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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悪意善意の手探り
2750/2956

2750. 三十日間 ~㉑魔物増加詳細・空の勇者、離島のラファル、訓練所のニダ

 

 イーアンが湖でひたすら『お祈り』を聞いて対応し、過ごした後。イングは少し遅く戻った。

 おかえりなさいと振り向く女龍に、イングは頷いて側へ行き『ついでに調べてきた』と言う。いきなりなので、何を?と聞き返しそうになって、ハッとする。


「魔物。ですか」


「お前が知りたい内容かどうか」


「教えて下さい。何でも、小さいことでも」


「魔物自体はこの国だが、隣の国から出てくるものが接触して、あの姿に」


「接触。誰と」


「魔物と、死体だ」


 大量の、と付け加えたダルナに、イーアンの目が丸くなる。ヨライデ人の死体かと過ったが、イングはそれを見抜いているように『死体は、この国の人間だろう』と。


 死体だけが、波の合間を縫って運ばれてゆくのを見たイング。それは人の目に映らないが、精霊などの異質な目には見えるもの。


 隣の国の近くまで、見え隠れしながらあっという間に漂流し、陸地前で箱が現れて中に勝手に入る。


 その箱は隣の国に進んで、ある場所で消え、暫くすると出てきて・・・『箱ごと、海の境目で魔物が食べるような具合だ。実際は食べないだろうが』あくまで、()()()範囲を伝えるため、正確な表現ではないとイングは断っておき、さらに驚く話に続く。


「魔物も死体も、増えているのですか」


「そう見えたな。箱が波に揺れて一つ運ばれる。そこへ魔物が数体来て、箱に被さる。暫くして魔物も箱も消える。箱の行方を追うと、幾つにも増えていた。こう・・・並列するように」


 こう、とイングの鉤爪が、宙に一直線を引く。ずらっとある光景を見たそうで、箱は海底に沈んでいたり、水面に浮いていたりで一定しないが、箱が開くと魔物が出てくる。魔物は動いている内にまた増えて、島に着く頃は大群になっていたと教えた。


 唖然とする女龍は、自分が見た海底の箱と魔物の他に・・・並列なら、あの近くにもいたのかと、唇を噛んだ。悔しそうな女龍に、イングは理由を尋ね、イーアンの話を聞いて首を傾げた。



「その場合は、『お前に見せるだけだった』とも思える・・・お前は片づけた後も、周囲を見たのだし」


「そうですが、もっと遠くにいたかも」


「イーアン。どこも()()()()()ばかりだ。その時の自分の行動を責めるな」


 黙った女龍は、小さく頷いて『聞きたいのですが』とイングに質問をする。


「人間にはそれが見えないですか?それとも、他の種族にも見えない可能性があって、イングは特殊だから見えたのかと」


「どうだろうな。お前は見ていないらしいが、俺が見えるなら、異界の精霊のほとんどが知っているだろう。この世界の精霊も、()()()()と思えない」



 イングの返答に小刻みで頷きつつ、イーアンは自分の目に映らないことを歯痒く思う。私は龍なんだけど・・・男龍なら一発で見抜くのか。ミンティンも。

 妖精は、どうなんだろう。センダラは見ているのかしら。精霊は・・・あ、そうか。


 ティエメンカダとアティットピンリーを脳裏に浮かべたすぐ、以前、アティットピンリーが『原初の悪』が絡む死霊を倒さないと話していた(※2649話最後参照)のを思い出し、それか、と項垂れた。


 倒さない対象なら、口にもしない。龍に伝えるようなこともないだろう。龍が見つけたら倒すのだから、それは()()()()として。


 そして、自分のぼけた頭にうんざりする。ちらっと見上げた青紫のドラゴンと目が合い、イングの長い首が少し傾く。こちらが気づいたのを、理解した仕草。はーと溜息を吐くイーアンに『そういうことだな』この静かな出だしの続きは、またイーアンを沈ませた。


「この世界の精霊が関与しているなら、こっちも手を出すのは控える。が、『魔物』と決定した上で、倒している。死霊相手なら、堕天使のまそらたちが専門にせよ、まそらたちもまた、イーアンのために動く。これは、アイエラダハッドから変わっていない」


「すみません・・・毎度、()()()()を言わせて。本当に」


 肩を落とした女龍は、片手を前に上げ『魔物を調べて頂けて助かりました』と礼を言い、現状の一部を把握できて感謝する。



「止めようがない」


 低いドラゴンの声で断られると、どさっと落ちてくる感じ。イーアンも否定しない。


『原初の悪』は、ビルガメスが言うに、女龍()()を望んでいるようにも思う。それは統一の日で、先の話なのだが。

 これまで無関係だったのに、それ、何の利があるんですかと呆れるが、私を困らせる行為を楽しんでいるのは確かで、それがアソーネメシーの遣いと魔物の増量に繋がったのだろう。


 魔物残数がないから、なのか。それとも、女龍への嫌がらせ、なのか。

 どのみち、なぜ人間の死体を使うの? なぜ増えるの? 道徳的にも苦しい『敵増加状態』が疑問で、頭をぐるぐる巡る。



 テイワグナでドルドレンは『勇者の行く先々に魔物が来る』それに酷く心を痛めていたのを思う。私も今、同じ境遇なのですねと、空を仰ぎ見た。


「アオファの鱗をもらいに行った時。ドルドレンに会うの忘れてた(※試作没頭)」


 女龍のげんなりした様子を暫く見ていたイングは、『すぐに手が打てない』ともう一度はっきり伝え、つまり仕事をするようにと・・・女龍に『お祈り』を聞く時間だと促した。



 *****



 二回目の告知後で、民の祈りの()が、どう変わったかはまた後で・・・・・


 イーアンが『会うの忘れた』と残念がった相手、彼女の伴侶ドルドレンは同じ頃、イヌァエル・テレンで悩む。


「一体、いつまで俺は降りられないのか」


 すごくサボっている気がするのだと、額を押さえる勇者。地上へ戻る話で、全然、男龍からの許可が下りない。何度か尋ねているが、その都度はぐらかされ、つい先ほどは話しかけたと同時『またな』といなくなった(※ニヌルタ)。


「避けられている」


「男龍はドルドレンが好きだ。一緒にいるのが良い」


 悩む兄に、弟のティグラスは無邪気に答え、そうだねとは返事をしておくものの。帰れないのは問題であり、イーアンが会いに来る気配もないため、気持ち()()に近い状況。


 あの後、どうなったのだろうか。ラファル、イーアン、エサイの三者が、人々を導く避難先への鍵となる・・・あの話(※結果知らない)。


 選別され、淘汰される時は、まだまだ先なのかもしれないが、如何せん、風の噂さえ関係ない龍の国で、地上のいざこざを知るなど、誰かに聞かない限り無理であり、聞いたところで話題に触れもしてくれないとなると。


「現状がせめて知りたいものだ。人間はどうなったのだ。魔物退治は変わっていないのか。いや、そうは思えない。何か急かすようなことは起きているはず。幻の大陸は、僧兵ラサンの一件で『要重視』と導かれたのだ。問題は山積みだろうに」


「ドルドレン」


 独り言を聞いていた弟に呼ばれ、ドルドレンはピタッと黙る。振り向くと『シャムラマートはまだ元気だよ』と・・・彼の母親の名を、ティグラスは出した。


「うむ。そうか」


「大丈夫」


「そう、だな。しかし、俺は皆と共に、一人でも多くの命を助けねばならないし、人々の可能性は最後まで」


「ドルドレンは忙しい。だけど、忙しくて()()()と困るよ」


「・・・捕まる?」


 ふいに掠めた『捕まる』の一言は、予告めいて思い出す。ここに来た理由であり、イーアンがコルステインから忠告された『勇者裏切りの示唆(※2694、2695話参照)』。じっと見つめた弟は、左右の色が異なる瞳をまっすぐに向けて、兄に頷く。


「ドルドレンが地上に行ったら。捕まる」


「俺はどうやっても、『捕まる』ことになっているのか?ティグラス、お前は何を見ている」


「まだなんだよ、ドルドレン。俺の兄弟」


 滅多に聞かない、弟からの諭しを受け、ドルドレンは複雑な思いがこみ上げる。ティグラスが止めたということは、俺の下手な行動は危険への実現になるのだと理解した。


 ティグラスはそれ以上、言わない。別のことを話し出し、一緒に出掛けようと誘った。気晴らしなどではなく、単にティグラスが遊びたいから。ドルドレンは了解して、彼に付き合う。



 家から離れて、空へ飛び立つ二頭の龍を、ずっと後ろから見守っていたニヌルタは、ティグラスに預けている内は大丈夫だと安心した。


「そうだ。イヌァエル・テレンを出るのは、もう少し先が良いぞ、人間の()()。俺も中間の地で何が起きているかなんか、知りはしないが。人間排除を精霊が伝えている時点で、お前は時機を見るべきと俺も思う」


 ザハージャングが煩いしなと・・・白赤色の男龍は、奇獣が繋がれる方に金色の瞳をちらと向けて、ちょっと笑った。サブパメントゥが空に進撃をしたところで、高は知れている。空が汚されるなどあり得ないが、その前に中間の地がどうなるか。


「歴史をなぞると、お前が望まない状態を()()()()かねん」


 男龍はティグラスにドルドレン(三代目の勇者)を任せ、このまま放っておくことにする。



 *****



 場所は変わって、魔導士の島では昼間だというのに、愛情深いサブパメントゥがすぐ近くで待機。

 人間状態を得たラファルの見た目も戻り、少しずつ体調を整えている彼を、ずーっと見守るリリュー。


 魔導士の小屋の一画は、窓の表が地下に埋まっている。居間とラファルの部屋がそうだが、小屋の傾きではなく、真横に小さい丘があるため、そこに食い込んだ形から、ここだけ常に暗くて夜状態。


 食い込んだ形ではあれ、『窓の外が土』というものでもなく、一応空間はある。乾燥したティヤーの小さな小さな離島だから、湿度も特に問題なく、家屋に支障がない。そして、サブパメントゥにも支障はない。寧ろ有利である。


 しょっちゅうリリューがいるのは、この好環境条件あり。それでも日中は本来、すぐ上に太陽があると知っていて上がることも少ないものだが、リリューはラファルが元気になってゆく姿が嬉しくて、窓越しに微笑みながら見守り続ける。


 健気なのか、習性なのか。起きた時から毎日いるリリューに、ラファルも笑顔が増えた。自分がいることを喜んでくれる誰かの存在。それは、ラファルにとても遠く、考える必要もない他人事だったのに、今は。


『大丈夫?食べるの、欲しいのあるする?』


 欲しい食べ物があれば、バニザットにお願いしてあげると言うリリューに『ないよ』と笑う。必要なものは、リリューより早く魔導士が出してくれる。


 自分がこの姿に変わってから、彼は日中、外出するようになったので、出かける前に飲食の準備はされるし、トイレも用意してもらったし、風呂もある。煙草もある。着替えもある。


 何でも、魔導士は出してくれ、ラファルは自分が思いつかないものまで与えられて、今はひたすら体を整えるのが目的で・・・ だから、何を頼むこともないのだが、リリューは少しでも喜ばせたいようで、一生懸命、自分の叶えられることを尋ねる。



『俺が人間でも、リリューは変わらないな』


『なんで変わるの?』


 同情と憐憫からではない、リリューの愛情は正直で分かりやすい。かつての主人だった(※蜥蜴時代)メ―ウィックの面影も消え、サブパメントゥの生贄とされた哀れな男でもない、今のラファル()は、彼女にどう映っているのか。


『そう言えば。リリューは俺に、欲しいものはあるかを聞くが』


『言うして。リリュー、あげる出来る』


()()()()()欲しいものはあるか。俺がお前に渡すんだ』


 ぴくッと動いて、白がかる金色の直毛を揺らした、真っ青な身体のサブパメントゥは、ポカンとする。紺色のつり目が大きく開かれて、傷だらけの男をじっと見つめた。


『欲しい、もの。リリューの?』


『そう。俺にたくさん、優しくしてくれるだろう?礼がしたいと言うかな』


『あの。あのね。うーん』


 まさか自分が欲しいものを聞かれると思わなかったリリューは、驚いて答えがすぐ出ず。その戸惑いを見て、ラファルはまた笑った。


 人の背丈よりずっと大きく、種族最強の家族の一人として能力も高いリリューは、ラファルの目には、ただただ、可愛いだけの女として映っていた。

 自分は彼女にどう映っているのか、何となく知りたくなる、そうした相手として。イーアンとはまた違う親しみがある。


 イーアンは、理解者―― 『見捨てない友人』とは、こんな感じだろうか、と思う。精神的にタフで経験値が高く、口先で物事を終わらせないから、こっちも話す気になる。少しバニザットと似ている位置に立つのが、イーアン。信じられる相手。


 リリューはサブパメントゥで、見た目も性質も、人間の感覚と違う。それでも俺を慕う。心配し、守ろうとして、離れない。メ―ウィックが関係なくなった今も。


 窓を挟んで、一生懸命考えこむ様子が可愛いリリューに、ラファルは一緒にいられる時間を()()に感じた。



 *****



 オーリンが気にし続けているニダは、訓練所に預けられ、寝たきりで日が経過していた。


 行かない方がいいとは思うが、オーリンは心配でカーンソウリーへ出かけ、外から様子を見て・・・少し安心し、誰に話しかけることも気づかれることもなく帰った。



 イーアン曰く、コルステインがニダをあの状態にしているから、心配は要らないのだ。目で見るまで、頭で理解していても不安が残って困ったが、直に状況を知ると落ち着いた。


「なんか食べていたってことは。食事はしているんだな」


 訓練所の裏手側の窓から、ニダが見えた。ニダの寝台は窓際から一つ奥で、運ばれた日のままだった。ニダの寝台横に、職人が二人いて、一人はニダの頭を少し起こし、もう一人が食器を持って匙を口に運んでいた。

 肝心のニダの顔までしっかり確認できなかったけれど、薬でも汁物でも与えられているなら、恐らく、少しずつ動き始めているのだと思えた。



「食ってなくても、便所には行きたくなるもんだが。ニダのあの状態だと、まだ・・・んー・・・訓練所の職人は、ニダの世話くらいしてくれる人ばかりだ。俺が心配することじゃない」


 ニダが普通の体なら心配しないものが、男女のない体の持ち主であることを知っていると、おっさんだらけの職人の世話で、ニダは排泄など大丈夫なんだろうかと、余計な心配が浮かんだ。


 食事を摂っているから無事、と安堵したら、次の心配が膨らむ。


「いや。俺が世話したって。ニダから見れば他と変わらない。ニダは誰が相手でも、体を見られたくないだろうし。世話するのが女なら良い、ってことじゃないだろうし。イーアンに(※すぐ応じてくれそうな人)言うのも違う」


 ガルホブラフの背中で、頭を抱える弓職人は、あれこれ心配が増えて悩みが終わらない帰り道。イーアンが戻ったら聞いてみるかと、相談になりかねない悩みを抱え、この日も魔物を探しては退治し、オーリンの一日が終わる。



 イーアンは、オーリンがそこまで気にするとは思っていなかったので、『排泄についてもコルステインに伝えた』と後から聞くまで、オーリンは退治中も、ニダで頭がいっぱいだった。


 難儀した自分の若い頃を、ニダに共感して思い出したのか。ニダが、俺の子供の時みたいに思うからか。


 正直、なぜこんなにあの若者を心配するのか、自分でもよく分からないけれど―― 

お読み頂き有難うございます。

ちょっと脳の調子が良くなくて、言葉があまり続かず、またお休みを頂いて書くと思います。度々休んで申し訳ないですが、どうぞ宜しくお願い致します。

いつも来て下さる皆さんに、心から感謝しています。

いつも励まして下さるお心に本当に感謝します。

いいねや、笑顔マークを有難うございます。 

本当に、嬉しく有難く、皆さんに感謝して。

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