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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悪意善意の手探り
2760/2959

2760. 三十日間 ~㉛十日~十七日、別行動:面二つ、バサンダの時間の秘密・『檻』巡り延長『龍の白い遺跡』

 

 シャンガマックは、相変わらずバサンダに『コロータ』の話も出せなければ、まして『獅子面』を紛失(※じゃないけど状態はそう)したことを話せないで、数日おきに見に行っては、ニーファに様子だけ聞いて帰ったり、バサンダと話しても短い会話のみ、『ヂクチホスの水』を飲ませたり、彼に関る時間は短かった。


 一つ作った後だと、なぜ続きの制作が加速するのか、その速さが普通ではないので、シャンガマックも少し事情を聴きたいのだけど、バサンダの邪魔をしてしまうので、この日も余計な話はせずに工房を出た。



「アジャンヴァルティヤ」


「ここに」


 工房を出て、店を通過し、ニーファに見送られて山林へ続く道を上がってから、ダルナに呼びかける。黒い岩石のようなダルナが姿を見せ、シャンガマックに片腕を伸ばし、シャンガマックは彼の腕を伝って首元に乗った。


「面が出来ていたか?」


「うん・・・二個目の面が完成していたな。何をやるとそんなことが」


「時間が違うんだ。あの建物を中心にした時間が渦をかく」


「え?」


 疑問に答えてもらえるとは思っていなかったので、褐色の騎士はびっくりする。黒い岩石の塊に似た頭が、ぎしっと音を立てて振り向き、水色と赤の混ざる瞳が騎士を見る。


「時間だ。バニザット。その男は時間の中に食い込んでいる」


「・・・アジャンヴァルティヤの言っている意味が、俺にはちょっと分かりにくいかな」


 眉根を寄せる乗り手に、ダルナはちゃんと説明してあげた。それを聞くとどうやらバサンダは、外と彼の時間が違う状態で過ごしている。


 シャンガマックは不安が過って、ダルナに面師のことを詳しく話した。アジャンヴァルティヤは、フェルルフィヨバルの交代で来ているため、詳細を知らない。『バサンダは伝統面の不思議な力を借りて、異様な速度で面を製作している』と知り、然もありなんと頷く。



「その職人が顔につける仮面は、()()()()()()()いるだろう。職人は周囲よりも、長い時間を過ごしている」


「それじゃ、彼は一人だけ時間を先送りして」


「使い道を知っていた感じに思うな。話を聞く分に、承知で手を出している」


 愕然とするシャンガマックの顔を数秒見つめたダルナは、『その男が望んだことだ』とここで話を閉じた。


 シャンガマックはそうも行かない。ぞっとして『止めなければ』と遠くなったカロッカンを振り返るが、ダルナは『邪魔しない方が良いぞ』と忠告した。


「でも、アジャンヴァルティヤ。フェルルフィヨバルは何も言わなかったが、あなたが教えてくれたのが真実となれば」


「真実に近いだろう。俺が感じ取っている以上。だが、フェルルフィヨバルも気づいていたはずだ」


 前を向いたダルナは短く答える。シャンガマックは意味に気づき、でもと言いかけた口を閉じた。


 フェルルフィヨバルが言わず、アジャンヴァルティヤが止めない方を選んでいる、それは。

 バサンダの運命の道ということか。受け容れにくいが、ダルナがそう捉えたなら、きっとヨーマイテスも同じ視点で見る。俺も倣うべきか・・・ 俯いたシャンガマックに、黒い岩石ダルナは必要そうなことだけ教えておく。



「お前は優しい。バニザットの優しさは、命に続く道を守る。その男は、もう()()()()()だな?」


「あの・・・まぁ。言ってみれば、一度はそうかも知れない。彼に頼まれて、異時空から引っ張り出したし」


「それも運命だ。一度救われた想いが、身を削る気で立ち上がらせた。面を一つ作るに必要な期間は、本当はどれくらいだ」


「バサンダを見守る人の話では、顔半分の形だし、一つに一ヶ月使わない。それでも『早ければそう』と言っていた」


「それなら、全て仕上げても一年未満だな。ただ、お前や監視役が接触するまでの間、その男は体力を使い続けていることだけ、念頭に置いておけ」


 言われて、ぴくッとする。そう、そうだ・・・もしバサンダが、今から二ヶ月目で、彼だけが一年近くの時間を超えたとしても、()()()()()()()()()()()に過ぎないかもしれない。でも、つまり、それは。


 じっと肩越しに見ていたダルナは頷いて『一ヶ月近く、食事をしないこともあるという』恐ろしい可能性を口にし、シャンガマックは慌てた。


 ダメだダメだ!と首で騒ぐ騎士にちょっと驚きつつ(※ちょっとだけど)『それだけ理解しておけば』とダルナは宥めるが、理解で済まない!やはり止めなければ!の大騒ぎで、戻ってくれ、急がないととシャンガマックが急き立てて煩いため、アジャンヴァルティヤは空中で止まり、もう一回諭す。



「だから、精霊の水を飲ませているんだろう?」


「だけど!最初に倒れたのは、集中し過ぎたからじゃなかった!彼が空腹で()()()()過ごしたからで」


「そこからは、気を付けているんだ。倒れるためにやっているわけじゃない。作り上げるために挑んでいる。最後まで作る気なら大丈夫だと思えないか」


「う、ぐ。しかし」


 ダルナの諭しは正しい。バサンダは十二の面を揃えるまで、決して手を止めず、倒れる気なんかない。重い息を吐き出して、褐色の騎士は『そうか』と渋々だが、受け入れるしかなかった。



 *****



 次からは()()()()()、絶対に会いに行こうと決めたシャンガマックは、ダルナに『頻繁だ』と他人事のように指摘をされながらも、『二日に一度でも、バサンダにしたら一週間近い』と譲らなかった。


 この日はアジャンヴァルティヤとあちこち回り、テイワグナを出てハイザンジェル、ハイザンジェルからアイエラダハッドへも入った。


「アイエラダハッドは広い上に・・・『原初の悪』の影響が()()()残っていそうだ」


 あの精霊はずっとこの国にいた印象があるだけに、影響地域も多そうな。寒いアイエラダハッドへ足かけ、そう呟いたのだが、黒岩石ダルナはちらっと見て、首を横に振る。



「ん?アジャンヴァルティヤはそう思わないのか?」


()()されただろう、決戦後(※~2401話参照)」


「された・・・ え。『原初の悪』の齎した影響もか」


「多くはあの浄化で消えたはずだぞ。アイエラダハッドは」


 ポカーンとした騎士の顔に笑って、アジャンヴァルティヤは、この国だけは他と違って減っているだろうと、先に言う。


「減るどころか、ない可能性が高い」


「そんなに消えたのか?一応、見て回ろうと思うが」


「構わない。俺も感じたらお前に教えるが、『檻』探しの方が、時間は勿体なくないかもな」


 へぇ~・・・ダルナと動くと違うなぁ、と感心する乗り手に、黒い岩石は満足そうに頷いて、早速『檻』発見。行って来いと送り出した。



 ということで。シャンガマックはハイザンジェル寄りの山脈脇へ降り、森林と接する麓を歩く。非常に寒いので、体を守るために結界は使う。今は薄着の自分が場違いに思う、雪降る灰色の空を見上げ、それから―――



「あれか」


『檻』は、背の高い木々に囲まれた影の内、比較的しっかりと形を保つそこは、遠目で見ていても心が躍ったが、近づいて()()()()()に感動する。


「素晴らしい。これは・・・種族は何だろう。んー?精霊か」


 これ、そうかな?とシャンガマックは屋根の内側を覗き込む。ここは屋根がきちんとそのまま、壁も崩れておらず、柱が幾つか内側に向かって倒れている以外は、目立った損壊がない。


 円錐台を造る黒い石の基部から、白っぽい岩が不規則な形で壁を組むが、隙間一つなくそれらはぴたりと合わさって見事。上に乗る円錐屋根の端は壁から少し出て、氷柱が下がる。

 窓は一つもなく、扉もない出入り口が一ヶ所に開き、中へ入ると内側にぐるりと柱が沿うのだが、三本ほど壊れて機能していない。とは言え、柱がなくても・・・そう思える強固な印象。


 そうかなと目星をつけた印は、屋根の裏に魔法陣があったから。

 精霊の魔法陣と呼ぶべきか、人間の扱うそれとは違い、ファニバスクワンの絵に似る。シャンガマックが足を踏み入れた時から、ブーンと静かな振動を伝え、屋根の魔法陣は仄かな明るさを落とす。


「うん。精霊だな。俺に反応している」


 床はない。所々に雑草が生える土で、表の森の土と全く異なる。硬く乾いた土が石畳のような亀裂を薄っすらと走らせて、シャンガマックの足元の亀裂から、鮮やかな黄色の光が見えた。


 龍の爪痕など、大型の地震もあったのに。良くここまで無事でと、シャンガマックは遺跡に感心する。中は冷えている外と温度差があって、少し暖かく・・・『お。そう言えば』感動でうっかりしていたが、仕事なので記録しなければと資料や炭棒を取り出し、この場で作業に取り掛かった。


 妖精の檻のような鍵がないので、発動させるのは呪文。これは龍の『檻』と同じ。テイワグナでも、精霊の持つ『檻』は呪文発動ばかりだったから、これは全体に共通なのか。


「アイエラダハッドの山脈外れ、『檻』は側にあるのかな」


 発動させると『捕獲檻』が近くで立ち上がるのだが、それはこの森林のどこか。森林で『檻』は想像が難しいなと首を傾げつつ、情報を書き留めてシャンガマックは遺跡を出る。


 屋根の裏には絵があったが、他に何があるわけでもなく、動かす予定もない下調べはすぐに終わった。振り向いて微笑み、『ずっとこのまま』と願い、ここを後にした。



 黒いダルナは姿を出したまま待っており、片腕を上げてただいまの合図をすると、すぐに降りてきて首に乗せる。どうだったかを尋ねられ、嬉しいくらい形が遺っていたと報告。


「ハイザンジェルと隔てる山脈に、まだあるだろう」


「同じような『檻』かな」


 シャンガマックが嬉しそうだと、ダルナも嬉しい(※従う)。アジャンヴァルティヤは話しながら山脈の上を飛び、別の『檻』へ彼を降ろす。正確には『檻』ではなくて、()()()()()()()なのだが、これも含めて『檻』と呼んでいる。


「アジャンヴァルティヤはすぐに見つけるね」


「においがする」


 におい、とちょっと笑った騎士は、降りた場所で待っててもらい、目と鼻の先にある谷へ行き、谷の影に見えていた遺跡の柱に到着。


「ここも精霊の『檻』だな。さっきの場所から・・・西か。柱と、崩れた石材だけ」


 それも数が少なく、上を見て理解する。崖が崩れて落ちることが屡あったのだろう。谷沿いにある遺跡は痕跡だけを僅かに留めている。

 何故ここにしたのかと思いつつ、水のない谷の傾斜を少し歩いて、痕跡の位置を図に書き記し、他に記すものはないか調べて、シャンガマックは戻る。



 シャンガマックが来た時といる間、言葉で表しにくい感覚が神経に伝わっていたが、離れて十mもするとそれは治まった。『におい、じゃないが。肌で感じ取るのもあるな』と体感で判断。


 光を見せるなどは、先ほどの状態の良い『檻』くらい。他は一部が遺っているのが普通なので、体感で『これは精霊』と慣れてきた。そこへ行くと『龍』の檻は違う。


「龍だけは、何の反応もしないな。彼らは遺跡でさえ、その特徴が活きる」


 ハハハと笑って、龍らしい気がすると首を振る。笑いながら戻ってきた騎士を迎えたダルナは、なぜ笑っているのかを聞き、首に跨ったシャンガマックから『龍は』と聞かされて一緒に笑う。


「おいそれと相手にもしない。遺跡すら、自尊心が高い」


「ハハハ、違うと思うよ。()()()()()んだ。彼らは強過ぎるから」


 精霊も妖精もサブパメントゥも強いけれどね、と付け足すが、龍の強さは独特・・・とダルナに言うと、『イーアンみたいなもんだ』とアジャンヴァルティヤは変な納得をしていた。


 破壊と再生を司る種族『龍』は、壊れようが何されようが、地上にある物体は気にかけないのか。


 そんな話で盛り上がっていたら、黒い岩石ダルナがぐらりと揺れて一方を見た。じっと見ているのでどうしたのかと尋ねると、彼はシャンガマックに『檻ではないが、龍のにおいだ』と教えた。



「それは、遺跡?」


「恐らく。行くか?」


「・・・『檻』ではない、とあなたが感じ取っているところへ、俺が行って良いものか。龍の領域かも知れない」


「ハイザンジェルでも感じたが、遠かった。テイワグナでは無かった。アイエラダハッドに・・・バニザット、決戦の時に大地を割った巨大な()()()、あの光を覚えているか」


「あっ」


 目を丸くした騎士に、ダルナは『それだ』と教えた。シャンガマックは、白い筒自体は幾らか関わってきた。テイワグナではアギルナンから始まって数回、アイエラダハッドでも拘束される前に、やはり関与した。


 イーアンとタンクラッドさんがいつも対処していた、白い筒―――


「まだあったのか」


 少し考えて、シャンガマックは『場所だけ教えて』とアジャンヴァルティヤに連れて行ってもらい、凡その位置を、本当に大まかにではあれ、一つの情報として書き留めた。これは俺の範囲ではない。でも・・・・・



「ティヤーにも、あるよな。当然」


 たまたま、とは言え。忘れた頃に過る影。ファニバスクワンが、サブパメントゥを捕獲するために『檻』の調査に自分を出したように、イーアンたち龍族が、ティヤーでもサブパメントゥを倒す手段として使うかもしれない。


 龍族がその在り処を把握していると思うけれど、今はイーアンも忙しくしているから、近くまで行ったら場所だけでも記録しておこうと、褐色の騎士は思った。ダルナにこれを話すと、二つ返事で了解してくれ、この翌日も、交代したフェルルフィヨバルが了解し、『龍族の白い遺跡』を見つけ始める。



 思わぬところから、シャンガマックの仕事は広がってゆく。気を利かせた下調べは、そのとおり、いずれ、イーアンの感謝に繋がる―――



 *****



「と。それと」


 騎士の思い出した言い方に、どうした?と振り返ったダルナ。この日もカロッカンの面師に会いに行った後、ダルナはアイエラダハッドへ向かおうとしたところ。

 褐色の騎士が北の国と方向の違う南を見て『忘れていた』と頭を掻く。


「何かし忘れたか、シャンガマック」


「日にちの約束はしていないが・・・館長に会いに行かなければ」


 まだ資料館にいるかな?と腰袋の紙を引っ張り出し、確認する。居る。と、思う。



「ごめん、フェルルフィヨバル。仕事の前に少し寄りたい」


 ということで、シャンガマックは首都ウム・デヤガへ、館長に会いに行った。そして、意外な掘り出し物に出くわす―――

お読み頂き有難うございます。

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