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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悪意善意の手探り
2762/2956

2762. 三十日間 ~㉝十七日目の朝、幻の大陸に思う魔導士・別行動:シャンガマックと粘土板の宿題

※明日15日の投稿をお休みします。体調の都合でご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願い致します。


 

 ラファルが人間に似た体を得てから、魔導士は毎日外へ出るようになった。


 リリューは常に、コルステインから借りている状態。リリューがラファルを心配するのもあるし、コルステインも事態に注目しているため、精霊が次を与えたラファルを守る形で、リリューを配置しているところがある。


 おかげで、リリューに影響しない結界を外に張って、部屋にラファル専用結界を張るという二重仕立てで、長時間の外出が可能になった。『言伝』も外れたラファルは、あれ以降、特に身の回りに危険も生じていない。



「とはいえ、いつなにを仕掛けてくるか。頭の悪い連中だから分からん。ラファルにもう用はないと思うが、見張りでリリューがいるのは助かる」


 外出する魔導士は、毎晩補充に出かけるテイワグナのショショウィの森も、時間が許せば日中に行くようにし、ショショウィから『タンクラッドが呼ばない』毎度の悲しみを伝えられては、『あんな奴は忘れろ』と助言して帰る(※面倒臭い)。


 そのショショウィは、打ち明ける際は悲しそうであれ、確実に毎日顔を合わせる魔導士がいるので、そこまで悲嘆に暮れてもいないもので(※馴染みがいれば別に)。



 ふと、魔導士は帰りがけに『あの指輪か』とそこに気づく。タンクラッドが持っている指輪、ショショウィが首から下げている指輪は、俺が集めた宝の一つ(※929話参照)。いつだったか、ヨーマイテスが持って行ったような。


「タンクラッドが使わないなら、俺が引き取るか」


 ショショウィを呼び出しても、力の補充の動きは取れない。呼び出しは彼の実体とは遠い。だが、何の使い道があるか分からない地霊なので、管理してもいいかと思いつく。


 思い付きはさておき・・・ 気が向いたら、ショショウィを呼ぶ対の指輪を、タンクラッドから取り上げることにして。



「ラファルが向かう、あの大陸。俺が行きたくて仕方なかった、あの場所へ彼は踏み込む。その後、彼がどうなるか・・・イーアンは、彼女とエサイとラファルは()()()()と話していた(※2728話参照)。イーアンは龍だ。全く問題ないだろう。エサイは人間でもなければ、あれも生きていない。彼も恐らく、変化はない。

 問題はラファルだ。ここまで危険な使い道を敷かれてきた男が、人間に近い体であの大陸に入って、無事に戻れると言い切れるのか」


 自分が行きたかった気持ちも苦しいが。ラファルを差し出す状況が迫っているのも苦しく感じる。



 ヨーマイテスが来た日。エサイがラファルに話すと言われ、了承した。

 イーアンはなかなか来ないし、忙しないと分かっていて呼びつける気もなかった魔導士は、折を見てラファルに伝えようと思っていたが、彼が体力も気力も回復する方を先にした。


 エサイが直に話に来たのは、機が満ちた、そうかもしれないと判断して、部屋に通した。


 あの大陸の話が絡んでいることを、ヨーマイテスは俺に『知っているか』と確認し、俺が頷くとそれきり何も言わなかったが、俺の反応を見ていたのだろう。



 ナシャウニットに相談をした日、大陸(それ)を知らされた(※2721話参照)。


 ラファルがあの大陸に入ったら、大陸は別の世界を引き込む。『別』とは言うが、通じた世界がラファルの世界ではない。それはナシャウニットの言い方で感じた。


「今。俺が思うのは。幻の大陸から空に上がる念願を押しのけて、ラファルの無事だ」


 何か俺に、ラファルを守ってやれる手段はないか。それを魔導士は考え続ける。



 *****



『一週間後に二日空けて』――― 



 再会時に館長が教えてくれた留守の二日間は、シャンガマックがハイザンジェルへ行った日に当たり、とっくに過ぎていた。その後は戻ってきているはず。


『でも。館長は思い付きで動くからな。いるかな」


 こんにちはーと、褐色の騎士は資料館の扉を開ける。鍵はかかっていないから、居る、と思いたい。

 返事のない館内に自分の声が響き、ひっそりした雰囲気に、開けっ放しでも出かけそうだと心配していたら、右側の通路から館長が出て来た。


「あ、良かった」 


「シャンガマック!全然あの後に来ないから(※2739話参照)もう帰っちゃったかと思ったよ!」


 側に来た館長にシャンガマックは詫びて『最近は外国へ出ているため、こちらでの時間が取りにくくなった』と言い訳した。


「それなら今だね」


 切り替えの早い館長は、騎士に今日どれくらい時間があるのか尋ねてから、資料館の入り口で待たせ、話したかったものと記録した紙の束を持って戻る。


「今日も忙しそうだからさ・・・とりあえずね、この前、調査報告上げてきた資料だけど、これ。このページと、ここかな。これだな、君に預けるから」


『預ける?』いきなりまた貴重そうなものを、と焦る騎士を横目で見た館長は『まだある』とさらに驚かせることを言う。


「だ、大事なんですよね?調査報告したばかりの資料、って」


「うん、大事だ。今後を左右するかも」


 そんなの受け取れないですよと困る騎士を『いいからいいから』で流す館長は、隣で止めたがるシャンガマックを適度に往なして、カウンターに紙を分け、彼が持って行く分と・・・脇に置いた粘土板を引き寄せた。


「話している時間が少なそうだけれど、『檻』の時よりは教えてあげられるから」


 横でわぁわぁ騒いでいたシャンガマックはピタッと止まって『檻』の部分をオウム返し。そう、と館長の目と目が合う。


「関連している。直接じゃないよ。で、まだ私の主観から出ないものの・・・ 」


 館長は、時間を惜しむ。背の高い騎士が体を屈めてカウンターの粘土板を見つめる側で、調べてきた話を聞かせた。シャンガマックは今、この時期のこの繋がりの絶妙さに舌を巻く。世界の方向は決定した、それを肌が粟立つ感覚で知る。


 人間は動かされるのだ――― 表現によっては、この世界から消される、とも言えるだろう。


 そして、館長が見せてくれているこれは・・・もしかすると、本当にわずかな人たちだけをこの世界に置いておく物なのかもしれない。



 テイワグナ民話に出てくる、『異界に連れ去られた人々』の話を記す遺跡がある。


 証明はまだ足りないが、『檻』が異界と関係しており、『檻』から続く異界へ足った人たちは、そこの土を練って祈りを捧げ、家に帰してほしいと訴え、戻してもらえる。


 館長は、この粘土板が『檻』のあった近くから出土していることで、連れて行かれた人たちが、契約の証のように使った、と考えた。『檻』の側に粘土板を残したのは?と考えると、その辺から推測を広げてしまうので、次の証明を見つけるまでは主観と、現状を話す。



「代償とか、身代わりとか、その線でしょうか?」


 聞いていたシャンガマックが、カウンターに鼻先がつく近さで粘土板をしげしげ見ているので、館長は『君が持って行くんだから、手に持って』と笑い、騎士に粘土板5つを渡す。


「代償、身代わりだとして。これにそこまで意味があるのか、だよね。見たところは文字を彫っている感じでもない。象形文字とも違う。文様の類だろうけど、こういったのはテイワグナで出土した中にない、と他の学者も興味深そうだったね」


「そうなんですか・・・ 」


 それじゃ余計に俺が持って行ったら、いつ戻れるか分からないし、と受け取りを辞退しかけるシャンガマックだが、館長は彼の手の平に納まった粘土板を指差し『君が何か見つけ出しそうだからさ』と少し笑う。


「俺が。『檻』みたいに上手く行く保証はないですよ」


「でも君の方が、動き回る速度も回数も多いし、しょっちゅうその系統に触れるだろう?」


 まぁ、そうですね・・・と斜め上に黒目を向ける。上にフェルルフィヨバルがいるし(※待機)、普通の人からしたら、俺は常に不思議な渦中だろうなと認める。


 館長は数秒の間を置いて、小さな咳払いをすると、騎士の開いていた指を押して閉じてやり、見下ろす漆黒の目に微笑んだ。


「頼んだよ、私の弟子なんだからね、君は」


「はい・・・成果が出せるよう努力します」


 弟子、と呼ばれて嬉しい。有難くその気持ちを噛みしめる騎士に、館長がポンと肩を叩く。


「私がこれまでの記録から考察した限りでだが、粘土板の使い方については最後のページに閉じたから、必要な時は、さっと見られる。参考にしてくれ」


 全然違うとなれば君が訂正してね、と館長は気軽に言い、実は自然な流れで館長に仕事を回されていると気づいたのは、シャンガマックが資料館を出てからだった。



「それが、受け取ったもの?」


 白と灰のダルナは、シャンガマックも自分も人の目に触れないよう包んでから地上近くへ降り、首元に乗せて浮上する。騎士は館長からの宿題、両手に持った革の袋を、振り向いたダルナに見えるよう持ち上げ『資料と土を練った道具だ』と教える。


 言われたまま、説明をすると、フェルルフィヨバルは何やら思いついたらしく、『アイエラダハッドへ向かうが』と。


「うん。仕事へ」


「テイワグナの民話というが、向こうにもあるかも知れない」


「え。そうか?試せるのかな」


「使って()()()()()()困るだろう。試すのではなく、調べるのだ」


「どういう意味・・・あ、もしや。粘土板を探すのか?」


 ダルナは答えない代わりに、硬質の鱗の口端を少し上げる。シャンガマックは勿論賛成し、気の利く頼もしいダルナと共に、粘土板探しも仕事に入れた。



 遺跡巡りは、シャンガマックの楽しみ。文字ではない対象を読むことは出来なくても、言語であれば読むことも理解することも出来る。解釈となるとまだまだ未熟で、その場合はヨーマイテスの経験と教えを頼るが。


『仮に、文字が遺る何かを見つけたら、それはヨーマイテスにも見せると良い』フェルルフィヨバルは騎士に提案し、一人と一頭は北の大地の『檻』を巡る。



『原初の悪』の影響を受けた呪いの地、はアイエラダハッドにもうない。

『檻』は世界中にあるので、アイエラダハッドでも確認中。

『龍の白い遺跡』も、アイエラダハッドとの境目が微妙な地帯に点々とあるので、これも位置を記録。

 加えて、史実資料館の館長から出された宿題『粘土板』を、アイエラダハッドにもあるか、探り始めた。


 シャンガマックの収穫は、いつだって―――――



「粘土板も使えると良いな。でももし、一人二人・・・いや、十人そこら、この世界に残れるとしても、あんまり意味はないか」


「それはまだ主観の視座だ。粘土板が()()()なら、私にはその答えが見えている」


「ええ?もうわかるのか?知りたいよ、教えてくれ」


「自分で見つけた方が自信がつく」


 ええ~、そんな~ 少しくらい教えてくれても~ 首元で駄々を捏ねる騎士にダルナは笑って、『自分で見つけなさい』と探し物に付き合ってやる。

 知恵のダルナ、フェルルフィヨバルに見える世界は、確かに『淘汰』と呼べなくもないけれど。



 ―――――思いがけない展開を運ぶ。

お読み頂き有難うございます。

明日の投稿をお休みします。体調不良と意識途切れがちで、長い文がなかなか進まず、一日お休み頂いて書こうと思います。

いつも来て下さる皆さんに心から感謝しています。

励まして下さるお気持ちにも本当に感謝して。有難うございます。


Ichen.

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