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魔物資源活用機構  作者: Ichen
剣職人
275/2947

275. イオライセオダ巨大魔物退治報告

 

 イーアンは時々痛みで腕を放しそうになったが、ダビに押さえてもらって、無事に帰還した。


 一人遠征状態であったが、ダビが手続きをしてくれると言ってくれ、痛みに呻きつつどうにか、支部の裏庭に降りる。ダビが急いで龍を降りて、イーアンに言う。


「ちょっと待ってて。総長呼びます」


 ミンティンがちょびっと摘もうとしてくれたが、うんうん唸ってるので、そのまま背中にいたイーアン。凄い勢いでドルドレンが出てきて、イーアンの状態に衝撃を受けつつ、急いで抱きかかえて降ろす。


 ダビの歯に衣着せぬ状況報告により(※チクリとも言う)どうもタンクラッドに口説かれたり、撫でられたり、二人の世界があったと知るが、それはムカつくにしても、とにかくイーアンが傷だらけでとんでもない。事態が事態なのでお説教は、元気になってから。


 大慌てで医務室へ運び込み、ダビに、どれくらいこの事態について把握しているか、説明を聞きながら、医者に手当てされる愛妻(※未婚)を見守る。



「なんだと?一人で?魔物と戦っただと?!」


 叫ぶ総長にダビは目を閉じて顔を反らす。それでもお前は騎士か男かと言われ、はいはいすみません、と交わしながら、どうしてそうなったのかをもう一度話す。


 怒鳴り散らす総長に、イーアンが腕をそっと上げて触る。はっとしてドルドレンが振り向き、イーアンに屈みこむと『ちょっと静かに』と注意された。悲しいドルドレン。


「ダビを叱らないで下さい。急がなければいけませんでした。タンクラッドも剣を持ったので、飛ぶ相手に敵うわけがないと思い、私が龍と勝手に出ました」


「イーアン。なぜ君はいつも一人で立ち向かうんだ」


「他に龍に乗る人がいないでしょう」


 そうだけど、とドルドレンはイーアンの傷だらけの顔をそーっと撫でる。


 朝、見送った時は無傷だった。帰ってきたらこんなに怪我して。それもタンクラッドにいちゃつかれて(←いちゃついてはいない)。愛妻もすぐメロメロするから仕方ないが(※心が意外に広い旦那)・・・・・ はーっと溜め息をついて、とにかく帰ってきてくれたと安心したドルドレン。


「会議。報告あるのでしょうか」


 ベッドに横になりながら、医者の手当てに時折『いてえ』と反応する愛妻は、丁寧な言葉遣いで訊ねる。この状態に慣れたドルドレンは、うんと頷いてイーアンを撫でながら同情する。


「とりあえず。意識があるからね。ダビだけでは分からないこともある。少しで良いが、今回はイオライセオダを緊急で守ったのもあるから、疲れない範囲で話してもらうかも」



 わかりましたと目を閉じるイーアン。廊下がもの凄い煩くなって、駆け込んできたクローハルに再び目を開ける。


「ああ!イーアン可哀相に。何て姿だ!怪我をして運ばれたと聞いたから驚いたが、これほどとは」


 ドルドレンを突き飛ばして、ベッドの横に滑り込んで跪く、野球だったら良い選手並みの動きでクローハルがイーアンの手を握る。


「何てことだ。こんなに痛々しい怪我をして!肩もか?酷い怪我だ。可哀相に!ああ、俺がいれば(※いても役に立たない)」


 わぁわぁ煩いジゴロの首根っこをむんずと掴んで、ドルドレンはジゴロをどける。『煩い』一言冷たく言い放って、愛妻の側に座り直す。



 すぐにブラスケッドとポドリックが来て、少ししてから、コーニスとパドリックも医務室へ来た。ヨドクスは、南へ援護遠征で昨日出向し、留守。


医務室(ここ)で聞こう。イーアンはまだ動かせない」


 ドルドレンが言うと、全員了承した。ダビもその場にいたので、ダビが先に観客席の報告をした。まず大きさから教えると、驚かれる。



「そんなに?そんな、でかかったのか」 「それじゃ支部くらいの大きさだろう」


「でも本当ですよ。それくらいの大きいのが、西の壁から飛んで来たんです。私は親父さんのところで剣の作業をさせてもらっていました。イーアンが迎えに来るまで、と思って。

 午後。そうして手伝っていたら、突然、表が不穏な騒がしさに包まれました。親父さんたちと通りに出たら、皆で空を指差してました。見てみたら、かなり遠いはずなのに、もう例えようがないくらいの大きさのが、こっちに向かってて」


「そうです。あまりの大きさに私も愕然としました」


 ダビとイーアンが口を揃えて言うので、隊長たちは続きを促した。


「私は魔物の大きさが半端ないので、あれをどうやって倒すか、イーアンに相談しようと思いました。それでタンクラッドさんの工房に急いだ時、龍が丁度、空に向かって飛んだのを見ました。遅かったと思いましたが、もうどうにも出来ません。見守るだけしか」


「イーアン・・・・・ 」


 ドルドレンが愛妻を見ると、イーアンは目を逸らす。


「下から見てるだけしか分かりませんが、魔物は火の玉を落とすんです。凄い量の火の玉です。それを掻い潜りながら、龍は魔物の周りを暫く飛びました。でもどんどん近づいて来ていて、町の人は『丸焼けになる』と恐れて騒ぎました。


 そのうち、イーアンが動いたようで、魔物の翼の端が一回切れました。でもすぐ元通りになってしまい、その後は魔物の攻撃が激しくなりました。火の玉が容赦なく撒かれて、町にも落ちそうになりました。


 だけど町に降る火の玉の火を、龍が消してくれたので、町には石礫が落ちただけで済んだんです。ここからが凄かったです。イーアンは一回、町に龍を降下させて、家に入れと叫びました。すぐに空に戻って行って、啖呵を切って龍に攻撃させたんです」



「啖呵?」


 ドルドレンの頭の中に、チェスに吐き捨てたあの『吠え面かきやがれ』がぞわっと蘇る。ちらっと見ると、イーアンは枕に顔を伏せてじっとしている。


「そうです。凄い怖かったです。『てめえ、首洗って待ってろ、私のドルドレンを馬鹿にしやがって』と怒鳴りました(※優秀なリングアナウンサー)」


「私のドルドレン」


 そこをリフレインして、旦那はジーンと熱くなる。何があったのか分からないけど、お楽しみと感動は取っておく。うんうん、と涙ぐみながら先を促す。確かに怖い。首洗って待ってろって。奥さんの言葉としては強烈。でも『私のドルドレン』は嬉しい。

 他の隊長は黙る。枕に顔を伏せて、絶対こっちを見ないイーアンに視線を注ぐ。時々、とても怖い表現や噂を聞いたことはあるが、かなり荒くれ者の発言に、普段の印象が丸崩れ。でも言いそう、とも思う。



「総長。泣けるかもしれませんが、私に真実は分かりません。

 イーアンは啖呵を切ると、龍に命じて魔物を真っ白に変えました。何があったのか。でも凍ったんだと思います。確認していませんが、火の玉も降ってきませんでした。

 それでも魔物は飛ぶんです。動き続ける魔物に、町の人も恐れました。でも。イーアンは龍の上に立ち、白くなった魔物に龍と一緒に突っ込んでいって、下から右の翼を剣で切りました。すぐ、上へ回って上からも翼を切り、右の翼を落としました」


 コーニスが『ひえ~』と小声で怯える。パドリックも『うそ~』と肩をすくめる。ブラスケッドは苦笑いしながらそれを聞いていて、ポドリックも首を振りながら『おっかねぇ』と額を押さえて笑っていた。クローハルは『確かその魔物、すごい大きさだったよな』と呟き、沈鬱な表情で話を聞いていた。



「翼が落ちてもまだ飛んでるので、イーアンはもう一つの翼を落とそうとしたんだと思います。

 怪我はここだと思います。もう一つの翼の下に回りこんだ時、翼で弾かれました。イーアンは一瞬、龍の上で倒れたんです」


 がばっとドルドレンがイーアンに覆い被さり『どこだ、どこやられた』と焦る。イーアンは微笑んで『頭と肩です。顔の傷は、翼を切った時に散った破片で』と答え、タンクラッドに薬を塗ってもらったと伝える。それも嫌、とドルドレンは目を据わらせた。



「龍が怒って、もの凄い怖い声を上げました。でもイーアンはすぐに立ち上がって。次にしたことは、龍の背に立ったまま、翼じゃなくて胴体に凄い速度で向かっていって、切りつけたんです。


 凄い迫力でした。『あ゛ーーーーーーっおらっ』て剣を振り上げて魔物を切り裂きました(※一部始終解説するリングアナウンサー)。凄い怖かったです。多分、魔物より怖かった。個人的な感想ですが。


 イーアンの雄叫びが響き渡ると、魔物の胴体の中の何かが叫んで、魔物と一緒に崩れて地面に落ちました。イーアンは倒したんです。龍と一緒に、剣で魔物を一人で倒したんです。町の人皆が証人です(※柄の悪い人認定済み)皆、イーアンの声を聞いてましたし(※丸聞こえ)皆、魔物が崩れて落ちた時、すごい喜んでました(※とりあえずヒーロー)」



 ダビがそこで話を終わると。医務室で話を聞いていた隊長たちも。ドルドレンも。お医者さんも。何も言わなかった。イーアンは枕に顔を伏せてじっとしていた。



 咳払いをしたドルドレンは、イーアンにそっと聞く。『どうして私のドルドレン、って』ちょっと聞きたかった。何があったのかな、と思って。


 イーアンは枕を左腕に抱えて目だけ出して。小さい声で話す。


「その。魔物は大きな一頭ではなくて。人形のような小さなものが沢山集まった塊だったのです。中心に人間らしいものが見えて、その顔はどうしてか、ドルドレンそっくりだったのです。

 私はそれを見た時、とても困惑しました。でも私のドルドレンは一人だけです。相手は魔物、と思いました。そうしたら、ドルドレンの幻影でも見せてるのかと思い、許せませんでした」


「ということは。最後に剣で突き刺したのは、ドルドレンの顔をした魔物だったってことか」


 ブラスケッドが、そう解釈するとイーアンに訊ねる。『そうです。ドルドレンの顔で、怖い笑い方をしたので、頭に来て、突き刺して切り捨てました。見る見るうちに醜く変わり、本体に戻ってそれは死んで落ちました』イーアンはちらっと視線をドルドレンに動かして、うんと頷いた。



 再び沈黙。ドルドレンも沈黙。


 自分の顔をした魔物とはいえ、それに頭に来て、剣を突き刺し切り捨てた・・・・・ と。非常に複雑な気持ちで愛妻を見る。愛妻は、目が合うと逸らす。


 いつか。頭に来たら、突き刺されるのだろうかと心配が過ぎる旦那。しないけど、浮気したとか誤解されたら切り捨てられる・・・怖い。怖すぎる。それも首洗って待ってろと宣言される。怖いっ!


 ぶるっと震える総長を、他の隊長はじっと見つめて同情した。


 もし自分だったらと思えば、非常に恐ろしいだろうと想像した。ポドリックとコーニスは家族持ちなので、奥さんがこんなに怖くないことにしみじみ感謝した。怒らせても。少なくとも、剣で切り裂かれはしない。



 場の雰囲気が重く、話を変えようと思ったイーアンは、タンクラッドに作ってもらった剣を見せた。タンクラッドの想い云々(※『俺と一心同体』状態の言葉)は伏せておき、ドルドレンとお揃いで、自分用にと、魔物を使った剣を渡されたと説明する。


「この剣だったから勝てたんだと思います。ミンティンもいてくれたからです。龍と剣がなかったら、考えるだけでも怖いです」


 美しい以上に迫力のある細く白い剣に、全員が固まった。それに触れられたのはドルドレンだけで、他の者が触れようとすると、剣に妙な光が走ったので、手が止まった。



「何か特別なんだろうな」



 ポドリックが剣を見つめて理解すると、他の隊長も唸った。ドルドレンとしては、お揃いが嬉しいような、何でイーアンに特別作ったのやらと思えば微妙なような(※理由はもう察しがつく)。


 でも(これ)のおかげで、今回魔物は退治でき、尚且つ、強烈な武器を新たに見ることが出来たわけで、その剣の実力も存在も認めざるを得なかった。



 魔物を切っても崩れなかったから、龍に凍らせてもらって切ったこと。それから崩れ始めたので、本体の操ってる存在を切りつけたことを、イーアンは話した。あれは魔物なのか、人間なのか、魔法使いなのか。分からないけれど・・・と付け加えた。


「仮に魔法使いのような人間だとしたら。今後そんなのも出てくるとして、かなり苦戦するかもな」


 クローハルが呟いた。魔法使いは一応、この世界に数は多く知られていないがいる。一般的ではないにしても、いる、とは分かってる存在なので、それが魔物側に回られると厄介に感じた。



 今回の報告はこれで終了した。


 明日から南へ出向するつもりだったイーアンは、ドルドレンに止められる。怪我の状態が悪かったら危ないと言われたが、戦わないで状況把握だけですからと約束して、一緒に南へ行ってもらうことにした。



 ヘロヘロイーアンは、風呂に入るのも恐る恐る、沁みないように(しみた)注意して入り、出てきても口を切ってるので食事もままならず。

 眠る時も、ドルドレンが寝返りで触ると痛いからと一人で眠った。寂しいドルドレンは自分のベッドをイーアンのベッドの横に運び、とりあえず並んで眠った。


お読み頂き有難うございます。


先ほど見ましたら、ブックマークして下さった方がいらっしゃいました。有難うございます!!とても励みになります!!

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