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魔物資源活用機構  作者: Ichen
淘汰の橋かけ
2826/2958

2826. ロデュフォルデンの真実『攻撃、やり直し、時の漣、創世の責任』・ヨライデ治癒場

 

 ロデュフォルデンは、始祖の龍が造った。


 地上であって、地上ではない。紛らわしいこの状況を選んだため、独断では現実化しない。実際には地上を使うわけではなくても、精霊に相談し許可を得た場所。


 協力者に、空の子。これも彼らの条件を超えない、彼らにとっても悪くない内容であったこと。空の子の具体的な協力の形は、『守番』くらいである。他には何もない。



 事実上、ここは空で、イヌァエル・テレンとは違う。空の子の領域の一部が在る―――



 空の子及び空の一族は、ロデュフォルデンの存在を全員が知っているが、龍族は知らない。

 また、精霊の内でも大精霊は知ることだが、詳細は伝わっていないという。

 大精霊とはナシャウニットを差し、彼はロデュフォルデンが『空の一族と地上の精霊の大切な場所』と理解しているだろうが、ここが空の一部だとも明かされていないし、恐らく気づいてもいない。始祖の龍が相談し、許可を得た『精霊』は、普段はこの世界にいない特殊な相手だった。


 ロデュフォルデンは、女龍が使うために存在し、目的は攻撃用。



「攻撃ですか」


 ここまで黙って聞いていたイーアンは、顎に当てていた手を離して驚く。思いもよらぬ物騒な目的の矛先に据えたものは・・・ 空の子は大きな目を瞬きさせて、ふぅんと言った具合で尋ねた。


「あなたがどこかで『それだけを知った』から来た、と思いましたが」


「初耳ですよ。和やかな印象しか・・・なかったけれど」


 女龍は唖然として周囲を見回す。静かな山々に囲まれ、緑が輝く原っぱに、湖が一つ。これのどこが攻撃用なのかと胸は騒めく。空の子も彼女の視線に合わせて見回し、『龍を集めるので』と教えた。


「龍たちは、古代の三頭を除き、龍気がない場所で動けません。イーアンは、初代の龍と同じくらい強いですから、龍気を得られない地上でも、僅かな龍気を頼りに変化するようですが、他の龍は難しいです」


「そのとおりです。私だって・・・龍気がないと、力も落ちるし」


「龍は空の存在。いるべきところにいてこそ、です。でも、女龍は時代と共に呼ばれて現れ、空に付き添うよりも、地上に付き添う義務があります」


 この内容では、龍気を補充する女龍のためにも思えるのだが、わざわざ地上に空を移しても龍気を求めた理由を聞き、イーアンは眉根を寄せた。



「え?サブパメントゥ相手ではなくて?」


「はい。ここにあなたが入ったので、お伝えしても良いでしょう。何も知らずに辿り着いたようでも、時は導いたのだから。

 いつか、あなたを・・・女龍を()()()()()()()()とする者が現れます。それはあなたを攻撃し、引いては龍族、更にイヌァエル・テレンの在り方さえ問う。その時、あなたは自分が誰であるか明確に伝える必要に迫られるでしょう。

 これが行われる場所は、空中でも水中でも異界でもなく、この地上です。だから、あなたが認められたことを証明する龍を呼びます。龍をここに下ろすのです。あなたの家族を、あなたの守る空を、あなたがいないとこの世界の三大要素の一つが終わることを、はっきり示さねばなりません」


「示し方は、見せつけるだけで済まないのですね。その言い方だと」


「龍は、破壊する存在です。あなたを追い詰め、追い込み、剥奪しようとする手を破壊するためには、あなたを支える龍たちが側にいるべきですよ」


「私は彼らに戦わせたくありません」


「イーアン、あなたが戦う。あなたが史上最も強力な破壊の化身であることを、龍の呼応で見せるのです」


 呼応のために、他の龍をここに下ろすと聞き、イーアンはごくっと唾を呑みこんだ。


 龍気が溢れるロデュフォルデンを解放しても足りない?イヌァエル・テレンにいる龍たちを集めて、ミンティンやアオファやグィードがいる地上で、尚も、龍の呼応を増やす?それは一体、どんなサイズの話をしているのか・・・ 

 この世界が消えかねない、とんでもない破壊を行う想像がイーアンを身震いさせる。


 そこまで追い込んでくるのは、間違いなく()()()()しかいないだろうが、彼を相手に私は。


 言葉を失う戸惑いは久しぶりで、イーアンは急に聞いた予言に目を逸らした。ザッカリアが前にいるみたいな錯覚を受ける。

 空の一族は、予言の一族である。ザッカリアは、予告を外したことが過去にない。今、自分を見つめる透き通った瞳もまた、私を通して未来を見ているのだ。



 先ほどまでの、多く抱えていた質問が・・・薄れる。どうでも良くなってくる。ロデュフォルデンの場所がどうとか、アイエラダハッド火山帯は何かとか、そんなことよりも―――



「初代の龍は、二代目三代目の女龍のために、ここを用意しました」


「始祖の龍は、追い詰められなかったのですね」


「いいえ。彼女もまた問責を受けています」


「誰に、ですか。問責って、まるで悪いことをしたように聞こえます」


「『誰か』は、イーアンも知っているでしょう」


 逸らしていた目を上げて、空の子の真っ直ぐな視線に合わせる。ふーっと息を吐いた女龍は乾く唇を少し舐めて、癖で舌打ちし『あいつか』と嫌そうに呟いた。


「やはり、あいつですか。あの・・・ああ、なんでまた」


「そう決められた存在だから、と解釈して下さい。私が最初に、『使いますか』と尋ねたのは、あなたが既に相手との接触を果たし、状態が進行していると知っているからです。イーアンの名前は知らなくても、女龍の状況は()()()()


 そうだったのと頷いたイーアンに、空の子は続ける。


「初代の龍が問責を受けた状況は、私も知りません。『そうしたことがあった。』それだけです。彼女はそれを打破しました」


 一度言葉を切った空の子に、イーアンは『戦ったのですか?』と尋ねたが、答えは外れた。


「違います。この世界を()()()()()のです」



 *****



 やり直しの機会。


 愕然としたイーアンの口が開き、空の子はゆったり頷いて『そうしたことがありました』と話を変える。


「でも、以降の時代に同じことは出来ません。それは不可能です。()()()()()()()()()()()ことは出来るでしょうが、思い通りに操れるなどは出来ないこと。初代に揃った頂点にのみ、『時の(さざなみ)』を出す力は備わります。いくらかの狂いは生じるにしても、創世の規模と同じ大きな時間を戻すには到底届きません。

 創世に行われた『やり直し』は、その規模から責任を取らなければいけない。詳しく話すのは控えますが、初代の龍が背負った責任は、私たちの誰が想像するよりも大きく重いものでした。そしてそれが彼女の代で完結するとも彼女は思いませんでした。いずれ、繰り返される()()に対抗するには」


「待って下さい」


 合間が飛ばされているような説明不足の話はどんどん進む。何だか分からない内に、責任だとか繰り返すだとか、自分に降りかかっている状況であるだけにイーアンは思わず止めた。空の子はピタリと話を中断する。


「あの。待って下さい、頭がついて行かなくて。始祖の龍が責任取って?でも責任はまだ続いているのか、繰り返すわけですね?それは対抗するしかないのですか?何が何でも破壊しないといけない、って。話し合いとか、間接的に誰かを通すなどはダメなのですか?他に手がないまま、どうやっても攻撃で」


「龍だからです。破壊し、再生を司る以上、あなたが信じる愛を実行するなら、形は破壊」


 今度は空の子が遮る。イーアンは打ちのめされ、目を閉じた。


「うわ・・・ 」


 愛が破壊を示す龍族、避けられない道。つまり始祖の龍は、愛として『やり直し』という究極の破壊を行った、そういう意味かと理解した。責任とはなんぞやと、それも思うが、薄々答えは見えてくる。



 ―――始祖の龍は、『原初の悪』に何かしらで追い詰められた。


 きっと・・・始祖の龍が築き上げた仕事の盲点や欠点が、後の世に深刻とか、そうした理由では。

 他の精霊が同意したので、よほど大きなことだろうが、そんな点に気づかず物事を進めたなんて考えにくい。だがこれはさておき。


 とにかく追い詰めた続きが、始祖の龍を元の世界へ送り戻す目的で、彼女はそれを撥ね返した。それがこの世界を愛する証明、創世の『やり直し』・・・選択肢はそれだけだったのだ。なんだそれ、と思うが。


 やり直したからには、あらゆる責任が圧し掛かっただろう。彼女が受け持った空だけではないのか・・・地上とも繋がれる女龍の立場は、関係していそうに思う。


 始祖の龍は、もしかすると何度かやり直しをせざるを得ず、最終的にどうにか『通過』したのだ。が、しつこい『原初の悪』は、まだ女龍の失墜を求めているということか。


 責任が終わらない、その意味は『突かれる遣り残し』の懸念かもしれない―――



 ぎゅーっと手で顔を拭い、イーアンはうんざりして溜息を吐いた。何が何だか。知れば知るほど、混乱してくるが、そんな意味の分からない揉め事に、私の運命が重ねられている。



 この後。『ロデュフォルデンを使うなら、まだ時期早々では』と感じ、協力者としてイーアンに助言の時間を取った、と空の子は話した。イーアンがロデュフォルデンの事情を知らず、攻撃用の場所とだけ知ったから訪れたと、そう思い、確認したとか。


 衝撃的な話が続いてイーアンは、頭がパンクしそう。こめかみを押さえて、また少し待ってもらう。



 ―――ロデュフォルデンで、卵を孵す。『だって、食っちゃ寝ですから』・・・前は気楽だった。


 とんでもない目的のために造られた場所。ビルガメスたちすら、知らない。

 始祖の龍は男龍を巻き込む気はなかったとも思えるが、龍を下ろすということは、純粋な龍たちと頂点の女龍だけで挑む事態と、そうも思えた。


 純粋な龍は、始祖の龍が生んでいない。これもポイントか。確かガルホブラフたちのような小龍は、精霊が生んでいると。つまり()()()()()()()()()()、純粋な龍が認めていることを、彼らと共に提示するわけだ。


 ズィーリーの時代に使うことがなくて良かった。これだけは良かった。

 彼女の呼ばれた時代は、ただでさえ荒れ、戦いも長引いていたし、強力な味方がいたとはいえ、身内の裏切りにも常に警戒する旅路。『原初の悪』につけ込まれたら、ズィーリーはどうなってしまっただろう。


 私で良かったんだ、とイーアンはぎゅっと目を瞑った。私が、始祖の龍の続きを引き受けて、終わらせる―――



 話を終えた空の子の配慮に礼を言って立ち上がる。空の子もとぐろを解いて浮遊し、二人で二重の湖の上面へ。


「話はこれだけですよね?」


 振り返ってイーアンは尋ねる。一気に疲れた気がするけれど、龍気は補充した。空の子は女龍の辛そうな表情を、少し見つめてから頷く。


「今はこれだけですが、私が話したことを()()()()()()()()()()下さい。治癒場の場所も教えてあげます。サミヘニに頼むのは私だけど、場所だけ。ここを出て・・・ 」


 向こうへ飛んで、古い森が孤立している中に在る。

 空の子がそう言ったすぐ二重の湖が開き、イーアンは外へ出た。湖が閉まる前に、『他の精霊は、本当にここを知らない?』と思い出して聞いてみると、湖は閉ざしながら声を残した。


『不思議な湖、とだけ』



 ヴィメテカが知っていたのは、親のナシャウニット経由。アイエラダハッドのキトラが知っていたのは・・・彼もまた、始祖の龍と話したからかもしれない。


 ヴィメテカが言っていた『地上の精霊と、空の一族の大切な場所』。意味は何だったか、空の子に聞きそびれたなとイーアンは大きく息を吸う。約束、とはもしや、単に許可だけを示すとか。ここで、疲れた思考は中断する。今はあまり、掘り下げて考えたくなかった。


 時間が流れないロデュフォルデンの続きは、入る前と同じ時間の続きで、日付を跨いでいない夜。胸に重いものをズッシリ増やしたイーアンは、教わった方角へヨライデの治癒場を確認に行った。


 古い森は夜でも分かるくらいに文字通り孤立しており、周囲を溝が囲って、おいそれと人が入り込めないように見えた。


 降りはしなかったが、森の中心辺りがぼんやりと白さを灯らせたので、そこが治癒場なのだろうと見当をつける。ふと、ズィーリーは愛の人・・・と過った。男のように戦ったとも聞いているが、ズィーリーは微笑みと優しさの石像で佇む方が、後の世に残る姿では正しく思えた。


 治癒場に手を振り、イーアンはティヤーへ戻る。やるべきことはとりあえず済ませた。 


 イーアンがティヤーの海の上に入った頃、津波は各地に襲い掛かっており、意識は切り替わる。ロデュフォルデンの真実は一先ず脇へ。



 空の子が『よくよく考えて』と言った意味に気づくのは、もう少し後―――

お読み頂き有難うございます。


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