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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悪意善意の手探り
2790/2955

2790. 城下町・ヨライデ第二王城 ~シャンガマックとフェルルフィヨバルと、死霊使い

※若干の残酷描写があります。気をつけましたが、人体に関することですから、苦手な人はご注意ください。ここを飛ばして次回でも意味が分かるようにしましたから、無理はしないで下さいね。

 

 見えているなら、背丈3mの全身白灰色に包まれた男は、さぞ目立つ。


 シャンガマックは、ヨーマイテスという2m以上の長身が身近だから、隣を歩いていても全く気にならないが、ダルナ本人がそう言う(※目立つだろうなと)。


 城下町の橋を渡る前から往来は人が多く、中へ入るのも身を屈めて騒めきをくぐる具合。ぼんやりしていると肩をぶつけそうなほど、町は混雑していた。


 シャンガマックは姿が見えないが、すり抜けるわけではない。ダルナは実体を操るので通りすがりでぶつかるなどはないため、シャンガマックが人に当たりそうになると、彼の肩をちょっと引き寄せて守り、相手を押しのける。押しのけられた人は何にぐらついたかと驚くが誰もおらず。



「私の姿が目につかないから出来ることだ」


「あなたが見えていたら、俺とあなたは遠巻きに見物されるよ」


 苦笑するシャンガマックにダルナも可笑しそうに頷いて、『分からないぞ。私を捕らえると言い出すかも知れない』とやりかねない国民性を揶揄う。


 奇抜な色の城下町の雑多な店と絵のような人々、入り混じる強い薬草、強い香の匂い。どこからか流れてくる煙は、屋台や料理屋の煙もあるが、それと馴染まない、苦しくなるほど強い薬香の煙量が気になる。


「人を焼いた臭いではないのが、まだ救いか。そんなのが日常的に流れていても困るが」


「ここは火葬の国ではないだろう。だが死体が材料の一つなら、一部を焼くなどは日常的に行われていても変ではない」


 うーんと眉根を寄せる褐色の騎士を見下ろし、またぶつかられかけたので、フェルルフィヨバルは彼を片腕に乗せて抱え上げた。いいよ、と驚いた騎士に『ヨーマイテスに文句を言われないため』と断り、苦笑される(※大いにある)。


 ダルナの左腕に抱えられたシャンガマックは、申し訳ないにせよ、目線が上がって高い位置から見渡せる光景に『この方が多く分かる』と呟き、一ヶ所を見つめた。そこは石畳の幅広の道を横切る辻の先、建物と壁の向こうは、城の裏と思しき塀へ続くアーチ門。


「フェルルフィヨバル、あそこから城へ入れると思うか?」


「入れるが、正面ではなさそうだ。この城下町に一番近い城の端・・・ふむ。城の敷地と町の境目に川があるな。地下水道だ・・・行ってみよう」


 何かを視た言い方。シャンガマックと目を合わせたダルナは、『入って早々、衝撃的かも知れない』と前以て注意を授け、緊張を帯びた漆黒の瞳に頷く。


「先ほど話した、死体いじり。その場所がある」



 *****



 午前の晴天に照らされる、活気漲るけばけばしい色の城下町で。


 迷路の如く塀と壁が道を作る、怪しさ満ちた市場の雑踏をすり抜けた二人は、高い壁に開いた通路を通り、奥に続くアーチ門の先へ出る。石畳の道は変わらないが風景はガラッと変わり、町と城の境は草のある土手と橋。高い土手の際へ行くと、川縁を石材で整えた川が流れ、それは城へ引かれていた。


「地下・・・? 城の地下に。そう言えば、イーアンがティヤーの総本山で。堀の水中に墓があったと(※2582話参照)」


 はた、と思い出したシャンガマックは口ごもる。これもそうかとダルナを見ると、水色と炎の赤を揺らす瞳はじっと見返し『その手前、というべきか』と丁寧に答える。


「葬る前と言うなら、それは」


「見てから、だ。シャンガマック。何が行われているか。ここに魔物の気配があるかと言えば、もう一つの城から出てくる邪気だろうが、ここにも魔物の要素は既にある」


 全てを喋らないフェルルフィヨバルの話にちょっと頷いて、シャンガマックは腕から降ろしてもらい、城の裏門脇の小さい勝手口から二人は中へ入った。

 使用人や行商が使う出入り口は鍵もなく、人も近くにいるので半開き。入ろうとすれば用のない人間でも入れてしまう様子に、警戒心もない印象だったが、すぐに『人目を警戒しないほど、こんなことが当たり前なのだろうか』と驚くものを見た。


 勝手口から中庭、中庭の回廊続きの階段で地下へ進んだ、地下一階の廊下には、人の体が詰められた木箱が無造作に置かれており、見るからに材料扱いだった。


 背後の階段をゆっくり振り向く。地上の光が差し込む石の階段。こうしている間も、数人が行ったり来たりしている廊下。目の前を見れば、皮膚に妙な艶を持つ人体の一部が入れられた箱がある。蓋はなく、気持ち程度の粗布一枚が掛けられた下、人の肩や肘、腿の辺り、外側だけ残した上半身―― 腕と頭と肋骨から下のない、空っぽの腹腔から喉まで空洞 ――が覗いている。


 散々戦って、残酷な現場も数え切れないほど目にしてきた騎士は、これに対して吐き気をもよおすなどはないが・・・・・ 異様な状態にここの正気を疑う。



「なんということだ」


「当たり前なのだろう。シャンガマックが始めの町で見た、乾燥した人の手指。それらはこうして常に身近だ」


「・・・ヨライデの異質は、諸外国に聞こえてこないのか不思議に思う。ミレイオも特に話さないし」


「隠している訳ではない。ハイザンジェルは、外からの情報を閉ざされている(※2751話参照)。サブパメントゥのミレイオは、人間ではない視点で捉えて言わないだけかも知れない」


 他の国には、邪宗国家と一まとめ表現で定着して、詳細は届かないのも考えられる。


「ティヤーは、ヨライデ人自体を嫌ってはいないみたいだけど、歴史上の恨みで国は受け容れにくそうだったよ」


 海賊系の人々がミレイオに好意的だった態度を思い出すシャンガマックは、ヨライデ出身のデオプソロ兄弟を教祖の位置に上げたティヤーが、()()()()()()()()()()()、宗教団体としての迎合だったのだと、気味悪い箱を前に改めて理解する。

 あの宗教は死霊使いをヨライデから運び込んだ・・・ふと、ヨライデからの圧力、そちらの方が強かっただろうか?と掠めたところで、ダルナに肩を叩かれ我に返った。


「ごめん、ちょっと考えてしまった」


「先の部屋へ人が入る。私たちも行こう」


 ダルナは、通路先の部屋に向かう二人の人物を指差し、彼らが話しながら取っ手に手を伸ばしたので、シャンガマックたちも後ろから続く。



 そこは薬剤の調合室のようで、向かいの壁の窓以外は、棚が三方に据え付けられ、横長の広い空間(※2733話参照)。

 部屋の中央には長方形の作業台があり、諸々の道具がまとめて置かれている。窓際の壁に寄せた、複雑な彫刻付きの天板と足を持つ机は書き物用らしく、書類や紙束、インクやペンなど筆記用具が見えた。壁の棚は、調合済みの薬なのか瓶や壺、箱だけの棚と、一部を書架にした包み紙を含む紙類や乾物の棚、それと、動物素材らしき不定形の袋が所狭しと詰め込まれた棚に分けられる。


 30代に見える男が両手に抱えた籠を台に置き、もう一人が籠の中身を出しながら予定を話し出す。こちらは男か女か判別つかないが、年齢は40代くらい。眉上で揃えた前髪に襟足を添った短髪で、顔つきはヨライデ人。髪は赤茶に染められ、目元に黒く太い線を引き、顎の下から手の甲まで絵を入れており、服装は質の良さそうな薄い生地仕立てで、振る舞いから王城勤めのように感じた。


 予定に相槌を打っては、質問が挟まると素気無くかわす30代の男は、見た目こそ男と分かる顔立ちでも、喋り方がどことなく子供のようで、相手と仲が良いからではなく自前の喋り方がそれらしい。敬語も気遣いも口にするが、言葉の端々は子供・・・こんなところで()()()()()()も感じるものだと、シャンガマックは耳を(そばだ)てていた。


 40代の人物が確認し終えて部屋を出て行き、30代思しき男は、籠から出した香油玉や丸められた乾燥植物を記録帳に記し、これと他の材料を作業台に置いたので、何か作るのかと見ていたら。


 扉が叩かれて開き、先ほどシャンガマックたちが見たあの箱が届けられた。

 眉根を寄せた騎士は、これを今から使う気なのかと、受け取った30代の男がしゃがんで点検する様子に嫌悪が湧く。そしてこれに加えて、更に嫌悪を突き抜ける言葉。



()()()()は無理だったけど・・・ま、半生(はんなま)で処理すれば、使い道は広がるよね。でも割っちゃったんだな。割らないで欲しかったんだけど。これじゃ、動き回ってもせいぜい庭が限度、かな。

 今回からは『魔物と混ぜなくてもいい』らしいし、好きに使える分には文句言えないか。ティヤー人の生ものはやっぱり丸ごと処理したくないとか、加工業者もあるだろうし」



 ―――ティヤー人の、生もの。生・・・もの?



 理解したシャンガマックの顔に憤怒が表れ、ダルナは彼をすぐに腕に抱える。さっと見上げた怒りの形相に、首を横に振ったフェルルフィヨバルは、この場で瞬間移動した。


 ふと空気が揺れた感じに、男は周囲を見回す。何かいた?


「いや、でも。死霊の長なら、来る前に連絡してくれるし。私の部屋も死霊囲い(結界)は動いているから、変なのが来たら分かるし・・・ 今の何だったんだろう」


 気づいたことを、疑わない。自分の死霊術に自信はある。変なのが入って来たのかと首を捻りつつ、注意しておくことにして、男はティヤー人の加工処理された遺体を作業台に乗せた。



 *****



「フェルルフィヨバル!」


「私は先に伝えたはずだ、葬る前の状態と。落ち着きなさい」


「あれが落ち着けるか!ティヤー人の・・・ティヤーの人々をっ」


「シャンガマック。ヨーマイテスを呼ぶか?」


 どう言う意味だ! 怒鳴った騎士が戦慄く拳を握り、憤怒のままに背後の城を振り返って片腕を荒っぽく向けた。城の外、川縁の土手に移った二人は人の目に映らないが、例え映っていたとしても、一度火のついたシャンガマックは叫んでいただろう剣幕の勢い。


「ここにティヤー人の死体が集められている!彼らは魔物に取り込まれていると知っていたが、まさか材料でヨライデの道具に」


「落ち着きなさい」


 ダルナは威圧しないが、騎士の両肩に手を置いて背を屈め、怒り滾る漆黒の瞳を真っ直ぐ見つめる。怒りで身体が震えて肩で息するシャンガマックは、『全部破壊する』と唇を噛んだ。


「ヨーマイテスを呼ぶなら呼んでくれ。俺が取り乱したと言えば、すぐ来るだろう。子供扱いで構わない。俺は彼に、こんな恐ろしい顛末を迎えねばならない、気の毒なティヤーの亡骸を消したいと話すだけだ」


 早口で捲し立てた褐色の騎士に、ダルナは小さく頷いて『()()()()だと思うか』と聞き返す。シャンガマックの瞼は半分下がり、彼に合わない舌打ち。


 ダルナは話に聞いていたし、彼らが精霊の檻に閉ざされた現場で精霊と交渉したこともあるけれど、シャンガマックの見境なくなる正義感の強さは、正直、危ないと思った。普段は穏やかで理解力も高いが、真っ直ぐ過ぎる勧善懲悪の意識は、彼に間違いを引き起こしかねない。

 これは私がついていて正解だったと、賢いダルナは、睨み上げる騎士を見下ろし『ヨーマイテスに続ける』と彼を抱えて浮上した。



 そして、三分もしない内に―――


「何があった」


 ヨライデ第二王城の先。海に張り出した岬から北へ延びる、深い森の中間で、獅子が現れる。ダルナが喋るより早く、シャンガマックが彼に駆け寄り、大きな獅子に訴えた。


 この時、時刻は昼近く。獅子はエサイに聞いた『幻の大陸と念』の関係を、息子の話に重ね、嫌な予感が思ったよりも早く実現しそうに感じていた。



「どう思う。俺は」


 苦痛の願いを一通り聞き終わって意見を求められた獅子は、真ん前に顔を寄せた息子に答える。


()()()()か」


お読み頂き有難うございます。

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