2779. 三十日間 ~㊿十九日~二十九日、進む準備
大混乱を引き起こすから、空を出てはいけないドルドレンと。
事情で離れる間の、無事を守る手を打つよう、早く伝えたいポルトカリフティグと。
大陸が振動回数を増やすことで、この世界に引き込まれた誰かの思念と。
同じく大陸の振動で少しずつ反応する、龍の白い遺跡と。
サブパメントゥの枷を外され、回復したラファルと。
怨霊憑き(※ドゥージ)も取られ、ラファルも奪われ、今や『燻り』のために数も激減し、来たる日の頭数集めで奔走するサブパメントゥと。
人間からサブパメントゥへ変えられた、僧兵ニアバートゥテと。
四つ足動力製造を工場跡地で指導する、僧兵ロナチェワと。
銀色の双頭(※これはトゥの事)を正気に戻そうと、付け回す『呼び声』と。
僧兵も、雷に耐える道具も見失い、仲間に裏切りの疑いをかけられている『燻り』と。
この『燻り』を操りながら、着実に追い込むスヴァウティヤッシュと、全面対決に気を付けつつ、静かに端から片付けるコルステインと。
あの精霊に呼び出されて、交代の座を引き受けた死霊の長と―――
*****
告知で、少しでも救う手助けをしたかったルオロフ。
気づいた人々と精霊の繋がりが増え、孤立する種族不要の裁きを免れたら。そう願っていたが、長く続かず終了を言い渡された。
イーアンは同胞の龍族(※ビルガメス)に止められて、祈りを聞く十二の司りの一人ではあれ、直接の関りを中止することに決まった。
ルオロフはこれを聞いた翌日、ヂクチホスに会いに行き、顔を見せるやヂクチホスにも『鳥は戻して良い』とされ、その理由に『悪化へ傾いた』と言われる。
悪化とは、まさに人型動力が原因で、『この国でサブパメントゥが薄く認識されている事実も、精霊や龍、妖精への誤解や曲解に繋がる』と、ヂクチホスは説明した。
避けられ続け、人間に知られざる部分が多い分だけ、サブパメントゥの仕業と気づける人はいない。
人型は神殿の産物で、操っているのはサブパメントゥだが、これを理解するより前に殺されては。
『排除を避けるために改心を祈れ』と告知を捉える人間は、現れた新たな脅威・人型の凶行に、真実―― 操りを使う闇の国の種族 ――など考えるわけがなく、人型を倒す龍に対し『残酷』を感じる人間の状況は悪化すると、ヂクチホスはルオロフに話した。
十二の司りには、ヂクチホスから伝えてくれることになり、ルオロフは日々忙しく頑張ってくれた鳥を止める。
この日から、ティヤーの空を飛ぶ鳥はめっきり減った。
タンクラッドは暫くの間、姿を消して魔物対抗道具を配るつもりでいたが、配り先から断られたのを境に終わる。
人型の襲来を受けた町で、魔物対抗道具を渡した時、『龍を信仰していたが、理解に苦しむ』と・・・ イーアンが機構に所属していることが理由だった。
断られた内容は、他の島でも同じように言われ、いくつか回った後に『狼煙で受け取り拒否が広められた』と知る。
皮肉なことに、『ウィハニの女』が龍ではなかったとすっかり知れ渡ったがために、イーアンへの不信は強められていた。
ティヤーを守っていた存在は龍ではなく、アティットピンリー。
人型に人間が捕らわれても容赦なく消してしまうイーアンは、龍。その龍は、排除されたくないなら許しを伝えるようにと告知を通した、祈り相手。
侮辱まではいかないものの、龍を疑い、拒む。イーアンが顔を見せたこともある島で『拒否』を聞いたタンクラッドに、これ以上配る気も起きない。
胸に曇るものを抱えたタンクラッドが、その日の内に気にしていたサンキー宅へ行くと、彼は理解してくれていたので救われる。
島に人型動力は出ていなかったが、警備隊の噂で状況を知っても、鍛冶屋はタンクラッドの味方だった。
でも、彼にも影響は出ている。彼の家はイーアンの鱗で守られ、タンクラッドとも付き合うからか、島民はサンキーと少し距離を置いているらしい。
サンキーの孤立を懸念するタンクラッドに、サンキーは『問題ないです』と微笑み、『私はサブパメントゥに襲われかけたと、教えてもらえましたけれど』と、ティヤーの民が生じている危険な状態を知らない事を説明した。
味方でいてくれる鍛冶屋と話し、タンクラッドのささくれ立つ心は少し収まったが、道具配りはやめることにした。
これについてトゥは軽く『何よりだ』と言い、主の睨む目つきに『おかしなことになりかけていた』と、伏せていた事実を教える。
――民間に配る対抗道具は、宗教信者には渡されない。それを差別だと海賊側の人間が感じ始めていたこと。
固まるタンクラッドに、銀色のダルナは『不信以降、聞こえてくるようになった』と話し、人間はそんなものだと主の心をやんわり慰めた。
疑い出すと、手の平を返す。どんな善人に見えても、人間は変わらないことを改めて諭されたタンクラッドは、何も言う気がなくなった。
これに加えて辛いのは、道具の拒否だけではなく、魔物製品の武器防具も彼らは自ら、使わない方を選んだこと。ここまでくると、呆れると言ってはいけないが、正直な心境はそうだった。
タンクラッドから事情を伝えられたイーアンは無表情で受け入れて、コルステインからロゼールに『魔物製品輸入の一旦停止』を連絡してもらう。先に配ってある製品が・・・もし、いざ使いたい時に壊れないことを祈って。イーアンも、もう何も期待しない。自分たちが民の敵になったのを、自覚するだけ。
後日、トゥは用事の消えたタンクラッドに『呪いの歌を聴きに行くか』と誘う。タンクラッドはなぜか決戦前の兆しに思えたが、トゥがサブパメントゥに挑むのも分かっていたことだし、了解して付き合った。
少しの間は、人型が出ない。そうスヴァウティヤッシュに聞いたとおり、人型動力の攻撃は次まで間が開く―――
テイワグナ・カロッカンでは、面師バサンダが六つめの面に取り掛かり・・・・・
シャンガマックは世界各地に散らばる『檻』の種類を押さえながら、黒い精霊の息吹が掛かった呪いの地を調べ、異世界と関係する粘土板の真実に近づき、さらには、白い筒を引き起こす龍の遺跡の位置を記録する。
イーアンは、ヨライデ人僧兵レムネアクに相談しながら、イングの提案『仕掛け人型』の改良を進めた。
小石を使う『お祈り自動龍気流し』は、工夫により解決した。深いことを考えず、流しっぱなしにするだけ。これも、人々への配慮を我慢することから・・・そうなった。
人型動力は、ルオロフの話しも参考にする。後から知ったが、ルオロフが見て聞いた一場面『人型を切り付けた人は、痺れたり痛みを感じて武器を離した』話。あの雨の夜、感電しやすかったからかと頷いた。
ルオロフは耐電の剣で問題なかった。タンクラッドの時の剣も、普通ではないから無事だった。剣で攻撃する二人は、使う剣が特別であるために感電しなかったが、一般人はそうも行かない。
魔物製の剣はどうだったか気になるものの、今は確認することも出来ないので、とりあえず『感電』を意識する。
漏電、感電の話は、呼び方は伏せたが一度は触れた内容。頭の良いレムネアク相手、やんわり濁して説明し、彼が思う敵人型を即止める方法も取り入れる。
相打ちをさせる予定だし、相手を止めてからこちらも倒されると丁度良い。乾電池にしたら数百個ありそうな動力。モーターのような働きをする小さい部品が側に付き、『煙のサブパメントゥ』が入れる棒切れもその近く。これらを一度で壊すよう仕向ける。
こうして、十日は過ぎて行く。
意外なことに―― アマウィコロィア・チョリア一帯ではどうか解らないが、この島だけは、狼煙連絡が入ろうが、悪夢の夜の噂が広まろうが、黒い船に対して態度を変えず、冷たくなることはなかった。
人型襲来翌日に、『いつ船を出そうか』と皆で話もしたけれど、実行する前に警備隊が挨拶に来て、『居て下さって大丈夫です』と止められた。
対応に出て驚いたミレイオだが、イーアンと話したオンタスナという隊員が(※2691話参照)、広がる不安や噂の曲解を防いでくれていたと知る。
オンタスナはイーアンと港で会い、『私は龍を信じていると伝えたので、永遠に誓える』と言ってくれた。
イーアンは泣いてお礼を言い、状況を彼に打ち明け、サブパメントゥが実は以前も島を狙った(※トゥの一件、2704話参照)ことも教えた。何度も守られていたと分かった警備隊員たちは、いくつかの疑問を女龍に尋ね、説明を受けて合点がいく。
仮に、アマウィコロィア・チョリアで人型動力なるものが、島民を襲ったとしても、自分たちが守れない代わりに守ってくれるなら、辛いのはお互い様・・・とまで言ってくれた。
イーアンは有難くて頭を下げて泣いたし、ミレイオもルオロフも理解に感謝し、黒い船はここに留まる。
魔物退治にも出たが、剣を持つルオロフは、アマウィコロィア・チョリア島のみ、担当。トゥに付き合い出かけるタンクラッドは、魔物相手には姿を消して倒すに徹した。
オーリンも、小龍骨の面使用状態でしか倒さない。もうじき大きな揺さぶりが来る気がして、ガルホブラフに休養を与えるためにも、姿を変えて一人黙々と魔物退治を続ける。
イーアンも同じ。龍の姿を現さないように・・・人型の改良作業合間、魔物退治に出かける。人に見られないよう、倒して帰る繰り返し。
怪我人は助けたかったが、我慢してその場を離れた。私が助けると言えば、拒否する。もし龍の力で回復しても、嫌がるだろう。彼らの反応は、以前と違うのを分かっていた。
どこまでが思い込みで、どこまでが責任なのか。イーアンは、分からなかった。
そんなイーアンと過ごす時間が増えたイング、そして僧兵は、イーアンの苦悩を和らげるため、少しの事でも協力を惜しまず、彼女を支える。
相変わらず、僧兵レムネアクは隠している状態でも、イーアンは彼を信頼し始めていた。そして信頼がてらのぼんやり思ったことから、ふと気づく。
人々が連れて行かれる時、レムネアクも無論そうなる。それはまぁ、と思うが。
となると、僧兵で生き残った危険思考の輩も、一緒に行く・・・ 僧兵だけではなく、世界中の人間を引き連れて別の世界へ移動する話。悪人も抱えて・・・・・
そうなの?と今更気づく。それとも、危険思想は一緒に行くことを許されずに、移動の段階で消去されるのか。
どうなるのだろうと思いながら、イーアンのこの日は半端に終わる。
仕掛け人型動力は完成し、イングが試しに戦わせてみると言い、二体に増やして無人島で試行決定。レムネアクは籠に入る前、イーアンとイングに『俺はもう用済みですね』と少し冗談めかしたが、答えを求めたわけではなく、籠に入った。
イングが何か言おうとしたすぐ、イーアンは海の雰囲気が変わったことを感じ、イングに後を任せる。
水の精霊ティエメンカダに呼ばれた夕方。
水平線をなぞる夕陽に染まった、銀朱色に波打つ海面へ飛び込み、迎えた大きな精霊の案内で、東の治癒場―― 空の城が在る ――あの島へ入った。
お読み頂き有難うございます。




