2706. 船で報告諸々・テイワグナ行き決定・地霊からルオロフへ
☆前回までの流れ
博物館からの紹介で、イヒンツァセルアン島へ出かけたイーアンとオーリン、クフム。三人は田舎町の面師宅を訪ね、龍境船へ乗せてと古い面を受け取りました。事情は面師を継ぐはずだった息子の頼み。息子とはもしや。イーアンとオーリンは気になりつつ、おばあさんと『明後日』の約束をし、船へ戻ります。
今回のお話は、戻ったすぐ。アネィヨーハンから始まります。
船に到着してすぐ、オーリンは『模型船見てくる』と船倉へ行き、イーアンはクフムにお疲れ様の挨拶をして船内へ促し、自分は甲板に残った。何となく、周囲の空気が違う。
トゥは姿を見せていないが側にいる。タンクラッドも船に居る。
夕方前だからか、波止場は少し忙しなく見えた。ルオロフの・・・告知が理由かな、と人々の落ち着かない様子を見つめる。
「イーアン」
「はい」
ふと、上から声が降って来た。今は頭の中で話さないのか、トゥの声に見上げる。姿は見えないけれど。
「お前たちが留守の間に、起きたことを教える」
「はい、トゥ」
考えていたことを読んだらしきダルナに、イーアンはすぐ頷く。端的にまとめられたトゥの報告は、冷静ではいられない内容で、聞き終わるまで質問を我慢するのが大変だった。
訊き終わったと同時、イーアンは『サブパメントゥに喧嘩売ったんですか』と焦ったが、戻った返事はトゥの笑いだった。
『喧嘩というのか?』
『だって』
『違うな。宣戦布告だ』
『うへ~』
女龍の反応が面白くてトゥはまた少し笑い、『お前のように、血の気溢れる龍が驚くか』と変な嫌味を言われる。私と違うでしょーとイーアンは思うが、トゥの取った行動は・・・確かに説明を聞けば、いつかはそうなるし、それが今でも早過ぎはしないのだと理解する。
だけど、急。しかも、コルステインも承知したと聞いては。
イーアンはやることが多い。まだ手付かずがいっぱいあるよ~と頭を抱えたくなる。ドルドレンに託されたアレ(※人間避難先)も探すし、残党サブパメントゥで勇者を狙うやつを押さえないといけないし、魔物退治は当然続行だし、動力人体も片付けないと、なんて考えていたらサクッと止められた。
『俺が勝手に動いたと思うな』
『そうは思っていません』
『急かしているんじゃない。今日は拍車をかけたとしても、いつ始まったか分からないよりマシだ』
『いつ始まったか分からない・・・それは、流れが速まっていると』
『お前は、何でも抱え込む。この世界で無敵の位置だが、やれることは一度に一つだ。順番を見定めるに、今日が開始だと思え。今日から、一つずつ片付けるんだ』
なぜかトゥに諭されて、イーアンはじーっと空を見たまま(※そこらにいると思って)、うん、と頷く。
親方に似て・・・とちょっと思う。
『それと。ルオロフだが』
話が変わってルオロフ。はい、と続きをお願いしたイーアンは、彼が今、誰といるかを知って驚く。
『戻ったら、聞くだろうが。お前は手を出すな』
『はい・・・あの・・・手伝うな、と』
そうだ、とトゥは肯定し、イーアンはソワソワするけれど了解した。先に注意されたのは、ルオロフのためなんだと分かるから。
―――ルオロフが、地霊と一緒にいるなんて。
『誰もが、個別にこなすことがある』
トゥの言葉は、それぞれに課せられた荷を示し、了解したイーアンも船内に入った。
*****
模型船の舳先は、一定の方向に向くのをやめていた。恐らく、お面と絵に辿り着いたから。
トゥとサブパメントゥの話は、親方やミレイオからも聞いた。
ミレイオは、『私まで攻撃されたんだ』と、知った真相に怒っていた(※タンクラッドから聞いた)。
内臓を圧され、背骨から髄を引っ張り出さるみたいな気持ち悪さで、意識もヤバかったし放心しかけて、吐きかけたのよと、・・・ どうもスヴァウティヤッシュの攻撃を、ミレイオも巻き添えで受けた話。それは怒るな、とイーアンも思った。
とりあえず、『ミレイオは妖精の女王にも祝別を受けているし、大丈夫で良かった』と、イーアンは労った。
親方の出かけた報告も聞く。親方は異界の精霊と魔物退治していたが、敵が多過ぎる上に、死霊を思わせる体が気になる・・・とそこを強調していた。
戻らないルオロフについては、トゥがタンクラッドたちにも伝えたようで、『とりあえず無事なら』とそのまま。
ルオロフは告知の後で船に戻ったが、すぐに離れた。
それは彼に知らせる鳥が、船を離れるよう伝えたらしくて、その後で『ある用事』が起きたルオロフが、これを長引くと感じ、船に伝えに行こうとしたところ、トゥが止めて彼は戻れず。
この時、トゥはルオロフの思考を粗方読んだので、彼の現状を知った。
イーアンも報告する。
営巣地の嵐後、コルステインに会って『勇者注意』の報せを受けた後。
空へ上がって休み、夜明けにドルドレンと会って、彼が弟ティグラスに言われた重要なことを知った。
そして船に戻ってミレイオに話してから。
午前、そこの警備隊へ『営巣地の報告』をし、イヒツァの博物館へシオスルンの船で出かけた。
博物館でオーリンたちと合流し、古代ティヤーの彫刻とルオロフの告知について知り、ここで模型船の示した先を聞いたこと。
『イヒンツァセルアン島』に飛び、面師の家でおばあさんから受け取った仮面と、教えられた昔の話を、皆に伝える。
この時誰も、『シオスルンはどうなったか』を一切、気にしなかった(※どうでも良い)。大切なのは、そんなことではなく。
タンクラッドもミレイオも、ちらちらと互いの目を合わせて、最後に『バサンダなのか?』と同じ結論を口にした。
「行けば?」
あっさり、ミレイオは促す。え?と振り向いた女龍が『でも、手薄になるでしょう』と床を指差すと、『お前が行くなら早いだろ』とタンクラッドも後押しする。
食卓に置かれた預かりものの昔の面に、二人の視線が注がれ、『持って行って確認しろ』と言う。
「俺が見た、あの時の面と同じだ。同じ作り手だと分かる。奇遇だとしても、旅は奇遇の連発だ。バサンダに『龍境船へ乗せる』意味を聞いてこい。彼は予言したに等しい」
「だけど、私と会った時には何も」
「そりゃだって、あんた。彼、何歳だったのよ。『仮面の集落に囚われて何十年』って、彼に分かるのそれくらいでしょ?正確な年月が知れないんだから、今更、若い時の懸念を思い出して話すのも、ってならない?」
ミレイオが言うことは、イーアンも思ったが。バッサリと解説されると、そうかもと傾き始める。
「でさ。一応、私からもちょっとだけ、タンクラッドたちに話したけど。ドルドレンの話、もう一回伝えておきなさい」
ドルドレンは『人間を保護する場所があるだろう』と、言った。
ティグラスがそう言ったなら、可能性は既にあるはずだと。身内・弟だから信じているのではなく、ティグラスが特別な感覚を持つから、その言葉を信じられる。
これは、タンクラッドたちもティグラスに会ったことがあるから、すんなり受け入れた。
「私は、人間を保護できる場所のきっかけを探らなければ」
すっと息を吸い込んだイーアンはうん、と頷く。皆も、勿論同意。だから、ではないけれど。ここでタンクラッドが話を戻した。
「この世界のどこかにある、とは言われていない。『保護』名目だけで、行先が安心とは限らない、そんな可能性も含むだろう。似ていないか?バサンダが救出された、あの一件と」
「ぬ。まさか。よもや、タンクラッド」
「俺だって、何でも繋げて考えるのは良しとは思わん。知らないままの選択肢も多いだろう。だが、お前は偶然でも、最古の家系だった面師の家へ行き、行方知れずになったきりの面師から仮面を受け取り、その面師は、お前が助け出したことがある男を彷彿とさせる。
彼は異時空に囚われて危険と絶望の日々を送っただろうが、その間、こっちの世界とは無縁の時間を過ごしていたのも、また確かな事実だ」
「でも」
「お前はな。人一倍、気にするから。だがこれも考えようだぞ。バサンダは俺たちに助けられる形で、生き延びた。彼も俺たちも同じことを思う。それは、『生き延びる意味があった』だ。穏やかな生活を始めた相手に、踏み込むのは気が引けるだろうが、彼との繋がりが断たれていないのは、どこかでまた関わるからじゃないのか」
「タンクラッドに口で敵う気がしません」
「こういうやつなのよ」
ミレイオが差し込み、オーリンが笑う。タンクラッドは苦笑して『何か情報を得られるかも知れない』とイーアンから視線を窓の外へ向けた。
ということで―――
「早めに戻ります」
「何かあったら連絡しなさい」
イーアンは夕食後、面師バサンダに会うべく、テイワグナへ飛ぶ。
この時、まだルオロフは戻っておらず、彼はどこかと言うと。
*****
「私に出来ることか・・・ 」
夜の暗い草むらを照らす柔らかい明かりに、いくつかの不思議な影が集まる。その一つに赤毛の貴族がいた。姿様々、人間ではない相手の相談を受け、丁寧に考えている最中。だが、時間が気になる。
トゥに『来るな』と言われて離れた以降、皆さんに連絡も入れていない。私の夕食はあるだろうか。
今日は普段と違う疲れがあるし、告知について皆さんに早く伝えたいから船に戻りたかったのだが、まさかさらに、地霊と話す信じられない展開になって・・・・・
生き物より普通に言葉が通じるので、話し合うに不便はないけれど、内容が。
きっかけは『地霊から生き物に、連絡が行った』ことで、私は呼ばれた。
生物と地霊は、非常に近い関係を持っていた。聞けばそうかとも思うが、考えたことすらない。
ルオロフは、地霊たちの気持ちを汲みながら、自分の可能な活動を思い巡らす。
魔物や、来たる裁きの時に晒される人間を守ってあげたい、と地霊は打ち明けた。人間との接触がない地霊もいるのに、そんな風に思って頂いていたとは、と胸打たれ、ルオロフは事情に耳を傾けた。
守ってあげたい理由は、生き物の一つだから―――
特別ではない、逆に純然たる理由。
またしても、私の目が覚めるような一言だ、とルオロフは額に手を置いた。
人間を、良かれ悪しかれ、当たり前のように特別視していたが。全く以てそのとおりだ、私たちだって生き物ではないか、と頭を殴られた気分。
人はなんと驕っているものだろう・・・赤毛の貴族は、愚かな驕りを平然と水準にしていた自分を恥じる。
悩む赤毛に、地霊たちは元気を出すように励まして、ルオロフが動ける手伝いを何か考えてと頼む(※悩んでいると時間が過ぎる=励ます)。
「うむ。しかし難しい。これは私一人で考えるべきだろうか?申し訳ないが、この場で答えを出すには、私には経験値がないし不安もある。良ければ、仲間に相談したいと思う。如何だろう?」
『えー』
取り巻く地霊の明らかな否定に、ルオロフは『最も良い方法を選びたいから』と言葉を足す。
他人に相談するのはダメなのだろうか・・・ 伏せたい様子だが、こういった場面を知らない私は、経験豊富な仲間を頼った方が良いと思う。
怪訝そうな地霊を見回し、もうちょっと粘ってみる。
「私を呼んで相談を持ち掛けてくれたのは、大変光栄だ。出来る限り、私も役に立ちたい。とはいえ、本当に何が出来るか。つい最近、私も自分が特殊と知らされて、まだ知らないことが多いんだ。
困ったな。神様でもここにいてくれたら、相談できるんだけれど・・・ 」
―――まるで友人のように、『神様でも~』と溜息を吐く貴族に、遠くから見守るヂクチホスは『お前は私に慣れるのが早い』と思った。
ヂクチホスは、ルオロフに経験を与えるため、手出しをしない。
この機会は大切だし、ヂクチホスが合間に入ったのもあり、成り行きはきちんと見ている。
何をどう、手伝えるのか。受け取った力と立場を、大きな運命の一部を担う橋に使えるか。頑張りなさいと、遠く離れた岩の上から、虹より色の多い鳥一羽が見つめる―――
なんて知らないルオロフは、何度か頭を掻いた後、『自分が今日取った行動』告知について地霊に話す。
『これは、尊く大きな存在より承った方法で、人が努力すると結果を変えられるかも』と思う旨を伝えた。
「出来ることはするつもりだ。だが、今の話のように、私は方法を教えてもらえたら動きも考えるが、自らどう動いて良いかも知らないので」
相談が逆になる。ルオロフが相談を持ち掛ける形に変わり、地霊たちがザワザワしながら数分経過。
どうかなぁと心配しながら待つルオロフに、丸っこい地霊が前に出て『お願い。運ぶ。するの?』と確認・・・確認している? 分かり難い尋ね方に、ルオロフが身を乗り出し意味を問うと、座ったルオロフと同じくらいの大きさの地霊は、どうやらルオロフが『広める役』と思った様子。
ああ~そう捉えたかと理解し、ルオロフは頷いて『そうですね。私はたくさんの人間に、言葉を伝えたので』と返し、暗い周囲をぐるっと見回した。
この島も・・・こちら側は人がいないが、大きさはそこそこある。
精霊島の一件(※2590話~参照)で、『地霊は、受け持った場所を離れないものと、移動できるものがいる』と聞いていたが、今集まっているのは、この島や周辺にいる地霊なのか。
人を助けたい願いを、運んだ・・・私の声。
告知と同じようにするなら、それはすぐに出来ると思う。ヂクチホスに確認は取らないといけないが、精霊が相談してくれたことだから、多分、通じるだろう。
そう思い、ルオロフは地霊たちに『人間に伝えることを決めたら、私が言いに行っても』と引き受けた。小さな一歩も、配慮の一つ。
と思いきや。地霊は納得し少しざわついたすぐ、平たい木のような地霊が、淡い黄緑の光を揺らしてルオロフに話しかけた。
『鳥で運ぶ。人間に教えろ』
お読み頂き有難うございます。
今日が9日だと思っていました。私の認識で時間がずれてしまっていて、間を開けてしまい、申し訳ないです。さっき10日だと気づいて・・・こんなことで本当にごめんなさい。
意識が飛びがちで、時間があやふやなままもあるので、気を付けます。
いつもいらして下さる皆さんに心から感謝しています。いつも励まして下さることを、本当に本当に有難く思っています。有難うございます。




