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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悪意善意の手探り
2771/2957

2771. 三十日間 ~㊷『燃えさしと爆ぜ火』増殖仕組み・異界の精霊の手出し範囲・解体準備

※十日ほど無断で休み、ご迷惑をおかけしました。申し訳ないです。

☆前回までの流れ

人型動力が動き出す情報と、『燻り』を操るスヴァウティヤッシュが、流れで僧兵レムネアクから取り上げた道具により、イーアンも確認でその僧兵と接触。彼の持つ情報量は多く、協力的。レムネアクは別の僧兵に襲われた直後で『燻り』も関わるため、イーアンは一時的に彼を隠しました。

この夜、人型動力がティヤー各島で放され、イーアンたちは応戦。人を取り込む人型のために、犠牲者ごと倒す行為を強いられ・・・

今回は、仕掛けたサブパメントゥ『燻り』の話から始まります。

 

『なかなか使える』


 増えるのが思ったより早い、と手足の多いサブパメントゥが伝えると、黄色い煙りのサブパメントゥも遠くを眺めて『まぁね』と当然のように答えた。



『増えても、()()()()()んだろ?』


『元の人形とは、別物だ。幻でもないが、合いの子みたいなもんか」


『お前の技、棒切れ一本でああなる』


『棒切れで済むのに、やらない手はない』



 ―――人間を操るのは今も昔も変わらないし、操りはサブパメントゥの種族に備わる能力だが、制限がある。距離と、有効時間である。


『呼び声』のように、各地に仕込んだ罠に引っかけて人間を操る、時間も無制限に近い技もあるが、これは誰もが使えるわけでもないし、罠にかかった人間の体力にも左右される。

 仕掛け罠自体の寿命は、放っておけば何百年先でも機能するとはいえ、罠が発動してからの時間は短い。


 放置型ではない、普通の操りでは、相手から離れられない()()もある。操作中に離れると、技が途切れる。操るのは力も使う。力が足りなくなれば、威力も弱まる。これを解決とまではいかずとも、人型動力の燃えさし付きは、悩みの部分を補う。



『あのまま、か?』


 影で見ていた仲間が背を向け、『燻り』も現場から目を逸らして頷く。


『倒されるのが早いか』


 仲間が呟き、それを可笑しそうに首を傾げた煙が『増えるのが早いか』と続ける。


『俺の()()()()は、取り込んだ人間に反応して()()()に変わる(※2737話参照)。爆ぜ火になりゃ、人間の子種と一緒だ。最初のやつが子種持ち。

 新しく取り込んだやつと交換で、先に入ったのが出されたら、これが()()()()()だ。燃えさしの変化『爆ぜ火』を命で持続、思考誘導の燃えさし効果は変わらないし、こいつもまた新たな人間を取り込めるんだ。命が燃えきるまでね』


『お前の説明が、いつもよく分からない』


 長い割には話が下手だと言われた『燻り』は、普段なら気を悪くするが、今夜は笑った。()()は出てる・・・ハハハと笑って煙は消え、仲間も消える。


 成果がある内は笑えても、期待が大きければその分、しくじったら反動も大きいなど考えない―――



*****



 遠く。これを聞いていたスヴァウティヤッシュが、腕組みしたまま『俺もよく分からない』と首を傾けた。


「早い話が、操る効果の『燃えさし』が欠けて増えるのか?使い切るまで。人型動力に、燃えさし丸々一本仕込んだら、それが少しずつ欠けて、変質すると『爆ぜ火』、子種と。順番で取り込んだ人間に埋め込まれて・・・ 菌が移るみたいなもんだな。

 うーん、あいつの話し方が適当で、理解に難しい。『爆ぜ火』はただの子種じゃなくて、『変質燃えさし』でもある。動きを操るのは燃えさし、洗脳が爆ぜ火。移された人間は自前の命を燃やして、これを動かし続けると。爆ぜ火持ちで出された人間も、外見は作り物っぽいが、あれは見せかけだな」


 口にしながらでもないと、どんどん混乱してくる分かり難さだが、スヴァウティヤッシュなりに結論が出た。



 ―――仕込まれた最初の『燃えさし』は、人間に反応して分かれ『爆ぜ火』へ。


 分けていれば当然無くなる時が来て、終了。人型動力は、燃えさしを配り歩く状態・・・・・


 取り込まれた人間に『爆ぜ火』が埋め込まれ、次の犠牲と入れ替わりで表へ出される。『爆ぜ火』は人の命を燃料に、次の人間を探して『爆ぜ火』植え付けを繰り返す。命が、終わるまで―――



「回りくどいな。人間がいなければ反応せず一代限り、というのもサブパメントゥらしいが」


 コルステインは、『次の人間を人型動力(あれ)が捕まえたら、先に入った人間は押し出されて、もう一つの作り物が生まれる(※2744話参照)』と教えてくれた。その説明が一番簡潔だったとダルナは思う。


 押し出された人間は、人型動力に似ているが、スヴァウティヤッシュの目にはもう一つの姿が映る。それは、ただの人間。『爆ぜ火』を仕込まれた人間は、まやかしを纏うのだろう。

 人型動力に似たまやかしは、意識も心も維持しているのに、しかし思考は『人間を捕まえたくなる圧力』に負ける。


 嫌な場面を見た。犠牲者が、家族だか何かに話しかけられた。話すと、返事が返る。

 人間の見た目を失った犠牲者だが、会話が出来ると一縷の望みを託して、家族は『元に戻って』と近づくのだ。それが、次の犠牲になった。



 犠牲者は、次の人間を両手で捕まえると、口を開け『爆ぜ火』、つまり『命燃料の燃えさし』を移す。


 傍から見ていると、さながら人型動力2号が誰かを食っている動きで、覆い被さったり頭に食らいついたり。犠牲者も同じように『爆ぜ火持ち』になると、命を燃して動き回る。



「ふーむ・・・そろそろ、こっちも倒しに出るか」


 コルステインはもう動き出している。スヴァウティヤッシュは『燻り』から目を離さずにいようと、側に付いていたが、洒落にならない速さで増えているのを目の当たりにし、止めることにする。


「イーアンたちが・・・間に合ってない。異界の精霊(俺たち)も動いているが、魔物と違って」


 どこまでやっていいか難しいよなと、異界の精霊の視点で手出し範囲を思う。


「取り込まれたら、もう人間じゃないが、俺たちには人間としても見える。人間と知っていて倒すのも、精霊にどう突かれるか分からない」


 そもそも、()()退()()手伝いだしね、と黒いダルナは首を振った。


「俺は、コルステインに直に頼まれて、イーアンについて行くのを精霊にも断言したから、まだ。この二人に直接頼まれている仕事で、サブパメントゥや絡まれた人間の始末をしても、取り立てて問題扱いにならないだろうけれど。

 他の仲間も、イーアンに頼まれて動いている分には良いと思うけどな。『魔物が取り込んだ人間』ごと倒すのと、『サブパメントゥが取り込んだ人間』ごと倒すのは、条件がずれている。こっちの思い違いで手出ししている、と精霊に解釈される心配はある」


 あんまり細かいこと分からないしと呟くダルナだが、とりあえず・・・仕事に取り掛かった。



 *****



 ドカッと殴り飛ばした人型動力を、イーアンは側まで行って見下ろす。


 吹っ飛んだ4mほどの人型はすぐ起き上がれず、腕を振って体を横に向けようとするが、イーアンはその腕を尻尾で叩き折った。


「腕。で、足か。要らねえよな」


 白い尾でバキバキ叩き折る。手足がもげて転がった後も、動力が胴体を起こそうとする動きは、女龍をムカつかせた。


「どうすりゃ止まるんだよお前」


 気絶も何も関係ない、ただの作り物。なまじ、人間じみた動きを続けるのが癪に触って仕方ないが、これをバラす目的があるので、イーアンは極力壊したくはない。

 なぜサブパメントゥが、レムネアクに電気遮断具を作らせたのか、分解で理由が見える気がした。


「私が消せば良いだけなんだけどさ。いつでも私が対応するわけじゃないからな。ちくしょう、こいつっ・・・」


 人が痛がるような、その動き―― イラっとした反動、びゅっと振るわれた長い尾が、木製の頭を砕く。


 バケツが割れた具合で、その中身は空っぽ。目と口の穴が開いているこれは、喉元に棒切れが熾火の熱をちらつかせて入っている。そして、その奥に続く空洞から音が聴こえた。



「これか。これが心臓部」


 心臓よりも下の方に吊るされているらしき、動力を確認。

 もっと早く頭壊せば良かったと、無駄な苛立ちに舌打ちし、イーアンは雨打つ村の端でしゃがみこみ、空洞を首から覗く。手前の棒切れが邪魔でよく見えない。


「んー・・・この、()()()。絶対、サブパメントゥのだ。最初に私が倒したやつにも入っていた」


 壊す前に、これが何かも調べたい。仕込まれた厄介、それ以外に何かあるのか。


 サッと上を見上げ、イングを確認。まだ来ない。私が、分解したいから捕まえたいと言ったら、他を引き受けてくれ、彼は村の中の修道院を見に行った。



「・・・これ。持ち帰るの、どうだろう」


 落ちてくる雨を顔に受け、イーアンは呟く。ここで分解して終わりではなく、僧兵に見せてはどうかと思いついた。棒切れの鈍い熱持つ明かり、その奥で薄っすら輪郭を出す動力。

 ふと、覗き込んでいた体を起こして、イーアンは空を見る。雨の暗い夜に、あの香りが。


 スッと現れた青紫のドラゴンが『どうだ』と壊れた人型に顔を向けた。イーアンは事情を手短に伝え、僧兵に見せてはどうか?と意見を聞くと、ダルナは『お前が望むなら』とさっくり通す。


「確認させて、新たな手を打つ術をレムネアクにも聞くといい」


「イングは、あの男を信用できると思いますか?」


「おかしな質問を。お前も信用しているだろう」


 あら、とイーアンが口をへの字に曲げ、イングはちょっと笑って『濡れている』と女龍を引き寄せると腕に乗せた。それから『ガラクタ付きだ』と手足の取れた人型を浮かび上がらせ、瞬間移動した。



 *****



「イーアン、他でも出ている。時間は短く、だ。今すぐ必要な情報が得られなければ」


「はい。そのつもり」


 イーアンも、パッと見せて、ササッと聞いて、すぐに戻るつもり。この人型は処分して、また後で人型を倒して持ってくる。


 壊れた漁師小屋、ではなく。籠はイングが持っているので、近い無人島で確認する。雨が避けられる場所がないため、イーアンは保護がてら龍気の結界を張った。白い半球の結界は、サブパメントゥを寄せ付けないので・・・ うっかり。


「あ、しまった」


 結界の中に置いた途端、胴体にあった棒切れの熱が消えた。細い糸のような煙をするっと上らせて、煙も消える。イングを振り向くと、男の姿のイングが『仕方ない』と促し、イーアンも仕方ないと認める。


 気を遣って持ってきたのに、とは思うけれど。とりあえず、僧兵。


 籠を出してもらい、赤い布を取る。赤い布をずらされたすぐ、小人サイズの僧兵が籠の中で頭を上げ、『イーアン』と名を呼んだ。籠の扉を開けたら、彼はちょっと欠伸をかみ殺し『すみません』と謝りながら出てくる。なんかこう・・・緊張感が抜けるやつだと、イーアンは困る。



「ここは?この白い・・・綺麗ですね。特別な空間で」


「無駄話はいい」


「すみません」


「私の龍気の中だ。サブパメントゥが来ない」


 素っ気なく止めた割に説明してくれるイーアン。レムネアクは少し微笑み、へぇと感心して、白い砂を散りばめたような半球の天井を見渡し『美しいです』とまた言った。


「うん。そう(※調子狂う)。これ見て。お前さんの分かるところあったら話して」


 喋りにくい相手に難儀を感じつつ、イーアンは足元に転がった胴体を指差し、気づいていなかったレムネアクは『あっ』と今更驚く。が、切り替えは早い。


「人型動力ですね?手足がないし頭部もないけれど」


「そう。動力って、ここにある塊?」


「そうです・・・この燃えカスの棒、触りました?」


「知ってるの?」


 はた、とイーアンが動力から棒切れに質問を変えると、レムネアクは小刻みに首を横に振り、『あのサブパメントゥの煙と同じ臭いがする』と棒切れを引っ張り出そうと手を伸ばし、あちっ、と手を放す。と同時、屈めていた背を後ろに揺らしたので、膝に力が入って傷に響く。


「うっ。て・・・ 」


「て?」


「何でもないです」


 乾いた傷が開いたと分かった感触に、少し歪んだ顔を真顔に戻す。レムネアクをじっと見たイーアンは、まず『指、火傷した?』と尋ね、大丈夫ですと答えた男の膝に視線を落とす。


「足痛いのか」


「魔物に。ちょっと」


 朝、退治した時に切られただけです、と正直に言う僧兵だが、話を人型に戻し『多分、この棒が操る続きでは』と頭を掻く。

 イーアンは少し考えて、はー、と溜息。溜息を吐かれて、レムネアクが緊張する。


「事実は、知らないですよ?ただ、臭いが同じだからそうかもと」


「あー。じゃなくて。いいや、面倒くせぇ」


 急な投げやり口調の女龍に、レムネアクが戸惑う。何か機嫌を損ねたかとたじろぐ僧兵にまた溜息を吐いたイーアンは、龍気を分ける。

 僧兵の膝に、暖かな空の温度が漂う。龍気の白い帯は生き物のように伸び、膝の傷から滲出液で濡れたズボンの上を覆い、数秒で空気に解けて消えた。


「治っ・・・た?これ、もしかして治したんですか?」


 痛みも消えたレムネアクが驚嘆の声を上げ、イーアンは目を逸らす。

 イングは何も言わないが、主の気持ちは手に取るように伝わる。レムネアクは無表情の二人を交互に見て『有難うございます!』と笑顔で感謝した。



 イーアンは何となく、自分の行為が後ろめたい。こいつは僧兵なのに、と思うからだが。咳払いして『続き』とぶっきら棒に人型を指差した。レムネアクは彼女を少し見つめたが、『はい』と答えてナイフを取り出して地面にしゃがむ。


「どうする気?」


「割ります。解体して、見ながら知っていることを説明します」


 時間は?とイングを振り向くイーアンに、イングは瞬き一回で了承する。ここから本番―――

お読み頂き有難うございます。


長い休み期間でご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。

体調不良と意識が頻繁に途切れる状態で数日経過し、気づけば4月初旬までの仕事も手付かずで、まずは期日のあるものに取り掛かっていました。

相変わらず意識は途切れるのですが、昨年末~4月の仕事が終わるまで休みが少なく、疲れているからだったかもです。どうにか一区切りつきまして、体調が戻れば飛ぶ頻度も減ると思います。

無断で休みが続いたこと、いつも来て下さっているのに、本当に申し訳ありませんでした。


Ichen.

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