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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二色の鳥の島
2705/2959

2705. イヒツァセルアン島 ~若き面師の話・龍境船へ願う

明けましておめでとうございます!今年も宜しくお願い致します!

☆前回までの流れ

南西のアマウィコロィア・チョリア一帯へ移動後、動きの中心は、人間淘汰回避一色。ルオロフは神様と相談して手助けの告知を行いました。一見関係ないトゥは、先を見越して残党サブパメントゥに宣戦。

イーアンは、空に預けたドルドレンと弟ティグラスから『人々を別の時空に移動する』突飛な方向性を示され、方法を探します。

まずは、前夜の嵐の報告を警備隊へ。その警備隊から古の面師に纏わる話を聞き、シオスルンと博物館へ行き、オーリンたちと合流した後、博物館紹介の島に移り、古い家系の面師宅へ到着。

今回は、面師宅で事情もそこそこ、おばあさんの話から始まります。 

 

 訪ねた面師のお宅は、それらしい雰囲気のない一軒家で、庭に出ていたおばあさんに話しかけたすぐ、展開は待っていた。

 おばあさんは、イーアンがウィハニの女と知るや否や、面を渡して願いを伝えた。



『龍境船へ』―――?


 意表を突かれる仮面とその願い。はた、と止まるイーアン。横のオーリンも目を丸くし、クフムは訳すが、何やら重要そうで緊張。


「龍境船に、この・・・お面を?」


 聞き返したイーアンに、背の低いおばあさんは面を見ながら頷いて『許してほしいという意味だと思う』と、言葉を選んだ。

 突然現れた相手に、いきなり何を言うのかと思ったクフムが、もう少し詳しい説明をお願いする。



 この面師の家は、苗字をセルアンと言い、島の名前を代表していた。

 面師が先か、島に名づいたのが先か。それが曖昧なくらい有名で・・・だが、それも昔の話に変った現在。

 代々、男が面師として続けていたが、おばあさんの夫が最後の代になった。


 夫婦には一人息子がいたものの、彼に継ぐ気はあっても若い頃に旅に出てから戻らず、以後数十年行方不明である。おばあさんの夫の兄弟は、イヒンツァセルアンを離れ、違う島で稼ぎの良い面師を続けている。これが前置き。



 おばあさんが仮面をすぐに出したのは、何が何でも息子の願いを先にしようと思っていたから。


 そして、『さっき。お告げが聴こえて』と―― ルオロフの告知を聞いた直後で、おばあさんがウィハニに会えたから取った行動と分かった。


「私は老い先短いけど、どこかで生きている息子は生かしてやってほしい。龍境船に捧げると」


 話が見えない。でも何となく察することは出来る。クフムもイーアンたちの疑問になりそうな点を、先に尋ね、おばあさんの返事を訳す。



 息子さんは若い頃に旅に出て、一度も戻っていないけれど。

 便りもないが、腕がいい面師だから、きっとどこかで生きていると、母親のおばあさんは思ってる。


 鳥が少なくなってきたことを気にし、龍境船に文化を繋いでもらう願いを持っていた。

 この面は、伝統の鳥を使って作ったのかと、イーアンがまじまじ見ると、おばあさんは嘴の根元に指を置いて、声を潜める。

 側で通訳するクフムは、眉根を寄せて確認し直し、おばあさんが頷いたので、イーアンとオーリンに『()()と言っています』と伝えた。



 *****



 おばあさんは、戻らない息子の話をしてくれた。


 息子さんは20代そこそこで、世界の面を学びたいと島を出た。十年くらいで戻ってくるだろうと思っていたが、それから30年経過した現在も帰らない。


 彼が作った面の殆どは、地域の伝統文化行事で買い取られたし、面の残りが少なくなった後は、博物館から作業場の保存や見学を打診されていたが、数年前の地震で、作業場の棚が倒れて壁も大きく崩れ、補修が難しいことから撤去した。

 通りにある看板は、息子がいた時に作られたもので、時々手入れし、そのままの内容で使っていた。



 息子は、生まれつき目の色や髪の色が薄く、ティヤー人に見えない外見だったので、おばあさんは周囲の声に大変だった。おばあさんの夫も気にしてはいたが、昔は外国人も来ない人口の少ない島の町で、おばあさんの不貞を疑う方が難しかった。


 ある日、小さい息子が見様見真似で面を作った時から、自分たちの血を受け継いだとお父さんは認めた。最初に生まれた子がその見た目だったこともあり、兄弟を生むことはなかったらしい。



「息子は、自分の見た目を気にしていたと思う。それもあって、家から出たのではないかと夫婦で話した。その夫も、息子が旅に出て暫くしたら病気で亡くなり、後継者はここで途絶えた」


 だそうです・・・ クフムは通訳し終えて、しんとしたイーアンとオーリンに頷く。他にも面師はいるようだが、古くから続いていたのがセルアン家で、最後まで島に残ったのはここだけだった。



 話は変わって、その息子は家を出る時、母親に特別な面を渡したのだが、それが今、イーアンの手にある。


『島から()()()()()()()()()()。鳥が逃げているのかもしれない。これは伝統の材料を使っていない面で、海藻から考案した。私の無事をウィハニの女に祈る時、これも渡したいと祈って下さい。

 もしウィハニの女が現れたら、龍境船に捧げると言っていたことを伝えて。鳥を守る文化にするから、伝統を守ってほしいと』


 息子が母に託したのは、伝統ではない作りの面で、父親には言えなかった。伝統に遜色ない出来栄えだが、従わなければ許されないのも彼は理解していた。



 島にある祠で、ウィハニの女に祈ってきたが、おばあさんはウィハニに会うことはなかった。ここへ来て、突如現れた龍、イーアンに息子の願いを渡した経緯だった。



「息子さんの名前は」


 ずっと気になっていたので、イーアンは囁く。クフムはそれをおばあさんに訳し、おばあさんは縁側に差し込む斜陽を見上げた。その色は透き通る橙色で、切り込む刃物のように輝く。


「ラバナ・ラランヤ」



 *****



 面を受け取る形になったイーアンだが、龍境船に乗せるなんて約束できないので、『預かります』と濁して引き取った。龍境船をイーアンも探す。それは言えなかった。


 話を聞き終わった後、オーリンは、おばあさんが取ろうとしていた木材をいくつか降ろしてやった。


 薪に使うしか用事がなくなった木材で・・・と話すおばあさんに、オーリンが『今、俺が薪割りしようか』と手伝いを申し出る。

 横にいたイーアンは、私がカットしても(※龍の爪切れ味抜群)と過ったが、ここは息子さんと同じ年齢くらいのオーリンがいいかなと思い、黙っていた。


 オーリンは、からっからに乾いた木材で、火の回りが均一そうなのをごそっと選び、それらを切り株台横に積むと、カンカンバキバキ、手斧で割り始める。山の独り暮らしを何十年続けた男に、このくらいは日常茶飯事。


 あっという間に薪は積み上がり、割れた形もほとんど差がない見事な仕上がり。イーアン、軽く拍手。

『よせよ』とオーリンが笑って手を振って往なす。おばあさんも『しばらく作らなくて済む』と喜んだ。


 息子がいたら、おばあさんも楽だったと思わずにはいられない風景。


 クフム通訳を横に、感謝するおばあさん。オーリンは『俺は弓職人だから』こんなことは普通だと教えた。

 手斧の握りが太いので、おばあさんの握力には辛そうに感じたオーリンが、『息子の手斧は大事だろうけど』と調整も出来ると言うと、おばあさんは抵抗なく調整を頼んだ。


 工房はないが、道具や工具一式、思い出に母屋に運んだものはある。

 いくつか選んだオーリンの手で工具は息を吹き返す。斧は分解され、柄は削られて握りは細くなり、力の位置が合うように長さも変えられてゆく。刃の重さを考慮して、オーリンは強い芯の部分を丁寧に削る。


 工具一つでも、こんなに知識と経験が必要・・・クフムは感心して見つめ、イーアンも微笑ましくそれを見守った。気づけばおばあさんは、オーリンの真横に座って、息子や夫が作業していた昔を重ねて話していた。


 弓職人は通訳される昔話を笑顔で聞きながら、やすりをかけて整え、刃を柄に付け、しっかり楔を打ち直す。


 調整された手斧を握り、何度か振ってみたおばあさんは『使いやすい』『これは手首が痛くならない、薪割りはすぐ指が痺れた』と嬉しそうに感想を伝え、オーリンもこれを挨拶代わりに『じゃあね』とお別れ。

 側に来たおばあさんは、また来てくれないかと言った。ハハッと笑ったオーリンに、イーアンが『来れたら来ましょう』と微笑む。


 何かを早口で捲し立てるおばあさんに、クフムは頷きながら、途中で確認を入れつつ、二人を振り向いた。


「・・・息子さんの絵を渡したいそうですよ。しまってあるから、明後日には出しておく、と言っています」



 *****



 明後日に来れたら―――


 約束はできないと、前以て伝えた。おばあさんは頷いていたが、絶対に来ると思っていそうで、苦笑した。

 でもイーアンは・・・オーリンもだが、『模型船』が示した意味は、おばあさんの渡す絵にありそうだと感じていた。



「このお面もだけど」


 帰り道。クロークの内側で片腕に抱えたお面。布に包んだそれは、キーワードに間違いないと思う。だが続く絵は気になる。


「明後日じゃなくても、行ける時、早めに行きましょうね」


 下り坂を歩いてイーアンがオーリンを見上げる。オーリンも『そうだな』とすんなり答えた。クフムはオーリンが既に自分の親方のようで嬉しく、優しいオーリンを一層尊敬しながら、後ろを歩く。


「絵、受け取るべきですよね」


 ぼそっと呟くクフムを、龍族二人は振り向いて『そうするつもり』と同時に言い、顔を見合わせて笑った。



「ラバナ・ラランヤ。何となくですけれど、バサンダ?」


 気になっていた名前。オーリンも『俺もそうかと』と耳を掻く。


「目の色がさ。バサンダは緑っぽかったよね。明るい髪の印象だし」


「そうですね。今思えば、ティヤー人には見えないかも」


 異時空に救出で入ったあの日。彼を初めて見た印象は、若い青年で、薄い緑色の瞳と淡い髪の色(※1376話参照)。


 あの時はまだ、ティヤー人との接触がなくて、イーアンが知るティヤー人は、北西支部のエビヤン・チェオ、ダク・ケパ換金所の人たちくらい。黒い髪が多いな、とは思ったが、バサンダに会った時はそこまで考えなかった。

 彼は異時空という、得体の知れない場所から現れた、その方が強烈だったから・・・


 バサンダも、息子も、同一人物だろうと二人は思う。バサンダだとすれば、なぜ名を変えて名乗ったか分からないけれど。



「ラバナ・ラランヤの意味は、アマウィコロィア・チョリアの言葉だというのも。橙色の小刀」


「面師、って感じだよな」


「彼・・・私が海神の女と知っても、何も言いませんでしたね」


「やっぱり違う?」


 イーアンが言う前に、オーリンもそれを思っていたので、別人の可能性も考慮はする。違うと思うかを女龍に訊くと、イーアンは、うーんと唸って『忘れたって感じではないし』と前を見たまま独り言。


「龍境船の話もしてくれたし。バサンダが最初に、船の呼び名を教えて下さいました」


「うん」


「彼が『息子』と別人には、思い難いです。助けた時・・・確か『今もティヤーと呼ぶのか分からない』と母国の名を(※1376話参照)。時間が経過し過ぎて、取り巻く状況が変わった、と思っていたかも」


「すみません、誰の話か知らないのですが、もしおばあさんに尋ねるなら、私も知っておいた方が」


 ここでクフムが割り込み、ああそうだったと龍族二人は彼を忘れて話していたのを詫びた。知っても良いよと、オーリンから教える。


 テイワグナ山中で救出した男の話は、クフムの想像を遥かに超えていたが、クフムは『この人たちの旅は飛び抜けている』のに慣れたのもあり、とりあえず丸呑みで信じた。



「では、その人は、テイワグナにいるんですか?生きているんですよね?」


「そうだと思いますよ。年は取ってしまいましたが、彼は熱意に溢れていたので、元気にしていると思います」


「お母さんに教えてあげたいです」


「・・・そうね。でも、悩みますよ、クフム。聞いたら会いたいと思うもんでしょう。生きていると分かったら、手紙の一つでも渡したいかも知れません。だけどバサンダは、『帰るところがない』と何度か口にしていました。家も、もうないかもと」


 そう言われると、クフムも黙る。おばあさんが、息子の生存を信じているのに伝えられないのは気の毒だが、バサンダの気持ちもある。

 バサンダは、テイワグナの面文化を守る面師に師事したようだし。



 うーん、と考え込むクフムを後ろに――― こうは言ったものの。


 イーアンは『バサンダに直接聞けるなら、その方が良いけど』の胸中で、オーリンは『ダマーラ・カロか、カロッカンにいる訳だし(←バサンダ)』と思い・・・ 要は二人共、これは面師バサンダに確認が出来たら良いのに、と思った。


 ただ、彼の心情を思えば、やはりこちらの都合だけの用件で、安定しているであろう現在の彼の生活に過去を振るのもどうかと思う。

 そしてもしも、バサンダと『息子』が別人だったら、本当にかき乱すだけの迷惑になりかねない。


 これ以外にも出かけるに躊躇するな由はある。現状、仲間の頭数が少なく、留守は厳しい。



 モヤモヤし始めた龍族も口数は減り、後ろで『せめて知らせてあげられたらなぁ』と親心に同情するクフムも独り言を呟き、会話も消えた三人は黙々と坂を下り、海辺の岩伝いに人を避けた場所で龍を呼び、沈黙のうちに帰路に就いた。

明けましておめでとうございます。

旧年中は大変お世話になりました。本年もどうぞ宜しくお願い致します。


15日までお休み頂いたものの、丸7日間、投稿をあけたのは初めてかも知れません。

お正月も束の間で仕事が始まり、合間合間で物語を読み返して流れを整え、もう少し早く一話出す予定でいたのが遅れました。


明日の投稿はないかも知れませんが、15日までの間に、また投稿はします。日にちが開く分、前書きに掻い摘んだ流れを書きますので、どうぞ宜しくお願いします。


皆さんに豊かな実りがたくさん降り注ぐ一年になりますように!

Ichen. 

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