空亀裂を緊急で切り上げて、コルステイン及びダルナ他、異界の精霊に、これから起こることを伝えた。


 伝え、回してもらい、回して回して。

 大至急の予告(※実行まで一時間未満)がどうにか全体に行き渡った・・・確認後、待たせていたビルガメスに報告―――



 そわそわする女龍は、いつかいつかと真夜中の荒天を見上げる。横に、センダラ付き。


「時空亀裂対処が、大方終わったと思った矢先でビルガメス。『白い筒が出たら対処してね』と言ったのに、なんで()()()()引っ張り出すのか~」


「いいじゃない。サブパメントゥも倒すんでしょ?あの白いの(※筒)は龍気を求めるだけでも、あなたたちが龍気を爆発的に出したら、近辺の魔物も一度に消せるし。今回は私に手伝いを頼まれないから(※2357話参照)、私も気は楽ね」


 用事が済めばすぐにいなくなる印象のセンダラが、横で他人事の返事。

 なぜ側にいるのか、理由がピンと来ないイーアンは、ちらっと彼女を見た視線に出たか。盲目の妖精はその視線に素早く反応し、びくっとしたイーアンに眉根を寄せた。


「双頭の龍が降りてくるのに、私がいたらダメなの?」


 ザハージャングが目的と分かり、見えていないはずのセンダラ(※見えてるのと一緒)相手に、イーアンは『ダメじゃないです』と首をぶんぶん横に振る。気分を悪くしたらしき妖精は、嫌味な溜息を吐いて、土砂降りが止まない空に顔を向けた。


「・・・全く、もう。まぁいいわ。ねえ、龍気が変じゃない?あれがそう?」


 大粒の雨が横殴りに吹く空を見上げるセンダラは、高い空から届く龍気の変化に気づく。イーアンも感じていたので、東を見て『ここからでも見えそうですが、あっちに移動しますか』と答えた。センダラは頷き、自分に影響ない距離で・でも近くで見ることにする。


 もうすぐ。男龍に誘導されるザハージャングが、幻の大陸へ来る。予定―――



 *****



 深夜、タンクラッドを休ませていたトゥは、『異界の精霊に報告』の内容を聞いて了解し、主を起こした。タンクラッドはトゥの用意した魔法の小箱に入れられて仮眠を取り、朝から晩まで使った体力を回復。話を聞いて『すぐ?』と時間を尋ねる。


「もう出かけても良いだろう。遅れる気はない」


「そりゃそうだな・・・トゥ。お前だけで行くんだよな?」


()()したい。タンクラッド」


 一人で向かうかどうかを確認していなかったタンクラッドの質問に、質問で答える銀のダルナ。休ませていた箱から出し、首の根元に移した主が雨に濡れないよう魔法をかけてから、黙っている主を見る。


「タンクラッドはどうしたいのか、聞いたんだ」


「俺の答えを優先するのか。それはお前にとって()()だろう」


 フフッと笑ったダルナは意味を理解し、『そうだな』と呟く。


 タンクラッドも心配だから、一緒に行きたいのは山々。

 だがそれが、トゥとザハージャングの打ち合いには邪魔ではないかとも思う。俺に気遣って何かあれば、トゥが待った機会を逃しかねないのだ。



 ―――ザハージャングは、『時の剣を持つ男』に従うから、俺に近寄る(※1096話参照)。



 それに、今回は『時の剣を持つ男』が戦う場面ではない。双頭龍を大陸に足止めさせる、門番の役へ落とす。この話を、神殿の神話で知ったからトゥは・・・ 


 『お前は俺がどうしたいのかなんて、とっくに知っていたと思うが』と言い足すと、ダルナは二つの首を向けて『とっくに』と認めた。



「直接聞こうと思った」


()()()()()()()()()()なんだろ?早く戻れよ」


 タンクラッドが短い挨拶で会話を切り上げる。急ぐならもう行け、と送り出す主を、トゥは少し見つめてから・・・タンクラッドを船に運び、彼を降ろして嵐の夜に消えた。


「すぐ戻る」


 そう、タンクラッドに伝えて。



 *****



 コルステインがザハージャングを降ろす報せを聞いたのは、誰より早かった。


 イヌァエル・テレンから来た予告で、イーアンが真っ先に気にしたのはコルステイン。必死に呼びかける女龍の信号に気づいたコルステインは、スヴァウティヤッシュと離れてイーアンに会いに行き、どこもかしこも暗い嵐の中に出て、女龍の話を聞いた。


 イーアンは『間に合った』と安心し、忙しいのに呼び出したことを詫び、コルステインは彼女が自分を心配したことを嬉しく思った。


 龍が、ザハージャングを連れてくる。その後、龍の気をティヤーで増やす。


 この二つの予告は間もなく実行されると教えてもらい、コルステインは女龍に礼を言って、すぐさま地下の国へ戻り、自分の家族に伝えた。


 イーアンは『異界の精霊にも言う』と話していたので、スヴァウティヤッシュも別で聞くだろうと思い、まずは味方のサブパメントゥを安全な場所へ集めなければと、家族で手分けして地下の国を動いた。

 そして、思わぬ相手に止められる。



『なに』


『おお。もう()()()()俺を消す気か』


 地下の国を移動中、味方とまるで異なる気配に気づいたコルステインは、のそりと現れた黒い骨の馬と乗り手が古代サブパメントゥと知り、右手をかざしかけた。相手は少し後ろへ引き、コルステインが攻撃を止めた様子にまた話しかける。


『これまで、俺たちをまともに攻撃しなかった。もう、それも終わりで良いのか?』


 右手をそのままにしたコルステインは、黒い乗り手に答えず、これをどうするべきか考えた・・・イーアンから聞いたばかりのことが、コルステインの中に広がる。スヴァウティヤッシュなら、どうするか。ふと、それを思った。


 黙っているコルステインに、返事がないと思った相手はまた一歩馬を前に出して、話し始める。


『やはり、コルステインが俺たちを殺していた、ということか。俺たちを倒せば、自分は世界に残ると思っているんだろう・・・ 』


 うんともすんとも言わず、傾けた右手も動かさない最強のサブパメントゥを前に、『馬引き』も賭けに出た。ここに居るだけで少しずつ回復してゆくので、引っ張れるだけ引っ張るつもりもあり、頭の良くないコルステインに考えさせる。


『本当にそう思うか?サブパメントゥの敵(※龍)と、お前は仲良くなったそうだが。始まりから敵だった龍が、お前を残すと信じているんだな?そんなこと、起こるわけないだろう。

 コルステイン、今、俺たちをこれだけ殺して、もうじき俺たちがいなくなる・・・その後はお前たちがやられると、どうして思わないんだ。

 ザハージャングも、俺たちの場所も壊したのは、龍の仕業。お前はそれを許して、自分は安全だと思い込む』


 馬の脚が、もう一歩前に出る。コルステインは馬の背にいる黒い相手を見たまま、表情を変えず、じっとしていた。


 ・・・今すぐこれを消してもいい。でも、スヴァウティヤッシュは()()()()()だろう。黒いダルナは、何回も待った。戦うより、外へ出す方を選んだ。だから。



『コルステイン、何か言え。お前の親が、俺たちの親に何をしたか。お前も知っているはずだ。お前までそれを繰り返すのか?最初の龍は、サブパメントゥを裏切ったお前の親に、何を返した?光を取り上げたじゃないか。お前の親もまた、龍に裏切られている』


 馬に乗るサブパメントゥは背中を屈め、コルステインに少し大きめの声で伝えた。コルステインはこれを聞き、決断する。自分もこいつらを龍に引き渡そう、と。


 スヴァウティヤッシュが、ずっと戦わずに勝ってきたように。

 自分の親が、龍に反逆のサブパメントゥを渡して減らしたように。

 これらをザハージャングの元へ出して、龍の力に。


 コルステインが敵を手引きなど・・・これまでにない。

 直接的な行為以外を取らず、計画的な策を考えたこともないコルステインは、この時、初めて自分だけで何をするべきかを考えた。


 嘘は言えないサブパメントゥで、伝える表現も大まかなコルステインだが、友達が見せてくれたことをなぞる。今、スヴァウティヤッシュも『燻り』を使って集めているだろう。こいつらを大陸の側まで連れて行くと、スヴァウティヤッシュは言った。ザハージャングが来るから、集める。集めて――



『あっち。行く。する』


『ん?向こうか?』


 やっと答えた地下の最強は、傾けて止めていた右腕を真横に向けて、方角を示す。コルステインたちの領域を通過しなければいけないが、あの大陸の近くへ出る方向。そのものに通じていないにせよ、海底には出る。


 示された方に頭を向け、暫し考えた『馬引き』は、もしやと想像し、コルステインを見て『お前は、何を知っている』と直線の質問を投げた。

 嘘を言えない同士だからこその、余計を省いた質問に、コルステインはきちんと答える。


『大きい。島。ザハージャング。来る。もう。龍。言う。した』



 馬の背で『馬引き』は、驚きの衝撃に体が揺れた。コルステインが断言した以上、確実に来る。コルステインは龍に聞いた、と。コルステインと女龍が仲間であることは、周知の事実。間違いない。

『もう、来るのか?ザハージャングは、()()()()()()()、と言っているんだな?』急いで確認し直し、頷かれて、息を呑む。


『コルステイン、お前の場所を通らないと、俺は着かない。分かるか?お前の仲間に、攻撃しないよう言え』


『お前。コルステイン。一緒。行く』


 コルステインが同行することを引き受け、『馬引き』は真っ向から信じるだけ。

 サブパメントゥに君臨した最強のコルステインが、龍を裏切り、俺の言葉に従った・・・!と思い込む。動力を見張るよう置いてきたニアバートゥテには後で知らせるとし、この機会を逃しはしない。そしてすぐ、都合の良いことを思いつく。


『俺だけか?こっちの仲間は、お前らのために回復できなくなったばかりだ。許してやることはできないが、ザハージャングに会うなら、お前の領域を少し分けろ。少しでもいい、大陸に近いところだけでも、俺たちが通れるように』


 理解できるか?と『馬引き』が交渉すると、罪悪感からかコルステインはこれもあっさり頷いた。少しならいい、と現在大陸が留まっている下を、残党が通過する許可を出す。『馬引き』の気分は瞬く間に上がる。コルステインが許可したなら、すぐにでも他の仲間に知らせたい・・・ それもコルステインに言ってみると、不服そうな表情ではあれ、『そこに着いたら()()()()()』との返事。


 これで巻き返しを確信した『馬引き』は、頭の悪いコルステインがすっかりいうことを聞いた返答に満足する。



 そうして、『馬引き』を案内するように付き添うコルステインは、自分の家族や仲間に極力見られない領域を通過し、たまに見られた時は、小さく首を振って否定を示した。この仕草は意味を伝えるには足りなかったが、コルステインが古代サブパメントゥを連れている由々しき事態ではあれ、他の者は口を出さなかった。


 ここまでずっと、コルステインが黒いダルナと()()()()()()()・・・仲間は皆、知っていたから。これもその一環と察する。


 本当に現地まで案内された『馬引き』は、昂る気持ちを押さえながら、大陸近くの海の下へ到着。通過した時間で、大幅に力も戻った。


『確認するぞ。この場所なら、俺たちが集まって良いと言ったんだ。そうだろう?』


『・・・そう。ここ。出る。ダメ。ここ。だけ』


 海底の、更に下。サブパメントゥの世界の一部。海を上がった先は大陸。大陸が動いても、この場所だけは手に入れたと、自分の交渉に暫し酔う『馬引き』だが、コルステインが感心なさそうに背を向けたので、お前も行かないのかと聞いた。


 コルステインは振り向くこともなく、青い霧になって消える。


『頭が良くないのは有名だが。意固地で通していただけだ。説得できないわけじゃなかったな。さて、ここからだ。仲間に知らせなければ』


 黒い骨の馬の足を進め、小さな空間を一周し、『馬引き』は古代サブパメントゥに呼びかける。塒にいた数は全滅だろうが、逃げ延びた仲間に、ここへ来いと発信し続ける。発信はすぐ応答を得て、闇の彼らはちらほらと動き始めた。



『馬引き』は当然知らなかったし、コルステインもこの時は気付いていなかったけれど。


 近いのは大陸だけではなく、海底に沈んだガドゥグ・ィッダン分裂遺跡も―――



 *****



 コルステインは、スヴァウティヤッシュを探し、彼が『燻り』を操り、散らばる残党を集めている場へ行った。



 ――剣鍵遺跡を通じてティヤー南東に出た『燻り』は、魔物が多いこの場所で人型を配置した後、仲間に呼びかけたものの返事はなく、北側へ移動して仲間に会い、塒が破壊されたばかりと知って驚いていた。


『燻り』はテイワグナへ離れていた時間の出来事で、これについては全く疑われることはなく済む。


 ティヤーに入るのも、北部へ来るにも、潰滅した塒を通らなかった『燻り』が、普段ならサブパメントゥ通過の道順を地上伝いに移動した理由は、単に『棘』が使える遺跡の近さからでしかない。

 操られている『燻り』は、人型を南に置いてきたことを話し―――



 ここで、スヴァウティヤッシュとコルステインが接触。


『燻り』と他の残党の会話中だが、一旦停止させたスヴァウティヤッシュは、コルステインから何があったかを聞き、少々驚いた行為ではあれ、すぐさまそれを使わせてもらうことにする。


『俺も連絡は届いたが、コルステインのその動きは良いな。やりやすくなったぞ』


 追い風は止まない。

 黒いダルナは、発信し続ける『馬引き』の思考を見つけ出し、すぐさまそれを『燻り』に移す。ついでに話していた相手にも届けると、停止を解かれた二人は『あ!』と受信に声を上げた。


『馬引きだ。コルステインが?あっちか・・・行くか』


『コルステインは嘘を言えない。騙してもいないだろうな』


 二人とも呆気なく、新たな情報を認める。操って行かせる段取りだったが、本当の展開に乗じた方が勢いがかる内容。


 ――言いくるめたコルステインから、『回復場所』を得た。 これは塒を消された残党に、万事休すを覆す大きさ。


『燻り』と話し相手は、『馬引き』の情報を急いで他にも回す。輪は広がり、散らばった残党は、大陸近くの海底へ向かう。



 スヴァウティヤッシュはコルステインを褒め、コルステインはちょっとだけ微笑んだ。

 裏切ったわけでもなく嘘をついたわけでもないけれど、長く存在してきたコルステインの初の試みは、純粋な心に少しの後ろめたさと悲しさを感じさせる。


 きっと。()()こんな気持ちだったのかもと、黒いダルナに続いて移動するコルステインは変化を受け入れた。

お読み頂きありがとうございます。

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