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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二色の鳥の島
2710/2957

2710. シャンガマックの業務『呪い巡り』・十二色の海へ・ルオロフからの前置き・ドルドレンと空の海

 

 シャンガマックは、『俺が行こうか』とイーアンの代わりを買って出る。

 自分の魔法で癒しは行えないが、()()()を持って行けばどうか、と。



 少し呆気に取られたイーアンは、『ええと。ルオロフとタンクラッドが異時空から持ち帰った水?』繰り返しながら、そう言えばシャンガマックも精霊島にいたんだった、と思い出す(※2595話参照)。

 騎士は『まだありますよね?』とタンクラッドに確認。頷いた親方に頷き返し、また女龍に視線を戻した。


「イーアンはいつ、必要とされるか分からない。あなたの代役はいない。俺は()()()()()動けるんだ。父と、ファニバスクワン・・・ダルナと話したのもある。

 バサンダの、回復と安否を見守るに付き添う役だけであれば、俺でも可能だ」


「シャンガマック」


「問題ない。父も多分、これは受け入れるだろう。バサンダには『恩』もある」


 ここまで忘れていたが、この一言で、ミレイオが真っ先に気づく。『恩』とは、バサンダから受け取った獅子面だと。


 恩と呼べば響きは良いが、彼はあれで禁忌を犯すに至り、そして仮面は失った(※1996話、2017話参照)。


 表現を悪くはしたくなかった騎士の配慮を感じ、ミレイオは『そうか』と彼に呟く。シャンガマックの黒い瞳はちらりとミレイオを見て、寂しそうに微笑みを返す。

 イーアンたちも理解して、シャンガマックは何かの形で、償いや心残りを払拭したいのかもしれないと、互いの目を見合った。


「良いんじゃないのか?イーアンは、難しい立場だ」


 くっと首を傾けた親方が、褐色の騎士を見る。オーリンも背凭れに寄りかかって『ダルナと一緒なら安全だろうな』と彼が出向する方へ賛成。


()()はないと思うんだ。父も必ず、俺を見に来るし」


 シャンガマックは言葉を挟み、ちょっと視線を茶器に移してから、揺れる茶の輪を見つめて『()()()()話もした後だ』と声を落とした。


「そういう話?」


 イーアンが拾った言葉に、褐色の騎士は『今から報告するつもりだった』と視線を上げる。


「俺は、拘束中であるに変わらない。父も」



 それ前提で切り出した褐色の騎士は、朝食の終わった食卓を囲む皆に、自分が何をするかを伝えた。


 話を終えた後、しんと静まり返った場でシャンガマックは少し考えてから『本来の理由は俺の知るところではないから、俺が答えようもない』と、質問を断るように椅子から腰を上げる。微笑んで通路を指差し『部屋にいます』を挨拶に、食堂を先に出た。


 皆は、彼が食堂を出て行くのを黙って見送る。

 イーアンがおばあさんから絵を受け取ったら、テイワグナへ出発するとシャンガマックは最後に話し、それまでは船に居る予定。要は今日一日は、いる。



()()()()


 呟いたルオロフに続いて、女龍は『なぜ』と大きく息を吸い込むと、大きな溜息を吐き出して、目を閉じた。


「ファニバスクワンは、どうして彼にそんな危ないことを」


 イーアンと同じように、皆も疑問。オーリンは女龍に、話の利点だけをもう一度繰り返した。


「シャンガマックも、事情は聞いていないんだろ?でもそれで、シャンガマックたちの拘束期間が()()()()()()もあるから、彼は引き受けたわけで」


「ここまで一緒にいて、まだ拘束中って言うのも・・・ 何が何だか」


 かちゃっと空き皿を重ねるミレイオの手が、少し苛立っている。隠されているままのことが多いわ、とミレイオは歯に布着せない。


「あの子は確か、相当な期間を閉じ込められる予定だったと聞いたけど。でもドルドレンが話し合いして、『彼が必要を求められたら、拘束は短縮される』ことになったのよね(※2017話後半参照)。その理由も、譲歩や妥協や憐みではないようだし、精霊の思いを探る気はないけれど」


「ミレイオ。やめておけ」


 文句の止まらなくなる友達を、タンクラッドの低い声で制し、明るい金色の瞳が睨んだ。


「相手が精霊だ。どこで聞いているか」


 鳶色の視線が左から右へ弧を描くように動き、首を横に振る。イーアンもそれを思うから、黙っているが・・・ シャンガマック一人というのが、ちょっと信じられない。ホーミットは間違いなく反対しただろう。でも彼も、大精霊に退けられたのだ。


 シャンガマックは命じられたのではなく、『引き換え条件』を提案されている。彼には交渉権があったということだ。精霊は、シャンガマックにどうするかを考えさせた。



「精霊が呪ったままの場所を・・・探して巡って、()()()()()()です・・・よね?」


 ちょっと遠慮気味に、『確認止まりで手は出さない』ことを強調する窺うルオロフの質問は、誰に問われたわけでもない。さーッと見渡す薄緑の瞳と視線を合わせた職人たちは頷いて『そう言っていた』と認める。


()()()()ね」


 ミレイオが付け足し、イーアンは首を傾げる。『疑問いっぱい』を遠慮なく表情に出す女龍は、言いたい事を押さえ込んでいるが、やはり口を衝く。


「一人ですよ。彼」


「ダルナがいる」


「そうですけれど」


「ついて行かないだけで、ホーミットは毎日見に行くというし」


「そうですけど、って。でも実際、行動は彼一人で」


「イーアンも、そこでやめておけ」


 イーアンが口にするたび、叩き落とすようにタンクラッドが返し、言い返しを止めないイーアンをぴしゃっと押さえた。


 ミレイオとイーアンが、揃ってタンクラッドをじっと見る。親方は腕組みしていた片腕を伸ばし、空いた器に冷めた茶を注ぎながら『バニザットは、確認して回るだけだ』と繰り返した。



「精霊が人間を呪った各地を、バニザットが状況確認で回る。それだけ、なんだ。世界中が対象であっても、『現在の状態』を確認しても、手を出すわけじゃない」


 茶を口に運び、鳶色の瞳が全員を見渡す。彼自身も、それで終わるように願う口調だった。



 *****



「明日だな」


 おばあさんが絵を用意しておくと言ったのは、昨日で言う明後日。明日のこと。


 オーリンは朝食後、イーアンに明日行けるよう()()()()()くれと頼み、イーアンもそのつもり。


「今日はどう動くのか、決まってる?バサンダに『人間淘汰で異時空へ』の話はしていなさそうだったが」


 気づいていても突っ込まないでいてくれたオーリンは、食堂を離れた通路で少し背後を気にし、歩きながら『タンクラッドも気づいているだろうけど』と耳打ちし、イーアンは溜息を吐いた。


「今日の予定は、これというのはなくて・・・告知のことで、ルオロフが後で私に話があるようですから、それを聞いたら調べ物に行こうか、とは思っています。人間を逃がす異時空なんて、誰が知っているか分からないし」


 調べ物する先・・・は、イーアンには今のところ一つだけ。『イーアンの城』くらい。

 誰に聞いて分かる話でもないし、過去の記録でもないかも知れないけれど、書庫はこれまで何度も頼りになった。でも書庫についてはオーリンに言えないので、濁す。


 言葉を止めて黙るイーアンを見つめ、オーリンはちょっと笑う。


「ルオロフの、君にだけの話はまぁ」


 何を誤解したのか少し笑った弓職人に、イーアンは『ちゃんとした内容ですよ?』と見上げる。オーリンは『あいつはいつも、君に小さいことまで伝えたがる』と軽く往なし、それから『少し出かけないか』と誘った。どこへ?と聞くと、オーリンは上を指差す。


「空?」


「空は空だけど。上から見てみる」


「上って?いつも見ています」


「アマウィコロィア・チョリアの海、しっかり全体を見たことがあるか」


「・・・ない、かな。その余裕がなかったかも」


 女龍の返答に頷いたオーリンは、『十二色の海かどうか、晴れているし、見に行こう』と言う。それは見たいけれど、()()()()()と、イーアンは思わなくもない。

 それを感じたか、オーリンの手がイーアンの肩を掴んで振り向かせる。いきなり掴まれて、何?と眉根を寄せたイーアンに、オーリンはちょっと背を屈めた。


「バサンダは、海の色について何か言ったか?」


「はい?いいえ、特には」


「彼は十二の面を作ったらどこに一並べにするか、それは」


「え?だからそれは、さっき話したけれど、バサンダも知らないから」


「見つけに行こう」


「博物館ではなくですか?古い話を調べるなら」


「イーアン、君はそんなに鈍くないはずだ」


 何を、とイーアンが困って笑うと、真剣な眼差しの黄色い瞳は、一層近くに寄せられる。女龍の顔の真ん前に、オーリンの猫のような黄色い目が覗き込んだ。近い、とイーアンが注意する。



「博物館で何を聞いたんだ、俺たちは。妖精が守っているかもしれないとイングは言った。博物館の館長は、稲妻と森の話をした」


 だから・・・?とオーリンは瞬き一回。イーアンは肩を掴まれて覗き込まれたまま、ちょっと仰け反って『妖精の色ですか』と問答に応じる。


「答えとしては甘いだろ。イーアンはいつも、先頭切って謎を解いたのに」


「何ですか、鈍い鈍いと馬鹿にして。空から()()()()()()()()()って言うの?」


 少し苛立ったイーアンは、言い切ってから口を閉じる前に黙る。その顔にオーリンが少し口端を上げた。


「居場所は、その色だと思わないか」


「決めつけては」


「気配がないかも知れないが、フォラヴがよく話していたように、妖精同士が側に行かないと開かない場所かも知れない。もしくは、妖精が認めないと現れない門があるとか。

 ()()()()()を見つけておいて、人間の誰かが出来上がった面を運ぶ。俺たちが出来る手伝いは、行先と入り方を調べるくらいだろ」



 何でオーリンは、こんなことをいきなり言うんだろう――― 


 時々、イーアンは彼が変に鋭くて、不思議に思う。でも、こう話す時のオーリンは、野生の勘でも働いているのか・・・大体、大当たりするのも事実。


 じっと見つめ返したまま、何も言わない困惑する女龍に、オーリンはクスッと笑って、屈めていた背を戻す。


「俺は君のお手伝いさんだ。めっきり奉公の回数は減ったが、たまには案内もしないと」


 そう言って、不思議そうに見上げるイーアンの背中に手を添え『飛べばすぐだ』と甲板へ促した。


 イーアンはこの後、お手伝いさんの意見がやっぱり・・・正しかったと知るのだが、その前に―――



 *****



 甲板に出てすぐ、ルオロフが後ろから呼び止め、イーアンは翼を出したところで振り向く。

 ルオロフは、オーリンの龍が既に降りてきているのを視界に入れながら、急いでイーアンに教えた。


「あなたは忙しい。だから、言える時に伝えたい」


「はい。何でしょうか。でもすぐ戻ろうと思うんだけれど」


「イーアンは、出かけてすぐ戻ったことがあまりないので」


 図星イーアンは黙る。うん、と力強く頷く貴族は、こっちを見ているオーリンにちょっと会釈し、イーアンの側に寄ると『あなたに鳥が集まるかも知れない』と言った。イーアン、目をぱちくりさせて、とりあえず頷く。


「詳細は言えないのですが・・・そう遠くない内に、()()()()()に鳥が。何羽ではなく、何百、もしかすると何千」


「ちょっと待って下さい、その数が一度に?」


「その可能性もあります。だから驚かず、追い払わないでほしいと」


「ルオロフが鳥を放つのですか」


「違います。でも鳥が・・・あなたに、民の想いを伝えに来ると思います」


 ルオロフの一言で、イーアンはハッと気づいた。『私が龍だから』と質問ではなく、確認。はい、としっかり答えた貴族に、鳥が来る意味を理解した女龍が『分かりました』と受け入れる。


 ルオロフは『驚くと思って』と笑顔で困った様子なので、イーアンも『大丈夫』と笑顔で了解し、鳥が来たらその言葉を聞けるように努力すると約束した。


「そうか。鳥と話せるわけではないから」


 ここでルオロフは、盲点(※イーアンが鳥と話せない)。イーアンは急いで『イングがいるから』と、その場合はダルナに頼むことにし、頑張るルオロフに『問題ない』と励ます。


「すみません。気が利かなくて」


「こういうコト多いから大丈夫です。至れり尽くせり事態が運ぶなんて、まずないので」


 ここまで話して、『イーアン、行こう』と背後から声を掛けられ、イーアンは振り向く。ルオロフに『有難う』と礼を言い、イーアンは手を振って甲板を離れた。オーリンは既にガルホブラフで浮上待ち。



 手を振りながら空へ上がる二人を見送った貴族は、『まずは一人』と、ホッとする。


「でもあと・・・11名か。神様はどうにかなるけれど、他の接触はどうしたら良いかな」


 イーアンは身近だから、これで済んだものの。ルオロフは、先に告げておかなければいけない相手を探すのに悩みつつ・・・とりあえず、神様も先に伝えるので、今日は神様のいる遺跡へ向かうことにした。のだが。



「ルオロフ」


 船内に一度戻ろうとした貴族を、銀色のトゥが止める。はい、と振り返った貴族に、トゥの二つの首が波止場を向いた。何だろう?と船縁に行って、下を覗くまでもなく、ルオロフの顔は歪んだ。


「客だ」


「トゥ。私の客ではありません」


「いいや、お前目当てだ」


 え?とダルナを見上げたルオロフの赤毛は太陽に煌めいて、波止場にいた誰かの目についた。


「おはようございます!」


「あ」


 舌打ちこそしないものの、ルオロフは苦い表情を下へ向け、返事をせずに溜息を吐く。歩きで来たのか、ハイザンジェル人の貴族――― シオスルンが手を振っていた。


「ご連絡もせずに、朝早くからの訪問をお詫びします!緊急で」


 叫ぶ男に、ルオロフはもう一回嫌味な溜息を吐いて『あなたの緊急はどうでも良い』と呟き、首を横に振った。


 だがトゥから『話を聞かないと、さらに長引くだろう』と予言めいた忠告をされて、ルオロフは嫌々・・・私だって忙しいのにと文句を言いながら、下へ降りた。



 *****



 同じ頃、空のドルドレンには、ちょっとした展開が起きたところ。



「海である」


「来たことはなかった?」


 イヌァエル・テレンで弟と生活中のドルドレンは、今、目の前に広がる()()()を見つめた。

お読み頂き有難うございます。

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