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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台開始
2833/2955

2833. 狂の欠片、ニヌルタの解釈・分裂遺跡発動へ・『原初の悪』停止兆し・勇者と双頭龍の降ろし時

 

 ヨーマイテスの存在が短期間絡んでいたガドゥグ・ィッダン分裂遺跡は、もう誘導されない(※2358話参照)―――



『帳を引き抜く者ヨーマイテス(※1137話参照)』が役割を()()()()()外された後、中間の地の分裂遺跡を引き起こすのは、タンクラッドの時の剣くらい。それは、ヨーマイテス両腕の至宝と近い力で誘発を促す。


 アイエラダハッドでは、ザッカリアの死によって龍族が動き、ガドゥグ・ィッダン分裂を意図的に使う流れで、男龍シムが一時的にタンクラッドの時の剣を再現させ、発動まで引っ張った(※2358話参照)。

 

 ただ、あの時は前準備が必要だった。

 分裂遺跡は動いておらず、強い衝撃―― センダラとイーアン ――で異時空亀裂を起こし、魔物の門を()()()危険も承知の上で、遺跡が発動するまで待機、そうして動き出した後でシムが連動させた(※2366話参照)。



 しかし、ついこの前。精霊ティエメンカダの島・ティヤー東の治癒場下、あの分裂遺跡の一件は、意図的な発動を仕組むに、『前準備済』状況にある。


 動いた理由は、アスクンス・タイネレの影響もないではないが、『始祖の龍がイーアンを呼んだ』と思しき発動も、始祖の龍の鱗を持つイーアンと、かつての友ティエメンカダの場所から、(あながち)ち外れてはいないので、理由はこの二つとして。


 一旦、動いてしまえば、他の分裂遺跡も連動する質。イーアンが嵐の向こうに見た白い筒(※2830話参照)は、東治癒場の遺跡の影響・・・そう、捉えて間違いはなさそうだった。つまり、二ヶ所目が動いているか、時空の歪みで動くと見えたか。とにかく。



「だから。もし感じたら」


「対処してほしい、と。それは良いだろう」


 イーアンは捲し立てるようにビルガメスに話して、自分が()()()()()()時のために頼み、大きな男龍は了解した。女龍が間に合わない事情も・・・毎度のことだが、ビルガメスは『彼女らしい』と思う。

 これから妖精(※センダラ)の協力を仰いで、始まった異時空亀裂に対応するのだとか。


「では、ビルガメス。あとを」


「待て」


 戻ろうとした女龍に手を伸ばし、ビルガメスはイーアンを摘まむ(※クローク)。え、と驚いた女龍を持ち上げ、『遺跡の対応は分かったが』と()()()()()

 イーアンも、先に伝えた話のことを、彼が気にしないわけはないと思っていたので、摘まみ上げられたまま頷く。

 ビルガメスの金色の瞳は、じっと女龍を見つめてから、静かに確認した。


「お前は()()()()()んだな?」


「はい。そうとしか言いようがないです。なぜか不意に」


「俺はまだイングに以前会ったのを、思い出せていない」


 うん、と頷く女龍。到着すぐ、白い筒の対応を頼む前に話した、『奇妙なこと』。



 ―――『頼む用件は白い筒対応だが、今、地上でおかしなことが起きていて、大陸の影響だけとは思えないのでビルガメスの耳にも入れておく。この前イングが来た時、私たちは初対面と認識したが、一度会って会話もしているし名乗ってもいる(※2238話参照)。同時に生じた複数の異変と、関連があるかも知れない』―――



「イングには聞いていないんだな?」


「まだです。後で聞くつもりです」


「俺は思い出せないが、龍の空に居た俺たちにまで影響した話なら、お前の言う『奇妙』は・・・あの大陸に()()()()()とも取れる」


 陰険? ネコ掴みで持ち上げられている女龍が呟き、ビルガメスの腕に移される。

 見上げる彼の表情は静かだが、どことなく怒っている気がして、イーアンは憶測の『原初の悪』起因が、間違ってないのかもと過る。


 少し間を置いて、男龍は『お前も気を付けろ』と話を終わらせ、前腕を外へ傾けた。イーアンに飛び立つよう促すので、イーアンも躊躇いがちに翼を出し、男龍を気にしつつ浮上する。


「調べておく」


「はい」


 ビルガメスの送り出しに了解し、イーアンは地上の空へ飛び、ビルガメスは不愉快極まりない報告に、形良い眉をぎゅっと寄せた。



「よくも、俺にまで」


 このイヌァエル・テレンにまで手出しするとは。静かに怒るビルガメスは、ニヌルタを呼ぶ。


 やってきた白赤の男龍は、『イーアンが来ていたか?』といつもの調子で話しかけたが、ビルガメスの目つきに気づき、何か問題かと尋ね直した。ビルガメスは友達に、イーアンが教えた『奇妙』と『白い筒』を話す。


 ニヌルタもまた、ビルガメスが聞いた時と同じように、すっかり全部話が終わるまで口を挟まず、聞くだけ聞いて『そうか』と柱に寄りかかった。


「ニヌルタには関係なさそうだな」


「そうだな。何の影響も出ていない・・・だろう。記憶をいじった、と簡単に考えるなら、俺はほとんどこのイヌァエル・テレンにいる分、分かる変化は起きないかも知れん。

 だが聞けば、俺も気づいていないものを記憶が落とした可能性もある。意図的にいじっている訳ではないように感じるから」


 イーアンは気付いた。なぜ彼女だけが気づいたのかは、思うに偶然『時空の亀裂』が生じたきっかけ。ビルガメスがそう言うと、ニヌルタも腕を組んで何度か相槌を打つ。


「彼女は、たまたま時空の揺すりに解けた、か。無い話じゃない」


「そうするとだ、ニヌルタ。時空の動きで記憶が戻ったイーアン、だとしたら、こんなことが自然発生」


「しないよな。自然発生なら、()()()()の衝撃で記憶は戻らないだろう」


 お互いの言わんとすることを、金色の瞳を合わせて重ねる。同じ結論の男龍二人、ビルガメスの不愉快な表情が遠慮なく浮かび、ニヌルタも面白くなさそうに短髪を撫でつけ呟いた。



「あの『原初の悪』に、そんな力があったか?」


「あってもおかしくない。詳しく俺は知らないが、古株中の古株だ。やりかねない」


「ここは、俺たちの世界。イヌァエル・テレンだ。ここにまで手を伸ばすとは」


「ニヌルタ。お前たちを追いかけたあの者の力が、俺の家まで延びたとも思える。ここで効力を失い、俺とイングとイーアンの記憶・・・一部的な記憶を抜くなど、そんな小技を使う意味も分からんが」


 大きな男龍は、『小技』と呼ぶものの手を出されたことに苛立ち、ニヌルタも不満で、ふーっと息を吐き出す。



「一部的な記憶を狙ったんじゃない。お前たちに共通する時間に、あの者の『混沌と狂わせ』が及んだ、そんなところじゃないか」


 ニヌルタの推測に、ビルガメスは小さく頷いて『ありそうだな』と同意。記憶をいじったと言われてもピンと来ないが、『原初の悪』の力がこちらの記憶に及んだと言うなら・・・ 相手が龍族でも、あの精霊なら影響は及ぼす気がした。



『原初の悪』の存在意義でもある混沌と狂いの力に、『過ぎた時間』を混ぜた――― 問題は、時間を動かす・記憶に及ぶ、これを異種族の龍に(おこな)ったこと。



「なぁ。ビルガメス。()()()()だと思わないか」


()()()()だろう」


 ニヌルタはもう一度、厭味ったらしい溜息を吐き、大振りに首を振った。その顔は遠慮なく怒りを浮かばせ、ビルガメスも不愉快を晴らしたい。ニヌルタはちらっと友達を見て『お前は確か』と確認。


「イングたちが帰った後、ガドゥグ・ィッダンに行ったんだよな(※2818話参照)?それでも記憶が戻らないとは」


「・・・行ったが。ガドゥグ・ィッダンは、空の聖域だ。中間の地に起きる、時空損壊の衝撃とは違う」


 そうかと頷いたニヌルタは、とりあえずビルガメスに『気分が良くないままというのも』と前置きし、中間の地で始まった時空亀裂で、記憶を戻してみる試みを勧めた。龍族の俺が、と余計に機嫌が悪くなるビルガメスだが、イーアンもそれで戻った可能性があるため、不満が増すものの、友達の案を受け入れる。



「ついでに、ガドゥグ・ィッダン分裂遺跡も対処するか」


「ん?まだなんだろ?」


「連動は出始めている。シムを連れて行けば」


 腹いせのようなビルガメスの発言に、怒っていたニヌルタは笑い出し、『俺も行くか』と乗る。シムに、時の剣の代わりを任せ、白い筒の連動を早める。


「空に許可は要らないだろう。この前、お前が聞きに上がって了解は得たし」


 アイエラダハッドで引っ張り出す時、ニヌルタは事前に確認している(※2358話参照)。

 そうだなと同意したニヌルタは、わざわざ相談したイーアンに嫌がられるとも思ったが、それより『原初の悪』の地味でやり過ぎな仕返しに気づいて、黙っている気はなかった。



「さて。じゃ、そうすると、だ。イーアンにまた喚かれても困るからな。先に心配を片付けたと、理由はそうしておくか」


「イーアンに気を遣うことはない。どっちにせよ、発動したなら何かの一押しで連鎖するものだ。俺たちではなくても、別の原因が発動の後押しをする」


「遺跡を動かしている間に、『原初の悪』がまた、ちょっかいを出すかも知れん。先手を打っておこう」


 ニヌルタは、ビルガメスの腹いせに加担するも、守りは固めておく必要を伝え、ビルガメスも了解した。混乱の精霊に、混乱で立ち向かうなど愚かなことはしない。


「ちょっと待っていろ。()()()()()する」


 ビルガメスは、この世界の中心に在る存在と交信する。

 相手の精霊は、これまで度々ビルガメスの問いに答えており、今回は『範囲を超えた手出し』について、こちらが応じる方向を相談。精霊の答えは意外で、交信はすぐに終わった。


「どうだ」


 早かったなと、ニヌルタが声をかけると、ビルガメスは少々面食らったように頷き、返事を待つ友達の視線に目を合わせ、内容を教えた。


「次に『時を動かした』なら・・・ あの者は、一時的に()()を受ける」



 *****



 罰、ではないらしい。世界の流れとして、停止を掛けられる。


 思ってもいない返答を聞いてキョトンとしたニヌルタも、すぐ我に返り『理由は何であれ、見ものだ』と笑った。ビルガメスも苦笑し、まさか停止とは、と首を傾げた。


「何かが早すぎるか、だな」


「こっちが気にしなくても、時期に合わせて止められる状態にいるということか」


 男龍は切り替えが早いので、顔を見合わせて大笑いする。いい加減笑った後、『やるか』と二人は楽し気な顔を空に向けた。



「ビルガメス。これで()()()()()()()もなく、分裂遺跡の打ち上げが出来る。ついでのついでだが、思いついた・・・ザハージャングを先に降ろすのはどうだ?アスクンス・タイネレにサブパメントゥが集まる。イーアンも忙しそうだから、ここは俺たちが分裂遺跡を」


「ふーむ。ニヌルタ。それは良い思いつきだぞ。ザハージャングがいつアスクンス・タイネレの『門番』になるかは、馬車歌とやらで明示していないしな。龍気が溢れる分裂遺跡打ち上げが、ザハージャングを降ろして間髪入れずに始まったら、サブパメントゥもかなり減る。イーアンも楽だろう(※こじつけ)」


「サブパメントゥを減らした上に、ザハージャングがアスクンス・タイネレに本当に固定されるなら・・・終わった後にドルドレンを降ろす。これならドルドレンも操られる可能性は低くなる」


 ドルドレンは勇者だが弱い印象なので、二人は思いつきを話しながらまた笑い、それがいい、そうしようと決定。



 ビルガメスの腹いせと、ニヌルタの思いつきも、世界の動きに沿う。この二人はそれを理解しているが、他は違う。


 だが龍族に、他の誰某のことなど、何にも関係ない。思いつきは間もなく、実行へ移る―――

お読み頂きありがとうございます。

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