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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悪意善意の手探り
2783/2959

2783. 皆のために出来ること ~人々への『灯台』代わりと頼み事・レムネアクの別れ

 

 タムズの予告。幻の大陸の振動。

 結果は異例だったが、ティヤーで初めての白い遺跡の対処。

 お祈り拝聴の終了、人型対抗の人型用意。

 そして、魔物を見かけなくなった・・・こと。


 嵐の前の静けさは、いつも似ている。本当にもうそろそろ決戦かと気にしながら、イーアンは始祖の龍の教えを辿り始めた。今日できることは、今日済まそうと思う。船には連絡を入れて、イングにも用事で単独行動を伝えて一人。


 この立場を利用して、と言うと聞こえが良くないけれど。

 でも、思い出せばアイエラダハッドの治癒場で知った、キトラ・サドゥの話もそうだった。誰に知られることなく、始祖の龍はキトラに、いつか人々を助ける際にこうしておくれとを望みを託した(※2307話参照)。


 二個目の小石発見もそう。

 最初こそ、アイエラダハッドの森の奥で・・・始祖の龍とグンギュルズの一幕を守る遺跡(※2045話参照)を見つけただけと思ったが。タンクラッドはあの遺跡の絵から、テイワグナで小石を見つけた。


 始祖の龍は、私たちを少しずつ導いて下さる。いろんな形で、いろんなタイミングで。



「今回もそうです。私単独の思考と決定だと、毎回何かしら危なっかしいけれど。始祖の龍が教えてくれた方法に沿って動くなら安心できます。この世界に来て一年以上経ってもまだ、私は知らないことが多過ぎる。始祖の龍は何百年とここで暮らした・・・あまりにも大きな荷を背負いながら」


 その経験に導かれて動けることを感謝して止まない。ありがとう、始祖の龍。礼を呟いて、イーアンは協力してくれそうな精霊を探し、お話しの上で合意、お願いして・・・あちこちを回る。



 人々の移動する条件。始祖の龍のメッセージも、ビルガメスから聞いたことと同じだった。


 ―――魔物とそれ以外が増え、サブパメントゥの襲来の時期と重なり、人々が不信に陥るなら、この世界から連れ出される。()()()()()()()()()()で、弱さに顔を向ける種族は足場を失う。

 全てが消える前に、移動は実行されるだろう―――



 もし、人間が強さに顔を向けていたら違ったのか。求められるのは心や精神的な強さで、他の種族との繋がり、自分たちが世界にいる自覚を示している。


『弱い種族はまとまればどうにか対抗できる(※2775話参照)』とビルガメスは言ったけれど、元から限界がある人間に対し、他の種族に太刀打ちできる肉体・頭脳的な強さを求めてやしないだろう。その弱さを認めて大きな存在と繋がる意識、それを求められていたと思う。自分と相手を正確に認めるのは、時として精神の強さが必要。人間は、意固地だから・・・・・ でももう、そんなことを言っている場合ではない。



 まず、連れて行かれる人たちが、幻の大陸に到着するまで安全に進める手伝い。精霊は既に手を打っているようだが、迷うことがないよう、イーアンは『女龍』で通せる手出しを整える。精霊の兆しが現れた後、惑う人を導く碑を作った。

 青い布アウマンネルは何も言わないので、許諾と解釈し、その時が来たら宙に現れる石碑を点々とセットして回る。石碑とはいえ、物質ではなくて映像的。精霊の大きな動きに反応する龍の明かり・・・といった程度だが、精霊の力のかかる方へ輝くので、そちらを見れば灯台のように使えるだろう。


 これまでは、『精霊の話は先に大精霊に相談する、龍族として動くなら男龍にも話しておく』この点を押さえていたが、今は―― しない。過ちを選んだと言われるのかどうか。だけど私は、そんな気がしないのだ。


 始祖の龍を想う。この世界で龍を生んで育て、イヌァエル・テレンを創ったお方の指導を、私は受けた。あなたが間違えているわけはない。もしも私の行動が咎められるとしたら、それは私の責任である。教えてくれた尊い志のあなたに、泥を塗ることがないよう慎重に、女龍として行動を取るのみ。



 残る人たちに出来ることも行う。私たち別種の祝福を受けた彼らは、()()と判断されて残るので、治癒場に匿う。

 これも全員か漏れてしまう人がいるかはっきりしないが、アイエラダハッドでは指輪の精霊に引き離され消えた人々が、リチアリとイジャックに導かれて治癒場へ行った(※2349話参照)。


 ティヤーもそうだと良いのだけど。今回は世界中の人間対象だからとても範囲が広い。


『在留決定の民には世界中の治癒場を使う』と始祖の龍は話した。治癒場が造られた時代は彼女のいた創世よりずっと後でも、キトラ・サドゥのそれと同じで彼女は治癒場を知っていて、これを確保することが一番安全と言っていた。


 だからイーアンは、灯台代わりの石碑をセットし終えたら、次は各地の治癒場を訪れて、近くを守る混合種の精霊にお願いするつもり。始祖の龍はそうしたのだ。



 残った民・・・次の魔物がヨライデに現れる頃に、匿われた人々は出されるのだろうか。

 僅かな人々だけが残った世界で、ドルドレンは。人間の代表として勇者の責任を負う彼は、何のために戦うか疑問に思うかもしれない。


 イーアンの胸の内を、様々な気持ちや憶測が飛び交う。まだ起きていないが、間違いなく接近している未来に、不安の想像はとりとめがなかった。


 そうして灯台にする石碑をセットしながら動き回って・・・人間淘汰のことを考えていたからか。クフムに地図を返していないと思い出した序、ふともう一人も。


「あ。あいつ、もう。どうしようかな」



 *****



 この夕方、船に戻る前にイーアンはイングを呼んで、『もう単独は終わりか』と即行聞かれたのを否定。


「明日もです。明後日もかも」


「手伝うことでも?」


 何でも言え、と頷く青紫のドラゴンに、僧兵を放すべきか少し相談。イングはつり上がった目をちょっと上に向け『用は他にないか』と尋ねた。


「聞き出せば、ヨライデの情報もありそうですが。少し前と違って、私が気がかりだったデオプソロと弟も、今となっては」 


「・・・人型が出た夜。あの時と現時点の状況認識はかなり違うな」


 言わんとすることを察したダルナに、イーアンは空を見て『はい』と答える。

 何とかして少しでも淘汰の回避をと我武者羅だった。淘汰があっても、次のヨライデであの教祖と弟の影響がどんな危険の先回りをしたか、情報があればと思った。だけど、ビルガメスに聞いたら、もう。


「最後にレムネアクと話すか?逃がす形になるが」


「そうですね。スヴァウティヤッシュは彼を悪い奴じゃないと言いましたが、私もそれは」


「人間の感覚で善悪など量れるものじゃない。イーアンも理由を探すな」


 僧兵で人殺し。抵抗がなかったから引き受けたと答えるレムネアクに、善悪を質す気が起きなかったイーアン。


 ラサンとどう違うんだと、誰かがもし怒ったら。私はどう答えるのかと少し考えてしまった。

 私だってたくさんの人を殺したが、自分の行いは『そうせざるを得ない』基づきがあると捉え、自分は悪人ではない意思を持つ。


 殺すことを深く考えないからラサンは違う、と判断した。簡単に言えばそうだが、これでは理由が足りないのも分かっている。そもそも殺しに気軽な時点で間違えているのだ。

 ではレムネアクは。彼は、()()()()()()()と知って、それで・・・上手く言えない気持ちのために選ぶ言葉は歯切れ悪く、見越したイングは先に止めた。



「私を知ってくれてありがとう」


「お前の全部じゃない。で?どこでこいつを出すんだ」


 控えめに礼を言った女龍を流し、ダルナはひょいと出した赤い布付きの籠を見せる。手品のように鉤爪の先にぶら下がった小さな籠。夕日を背景に温い風に赤い布がなびく様子を少し眺めて、イーアンは『その辺で』と適当に下を指差した。


「話し終わったら、ヨライデに帰します」



 *****



 話しはすぐ終わると思っていたのに、喋っている間に日が暮れて、宵空に星が白く浮かぶ時間になった。


 大した話はしていない。アネィヨーハンから先の、島とも呼べない小さな岩場で彼を出し、黄金の海を見ながら簡単に事情を伝え、イーアンはちょっとだけ・・・礼も言った。


 解放されると知ったレムネアクは話を長引かせ、イーアンも何となく聞いてやって、何となく相槌を打ち、短い返事を挟んで、レムネアクがまた喋るのを繰り返し、気づけば夜。


「お前さんをヨライデに戻す」


 レムネアクの話は、自分がティヤーに来てからのことや、神殿で見たことなどが中心で、彼なりに情報を提供しているのも分かったが、それも使い道がない。

 どことなく、役に立つアピールをしているのも伝わったけれど、彼もまた連れて行かれる一人であり、これを教えることもない。イーアンが話を切り上げると、僧兵は力なく、うん、と頷いて、海を見ていた顔を戻した。


「生かしておいて下さって、有難うございました」


「別に」


「会えて光栄でした。ダルナにも」


「そう」


「もし。その。ヨライデに来ることがあったら、私が力になれることもあると思うので」


「いや、いいや」


「そんなこと言わず、良かったら。また」


「レムネアク。お前、変だって。僧兵でしょ。人殺し平気で」


「感情はありますよ、一応」


 なんか変に同情を誘う・・・夜に照らすのはイーアンの白い角の光。レムネアクは少し泣いていて、何でこの場面で泣くかねと、イーアンは面食らう。そんなに仲良くなってないでしょうがと、思う程度の話しかしていない相手に泣かれても。嘘泣きではないのも分かるだけに、この人何なの、と悩む。


「もしかして。煙のサブパメントゥを心配してるの?」


「違いますよ。そんなのどうでも良いです。殺される時は殺されるでしょう」


「お別れだよ、レムネアク。僧兵で信用してやることなんか、まずないんだからね」


「そう思います・・・すみません」


 はー、と大きく息を吐いた女龍は、腕組みしていた片手を伸ばし、レムネアクの腕をポンと叩く。目が合って『抵抗ないからってもう殺すな』と注意すると、レムネアクは頷いた。


「誰かに殺されそうになったら()()()()が」


「だから。そう簡単に、やるとかやらないとかの感覚は止せって言ってんの。お前さん、そんな悪い人間じゃないんだから」


 言い過ぎかなと思いつつ、イーアンは感じていたことを最後と思って口にする。レムネアクが目を見開き、彼はもう一度『すみません』と謝った。


「あのさ。世界って、人殺しても許される存在があるのは確かなんだよ。でもそれはお前さんじゃない。ついでに言うと、宗教関係のやつらでもないし、考えなしの利己的なやつらでもない。言い訳を抱えた都合でどうにかしようとする連中でもない。

 許されるって言い方も語弊だけど、それをしなければいけない存在は、殺すことを認められている。だからって、罪を感じないなんて、そんなこともないわけ。嫌でもやらなければいけない」


「イーアン。大きな力を持つから」


 私とは言ってないでしょーと嫌そうに顔を背けた女龍に、諭された僧兵は『分かりました』とそれ以上は言わなかった。


「また、会いたいです。本音です。それと、他の僧兵が仲間を集めて神話の世界へ行こうとしています。そいつらは自分たち強い人間以外は殺すでしょうから」


「神話の世界は。強くても弱くても押し込まれるかもね」


「え?」


 まだそういう僧兵もいるかと頭を掻いたイーアンは『ヨライデに帰す』と呟いて翼を広げる。この時、キーニティに預けた絵を思い出したが、まずはレムネアクをヨライデに戻すため・・・すぐ忘れた。


 それにもう一つ、イーアンは忘れていた。

 助けたくて助けたのではないが、レムネアクを信用した気持ちが少し生まれた時点で、彼の足の怪我を龍気で治していたことを(※2771話参照)。

 そのつもりはなくても、レムネアクが直接祝福を受けた状態とは、女龍も僧兵も全く、思わず。



 こうしてレムネアクは、母国ヨライデの海岸へ送り戻された―――

お読み頂き有難うございます。

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