2737. 三十日間 ~⑧『呼び声』舟歌・トゥの記憶・触発効果・『燻り』材料の続き・ラファルの体
※確認が間に合わず、もしかすると変な所があるかも知れないので申し訳ありません。早めに確認しますので、どうぞ宜しくお願い致します。
タンクラッドが、ピンレイミモアミュー島に帰したばかりのサンキーを訪ねている間。
近づく面倒を感じたトゥは、島から続く岩礁へ移動し、岩礁の海中で止まった相手に尋ねる。
『消されに来たか』
来たのは、サブパメントゥ。タンクラッドの仲間のサブパメントゥとは違う、滲む黒々した雰囲気。まとめて倒した日以降(※2704話参照)、船近くで動きのなかったものが、俺を追ってきたか。
『この前はいきなり攻撃されたが、今日は大人しい』
話しかけたサブパメントゥは一人で、海中の影にいる。トゥの心眼に映った相手は、音でしかない。姿があるのに本質が音。だがこれは些細なこと。この前の話を出したのであれば、こちらの攻撃に晒される前に逃げたのか。
『今は、お前の様子見で放っておいてやっている。無暗に俺たちを殺すからだ・・・お前の罪を消してやれないと、俺は言ったが』
ここでトゥは気付く。あの日、最後に話しかけた奴がこいつかと思い出す。すっかり忘れていた。なぜこうも緩慢に構えていられるのか、鈍いのか考えなしなのか、分かりにくい相手はよく喋る。
『罪は消せないが、繋ぎ止めるとも伝えた。ザハージャング』
トゥが面倒臭くなって、消すかと畳んでいた翼を開いた途端、歌が始まる。無視するだけの行為のはずが、なぜかトゥは動きを止めた。
聞く価値があるわけないのに、その歌はどこかで聞いた歌で・・・・・
音で出来上がっているらしきサブパメントゥは、彼らの古い言葉で歌い続け、トゥは言葉ではなく、籠る思いを読み取って理解するが、なぜこれに意識が向くのか―― 思い出せない。
銀色の双頭が、身動きを止めて聴く様子に『呼び声』の顔は、してやったりと歪む。
歌を途中で止めて『ザハージャング。お前が自分を思い出すと思った』と、狙い通りのような一言を告げた瞬間、海中の色が真っ赤に変わり、炎に包まれかけ慌てて逃げた。
倒しはしなかったものの、追い払ったのは感じたので、トゥは首を少し傾げた。大した敵でもないのに、鬱陶しいことを・・・ フンと鼻を鳴らして岩礁を離れ、目の前のピンレイミモアミューへ戻る。
タンクラッドはまだ出てこないので、例によって、話が脱線しているのだろう・・・いつものことだから、暫く帰りを待つ。
「あの歌」
トゥは、つい耳を傾けた歌を、もう一度脳裏に繰り返す。疑問がじわじわと覆う。
『ミット スロットゥエ サーブパメン
ウォルテミネグ ウンドゥ サーブパメン
ミンヴァィエド イーニガ ブロニエ・・・・・ 』
この始まりから、短い呪いの詩へ続いた。
『俺の城はサブパメントゥ 俺の門はサブパメントゥ 俺の道は井戸の内側
大地の下に巣食う蟻より深く 燃える岩の上より涼しい
空を奪った龍たちよ 世界を見下ろすその目を潰す
お前の声は俺を焼く お前の爪は俺を切る
龍の喉を引き裂いて 鱗を焚いて祝う日が来る
その時 俺は光を物ともせず 龍は山に突き刺さる』
こんな思いを、延々と繰り返す歌。
龍を呪う、龍にやられた後に作られた詩に感じる。思うに、この世界の始まりで対決があった、その時代のものだろうが―――
「俺は、これを知っている気する」
呟いた双頭のダルナ。トゥが、『呼び声』の舟唄を知る訳がないのに。
『呼び声』は、癖のように舟唄を口ずさむ、この歌から生まれたサブパメントゥで・・・
アイエラダハッドでも気分が良い時によく歌い(※2321、2370他話参照)、つい最近だとラサンを襲わせる魔物誘導でも歌っていた(※2555話参照)。ただ、いずれの場面でも、最初から最後まで誰かの耳に残ることはない。意味も無論そう。
それなのに。『双頭の龍』と思い込み、触発しようとしたサブパメントゥの、その歌を聴いたダルナは反応が違った。
最初から最後までしっかり理解し、どうしてかざわついた。いつだったか聞いたことがある、とまで感じた不思議。
単に『双頭の龍』に、サブパメントゥの味方であることを思い出させようとしたのだろう。その陳腐な目論見には反応しないが・・・違う意味で触発は叶った、とトゥは思う。
「なぜ。俺の記憶が知っているんだ」
自分の遠い遥か昔に問いかける。あの歌は。俺がこの世界に来る前に・・・聞いた歌ではないのか。
俺が、恐れられた二つ首として、存在した時代に。
*****
タンクラッドが、使い古して畑にあった『殻』を手に、トゥのいる岬へ戻る頃。
サブパメントゥの闇の塒で、『呼び声』の紺色の目が何もない天井を見つめていた。
この日。ラファルに何が起きたか調べに行き、死にぞこないの魔法使いの結界で、近寄れなかったものの―――
ふと、結界が弱まった。
リリューが来たからだと分かったので、逆へ周り、距離を置いた。すぐに逃げなかったのは正しい判断だった。
リリューに流れた、魔法使いの会話が聞こえ、ラファルは人間の状態と知る。なんだと?と驚く続き、あの大陸の話が続き、ザハージャングも大陸に・・・ここまで聞いて、急に遮断された。リリューがこちらに気づいたので、余計な力を使わずにその場から出た。
ラファルは、何が起きたか、人間になっていた。まず、これがはっきりした。人間になったところで、俺の技が外れる理由にならないが、現に外れて、もう使い物にならない。
あの大陸に関与した変化か違うのかは、よく聞き取れなかった。会話途中から、俺がいることを気づかれたかもしれない。次に出た名前は、ザハージャング。
分かったのは、ラファルが技を外して人間になり・大陸に関係し・ザハージャングも同じように関わる、この三点。
ザハージャングが、意識を持って喋るとは思わなかったから、やつが反発して攻撃まで行うのは予定外で、少し様子を見ていたが。あの大陸に使われるにおいがするなら、少し引っ張っておくかと近づいたのが、今日のついで。
『歌は、どうやら気に入ったと見えたが』
攻撃する手を止めて、黙っていたのを思い出す。歌をやめた途端、正気に戻ったように攻撃しやがったが、思ったよりも効果ありの反応に、まずまずと『呼び声』はほくそ笑む。
『お前はサブパメントゥ用に在る龍だ。これからもたまに子守唄を聞かせてやろう』
少しずつ、思い出せよと・・・意外な収穫に、不満はなかった。
*****
せっかく来てやったのに。
『燻り』は龍だらけの家に、苦い顔をして背中を向けた。
材料はあるのに、剣がない。僧兵に材料だけ渡しても、実験させられないじゃないか、と悪態をついて、白い龍の鱗で守りを固めた忌々しい島から出て行く。
入る隙間もない、近寄ったら龍が牙をむく、あんな場所。先手を打たれたと、それだけは分かるが、ああも守られた中に居る人間をおびき出すのも、こっちが不利で。
「もういい。これでどうにかしろと、僧兵に放りゃいい」
剣はあっさり諦めた『燻り』。
一ヶ所に留まるだけでも、コルステインがしつこく嗅ぎ付けて追うから避けているのに。その上、僧兵が欲しいってそんな程度の理由で、この身を危険にちらつかせるなんて馬鹿げている。
「お前一人じゃ、到底手に入らない代物だ。これで結果出せよ」
動力は同じやつ手に入れたんだし、俺は優しいよと・・・自分を褒めながら、煙のサブパメントゥはピンレイミモアミュー島を離れ、ティヤー北西の修道院址へ移動―――
日がな、することも限られるあの僧兵に会い、動力と黒い塊を渡す。
人の頭くらいの不定形な固まりを差し出され、驚いた僧兵が見上げた目を見下ろし、『剣の材料』と素気無く説明を終える。
え、え?これですか?これではちょっと、と困惑する顔に、『剣がねぇんだよ』だからそれで・・・放っぽる形で押し付けて、結果を出すよう命じ、あからさまに戸惑う僧兵を帰した。黄色い煙は、木の洞の深い影に吸い込まれ、『燻り』は人型動力のある製造室の一つへ向かう。
「この国以外で動き回ったら、消されても知らねぇよ、と。あの黒い精霊が先に教えたからってのも・・・あるな。なんで人間のついでに、サブパメントゥまで片付ける話が出るのか。あれ、脅しか?サブパメントゥを消す意味がないのに、おかしな脅しだよな。でも、ま。とりあえずは、この国なら良さげだし。
人型動力とやら。動き回すに俺の『燃えさし』を使えば、ちょっとそっとで倒れりゃしない。生きた人間も取り込み始めたら、増殖もする。人間の種付けと一緒だな。
・・・人間の種付けは、二人いないと出来ないんだったっけ。『燃えさし』は一体に取り込んだら、『爆ぜ火』に変わる。すぐ動くから、俺の方が優秀だな。
あの僧兵が動力を邪魔されない手段を作ったら、人型に持たせて。歩き回った後に廃人しか残らないなんてなれば、さすがに出てくるだろう。勇者・・・怖気づいてどこに行ったんだか。お前がザハージャングを用意しないと、あの二つ首ときたら乱心してやがって、とんでもないことを」
ベラベラと。止まらない舌は動き続けて、ドルドレンによく似た『燻り』は、製造所へ到着。
ここを担当するサブパメントゥに様子を聞き、近い内に試すか、と話が盛り上がった。
*****
話は変わり、場所も変わって、時間をこの日の朝まで戻す―――
ラファル、おい。
彼の枕元に片手をついた魔導士は、顔の真上から声を掛ける。何度か呼んでいるが、ラファルはまだ起きず、時々目を開けて表情を見せるものの、それは長く続かなかった。
何が起きているのか心配で、魔法陣で彼の状態を調べても、特に問題はなく思う。リリューに任せて、他の部屋(※別の国の)に置いた書物も見直しに行った。それも関連することは、これと言って見当たらなかった。
『バニザット。ラファルは、ダメなの?』
『ダメと決まったわけじゃない。まだ・・・俺も分からんが、時間が掛かるんだろう』
リリューがずっと心配しているのも可哀相で、宥めながらラファルの様子を見守るのだが、本当に大丈夫かと前例のない今回の試みに、魔導士自身も可能性を考え始める。
メ―ウィックが使った時は、知識を与えただけだった。こうしておけよ、と助言をした後、メ―ウィックはその交流の広さで難なく問題を突破し、晴れて『種族間共通の体』を手に入れた。
つい最近では、ヨーマイテスが子孫(※シャンガマック)の件で話に出したが、その続きはあいつの仲間の人間が使うに至った。それも、仲間が揃う三度目の旅だから、妖精フォラヴと龍イーアンの動きで、あっさり完了と聞いている(※あっさりでもなかったけど)。
「俺は一応。史上最高の魔導士だ(※自負)。手順も間違えていないし、抜かりもない。妖精の力も取り込み済みだ。うまい具合に男龍が作ったとかの壺も入った。サブパメントゥは、水がそれだろ・・・精霊の許可は俺が経由しているから問題ない。
ラファルが体に取り込んだ時、全てが均等に回っていた。人間の状態に寄せるための・・・引っかかるのはここだけだが。しかし、ナシャウニットが『人間が一番近い』と判断したラファルの状態、要素は籠めてあるのに」
ぶつぶつ呟き、眉根を寄せて煙草を出し、一服。リリューと目が合い、物凄い心配している顔に固まり、『一度戻ってろ』と気遣う。
失敗したと思われていると分かり、いい子だから帰って待っていてくれと頼むと、暫く悩んだ後、リリューは『起きるしたら教えて』と離れて行った。
「参ったな。俺がやっちまった、と不安になってる。リリュー、それはない。俺に限ってそれはないんだ。が(※微妙)。これは・・・どうしたもんかな」
ふーっと吐いた紫煙が揺らいで、魔法陣の明かりをくぐる。ラファルは一日、何度か目を開けるにせよ、それも薄っすらで儚い。まるで力が入らないような、そんな風に見えた。唇は乾いて固そうな皺がくっきりと入り、息はか細く、目を開けるだけで精いっぱい・・・・・
「ちっ。あいつに見せたら、余計なこと言われかねんが。ラファルがこのままの状態ではない、とも言いきれない。呼ぶか」
失敗ではないはずだ、と自分の落ち度が分からない魔導士は、動かない体の可能性も案じ始め、結果を伝えるためにイーアンを呼ぶことに決める。
ラファルに海の水を施した夜から、一日半経過。
結果を待たせるには、もう限度だろう。このまま様子見を続けるなら、イーアンは心配でどうなったかを聞きに来る。
昼近くの時間に呼び出して、来るかどうかはさておき。
だが、イーアンは即、応じた―― そして思わぬ見落としの指摘を受ける。
「食事は?水は?」
話を聞いて部屋に案内されたイーアンは、ラファルを見るや、開口一番そう言った。
お読み頂き有難うございます。
今日は文字を目で追っても長い文章に理解が続かず、確認がきちんとできませんでした。脳の状態が落ち着いたらすぐに確認します。いつもこんなことで申し訳ないです。
いつも来て下さって有難うございます。
いつも励まして下さって有難うございます。心から、感謝して。




