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魔物資源活用機構  作者: Ichen
剣職人
282/2944

282. 南支部・遠征報告会議

 

 イーアンとドルドレンは遅くに支部に戻った。風呂に入りたいというイーアンの望みで、湯船は入らないものの、洗い流すくらいでさっぱりして風呂を済ませた。ドルドレンが入っている間は部屋で待ち、ドルドレンもそそくさ風呂へ入り、すぐに戻ってきた。



「夕食。食べてないな。大丈夫か」


「明日朝食を早めに頂きましょう。お腹は空いたけど疲れのほうがあります」


 イーアンは怪我をしている。右肩の包帯を替えてやり、頭の傷を見てから、頬の傷に目をやるドルドレン。そっと顔を撫でて額にキスして、『今日も頑張ったな。もう寝よう』と促した。



 でも。こういう時はなぜか、イーアンが燃える。

 部屋の明かりを消してベッドに入って、ドルドレンが愛妻(※未婚)を抱き寄せると、イーアンはちゅーっとキスしてきた。


「今日の。いえ、いつもなのですけど。でも戦っている姿が。ドルドレンの姿が本当にもう。たまらなく格好良くて。あなたは私の王様なの。英雄で、王様で、たった一人の愛する人」


 口づけを少し離してから、イーアンがうっとりした眼差しで囁く。どきどきしちゃうドルドレン。もう一回言って!!!と。思うものの。

 目を閉じたイーアンは、そのまま蕩けるように再びドルドレンの唇に吸い付く。舌を絡めて、かぶりつくようにドルドレンの口を塞ぐ。右肩に触れないようにしながら、ドルドレンも身体が熱くなるのに任せてイーアンを掻き抱く。熱い息が交錯する。イーアンの喘ぎ声と一緒に、ドルドレンの身体もどんどん加速して反応する。


 イーアンの腰がぐっとドルドレンの腹に押し付けられて、片足がくるっとドルドレンの腰に絡む。絶対逃がさないと言わんばかりの足が、ドルドレンの腰をぐいぐい押す。引き寄せられて密着し、黒髪の美丈夫の頭を、両腕に抱えるイーアンはひたすらキスをする。

 瞼にも頬にも唇にも、額にも耳にも首にも、イーアンの柔らかい熱い湿り気を持つ唇が滑る。吸い付きながら、舌を這わせながら、イーアンはとことんドルドレンを舌で愛撫する。


 もうムリなので。ドルドレンはイーアンを引ん剥いてその身体を抱く。イーアンがどこまでも色っぽくて、恥ずかしそうに喘いで、大胆に身をよじって、挑発的に腰をくねらせて、とろんとした目つきで微笑む。ドルドレンの脳髄が破壊される。むしゃぶりつくように、イーアンの細くて柔らかい身体に溶ける、筋骨隆々の逞しいドルドレン。

 跳び続けた戦闘なんて何のその。全然そんなのなかったみたいに、ドルドレンはイーアンを抱く。優しく激しく、熱く甘く。お互いを求め合う二人。求めても求めても、まだ足りないように愛し合う。


 濃くて熱くて止まらない愛溢れる夜を過ごして、二人は3時間後にぐっすり眠った。



 そして朝。健全な朝。


 イーアンが起きて、ドルドレンを見つめて、ちゅっとして起こして。抱き締めあって、ちゅーちゅーしながら、とにかく起きる。


 イーアンは着替え、ドルドレンは股間が治まってから着替え。イーアンの着替えた姿に、ドルドレンは毎度のごとく抱き締めて恋をする。ちゅーっとしてから、今日も綺麗と誉める。


 傷だらけイーアンは少し恥ずかしそうにして、お礼を言う。

 今日は暖かい朝というのもあって、久しぶりにボルドーレッドの前重ねスカート。肩に触るから胴体だけの金色のフリルのシャツに、胸を覆う丈のある焦げ茶色の革のコルセット。自分で作った魔物製の銀青色の毛皮の、膝上までの革靴。それに赤い毛皮の上着を羽織る。傷だらけは良くないが、傷と毛皮はワイルドで似合う(※アティクは傷痕が多い&彼の新年の晴れ着で覚えた)。


 ドルドレンはいちゃいちゃ着替えさせてもらって、完了。二人はようやく朝食へ広間に下りる。

 大好きな奥さんと、大好きな旦那さんの朝食の甘い風景。『イーアン。それ食べる』『はい。あーん』そんな具合でニコニコしている。


 人の少ない早い時間とはいえ、目のやり場に困る料理担当の騎士たち。しかし士気が下がるかと言えばそうでもなく。早く結婚しようと思うとか、早く相手を見つけたいとか、そんな勢いをつけているので効果あり。逞しく、強く、生活が安定している騎士業(※ちょっと危険だけど)。それで優しくすれば、相手は見つかる!!そう信じる騎士たちが日々増えている。



 二人のいちゃつきは、絶大な影響を放ちながら朝食の風景を憧れに変える。二人は朝食で空腹を満たし、いそいそと龍に乗って、朝一番、南の支部へ飛んだ。


 南の支部に到着してからイーアンは気がつく。ダビと朝、約束していたこと。ドルドレンにそれを話すと『大丈夫だろう。今日は朝から遠征報告、と執務室に書置きしたから』と微笑む。今日は大変ご機嫌の良いドルドレン(※昨晩愛妻に激しく求められたから)。



 龍を帰して南の支部に入ると、すぐにトゥートリクスが来た。『イーアン、待っていました』非常に喜んでいるので何かと思えば。一昨日のイオライセオダの魔物の件が報告で上がったとのこと。


『早いですね』『早いが。恐らくダビだな』二人はひそひそ話し合いつつ、会議室へ。早馬を使って本部に流して、それをその日中に郵便で運んだと知る。トゥートリクスは大興奮。大好きなイーアンが、一人で魔物を退治したと知って、株が上がった。


「俺。イーアンがたった一人で、剣だけで勝ったって。凄いです、凄く嬉しいんです」


「一人じゃないわ。龍がいたのよ。あの仔がいなかったら手も足も出なかったの。私ではないのです」トゥートリクスの興奮を宥めつつ、朝一会議室へ入るイーアンとドルドレン。



 入って二人は愕然とする。南の会議室はこんなに広かったのか、と思うほど。イーアン曰く体育館かプール並みの広さ(※この世界の誰も知らない比較)。そこに騎士がぎっちり。会議室って講演会なのかと勘違いしそうな状態だった。


「おはよう、イーアン。前へ来て」


 剣隊長のブーバカル・バリーがイーアンの左側につく。ドルドレンの眉間に皺がよるが、バリーは年上でタンクラッドと同じ年なので、若造は(ドルドレン)全然相手にしない。


 彼は少し、何か・・・雰囲気がザッカリアと似ている。格好良いタイプの顔で、濃い茶色の肌と薄い青と緑の中間色で明るい瞳、縮れた赤茶けた髪の艶が印象的。レモン色の瞳のザッカリアと、印象が似ていて、そのせいか自分より上の人でもイーアンは抵抗がなかった。


 自分の左手を支えるこの人も、タンクラッドとかブラスケッドと同じくらいの年齢なのだろう、とイーアンは彼を見上げて思う。バリーはニコッと笑って、『あなたは凄い人だ。今日は、先日のイオライセオダの魔物退治と併用で話をしてほしい』と頼んできた。


「イオライセオダの話。ここではあまり参考になりませんでしょう。あれは龍が」


「謙遜しないで下さい。龍は今後も一緒に味方になる存在です。あなたが来てくれたら、龍とあなたの戦い方を知っておいた方が私たちには良いはずですよ」


 そう言われると、イーアンも反対できない。自分が食い込む以上、恐らくミンティンの力を借りる。自分とミンティンはセットだと認識する。それを他の騎士も認識し始めたら、それを消す理由はないのだ。



 壇上に上がったイーアンは、言われるままに挨拶をする。ドルドレンが横の椅子に座っている状態で、部屋中に聞こえるように大声で話すことに。


「ドルドレン。どこから話せば」


 あまりに人数が多くて、慣れずに困ったイーアンはドルドレンに助けを求める。ドルドレンはちょっと考えて、『いつもみたいに、質疑応答にしようか』と提案した。それが良いかもとイーアンはお願いする。


 ドルドレンが立って、騎士たちに『俺が最初に流れを話す。その後イーアンに聞け』と宣言した。頼もしいドルドレンに感謝するイーアン。ドルドレンは昨晩の魔物退治の流れと、イオライセオダでの魔物退治の話を知っている範囲で話した。



「以上だ。質問があれば聞け」


 ドルドレンの声を合図に、幾つかの手が上がる。端から順に質問を聞き、イーアンは答えた。聞かれることに説明するほうが楽である。丁寧に説明し、疑問がなくなるまで相手にした。


 南の支部と東南の支部の隊長8名は、イーアンの話を暫く黙って聞いていた。ブラスケッドのように質問三昧ということはなく。後からじっくり聞こうというスタイルのようだった。


 昨晩の一番の疑問。『何がどうなると、噴き出す水が炎に変わるのか』という部分で、イーアンは説明に苦戦した。


「カラナはご存知の方もいらっしゃると思います。カラナと、骨の粉・・・最近は目灰といいますか?それと似たものを合わせました。この二つに水を足すと、発熱すると考えて、それを使いました。

 この熱を発する水溶液は、泡となって空気に混ざる時、火を受け入れます。正確には水が燃えているのではないのですね。出てきた空気と言うか、気体が燃焼しているのです。

 それを利用して、イオライの魔物の・・・何と言いましょうか。火に反応する石と言いますか。それを当てて、火力を増したのです」



 カラナ。これはイーアンが思うにアルミニウムを含む鉱物だ。皮鞣しに使うとオークロイに聞いて、鞣革の出来上がりを聞いたらまさしくアルミニウムの効果を持った仕上がりだった。

 前の世界の時代でいえば、ここは中世頃の文化の世界と思っていたから、もしかして使っているのではと思ったら、そうだった。


 この粉は、アルミニウム粉末そのものではないだろうが、カラナは同様の物質を含むと覚えていた。骨の粉については早い話が石灰だと思う。どこから採ったのかは分からないが、ディアンタに袋で保存してあったのを見て、かつて多く利用されたと知った。現在の利用は知らないけれど、名前を違えて存在していることは確かと見当はつけていた。


 要するに。生石灰とアルミニウムの粉を混ぜて水を注いだのだ。高温発熱が生じ、ここから水素が気化して、そこに火をつけ、さらにイオライのガス石を放り込んだ。イーアンの認識では、イオライのガス石はブタンに近いガスの感じ。条件が少しずつブタンと違うし、ブタンよりも派手な印象の燃え方をするのだが、とにかく強い可燃性ガスを持ったものだ。今回の仕組みは、こうしたことだった。



 だが、この世界はどうしてか。ディアンタの僧院他、各国の僧院の知恵を閉ざされて数百年経つらしく、そうしたことを多くの人が知らない。ギアッチなどの勉強を長くした人。オークロイのような古い技術を知る職人。ダビも多分そうで、個人的に勉強した人などは知っているが、一般的ではなかった。


 騎士たちは初めて聞く方法に大いに感銘を受け、こうした戦法をもっと活用したいと沸き上がった。



 この後、イオライセオダの話で盛り上がる。


 完全に龍がいてこその話なのだが、なぜか大盛り上がり。多分、剣を使ったからかもしれない。知恵は早々活用できる気がしなくても、剣や武器は自分も出来るとした感覚である。


 龍は?と思うが、龍がいなくても剣で倒したともてはやされる。龍がいない=それは絶対ムリだとイーアンは言い続けるが、騎士たちは大した問題に見ていなかった。トゥートリクスのはしゃぎようも、こうした部分の感性かもとイーアンは理解した。

 龍いてこその勝利だったことを、イーアンは絶対に曲げなかった。それを勘違いしたら大変な惨事が起こるからだった。


「イーアン。あなたが倒したことが大切です。そんなに控えめにならないで」


 いつの間にか側に来ていたバリーが、イーアンに囁く。龍がいないなんて勝てるわけなかった、とそれだけは言い続けたイーアン。バリーは、頑ななイーアンを律儀と捉えたようで微笑んだ。そして背中に手を当てて、屈みこんでイーアンの耳元で小さく囁いた。


「あなたの話をもっと知りたい」


 ドルドレンが一瞬で風のように回り込み、バリーとイーアンの間に滑り込んで、バリーの目を睨みつける。若造(ドルドレン)に倒される理由のないバリーは、余裕の表情で笑みを崩さず、静かに退散した。


「終わりだ。イーアン。もう良いから下がろう」


 イーアンもその方が良いと思った。誤解が多い気がして、難しいと判断した。二人は会議室の壇上を下り、騎士たちに囲まれながら広間へ出た。



 疲れが溜まっているイーアンは、『帰りましょう』とドルドレンにお願いする。魔物退治も援護遠征も済んだし、ドルドレンもそう考えていたので、二人は帰ることに決める。


 これから帰ると伝えると。反対された。


「なぜだ」


「慰労会だろうが」


 ベレンに、当たり前のことを、と言った調子で窘められた。『イーアンは怪我をしている上に、2日連続で遠征だ。労われ』とドルドレンが言ったが、『イーアンの話を聞きたい者が大勢いる』と返された。


「年末。彼女がルシャー・ブラタに鎧を頼んだと聞いた時。あの場にいた誰もが、古い時代の素っ気無い鎧を今後着用するのかと思った。

 だがどうだ。昨日彼女が着けていた鎧の凄まじさは、これまでなかった印象だ。あれをルシャー・ブラタが仕上げたと知って、昨日の夜はその話題でも沸いたんだ。


 地味か、遊び心なしか。そんなことを言っていたのは吹っ飛んだ。魔物製の鎧を着けたシャンガマックが来ただけで、その派手で妖しい格好の良さに驚いたのに、地元の鎧工房が本気出して、さらにあんなのを作ってきたんだぞ。


 その話をもっと聞きたくなるだろう。王都の金持ち騎士が着けてる鎧なんて、見た目だけの玩具みたいなもんだ。魔物製の鎧は、俺たちの誇りになる鎧だ。俺たちこそ身に着ける誉れを持つと、ここにいる全員が闘志を燃やすまでに煽った。もっと知りたい。総長、お前はそれを止めるのか」


 東南の騎士も同じように聞きたがっている、これから、もっとこの話題は広がるんだ・・・そう言われる総長は悩む。イーアンは疲れている。それでも自分たちがこれから()()()()()()物事に、早速反応が飛びついてきたわけで。これを断るのも機会を無駄にするようで。イーアンをちらっと見ると、イーアンは疲れている様子でも微笑んだ。


「慰労会は出ましょう。それが道のりの大きな豊かさに繋がるでしょう」


 可哀相に、とドルドレンは思う。イーアンを抱き寄せて『疲れたらすぐ休もうな』と慰めた。


 慰労会は昼からと言うことで、魔物は全滅と決定したノリで行われた。確かに全滅した。今回の蝙蝠系の魔物は、朝から確認に出た騎士たちの報告では、12箇所全ての洞窟が燃えた跡の状態で、そこに切り捨てられたり、焼け焦げた魔物の死体がわんさとあったという。

 町にも一頭も出ない朝だった。どこにも飛んでおらず、どこにも発見・確認、何もなかった。


お読み頂き有難うございます。

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