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魔物資源活用機構  作者: Ichen
面と自由と束縛こもごも
2731/2956

2731. 三十日間 ~②別行動:バイラ情報、不穏の『丸印』

※昨日のご連絡で、「明日の投稿をお休みします」と書いたのですが、明日は投稿し、11日の投稿をお休みします。どうぞよろしくお願い致します。

 

『その影に精霊がいるよう』―――



 増えているサブパメントゥのみならず、バイラは厄介な雰囲気を伝える。


「精霊が」


 ひそっとシャンガマックも繰り返す。聞き逃せない一言。たった今、自分が仕事で取り掛かっていることでは?と漆黒の瞳が警護団員を見つめた。


 バイラは、薄切り肉と炒め野菜を巻いた平焼き生地を半分齧って頷くと『そう感じる』と短く答えてから、冷たい茶を飲む。


「バイラさん。テイワグナに於いて精霊がそんな・・・言いにくいでしょうが」


「ええ。言いにくいですね。私は好みませんが、しかし報告はします。私も()()()()()()ですから」


 ニコッと笑った責任感の強い彼に、シャンガマックは詳細をここで聞いていいかを少し迷い、『場所を変えますか』と通りをちらっと見る。バイラもそうしようと思っていたらしく、食べ終わったらと了解した。



「私も、呪いの集落へ行かなかったら(※1336話参照)、はっきり()()とは思わなかったでしょうね」


 食べ終わったバイラが、木製の簡素な椅子を引いて立ち上がり、シャンガマックもごちそうさまを伝えて椅子を立つ。あの経験で・・・と話す彼に、やっぱり呪いの集落関係だと思いながら、食器をカウンターへ戻して店を出た。



 青毛の馬の手綱をほどき、バイラはシャンガマックを乗せると、『私も乗って良いですか』と尋ね、驚いた騎士が『もちろんです』と鞍の後ろに下がる前に、バイラは彼の後ろに乗る。


「ええ?俺が後ろでも」


 振り向いて恐縮する騎士に、バイラは笑って『気にしないで下さい』と手綱を預けた。


「その代わりシャンガマックに手綱をお願いします」


「全然、そんなの良いですけれど!でもすみません、バイラさんの馬なのに」


 二分前の緊張が消えて、苦笑する騎士は馬を出す。バイラが背中で行先を指示し、シャンガマックはバイラと二人乗りでポクポク、馬を進めたが、路地から路地へ抜け、閉まっている店が目立つ通りに入ると、バイラが『走らせて下さい』と頼んだ。


「どっちですか」


「進行方向です」


 はい、と答えたシャンガマックが手綱を軽く振る。バイラの馬はすぐに応じて駆け出し、人も馬車も少ししかいない通りを・・・首都を囲む森の方へ走った。



「バイラさん。何かを振り切っていますか」


「そうですね。大した相手ではないですよ。あなたが資料館に入っている間に来ました」


 誰ですと振り向く褐色の騎士。その目はバイラより後ろを気にし、バイラは『多分、貴族では』と囁いた。両眉をひゅっと上げたシャンガマックが『きぞく』と繰り返し、意外そうな瞬きをする。すぐに前を向いて『これから入る森は、貴族の敷地ではないですか?』と心配そうに聞いた。


「入りますが、彼らの私有地ではない道を通ります。ちょっと早い方が巻ける、と思いました」


「貴族の・・・なぜだろう」


「シャンガマックが来たからでしょうね」


 俺?とまた驚き、肩越しに事情を頼むシャンガマックに、前を見て下さいと笑ってお願いし、騎士は慌てて前を向く。馬は首都の外れから囲む豊かな森を走るが、道沿いに貴族の家はない。館から道に出るまではゆったり広さを取ってあるため、走り急ぐ馬を見る目の方が少ない。


「シャンガマックは()()()()()し。本部付近は、オーリンの知り合いの貴族の人が、お店も連絡網もたくさんあるため」


「ああ~・・・パヴェルですね!それでか、俺が来たからオーリンもいるかと」


「多分、他の皆さんもいるんじゃないかと偵察が来たのかもしれません」


 ロゼールが来てもこういうことはあると教えてもらい、『多分、貴族ですよ』と教えたバイラに、シャンガマックは『困った人たちだ』と笑った。バイラも笑っていて『うっかり秘密の話も出来ません』と答え、ここで気が引き締まる。


「もう少し先に行くと、道を横切る道に出ます。そこをずっと左へ行けば、見晴らしが利く空き地に出ます。まだ復興作業が進んでいない所なので、私たちに近づく相手がいたらすぐ見えますよ」



 ということで。バイラと二人乗りのシャンガマックは『サブパメントゥと精霊』の話を聞くため、馬を走らせ続け、がらんとした空き地に到着。すぐに馬を休めて下り、馬を撫でて礼を言った。


「俺は重いから。走らせてごめんな」


 強い馬だと知っているが、馬も息切れ。バイラは馬をよしよししてから『逞しいのですぐ回復する』と騎士を安心させると、周囲に点々と植樹がある程度のだだっ広い空き地を見回し、シャンガマックに視線を戻した。


「では私の情報を」 「待った」


 話そうとした矢先、褐色の騎士が止めて、呪文を呟く。二人と馬を包む半球の結界がふわっと現れ、それはすぐに見えなくなった。あ、と喜んだバイラに、シャンガマックは『目立たないようにした』と微笑み、これで安全と、話しを促す。


「久しぶりに結界を見たから、感動しています・・・でもそれどころじゃないですね。

 私がサブパメントゥの増加を知ったのは、各地から荷が襲われる報告を受け始めた頃でした。また、国中を移動するロゼールも、行った先で被害状況を見聞きすると教えてくれるので、サブパメントゥが偶然、人を襲ったり荷物を奪ったりしている訳ではないと分かりました」


 魔物製品は、イーアンやタンクラッド及び、イーアンが作ったナイフで聖別されてから、工程に移り制作されるが、聖別された物質自体はサブパメントゥに影響がない。あくまで魔物の要素を抜いているに過ぎず、サブパメントゥも荷箱ごと運べる。


 何故、魔物製品を盗るかは不明だったが、どっちみち良くない方向にしか思えず、バイラは報告を受け取る数が増えてきたために、これを他の資料と別にまとめた。


「それで気づいたんです。テイワグナはどこでも精霊を祀るものですが、サブパメントゥの目撃や被害情報が多い地域に、なぜか古い精霊の祠や岩戸が」


「どこです」


 シャンガマックが遮る。バイラは頷いて、腰袋から紙と炭棒を取り出すと、ささっとテイワグナの地図を描き、『ここと、ここと・・・』丸印を付けては地名も教え、地名の意味も教えた。それは現テイワグナ語ではなく、まだテイワグナの言葉が地方で違った時の名残。


 シャンガマックはバイラの教えてくれる場所をじっと見つめて、まだ行っていない所だと分かった。


「確信とか、バイラさんにありますか?」


「私が確信しても当てになりませんが、ない訳でもないです」


 確信=精霊がサブパメントゥと絡んでいる、何らかの共通点・・・ バイラは丸を付けた一ヶ所に炭棒の先を当てて、『ここは比較的首都から近いんです』と前置きし、その方角へ視線を向けた。


「出張で近辺まで出た時、寄って来ました。私の剣は、精霊が作った剣ですから(※1233話参照)精霊には反応します。祀っているということは大体、精霊が側にいるはずなのです。もしも、祀られている所にサブパメントゥが居たら変ですよね?彼らは接触できないと、私は覚えているので」


 バイラの言いたいことがピンと来て、シャンガマックが頷く。先を続けてと急かす騎士に、バイラは『でも()()んですよ』と簡潔に答えた。目を瞬くシャンガマックに、『居たんです』ともう一度繰り返す。


「このくらいだったかな・・・私の背より少し高い木柱が精霊の祠を囲んでいたのですが、そこにサブパメントゥが腕を当てていて、私が来たら振り返りました。人の形ではなく、幾つも腕がある鳥のような姿で、濃い森林の影に立つ柱、その影にいたんです。私が近づくとそれは消えました」


 絶対サブパメントゥだ、と感じたバイラは、祠の側へ行き、柱に奇妙な模様がけばけばしい色で描かれているのを見て、何だこれはと、祠自体も調べようとしたが、祠を囲む溝があり、何もなかった溝に黒い水があっという間に溢れて―――


「それで?」


「精霊の剣が光っていました。間違いなく精霊ですが、私を威嚇したのだと感じ、私は離れました」


 何で?と一瞬問いかけたくなったが、はたとシャンガマックは理解する。そうだ、バイラさんは信仰深いから・・・それ以上は荒らさない方を選んだのかと尋ねると、彼は肯定した。


「私が確認したかったことは、そこで完了しています。恐らく他もそうだろうと勘が告げました。被害報告の出た地域・古い精霊を祀った場所の共通点がある所を、仲間にも尋ねてみたんです。

 その近くの出身者が数名、警護団にもいて、やはり溝があるのは同じでした。木柱は石の柱の場合もあるそうですが、異口同音で『曰く付きの精霊の伝説・民話・昔話』付きです」


「それが、この。バイラさんが描いてくれた地図の」


「丸印です」


 シャンガマックは息を吸い込む。地図を貰って良いか訊き、当然ですと渡される。


「今も被害届はあるんですよね?」


 地図に目を落としながらシャンガマックが困ったように呟くと、バイラは少し考えてから首を横に振った。


「最近は・・・本当に最近ですが、間隔があいている気がします。少し前まで、本部に来る被害届や紛失相談は三日置きくらいでしたが、一週間以上来ていない」


 たまたまかも知れないけれど、とバイラが続けたので、シャンガマックは『細かい情報は大切です』と頷いて了解する。一週間以上、それは自分がヨーマイテスと確認したサブパメントゥ奥地の頃だと、過った(※2687話後半参照)。



「その内、ロゼールに教えようと思っていました。彼は忙しいので別の用事を増やしたくはないけれど、これは皆さんの耳に入れた方が良いのでは、と。シャンガマックが仕事で偶然来てくれて、本当に良かったです」


「・・・バイラさん。俺の仕事は、()()()()()です」


 答えたシャンガマックの真っ黒な瞳を見て、今度はバイラが驚く。これ?と騎士の手に渡した地図に人差し指を向け、頷かれて地図を二度見。


「じゃ。知っていらしたんですか?」


「そうではないんです。精霊が呪いをかけた地域を回って・・・うーん。バイラさんだから、喋っておくか(※嘘つけない人)。バイラさんなら他言しないものな」


 何やら一人で納得したシャンガマックは、ちょっと考えたらしいが、なぜテイワグナに来ているのか、そして今、世界がどんな状態にあるかを―― 人間の淘汰も含めて ――彼らの忠実な友・警護団員に打ち明ける。


 バイラはとても緊張した面持ちで、一言一句聞き逃すまいとした姿勢で真剣に聞き、淘汰と知って目を瞑った。



「呪いの地にもしかすると、サブパメントゥと絡んだ精霊も、いるかもしれないんですね」


「そうです」


「そして、あなたがテイワグナ決戦で最後の最後に、誘導してくれた精霊の『檻』・・・他の種族の『檻』も確認しに。それはサブパメントゥの危険を警戒して」


「はい(※全部喋った)」


「バサンダは、今尽力していると」


「明日くらいには見に行きます(※これも話した)」


 はー、と辛そうに目を閉じ、黒髪を両手でぐっと撫でつけたバイラは、『なんてことだ』が話を聞いた最初の一言。


「でも。仕方ない。ティヤー人が悪いわけでもないでしょう。人間全体の質を問われて、私たちが消えるなら、それはもう」


「俺は思うんですが、バイラさんは古代の海の水を潜ったから、大丈夫じゃないですか」


「え」


 目が合って、シャンガマックは小刻みに何度か頷く。でも、分かりませんが、とまた撤回するあやふやな発言に困りながらも、言われてみたらそうかも、とバイラも少し希望を見た。


「決戦のあの日・・・白い洞窟の精霊ウェシャーガファスが、私の体の傷を治して下さったんです(※1688話参照)」


「あ。じゃ、()()大丈夫だ」


 けろっとあやふや撤回の騎士に、バイラは複雑ながらも『だと良いんですが』と遠慮がちに可能性を見出す。


『でも、私だけ無事でも。仲間も人々も』と続け、シャンガマックも同じ表情に変わる。そうなんですよ、だから俺も焦っていて、と二人は少し淘汰回避願いを話し合い、それから。



「バイラさん。貴族の追手には、結界も俺たちも見えていません。外に誰もいないから、出ましょう」


 話が詰まって、息も詰まって、重い空気を終わらせるように、帰ることにする。そうですね、とバイラは了解し、シャンガマックに来てくれたお礼を言うと、シャンガマックは『またテイワグナに居る内に会いに来る』と約束した。


 清々しい笑顔の褐色の騎士に、バイラは深く会釈し、無事を祈ると共に『いつでも待っています』と返事。


 結界をほどいたすぐ、シャンガマックの頭上に現れた巨体の・・・白と灰色に目を丸くしたが、『現在の仲間の一人』と騎士が笑って、その首に飛び乗り、手を振ってさよならするのを、ポカンとして見送った。



「あなた方が、決して負ける気がしない。前も思ったけれど、世界にだって負けない気がします」


 バイラの呟きはテイワグナの乾いた熱風に攫われる。青毛の馬は回復しており、バイラもその背に乗って本部へ戻る。道を変えて本部へ帰ったすぐ、すれ違いで本部裏から、自分たちを尾行していた、やけに小奇麗な馬と乗り手が出て行くのを見た。


 ふと。貴族がああして、自由に闊歩しながら呑気な動きを取っている今を・・・嵐の前の静けさと言おうか、平和な日常の一端と言おうか。このままどうか、人々が呑気で。無事を祈る―――

お読み頂きありがとうございます。

11日の投稿をお休みします。どうぞ宜しくお願い致します。

どうでも良い理由なのですが、私の誕生日で~ 猫と静かに過ごそうと思います。


いつもいらして下さって、本当にありがとうございます。いつも励まして頂いていることに、心から感謝しています。

今日も寒いです。地域によっては凍って冷たい空気だと思います。どうぞお体に気を付けて、無理なくお過ごし下さい。

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