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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台開始
2829/2954

2829. 残党制圧一回目・野放しの人型と四つ足

 

 誰もやらなかったこと―――



 これまでの長い長い歳月。残党サブパメントゥが生き残り続けた事情も大体は聞いたが、これほど潰滅的な打撃を受けたことはなかっただろう。タンクラッドは知らされた結果に、そう思った。


 二度目の旅路は、魔物とサブパメントゥの襲撃が長引いて散々だった、という。三度目の旅路までの数百年間、サブパメントゥは次の機会に備えて静まり返っていたが、この間にまた数を増やしていた。


 そして三度目の旅路が始まり、サブパメントゥは少しずつ様子見で動き出し、顕著になったのがアイエラダハッドから。女龍を弱らせる『棘』を持ち出し、それを阻まれたが、次にドゥージやラファルという『人間の道具』を使い始めた。


 二度目の旅路に溢れ返っていた話からすれば、人間の道具を使う・・・それもたった二人とは、随分と控えめかもしれないが。

 三度目だけは成功させたい『空を奪う』目的に合わせ、サブパメントゥなりに着々と、作戦を変えた状態だったと分かる。



 コルステインを見ていて思った。慎重さを選んだコルステインもまた、サブパメントゥが二度目の旅路と同じように動くことを懸念し、触発しないよう気にしていた。


 それと同様に残党側も、今度は失敗できない最終の機会と構え、創世の時代に比べて散るに散った頭数の少なさを考慮したとも取れる。



 だが、残党が想像するより、三度目の旅の仲間は遥かに手強かった。


 イーアンは男龍を空から援軍に呼び出すことが可能で、アイエラダハッドでは地上に埋まる白い筒を出し、彼らの力の前に成す術もないサブパメントゥを大量に倒した。

 これには、イーアンの味方に付いた異界の精霊(※スヴァウティヤッシュ)が『サブパメントゥの天敵』と見做せる力を持っていたことが大きい。彼が操り、地上へ出して、龍族の猛攻に晒したのだ。


 そして、トゥも因縁を思い出したからこその()()を許されて・・・いや、ここは分からない。これから追って沙汰が来るかもしれないが。とにかく、トゥの使った魔法は、地下に逃げた残党の棲み処ごと、取っ払ってしまった―――



「残りは世界に散っているサブパメントゥだ。トゥが押し込んだ分は、(ねぐら)と一緒に崩壊した。外へ出ていた奴らも塒がない以上、サブパメントゥに身を潜めることは出来なくなった、ってことだな」


 朝の遺跡を包む森林で、黒いダルナは軽く話し、銀色の首二本が頷く。影に佇むコルステインは、スヴァウティヤッシュの頭に話しかけ、振り向いたダルナは何度か頷いて『それも言うよ』と返事をする。


「タンクラッドは知っているかもな。トゥは興味もないだろうから、とりあえず情報で教えておく」


「何が」


「サブパメントゥはさ。操る人間や動物がいれば、力の枯渇はない。だけど、自前の技を使う場合は、力の源というかな。その補充は必要で、サブパメントゥの・・・ややこしいな、要は塒に帰らないと消耗したままらしい」


 何が、と返したトゥは瞬きし、地面に降りている主に『お前は知っていたか』と尋ねた。ちらっと見上げる剣職人は曖昧に『大まかに』と答え、黒いダルナに一つ質問。


「ということは、だ。操る相手から得ている・・・力か。それは、あくまで操る対象だけの範囲で、()()()()()()んだな?」


 回復できないまま、今後も過ごすことになる。塒ではないサブパメントゥのどこかに入り込むなら回復も可能であれ、それはコルステインたちの領域に足を踏み入れることを意味し、つまり『不利』の意味。

 黒いダルナはタンクラッドに頷いて、銀色の巨体を指差した。


「だろうね。分かりやすい例えだと、トゥが船を動かすのと近い。トゥがいるだけで船は動くが、船に魔法は使わない」


「俺を例えにするな」


 サブパメントゥの例えにされて気を悪くした銀色のダルナは遮り、スヴァウティヤッシュは『もう、しない』と流す。が、なぜかコルステインが同時に機嫌を悪くし、影の内側にあるスヴァウティヤッシュの長い尾の先を引いた。その行為に、ダルナもタンクラッドもちょっと驚く。


 むすっとした顔のコルステインが見え、タンクラッドは勘で複雑なものを感じた。


 尾を引っ張られたスヴァウティヤッシュが笑って側へ行き、なんだか宥めている・・・ なんだあれ。眉間に皺が寄るタンクラッド。黒いダルナは何を注意されているのか、コルステインは機嫌悪そうなのに、彼は可笑しそうで、コルステインが最後にトゥを睨みつけて消えた。


 タンクラッドの胸中はざわつく。戻ってくるスヴァウティヤッシュが余裕そうな笑みを浮かべているのも、気分が悪い。


「サブパメントゥと一緒にするなと、トゥが言っただろ?」


「コルステインにも理解できるよう、思考でも伝えた。それが苛つかせたか」


「じゃなくて。俺を責めたって感じたみたいだ。()()()()だ」


 ダルナ同士の会話にタンクラッドは口を挟まなかったが、ムカッとした。責めたとは大袈裟だなと、トゥがぼやき、スヴァウティヤッシュも笑って『真面目なんだよ。俺が友達だからさ』と答える。


「それで?苛ついて帰ったのか。話も途中だぞ」


「ん?でも報告は済ませた。コルステインは先に出ただけだ。コルステインからすれば、トゥの攻撃は躍進的だったのは確かでも、自分が許可したことも種族内では疑いようのない状況になっただろ?

 それも了解してやったのに、って感じだな。トゥは気にしないだろうが、コルステインは種族の頂点だ。俺は手伝いで、片腕みたいな友達。だからトゥが俺を責めるのは」


「許可云々、覚悟の上だろうが。俺には俺の都合がある」


 相容れない都合があると、吐き捨てるトゥに、スヴァウティヤッシュも同意し『どっちにも、理由はあるよな』と丸く収めるのだが。トゥはさておき。


 決戦開始でサブパメントゥの残党を大々的に片付けた後だというのに、みみっちい小さな一場面でタンクラッドは不満が募った。

 全然、最近、顔も見せなかったのに。すっかりダルナと友達になっていたコルステインは、自分に目もくれず。来なくなってから、自分も大して気にしなくなったが(※2585話参照)こんな変化を見てしまうと、コルステインは何をしていたんだと苛つく。



 沸々と静かに怒る主に気づき、トゥは馬鹿々々しくて、これで切り上げることにした。スヴァウティヤッシュに次の予定を伝え、双方の情報交換は終わり、黒いダルナも宙に掻き消える。


「行くぞ。参戦だ」


 顔に感情が出ている主に、さっさと乗れと促して、無言で飛び乗った主を連れる銀色のダルナは、ぶぅんと振動を耳鳴りに響かせた続き―――



「倒せ、タンクラッド」


 朝焼けの真っ赤な雲の向こうを、嵐の黒雲が凄まじい速度で近づく島で、ダルナは主を砂浜へ下ろす。荒ぶる沖に、高波に透けた魔物の群れが映った。



 タンクラッドの金色の剣が渦を呼び込む様子を、少し離れて見守るトゥは、自分も近くで退治を始める。


 スヴァウティヤッシュの報告で、残党サブパメントゥはもう、一万もないだろうこと。


 これまでも着々と、彼らが消し続けて来た成果に加え、今回の打撃はアイエラダハッドの龍族鉄槌と近い。どれだけいたのやらと思いもするが、それはどうでもいい。『ザハージャングが来る』と確定しただけで、わらわら集まったサブパメントゥたちは塒で待機していた。


 押し込んだ魔法により、地下の国で()()()()()()に囚われた輩は、互いを見ては相手を龍と認識して殺し合った。誰も気づかない。誰も、自分の力を惜し気なく使い倒した相手が仲間だとは、思う暇もなく倒れ続けた。



 スヴァウティヤッシュは言葉短くそう伝えたが、コルステインはこれに対し複雑そうで、報告の仕方を気遣っているのは分かった。自分の管理する種族の世界で、他から投げられた危険を孕む魔法の暴力を・・・看過したことが、コルステインには複雑だったのかもしれないが。


 だが、コルステインも望んだ結果―― 残党の駆逐 ――に何も言わなかった。



「コルステイン。お前のためではないが、もう少ししたらお前もようやく肩の荷が下りるだろう。次は、ザハージャングだ。あれを固定する。俺があいつを叩き落としてやるのを待て」


 種族内で宣戦布告も同然となったコルステインは、ここから荒れるのも承知の上。

 それでも極力、対立を抑えたい様子も窺えた。二度目の旅路とやらで相当嫌な延長をしたのが、サブパメントゥの横槍だったと聞く。二の舞は避けたいのだ。



 ザハージャングを地上に。その時が一番、盛り上がるだろう。だからこそ、決して俺は()()()()

 いつ降りてくるか目途はないが、地上の空に来たと知れば誰より早く、この俺が迎えてやろう。


 瞬きする目を付けた大きな翼を広げ、高波に乗る魔物を燃やす。宙を叩く翼の一撃で、噴き出す炎と共に海が沸騰し、絡み付く生き物のような炎に魔物は呆気なく消えてゆく。



「ザハージャングを固定してからが、()()()()()だ。あの龍が固定を解いた時、タンクラッドと戦う、その時が」


 トゥの四つの目は、目の前の魔物ではなくその先の時間を狙う。空の龍たちに止められるまでは、計画を貫くつもりで、トゥは遠い世界から巻き込まれた因縁をこじ開ける。



 *****



 北部――― 


 こちらには魔物がいないと、様子を見に来たイーアンが怪訝に思ったのは、朝、波が一旦落ち着いてからだった。


 それまで南部で東から来る波を打破し、魔物を見つけ次第倒し、これを繰り返していたのだが、小さい津波が止まらず、南部から離れられなかった。龍の姿で飛び回っていたイーアンは、アティットピンリーが動いていることを願って、連続した波が静まってきた頃合いを見計らい、大急ぎで北へ飛んだところ。



「魔物は?」


 波はやはり高いし、嵐も加わって雨も風も強いが、荒波に魔物は見えない。近い島へ向かったが、そこは小さい島で人々が標高の高い所へ避難していた。一ヶ所に集まってゆく人々を追う者はいない・・・ ここは無事なのかと、心配はあるものの、違う島へ飛んだ。


 空からあちこちを見に行き、小さい島の続き、大きな町があるところは?と雨を突き抜けて、イーアンはギョッとした。


「動力?え?でも、動物では」


 人型動力ではない・・・が、()()()()()()が大雑把な動きで歩いているのを発見。後ろにも何頭か続いており、それらはぐらぐらと不安定ながらも、狙う対象を見つけると走り出す。


 イーアンは滑空し、豪雨を劈く悲鳴と、不格好な動力の間に滑り込んで殴り飛ばした。

 一発で消す前に正体を、と殴った四つ足の作り物は吹っ飛び、転がった反動で起き上がる。重心がどうなっているのか分からないが、喉の辺りが赤く炎の熱を帯びたので、これも操られている動力だと理解した。


 悲鳴を上げた誰かは、降るように立ちはだかった何者かにティヤー語で騒いだが、強い雨に霞む角と、肌の違いを見て『ウィハニ』と叫んだ。振り向かずに共通語で『逃げて下さい』とイーアンが返すや否や、四つ足が口を開いて襲い掛かり、女龍の長い尾が間髪入れず引っ叩く。


 今度は手加減しなかったので、四つ足の動力はバキッと音立てて砕け散る。割れた腹からあの棒が転がり、雨に当たって薄い煙を上らせた。


「やっぱり。そうか」


「ウィハニ?ウィハニ、ですか」


 他の動物系動力を片付けようとしたイーアンは、背後の人に呼び止められ、振り返って驚いた。顔を砕かれた人の肩を支える女の人と、砕かれた顔と落ちかける腕で血まみれの人がいた。


「ウィハニ。助けて下さい」


「当然です」


 ずぶ濡れの女の人は、訛りの強い共通語で涙をこらえて頼み、イーアンもすぐに応じる。二人で逃げていたようで、疎らな茂みを怪我人と一緒に逃げきれなかった女性もガタガタ震えていた。


 イーアンは二人の側に立ち、少しずつ龍気を送る。輝く白い粒子は、血まみれで形の崩れた体を巻く包帯のように上がり、取れかけていた腕と、壊れた顔を真っ白い光に包んだ後・・・怪我人の傷は丸ごと治った。


「あ・・・ありが」


 有難うと涙で言えなくなった女性が、姿を戻した男を抱き締める。イーアンは彼女も怪我をしているのに気付き、彼女にも龍気を与える。

 これが・・・この二人に、良いことか。祝福が、()()()()()()理由になることを思うと、胸中は複雑だったが、助けないなんて出来なかった。


 腫れた膝は折れていたのだろう。女性は引き摺っていた片足が動き、驚きながら、大雨の地面に跪いた。組んだ両手を頭より上に掲げ、イーアンに感謝を伝える。回復した男性も雨が叩きつける土に頭を付けて礼を言い、イーアンは二人を立たせた。



「お礼を有難うございます。送ります。今は逃げなければ。どこへ行きますか」


「あ、ああ。有難うござい・・・ます。私と夫は逃げ遅れて」


 うんうんと頷きながら急ぐイーアンは、とにかく場所を聞き出して、龍の腕で二人を抱え上げる。驚きと感謝を繰り返す夫婦を両脇に、言われた避難所へ運び、避難所前で降ろしてから、尻尾の鱗を持たせる。


「私は龍。あなた方は、私を()()()かもしれないけれど、これを使って身を守って下さい。あなた方を助けるはず」


 白い大きな鱗を女性の手に握らせて、無事を祈るイーアンに、戸惑う女性は『憎んでなど』と言いかけたが、イーアンはその先を聞くことなく浮上した。



 先ほどの――― あの一体に続いていた数頭を倒さねば。


 どこへ散ったかもしれないと飛んだイーアンが現場の空に入ったすぐ、水色の光が空に弾ける。ハッとした雨のど真ん中・・・ 金髪の妖精が清い光に包まれて浮かんでいた。


「センダラ」


「北はクズが動き回っているの。動力でしょ?」


「はい、私もさっき見たばかりですが」


「こっちは私が引き受けてあげる。あなたは魔物退治に行って」


「え?こっちって・・・北は、動力だけと言っていますか」


「そうよ、早く行きなさい。あなたが人間を助けている間に、残り物は消した。私も次へ行く方が良いでしょ?」


 急に現れたセンダラは状況と対処を手短に話し、開かない目の顔を南へ向ける。


「でも。でもセンダラ一人で。北部だって、島も多いから」


「もう、いつもそうしてまごつくんだから!さっさと行きなさいよ!私は()()()()こっちを片付けているって、理解できてる?!」


 すみません、と迫力に負けて謝るイーアンは、後をお願いしながらいそいそ離れる。不機嫌イライラのセンダラはイーアンが離れると、ぴゅっと光の矢になって消え、辺りは嵐の灰色の風景に戻る。



「センダラ・・・怒られるのは悲しいけれど、あなたは本当に頼りになります」


 有難うと呟いたイーアンはこの後、魔物退治に戻った南で、死霊の長と鉢合わせる。そして、小手調べを掠める展開にもつれこむのだが。



 女龍がもつれこんでいるその時、カーンソウリー島では、死霊の混じる魔物を相手に、嵐の海を海賊の船が港を出ていた―――

お読み頂き有難うございます。

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