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魔物資源活用機構  作者: Ichen
悪意善意の手探り
2746/2961

2746. 三十日間 ~⑰スヴァウティヤッシュ『計画』と『解説』、女龍因縁『燻りの親の姿』・ニダの状態

 

『俺が預かっている』―――



 まさかの発言。何よそれ、と声にならない驚きで目を丸くした女龍に、黒いダルナが『そういう顔になるよな』と、何てことなさそうに頷き、イーアンはさすがにちょっと怒った。


「あの、あのねぇ?ケロッと言ってらっしゃるけど、スヴァウティヤッシュ。あなた」


「怒るな。怒ることじゃない。先に聞いた情報が強烈だっただろうから、そうなるのも分かるが」


「怒るな・・・って!だって、大変だったんですよ?!オーリンがどんなに心配し」


「うん。今から話すことは、更に()()()だろう」


 何の宣言しているのっ!!! ふざけた言葉でイーアンが戦慄いて怒鳴り、スヴァウティヤッシュはすぐ、女龍の小さい体を鷲掴みにした。バタバタするイーアンを顔の前に持ってくると『話、聞けよ』と宥める。


「暢気に聞いてられますか!何があったか知らないけど!」


「今から話す、って言ってるだろ?コルステインも同意している」


 コルステインの名が出て、女龍は止まる。ばたつかせていた6翼がピタッと止まったので、ダルナはもう片手で、翼を鎮めるように上から下へ撫で、6翼を畳ませた。


(ここ)で話すのも、必要だからだ。地上から離れたこの距離なら、地下の奴らに聞こえようがない」


「・・・サブパメントゥを、もしかして。出し抜くために、ニダを」


「いい勘しているよ」


「ニダは?あなたが預かったとは」


 聞けよと質問を遮り、スヴァウティヤッシュはまず、『計画の経緯』を先に女龍に打ち明ける。


 コルステインとも相談済み、了解済み。そして、今まで自分たちが、誰を追いかけ、その目的はどこにあるのか。


 サブパメントゥの柄がついた、鏃のことも。アイエラダハッド決戦で倒れたフォラヴのことも。

 ティヤーの神殿の『弾』に、サブパメントゥの柄がついていたことも。


 バニザットに頼まれて、イーアンの城『書庫』で調べた、始祖の龍の記憶にいたサブパメントゥのことも(※2492話参照)。

 勇者が使われて危険を呼び込むだろう、とコルステインが嵐の夜に伝えたのも。

 コルステインは『元凶』を追い続けていたことも。


 サブパメントゥの海―― グィードが守るその海の水を、何者かが盗んだから(※2491話最後参照)、生じたこれらについても。



「私が、知らない間、そんなにずっとコルステインは」


 聞かされた『計画の経緯』が、随分前からであったと知って、イーアンは戸惑い、コルステインが黙々と頑張ってくれていた期間に、自分は何一つ手伝わず申し訳なく思った。

 女龍の感覚を感じるダルナは、イーアンがコルステインの思いを正面から受け止めて、ホッとする。


「怒ったり。嫌がったり。イーアンがするんじゃないかと、コルステインは気にしていたよ」


「どうして?怒るわけありません。コルステインが元凶を知って、私たち皆の安全を守るために一人で行動していたことを、有難く思う以外にないでしょう」


「一人じゃなくて、俺も一緒だけどね」


 それはそうですが、とイーアンは訂正を認め、ダルナは苦笑して『結構、助力になってるはず』と自分で言った。



 *****



「うん。それで『元凶のサブパメントゥ』として狙いを付けた奴が、過去と同じように引っ掻き回す存在と見当つけたコルステインは、何が何でも止めたいわけだ。過去って、多分この世界の最初の」


「創世」


 イーアンの呟きに、だね、と返すダルナは、『コルステインが創世から居るわけではなくても、創世の因縁を断とうとしているのは、側にいて分かる』と教えた。始祖の龍との摩擦だ、とイーアンは解釈する。



 女龍が話を聞いて理解する様子に、スヴァウティヤッシュは次に、『計画』そのものについても伝えた。


「追いかけては引きずり出して残党を倒していたけど、埒が明かないんだよ。どれだけいるのか知らないが。昔に比べて、かなり数が減ったと聞いていても、そう思えないくらい多い。

 ()()()『元凶の奴』を使って、今後は他のサブパメントゥを集めて倒すつもりだ」


 さらっと言われたが、イーアンは『ん?』と引っかかる。

 だから、って?どういう意味?『元凶』は捕まえられてないんじゃないの?・・・疑問は顔に出る。ダルナの目をじっと見て、ダルナが頷く。



「昨日。その機会を得た」


「じゃ、もう捕まえて」


「ちょっと違うんだけどな。でも、()()()()()()()()()状態に、奴はある」


 うわーと感心して驚く女龍に、スヴァウティヤッシュは得意げな顔を向け『長かったね』と冗談めかした。


「俺を相手に、ここまで逃げ続けただけでも、本当に厄介」


「そうですね・・・コルステインが捕まえられないのも、信じられなかったけれど」


 最強が相手であれ、逃げる奴は逃げる。

 その元凶のサブパメントゥは、まさにそうしたポジションにいるのだと気づくと・・・創世から続いた因縁も混じり、これもまた『組まれた運命』の流れに感じて、それはイーアンを嫌な気持ちにさせた。



「人型動力。『元凶』が操っている」


 イーアンの鳶色の瞳と目が合い、小さく頷いた女龍は知っていた様子。知ってたか?とダルナが尋ねると、イーアンは溜息をついた。


「誰が操っているかまでは、知りませんでしたが。人型動力の存在を初めて知った現場で、回収した物に、サブパメントゥの柄がついていました」


 動力で動かすのではなく、サブパメントゥが操る気なんだと思った、と話す女龍に『そのまんまだ』とダルナも認める。


「面倒なのは、イーアンも聞いた後だし、見当もつけてるだろうけど、操るだけで終わらないことだ。

『元凶』の使う技で、人型に襲われた人間は、次の人間を襲うと、先に取り込んでいた人間が、新たな一体として分離する」


「なんですって?分離?操る人間を生かしておくのは、遠隔操作とかではなく?」


 黒いダルナは女龍を掴んでいた手を緩め、手の平に乗せ変えて、分離したものは操作より強い状態だろうと答えた。



「動力なし。操りだけでもなく。単体が自分の意思で、自分の体で動くような、と言っていますか」


「仕組みは分からないが、サブパメントゥは親が子を作り立てて増やすだろ?それじゃないのか。

 生かして捕まえた人間は、固定された人形の中。攻撃されても直には受けない分、脳みそも()()だろう。その脳みそは、サブパメントゥの命令に浸りきって、でも自分への攻撃に抗う意識は残されている。防具付きの兵士だな、言ってみれば」


 操りの派生で特殊なタイプ、と解釈した女龍は肌が粟立つ。数体の人型動力から、コピーに留まらない中身の濃さで『分離』が繰り返される。


 これまでなかったのは、このタイミングが()()()()()と、見込まれた秘密もありそうで、まだほかにも出てきそうな危惧もする。


「魔物もな。分裂や合体で増えているから、サブパメントゥも同じって言えば、そうなんだけど。でも、魔物と違うのは、サブパメントゥはこの世界で認可された種族だ」


 重い意味が圧し掛かる。認可されている立場は、行動の制限もあるにせよ、制限内なら通じてしまう。



「それで」


 数秒、言葉が消えたけれど、イーアンはニダに話を戻し、スヴァウティヤッシュも、昨夜の一件でニダに何があったか前置きで伝えた。



 *****



 ニダといた男性(※チャンゼ宣教師)は犠牲になり、ニダは間一髪のところ助けられている。


 スヴァウティヤッシュは、現場で狙ったサブパメントゥ(※『燻り』)の思考を押さえ込んだが、半分は、近くにいたニダの思考を押さえていた。


 サブパメントゥが、ニダの動きを操って人型動力の効果を見ようとしていた、その思考ごと俺は掴んだためだろう、とスヴァウティヤッシュは話し、『その時は気付かなかった』と不名誉そうに首を傾げる。


 滅多にない失態だったわけだが、失態が転じて、ニダは結果的に助かった――― その意味、イーアンは理解する。



「ニダは。自分と生活した人に、自分が襲われかけたのを」


「そう。人型の中にいる顔を見た。強い衝撃で、俺に()()()()()


 ふー・・・と、息を吐いたイーアンは目を閉じて『残酷な』と呟き、ニダ単体の意識であったなら、精神的な崩壊を免れなかった可能性を思う。強烈なトラウマは、人を再起不能に追い込むこともあるから。


 感じ取ったスヴァウティヤッシュは、ニダの思考を、衝撃が心に食い込む手前で止めていた。

 現場にコルステインがいると分かっていての行為だから、意識を失ったニダが、人型の犠牲にならないと踏んで。



「・・・最初の、犠牲になったお方。ニダの保護者の方も、もしかしたらサブパメントゥの操りで、意識を押さえ込まれて」


「そうだろうね。彼は()()()()()()()()


 イーアンの言葉をダルナは肯定し、しばし沈黙が流れる。


「で、ね。ニダは、人間たちが守る場所いる。だが、まだ目を覚まさせてはいない」


 目を覚まし、周囲にこの事件を伝える時期を、スヴァウティヤッシュが見定める。ここまで説明を聞いたイーアンは、何が言いたいか分かる。


 今、ニダに騒がれては困るんだろう・・・・・


 人型動力を操るサブパメントゥ。その尻尾を握った、と言い切るスヴァウティヤッシュ。『元凶』を泳がせて使い、他の残党を更に倒す方へ進めるなら。



「火に油、だろ?」


 イーアンの思考を読んだダルナが呟くと、イーアンは『そうですね』と静かに答えた。

 利用とは違うが、都合でニダの意識を止めた状態に、ダルナは少し後ろめたそう。知り合いだけに、感情的になると思ったのだろう。


 でも、世界が掛かっている時、いつだって物事の選択肢は、通常で言えば『火に油』ばかりなのも、散々経験した。今回も間違いなく・・・そうなのだと思う。


「人型動力が他所で動き始めたら、それは」


「極力、犠牲が出ない内に片付ける。まだ俺とコルステインが『追いかけている状態』と思わせとく維持だ」


 うん、と頷くイーアンは、『私たちが発見したら、片付けて良いんですよね?』と一応聞き、勿論と返答を貰う。


「コルステインに、話してくれて有難う、とお礼を伝えて下さい」


「分かった」



 ニダについては、守ってくれる人たち―― 手仕事訓練所 ――にいるとしても、意識が戻っていないなら、食事や水、排せつなどの心配はある。その懸念も伝える。


 スヴァウティヤッシュは少し考え、『一日に二三回は、意識を止めたまま目を開けさせても』と言い、イーアンはそうしてほしいと頼んだ。飲食がない肉体は、健康を損なうのが早い。


 それと・・・排泄についても、大事なことなのでと相談し、コルステインに相談することになった。


 ドルドレンが以前、ホーミットに、皮膚の内側に入った毒虫を消してもらったり(※1203話参照)、シュンディーンの体内にあるウンチを消してもらったりした話(※1367話参照)を思い出すイーアンが、『サブパメントゥの、消滅能力がとても正確で高いお方に頼めたら』と助言すると、ダルナは了解した。



 *****



「ってことだ。じゃあな、イーアン」


「最後に一つ聞きたいのですが」


 帰りかけたダルナを引き留め、イーアンは話しを聞いている間、ずっと頭にあったことを質問する。


「私の勘に答えてもらえるか、分からないけれど。そのサブパメントゥ。人型を操ると言う」


「うん」


「『煙臭く』ないですか」


 黒いダルナは、赤と水色が揺らぐ瞳で、振り返ったまま止まる。じっと見つめる女龍は、勘だと言った。なぜイーアンが勘でそれを知っているのか。


 イーアンはスヴァウティヤッシュの即答がないことで、これを正解と受け取る。


「イーアンは」


「ドルドレンが襲われた相手が、その『煙臭い』サブパメントゥでした。初代の勇者からの因縁でもあります(※2681話参照)」


 スヴァウティヤッシュと被るように、イーアンは彼に教えた。

 他の者たちには言わなかったが、コルステインは『創世から続く混乱の種』と分かっていて、そいつを追っている。私が調べた情報のあの後から。


 イーアンは書庫で、始祖の龍の記憶に残った相手を記憶するため、しっかりとイメージし、それを魔導士に伝えたのだ。




 ―――顔は、勇者に似る。きな臭く、黄ばんでおり、放浪の民の衣服をまとう。淀む肌、人の姿を模し、男とも女ともつかぬ声に、毒と棘を隠さずに乗せるサブパメントゥ―――




 コルステインと共に動く、スヴァウティヤッシュなら知っているだろうと、イーアンはここまで伝えた。黒いダルナは瞬きして『()()な』呟くように肯定。


「勇者だけじゃなくてイーアンも、因縁か」


「いいえ。直接関係ありません。でも、龍の因縁ではあります」


 ダルナは視線を外し、『またね』と黒土の香りを残して掻き消える。イーアンもすっと息を吸い込み、めいっぱい吐き出して髪を振り上げる。



「『煙い』やつか。始祖の龍を怒らせて、勇者を二度も唆したサブパメントゥ。代替わりしていそうだけど、三代目はお前の思うとおりに行かない。ドルドレンも、私もだ。首洗って待ってろ」


 空中から地上を見下ろして宣言したイーアンは、カーンソウリーの方角を少し見つめてから、黒い船アネィヨーハンへ戻る。薄曇りの向こう、日は、中天を過ぎていた。



 *****



 船に入ったイーアンは、真っ先にオーリンの元へ行き、食事もせずに部屋にこもる彼に・・・聞いたばかりの『計画』は話せないものの。

 まずは、龍気の膜で室内を包み、それから、いろいろと真綿に包んで事情を伝えた。



 とても複雑そう見えるオーリンの反応に、心配でドキドキしたが、思っていたよりもオーリンは受け入れるのが早く、話が終わって数十秒黙り込んだ後『そうなのか』と額を掻いた。


「俺は、ニダがもう。チャンゼみたいに乗っ取られたと。勘違いか」


「ええ。あの、現場にコルステインがいらしたでしょう?ニダを敵に操られる前に、守ってくれたようで」


 ダルナのことは伏せて話した。カーンソウリーへ行く道で、コルステインの話を聞いたことにし、『ニダの意識が戻らないのは、まだコルステインが落ち着かせているから』であり、チャンゼさんがいないことを知ったら心に辛いし、イーアンも今はそれでいいと思った、など。



「うん。そう、そうか。それで、コルステインは『ニダが生きている』としか答えなかったんだな」


 難しい説明や返事をしないコルステイン、その認識はあるため、オーリンは両手で顔を覆ってグッと拭う。


「はー・・・俺は。イーアンに『ニダを消してくれ』なんて、とんでもないことを頼んだな」


「オーリン。私は消さなかったと思います。本当に一触即発の危険でもなければ。もう、この話は終わりにしましょう。そうはならなかったのだから」


「有難う」


 ベッドに横並びで座っていたオーリンは、腕を広げてイーアンを抱き寄せ、イーアンも抱き返して『安心して』と背中を撫でた。オーリンの顔に表情が戻ったのも良かった。


「イーアンはこれから『祈り』を聞くのか」


 はたと思い出し、体を起こしたオーリンが尋ね、イーアンは頷く。昼は過ぎているが、何か食べてから行けよと、労うつもりでオーリンは彼女を立たせて一緒に食堂へ行った。



 そして。食堂でタンクラッドとミレイオに会い、彼らにも報告し、ミレイオに主食の揚げ生地をもらって食べる間・・・二人が話していた内容を聞いたイーアンは。


「今日、完成させられそうですか」



 どっちが先か――― それは過った。


 『お祈り』を一人でも多く聴かねばいけないが。でも、一人でも多く、自らの身を守り生き延びる道具を作る、完成間近と知っては。


 タンクラッドは返答を口にしなかったが、同じ色の瞳を見つめて、口端を上げた。

お読み頂き有難うございます。

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