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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悪意善意の手探り
2770/2957

2770. 三十日間 ~㊶人型退治タンクラッド、オーリン、ルオロフ

※3/24追記:本当に申し訳ないのですが、25日(火)もお休みします。もしかすると次の日も休むかもしれません。数十分で意識が途切れて文字が追えなくなるため、落ち着いたら投稿します。どうぞ宜しくお願い致します。

※3/23追記:申し訳ありませんが、3月24日(月)の投稿をお休みします。急な体調悪化でご迷惑をおかけしますが、どうぞ宜しくお願い致します。

 

 タンクラッドは、トゥと共に移動。東方面を担当し、本島ワーシンクーからヨライデ間の北寄りを中心に動いた。



 知り合い―― 鍛冶屋サンキーのいる南東は気になったが、良くも悪くも彼だけは大丈夫だろう、と思うので無事を祈る。


 彼の家は、イーアンが鱗と結界で守った。もしかすると、鱗が一周して守る敷地にはあの小さな島の島民が避難しているかもしれない。それならそれで、サブパメントゥの操る動力から逃れられるだろう・・・ ピンレイミ・モアミュー島は小さ過ぎて、神殿関係の建物もないし、人型動力が来るとも思えないが、知り合いだけに心配はある。


「誰もが、そうだよな」


 最初に人型動力を斬ったタンクラッドは、()()()()()()と見て判断。誰かが作った要素しかない。だが、こいつが通った後には。


 既に歩き回っていた現場に着いたので、真っ先に見つけたこいつを切り倒したが、製造所の位置は、地図ではずっと離れていた。つまり犠牲者もそこそこ出た後である。これから犠牲者たちを切るのかと思うと、覚悟は決めても気が重いには変わりない。


「仮に。サンキーが取り込まれていても、俺は切るだろう。切り付ける一秒は、悲しさが詰まる」


 イーアンの面『龍気面』を顔に掛け、トゥには製造所を任せて、タンクラッドが人型を倒す。

 トゥには姿を終始消しておくように言いつけた。不満そうではあったが、言い合いをする時間もないし、トゥは不承不承の顔を傾け『終わったら呼べ』と残し、製造所へ向かった。


 片や、タンクラッドは、面で顔を隠しているとはいえ、その姿は見えており、ややもすればこの状態で『人殺し』と認識される。オーリンはガルホブラフを下りて、小龍骨の面を使うと言っていた。ルオロフは正々堂々、あの目立つ赤毛と『アイエラダハッド人』の風貌で挑む。


「不利かどうか」


 呟いた足元に広がる、白い龍気の聖なる光。それが自分の行為一つで、地に貶められる今。地図で確認した時、何も言わずとも察したイーアンは『龍気の面の使用について気にしないように』と。彼女は自身もそう見られる行いを取るのを・・・分かっているから。


 嫌な覚悟は何度もしてきたが、今回はまた違う後味悪さだろうと、タンクラッドは次の人型を見つけて側へ飛び、そこで面を外した。地上に立ち、騒ぐ人々と反対方向へ歩き、止める誰かの声を背に受けて、背負った鞘から金色の剣を抜く。


 この人型は犠牲者か、と一発で分かった。姿が二重に揺れ、出来の悪い幻を被っている風に、内側の人間がぼやけている。人型の至近距離には、知人なのか、必死に説得しようとしては、腕を伸ばされて後ずさり、それでも離れずに懸命に呼びかける男が一人。少し離れた所で見守っている少女と、老婆。犠牲者は女で、思うに母ではないかとタンクラッドは理解した。



『どけ』人型手前まで進んだタンクラッドが命じ、バッと振り返った男は、その手の剣を見て慌てる。ティヤー語で捲し立てられても通じないタンクラッドに、男は共通語に変える。


「妻です!やめてくれ、今、説得するから!」


「無駄なんだ。もう人間に戻ることはない」


「え?!でもダメだ!やめ」


 やめろと男がタンクラッドの腕を掴む動きと同時、人型の巨体がタンクラッドに覆い被さる。金色の剣は何も待たず、倒れてきた胴体を貫き、わーっと叫んだ男の嘆きを聞きながら、剣を引き抜き蹴り倒した。


 ゴトンと倒れた人型の中、人間の女が口から血を垂れている。白目をむいて動かず、突き刺した剣の傷からか、胸や首の服が血に染まっていた。人型の口から見えるのは頭と首の一部だが、死んだと分かる。


 人間が死んだから終わった・・・それとも、剣の切っ先が感じた妙な気配―― サブパメントゥの何かを壊したからなのかは、分からないけれど。



 タンクラッドは倒れた人型に縋る男を一瞥し、自分を見て喚く老婆と泣く少女を横目に、白い仮面を顔に掛け、金色の剣を片手に次へ飛んだ。


「こうなるんだ。どうやったって」


 せめて顔くらい見せてやった方が良いだろう。タンクラッドも遣り切れないが、憎む相手の顔を知った方がマシな場合もある。あの男に殺された、その憎しみが・・・簡単に死なせない力に変わることはよくある。



「この人が死んでは生きていけないから一緒に死ぬ、そっちの方向もあるがな。だとしても、俺はこの()湿()()()()に、せめて意味を持たせたい。淘汰の前、まだあるのかと思うほど、こんな形でも追い詰められて、正気を保てと言われる方が無理だ。俺を恨んで生き延びる気力になるなら、少しは」


 難儀な役目だと、剣職人は次の人型へ近づき、ここでも同じように剣を振るう。

 三体目は、住民を守っていた警備隊が犠牲者で、寂しいことにこの警備隊員をタンクラッドは知っていた。本島から離れた東の島だが、対抗道具を預ける相談に寄ったばかりの・・・警備隊施設にいた男。


 こっちに出張したらしい、この再会を悲しい以外の気持ちがあるわけもなく。

 剣を手に大股で近づいて行くタンクラッドに気づいた他の隊員は、金色の剣が一回で倒すのを止められず、仲間の死を前にした。


 切り倒された直後に、なぜ助けようともしないで殺したんだ、と共通語で叫んだ者と、振り返ったタンクラッドを見て『有難うございました』と目を瞑った者が印象的だった。


 タンクラッドは彼らも知っていて、彼らもタンクラッドを見ているので・・・想像通り『待ったもなく殺した男』として記憶に刷り込まれる―――



 会話をするのは避ける。一言『()()()人間には戻れない』とは教えておくが、これも怒鳴り声で遮られ、届いたか否か。タンクラッドは白い面を顔に掛けて、次へ向かった。



 *****



 ガルホブラフを頼らなかったのは、友達の龍を巻き込みたくなかったから。ダルナは付き添いで来てくれたが、ダルナにも、彼らが悪者にされないよう『製造所を探して壊してくれ』とお願いし、現場から遠ざけた。



 オーリンはティヤー中央から北部方面で、小龍骨の面を使い、その姿で人型を倒し続ける。

 この面を使うと、小さい龍の派生のような恰好。だが、ティヤーでは様々な『異界の精霊』が姿を見せた後だけに、彼らと被る可能性もすまなさはあった。



 誤解されては困るが、他にやりようもない。動きが制限されて犠牲を増やしたくないオーリンは、ずっとニダとチャンゼを思っていた。犠牲になってしまったチャンゼ。彼に殺されかけたニダ。


 終わったら、ニダに会いに行こうと思いながら・・・人型を見つけると攻撃し、人の悲鳴と罵声を受け、それを無視して『捕まったら決して人間に返ることはない。絶対に掴まるな』と忠告を繰り返す。


 正直なところ、罵声と判別がつくのはその剣幕や表情からであり、言葉は理解していないオーリンに、何を言われても分かりはしない。

 小龍骨の面で変身しているオーリンは、言葉を話すことはできるから、忠告だけは確実に置き土産にした。


 何人かは反応も違い、『決して戻れない』の言葉でギョッとした顔を向ける。怒りに身も心も連れて行かれている場合は、そんなのも吹き飛ばしてがなり立て、喚いて泣いて叫んでいたが、戸惑った人々は『二度と?』とすぐに信じたようで目を伏せて終わる。


 そういうこともある――― 助けられる可能性が皆無。


 僅かでも信じる人がいることは救いで、いつかそれが広まれば、自分たちの行為も許される時が来るだろうと、オーリンはそこ止まりだった。


「俺だって。チャンゼさんを殺されている」


 その気持ちは消えなかった。とどめを刺したのが正確にはコルステインであれ、オーリンにとっては『サブパメントゥの手がついた人型』が彼を殺した相手。助け出せない闇の内に引きずり込んで、望みもしない殺害に従う木偶の坊に仕立て上げた、許せない輩。


「チャンゼさん。あんたがニダを手にかける前に止められて・・・良かったと、本心で思ってるよ」


 友達というには数回しか会わなかった、宣教師だけれど。オーリンにとっては、もう友達みたいなもの。ニダなんて、友達を超えて弟や子供みたいな感覚で見ている自分がいる。


 コルステインには感謝しかない。大きな存在だから、心の一番純粋な部分で理解しているんだろうと思う。

 もしも自分が大切な誰かが、全く望みもしない苦しみを行うなら、それを止めること。


 止める方法が、たった一つしかなくても―――



 オーリンは小龍骨の面に借りた姿で、あちこちへ出向き、人型を壊し続ける。大元の人型模型なんて本当に数える程度で、殆どが犠牲者という強烈な連続だった。


 何人も、口から見える顔を見た。時には、声も聞いた。まるでその人そのものが、喋りかけるように。


 気分が悪いまま、誰かの肩代わりを続ける時間。島を移動する時はガルホブラフを呼んで空中間だけ、龍と一緒。ガルホブラフは少し気にしているように、友達のオーリンを度々見つめた。



 そうこうしている内に、オーリンはカーンソウリー島も辿り着く。ここも部品製作所があると、イーアンに聞いて、修道院ごと焼き払おうと決めていた。


 ガルホブラフにここだけは頼む。あれを焼いてくれと、雨の夜空から、地上の修道院を指差し、ガルホブラフの高熱は空から降り注ぐ。上の建物を丸ごと溶かし、もうっと上がった湯気に飛び降りた。既に人型は出ているだろうと気を引き締め、オーリンは小龍骨の面を顔に掛ける。


 龍を返し、雨の黒い夜を飛ぶ。修道院の丘続きに、チャンゼとニダの家が見え、脇を流れる川の・・・訓練所方面に、大きな人型が何体か見えた。


 オーリンはまたも、ここで試練を引き受ける。タンクラッド同様の感覚から、姿を変える面を外し、自分の姿を以てして。


 この試練の苦しみに、真っ向から―――



 *****



 言葉が分かるだけに、何度も説明を試みた。それでもルオロフの立場が改善する余地は、ほぼ無かった。


「外国人、それもアイエラダハッド人で、腰に剣を・・・私は、彼らの嫌う()()()でしかない」



 ルオロフはダルナと一緒でなければ、飛行もないし、移動も範囲は限られる。ダルナと行動を共にし、跡地や製造所も壊しながら、人型を探して倒す。ルオロフも『私がやりますので』とダルナには目立たないことを願った。


 これに対し、特に言うことを聞く理由はないにせよ・・・はねのけて反対する理由もないダルナなので、了解して下がる。

 ルオロフを運んだダルナは、真っ赤なレイカルシ・リフセンス。ルオロフと面識があるので(※2687話参照)、これはこういう性格と認め、余計なことはしない。


 人型動力を倒すやり取り以降は、互いに話すこともない。ルオロフは、人型を倒す時間の多さに苦痛と疲労を増やしながら、ひたすら自分の行いの正当さを信じるよりなかった。



 聞く耳を持ってくれない相手に、その相手の大切な人を殺す理由を、伝えられない苦しみ。



 伝えても伝えても、『殺した』『他になかったのか』を食らい続けるのは・・・私の見た目が赤い髪と白い肌で、剣を持つからか。錘職人のコアリーヂニーが、以前話していた『騎士団の素行』を、まさかこのような状況で突きつけられるとはと、苦く思う。


 いつまで、続くのだろう。


 ゴクッと唾をのむ喉は、唾すら乾く。雨は止まない。髪を濡らして地肌を伝い、額も頬も伝う雫は引っ切り無しで唇にも流れ込む。それなのに、引きつる喉には癒えない乾きが覆う。

 少し咳き込み、騒ぎの巻き起こる中を、『人殺し』()()()()()()・・・僅かな明かりにギラリと光る剣の柄を握って進む。


「イーアン。私は。正しいことをしているはずです・・・ヂクチホス、私が間違っていないと、どうか解っていて下さい」


 人型動力の前に立つと、確実に頭がこちらへ下がってくる。開いた口の奥に人の顔が見え、目が合い、老若男女の声で、殺さないでと聞こえてくる。


 殺さないなど、容赦できない腕が宝剣をかざし、貫いて、切り裂く。背後で、罵りと悲しみの絶叫を()()()()()行い。

 遣り切れないにもかかわらず繰り返す自分は、終わらない悪夢の只中にいる。



 何度か―― 人型を自ら倒そうと挑む人も見た。


 しかし、彼らの剣や斧、槍や銛は、人型に食い込むと何か生じるのか、『わ』と上がる声と共に、刺さり切る前で手を放してしまう。それで襲われかける現場に鉢合わせたルオロフが、急いで切り倒した時、これには礼を言われた。


 彼らは彼らの意見があって、倒したルオロフ―― 外国人を疑わし気に見てからだけれど ――『こいつ(※犠牲者)に人を殺させたくない』と人型動力の犠牲者を思うからこその理由を伝えた。



 ルオロフは力なく頷く。そう言ってくれた人には、『魔物とは異なる危険な種族に操られ、二度と元の姿に戻れません』と真実を伝え、自分は魔物資源活用機構の同行で、情報を逸早く受け取ったから、辛いけれど殺すよりなく、と言い訳のように添えた。


 苦しげな若い外国人の気持ちを知った何人が同情したか。それはルオロフに知る由ないのだけど、少なくとも情報を聞いた相手は『そうなのか?』と信用した。


 そして、武器を手放してしまった手と、人型側に転がる自分の武器を交互に見て、大概が『だから痺れたのか』もしくは『それで痛みを受けたのか』と、武器を掴んでいられなかった驚きを口にした。



 ルオロフは、この夜。

 こうして行く先々で、たまにであれ、説明出来る状況があったことで、どうにか自分を保てたが・・・何が何でも『人殺し』でいなければいけない役回りに耐えるには、あまりにもきつかった。



 これを側にいたレイカルシは、助言してやれることもなく。

 どっちかというと、『イーアンは毎回こんな感じの苦しみにいるんだ、()()』と意地悪を言いそうになるのを我慢していた。

お読み頂き有難うございます。

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