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魔物資源活用機構  作者: Ichen
淘汰の橋かけ
2821/2832

2821. ジャス―ルへ、238枚の道標・ラファルとの付き合い・ヴィメテカの『治癒場』対処案諸々

※5月29日(木)から少しの間、投稿を休みます。詳細を後書きに書きます。 Ichen.

 

 イーアンがテイワグナ入りした昼過ぎ。


 この時、魔導士もテイワグナに来ており、イーアンとは方向の違う東にいた。目的は馬車の民の男へ、粘土板を預けること。



 ―――ポルトカリフティグは、回収完了を知っていたように魔導士に呼びかけ、小屋の外に立っていた。


 朝陽を浴びても、その橙色は内から照らす明るさで、どこまでも穏やかな太陽の温もりを宿した精霊は、緋色の魔導士に『渡す相手』を伝えた。


『テイワグナ太陽の家族。名をジャス―ル・アガラジャンという。年若く、物怖じせず、真っ直ぐで勇気がある。民の先頭を行く、導きの勇者となるだろう』


 精霊のトラが褒めた男は、誉め言葉に()()()()()とついて、魔導士はやや引いた。勇者を特別可愛がる傾向は、二度目の旅路で散々だった魔導士に気持ち悪くすら感じる。

 が、とりあえず了解し、テイワグナの馬車の民がどの辺にいるのかを尋ね、教えたトラは帰って行った―――



「精霊も大まかなもんだからな。魔法陣で居場所の特定をしなかったら、無駄に時間が過ぎた」


「これ・・・全部、俺が持つのか?」


 ほれ、と渡した粘土板をまとめた袋を受け取り、地面に置いたジャス―ルは、大袋の中に分けられた小袋の一つ開けて見つめ、結構な数に考える。


「お前が分配するといい。行った先がどんな展開になるか分からん。予想が当たるとは限らない以上、数が多い種類は、後続の馬車にも分けておけ。各記号の示す効果と、想像の範囲だが使う場面は、さっき話した以外にない。あとはぶっつけ本番だな」



 一通りの内容を教え、補足も付けて、ジャス―ルがきちんと理解したのも確認できた魔導士は、炎天下の荒野で238枚の粘土板を託す。

 地面に置いた袋を覗き込んでしゃがむジャス―ルの顔が上がり、見下ろす厳めしい魔導士に尋ねた。


「あなたは、魂の魔導士、と精霊が話していた。あなたでも分からない場所へ、俺たちは向かうんだね」


「そうだ。あの精霊が送り出すまで付き添うらしいから、異世界入り手前、他国の馬車の民とも合流するだろう。その時に手間なく渡せるよう、今の内に仕分けておけばいい。お前の馬車は先頭だ。お前が全種類を持っていないと話にならんことは忘れるな」


「分かった。ドルドレンは、行かないんだろ?あ、あなたも彼を知ってる?」


「・・・どう使うかは教えた。じゃあな」



 緋色の魔導士は会話を中断し、昼の空を見上げる。灼熱のテイワグナは焼き切るような日差しを遠慮なく投げつけ、日陰でも熱気が容赦なく覆う。


 慣れているだろうが、ジャス―ルは汗だくで、下手に体力を消耗されても困るため、魔導士の挨拶はこれで終わりとばかり、風になってその場を離れた。地上に残された若い男は立ち上がり、遠のく風を見送る。その姿はやや心許なく、魔導士は彼らの無事を祈った。


「頑張れよ、()()()()()とやら。俺の時代にもお前やドルドレンみたいな男がいたら、ここまで毛嫌いしなくて済んだだろうに」


 染みついちまったよと、勇者嫌い・馬車の民嫌いをぼやく緑の風は、テイワグナをさっさと過ぎ、ティヤーの空に吹き抜けた。



 確かに、ポルトカリフティグの説明通りでジャス―ルは勇敢な印象を受けた。

 ドルドレンと似て、問題にたじろがない。いきなり飛び込んできたとんでもない内容に、躊躇いながら二つ返事で覚悟を以て引き受けるなど、そう簡単にできるもんじゃない。いつ、その立場に立っても良いように生きているから、いざとなって腰が引けない姿勢が出来る。


 世界中に散らばる馬車の民の人口、馬車の台数、そんなことも知らないだろうに。

 テイワグナから出たことのない若者は、ざっくばらんな『大勢』の無事に、たった200枚少しの粘土板を分ける不安も当然感じている。これで足りるのかと顔に出ていたが、余計な質問はせず、こっちの言葉に頷くだけだった。引き受けたからには、精霊に任されたからには、その意志の強さが彼を頷かせた。



「若造よ、お前の荷もまた重いだろう。だが、質の違う重荷を背負った男は、他に何人もいる。お前にはお前の荷が。忍耐と耐久力があるからこそ、これを与えられたんだろ」


 耐久力で勝負したらラファルには追い付かないかと呟いて、魔導士は人の姿に変わり、小屋のある島に降りる。思考はテイワグナの若者からラファルに移り・・・砂浜を歩く間で、ラファルを見捨てられなかった理由にふと気付いた。



「ズィーリーに()()()んだな。彼は」


 ぎぃと音を立てて開く扉を潜って入った魔導士に気づき、『おかえり』と白っぽい金髪の男が通路から現れて片手をちょっと上げる。ただいまと普通に返し、どうだった?渡してきた、と会話が淀みなく流れる。


 ラファルが勇者役じゃなくて良かったと、何でも背負ってしまう男に少し笑った。ラファルは魔導士が笑ったタイミングがピンと来ず、『出かけるか』と外を指差し、話を変える。


「『念』は片付けたって良い、そんな話だったよな」


「必死こいて片付けることはない、そんなことも言っていたぞ」


 目が合ってラファルが笑う。肩を叩いたラファルの手の温度に、彼の生きる意味を思う。彼の思いを汲んだ方が・・・彼らしく生きる時間を織り込むのも分かる。窓の外を少し眺め、魔導士も入ったばかりの戸口に体を向けた。


「行くか。『念』に憑かれた外道が、この混乱時に殺人をしないわけじゃないし」


「そうしよう。知っていて放っておくのも気が引ける。俺とあんたの仕事だ」


 魔導士は煙草を出し、ラファルに一本渡す。自分の煙草も咥え、二人は『念』を潰すため、小屋を後にした。咥え煙草で悠長な、傍から見れば余裕気な態度だろう。それでいいと、魔導士は思う。俺も彼も、余裕が板についた真剣は共通する。


 似ているがズィーリーよりは気楽だと、この気楽さを重んじる魔導士に、ラファルは支えるに充分な相手。そして、この男が自分を支えている気がするのも、薄々だが感じていた。



 *****



 魔導士がジャス―ルに託して帰って行った後も、イーアンはテイワグナにいた。イーアンがいるのは、精霊ヴィメテカの守るインクパーナの奇岩群。


 久しいヴィメテカを呼び出し、再会を喜び、早速相談したところ、ヴィメテカらしい返答(※1471話参照)はいろんな手段を教え、驚きながらイーアンも質問して理解してを繰り返していた。



「はー・・・ヴィメテカ。あなたほど()()()()()・・・ってそんなことを、他の精霊に聞かれたらいけないから言えないけれど(※青い布つけてるの忘れてる)」


『それも精霊だな?』


 ヴィメテカの指先が青い布に向き、ハッとするイーアンは『ごめんなさい』と布に謝った(※アウマンネル無言)。


「えええええっとですね、そういう意味ではなく」


『大丈夫だ、精霊が人間のように機嫌を悪くすることはない』


 ハハハと笑い飛ばすイケメンなヴィメテカに、イーアンは青い布を撫でながら頷いて、そうであるよう願った。

 ヴィメテカの胸には、自分と同じタトゥーの模様。以前、イーアンと約束する時に彼が胸にコピーしたままだった。そんな優しい混合種の精霊に、あれこれ対処や手段を教わり、イーアンは一安心する。


「では、ノクワボ・サドゥに会いに行って・・・彼のことは話で聞いただけなのです」


 ここでちょっと、イーアン口ごもる。話では、()()。でもアイエラダハッドにも()()()()。疑問はあるが、ヴィメテカに聞くことでもないと思い、また続ける。



「私が近づいても大丈夫でしょうか?」


『アイエラダハッドにいたサドゥの一族が、イーアンに何も問題なかったなら、こちらも大丈夫だろう。テイワグナのサドゥは地霊に近いが、混合でもない。彼らは彼らで・・・俺の記憶では、南にもいた。ノクワボを知っているなら、南のサドゥの場所を聞けばいい。それが難しければ』


「海から、混合種の精霊を呼んで下さるのですね?テイワグナの海の」


『そう。それが手っ取り早いだろう。森林に治癒場があっても、川を伝う。他の精霊に龍の望みと説明すれば、遮るほどの問題にならない。岩の荒野にある治癒場は、さっき話したが、俺が一時的に動いても良い。そのくらいの移動は許可されている』


 他の方法は、精霊の聖獣を呼び出して治癒場を見るよう頼むか、治癒場自体が龍の願いで造られたことから、洞窟の精霊(※1232話参照 ~ウェシャーガファス)を経由する方法もある、とヴィメテカはもう一度女龍に伝え、何度も繰り返し教えてくれる気前の良い彼に、イーアンは深々頭を下げた。


「本当に、本当に、あなたに相談して良かった。とても助かりました」


 ニコッと笑った女龍に、ヴィメテカも微笑む。人間が淘汰で消えると知って、必死に飛び回るイーアンを、ヴィメテカは良い女龍と思う。何かあればまた聞きに来ると良いと、それを挨拶に座っていた腰を上げ、イーアンも立ち上がった。


「テイワグナの治癒場に行ってきます。アイエラダハッドは先ほど説明したように、もう相手も決まっている具合ですし、ハイザンジェルとヨライデは少々気がかりにしても」


『ハイザンジェルでは、土地の精霊ではない精霊に話した方が早い。ヨライデは、テイワグナと分ける山脈を守る精霊に言えば、どうにかなるだろう。ヨライデ寄りの山々を辿ると見えてくる』


「はい。()()()()、ですね?」


 上から見ても分かる、二重の湖がヨライデの山脈に在るという。そこは、精霊と空の一族が守った大切な約束の地で、ヴィメテカは『親のナシャウニット』に聞いた話。空の一族が龍かどうか曖昧だが、『恐らく、龍だろう』と。


『ナシャウニットは、龍を支える精霊の一人。多くはないが、地上にも龍の遺す跡がある。それは地上の精霊が守るもの』


 精霊が龍を支える・・・これも不思議な表現に感じるが、多分、女龍のことを言っているのだとイーアンは頷く。龍族は殆んど空から降りないし、他の空の住人もまず地上に関与すらない。だから『地上発・人間上がりの女龍』を支える、そうしたことなのかもしれない。


 イーアンが相槌を打ちながら解釈していると、ヴィメテカは『俺が()()()()たのもまた、龍の遺した跡だが』と爽やかな笑顔で冗談を言い、白い遺跡で散々だったヴィメテカにイーアンは謝った(※根に持ってるわけではない)。



 また来ます、と翼を出し、イーアンは午後の空に浮上。

 ヴィメテカに見送られ、何度も手を振ってお別れし、イーアンは『ノクワボ・サドゥ』の棲む古代墳墓へ・・・飛んだのだが。


「あー、忘れてた!ヴィメテカのところは、時間が過ぎるの早かったんでした!」


 なんか空が夕方っぽいな~と思いきや、うっかりした。せいぜい1時間か1時間半くらいしか話さなかったのにと、涸れ谷のタサワンへ急ぐ―――

お読み頂き有難うございます。


文章にならなくて物語がまとめられず、少しの間、お休みします。長い物語だし、何日も休んでしまうと流れが分からなくなってしまうことが心配だったのと、何日も休んだら読んで下さる人が離れて行くのではとそれも気がかりで、なかなか連休を取る気になれなかったのですが、書けないのに無理な内容を出すのは嫌で、やはり休むことにしました。


今年は春も今も、絵をずっと描いていて、絵を描くと言葉が出なくなってしまうのも悩みました。私は発達障害もあるから、絵を描くと言葉が止まり、言葉を書くと絵が止まるという不器用な脳みそです。毎日何枚も描いて、言葉がどんどん消えて行く不安で、物語をどうしようと考えていたけれど、おかしな言い回しが増えたり、繰り返し同じことを書いていたり、読みにくくなる一方で、これはいけないと思いました。


元々言葉が足りなく、おかしな日本語を使っていると思います。それでもずっと読んで下さる皆さんには、本当に感謝しきれません。絵は、今月末で一旦完了するので、6月の初め頃に頭の切り替えが出来るようになれば、また書けると思います。絵は意識が飛びがちでも書けるけれど、言葉はそうもいかず、もどかしいです。


長くなりました。皆さんに心から、これまでも、今も、感謝しています。有難うございます。

お体に気を付けてお過ごし下さい。皆さんに良い日々でありますよう、お祈りしています。

 

Ichen.

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