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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二色の鳥の島
2700/2956

2700. 幻の大陸と異時空の鎖・イヒツァ博物館 ~貴族『ギニリーさん』のおかげで

 

 鳥を肩に乗せたルオロフは、壮大な話を聞かせてもらった後、神様に挨拶して異時空を出た。


 鳥は乗ったままで、波飛の磯に足をつけたルオロフは『ここも閉じるんですよね?』と尋ねる。鳥が顔を向けたのは海で『呼ぶ』と答えた。



「誰を・・・ああ、そうか。帰るための迎えを呼んでから?」


「呼ぶ」


 はい、と了解し、ちょっと考えて磯から体を乗り出して海に手を入れ、『誰か迎えに来てくれ』とルオロフは何度か声にして繰り返す。こんなことで来るかどうか。飛び立った鳥が上がり、突き出た岩の柱を数回周ると、沖の一ヶ所に何かが浮かんだ。


 あれかと立ち上がったルオロフは、五秒後に恐ろしくなるほど大きな影を見て目を丸くする。


「これですか」


 磯近くで止まった影は、悠に10mはありそうで、行きに乗った魚の巨大版。海面に背鰭が出ているが、掴むにも大変そうな大きさで、ルオロフは困惑がちに『では』と開けたままの背後に振り向き、剣を抜いて溝を切り、映像を消した。


 また濡れるのを憂慮しつつ、贅沢は言えないので、じゃぶっと水に入る。大きな影の前鰭が浮き、ルオロフの足場になってくれたので、泳がずに広い背中に渡る。


「行先は、名称で通じるだろうか。アマウィコロィア・チョリアという島なのだが」


 地域名も兼ねるしと、人間相手に説明するように考えたが、大きな魚はゆったりと向きを変え、水面ぎりぎりで進み出した。鳥が導く後ろをついて行く具合で、ルオロフは神様が誘導してくれると気づき、お礼を言った。


 帰りは腿から下が海の中で済み、ルオロフは潮風と少し暑いくらいの日差しを受けて戻る。行きよりは快適・・・大きな魚に感謝しつつ、こんなに大きな魚がいたことを、是非イーアンにも教えようと思う(※驚きは母に報告)。



 中天から傾いた空に架かる太陽の下、ゆっくりゆっくり、ルオロフを乗せた魚(※小さめクジラ)は海を進む。途中、魔物の気配がしたがなぜか遠のき、ルオロフは警戒したものの、退治には至らなかった。


 前を飛ぶ鳥の影を眺め、『異時空が繋がった、世界の出入口』に考える。



 ヂクチホスもこの世界に呼ばれたような・・・印象を受けた。

 それは遠い昔で、安定しない世界の最初。ヂクチホスの異時空は、この世界の何者も干渉できない()()()()に繋がれた。


 実はこの世界、また変化する話があり、その時が近いことで、幻の大陸の動きが顕著だと言う。

 幻の大陸は生き物では無いため、活発化し出したのは当然、意志など関係なく、何らかの波長の影響の様子。


 変化の時までに、あれこれと人間を整えるのが、神様―― ヂクチホスのすること。


 人間の世話をするために、呼ばれ繋がったのだろうか?とルオロフは思ったが、神様はそうは言わなかった。そこに触れなかったという方が正しい。ルオロフも話の腰を折りたくないので黙っていた。



 ヂクチホスは『人間以外の種族は、少なからず弱い存在の人間に、新たな意識と成長を望んで力を貸そうとする』と言い、人間の存続は願われていない訳ではない、とした。


 死を恐れ、あらゆる満たなさに弱る種族を、安心させる。


 ・・・『死のない世界へ、渡る橋。遥かな世界へ、繋ぐ橋。幾つの世界を跨いだか。剣一振りで探す路(※2480話参照)』は、イーアンが異時空で剣の材料を手に入れた時に聞いた言葉。


 ルオロフがこれをヂクチホスに言うと、『いずれ死ぬのだから』安寧の心を悟るよう導いた話だった。


 異時空(ここ)へ来て、生きるに助かる手段や品を受け取り、生活の苦労を軽くしながら老いる内に、体の死以外はないことを感じ始める。心は年を取らず、魂も死より遠くにある。


 もし、肉体の不老不死を叶えるように聞こえても、それはない、とヂクチホスは『不死』の可能性を断つ。


 当たり前のことだ―――

 ルオロフは簡単に死ぬことを知っているから、人間として生まれた自分を卑下していた。だが、身近にいた権力者や富を持つ者たちは、老いも死も遠ざけたがる者が多かった。


 富裕層に限らずだと思う。自分が人間であることを卑下したのだって、視点を変えたら同じだ。固執は、生きる時間に何かしらの形で滲む。



 ヂクチホスは『私の手となり、足となるように』と最後にルオロフに言った。ルオロフは約束し、自分に与えられた運命と使命を知る。今度こそ、この理解で良いんだよな?とは思ったが。



 大きな魚の背に乗って、落ちない程度の速度で海を行く時間は、意外と長い。


 神様は鳥の姿をとったので、美しい色は独自なのか、それも少し聞いた。神様だからではなく、意味は他にあった。


 ティヤー創世物語に因んだ、鳥。

 神様曰く『ティヤー以外の国なら、それに合わせる』つもりで、ここでは色彩豊かな鳥が無難な姿と分かった。


 創世神話らしきものがないアイエラダハッドだったら?と余談で伺うと『予定はない』と一蹴された。



『この国の・人間に』合わせた、導きの鳥。十二色の色彩を持つ鳥は、ルオロフを通して、ティヤーの民に働きかける。

 鳥は神様なのだけど、実際は神様はあの場所を動かないため、仮初とも異なる。鳥は直接語る手紙の状態。


 ルオロフが『人間の助けを』と頼んだので、ヂクチホスの範囲『色を司る相手に認めてもらう、人間の意識改革』を提案し・・・提案したからにはこうやって見守って下さるのだなと、貴族はしみじみする。




「ルオロフ」


「はい」


 不意に鳥が戻って肩にとまり、ルオロフが前方に目をやると、平らな島が視界にあった。アマウィコロィア・チョリア、その島である。


「この魚で到着は、騒がれそうですね」


 細やかな心配を呟いたと同時、ルオロフは背中から落とされ、着水同時に行きの魚(※イルカ)に代わられて、結局ずぶ濡れで浜へ辿り着くことになった。


 浜から、ルオロフの愛する船までは、そう遠くない徒歩ではあったが、片手の剣は巻いていた革もなくしたので、人目を避け気遣いながら脇に隠すようにして歩き、着くまで予想以上に時間が掛かった。


 その間ずっと・・・通り過ぎる人々の会話は『色を頼る』で持ちきりだった。



 *****



 模型船の示唆に応じたオーリンが、クフムと一緒に、別の島イヒツァの博物館を訪れ、なぜか現れたイーアンと・・・余計な男(※シオスルン)と出くわした時。


 空に響く、というよりも、空気に混じるように聞こえた声に、足を止めた。


 崖上に立つ博物館の横で、オーリンとイーアンは顔を見合わせ、シオスルンは『なんだこれは』と驚き見回す。



 ルオロフの声・・・分かったのはそれだけ。イーアンもオーリンも、共通語以外は理解しないので『何て言っているの』と目でお互いに問う。シオスルンも片言しか喋れないティヤー語は、半分ほど理解するが、聞こえている内容があまりにも()()()


 シオスルンは、ティヤーへ来る前に父の手紙で読んだことを思い出す。

『ティヤーの宗教は酷く、民の殺害も厭わなくなった噂から、国外退避希望の貴族に、諸手続き不要の出国礼を王が発令』―― では、今聞こえているのは、宗教の?! 


 シオスルンは出来るだけ聞き漏らすまいと、集中する。心を入れ替える内容・・・ 色がどうとか。こうやって、ティヤーの民を蝕んでいたのかと、ハイザンジェル貴族は空を睨みつける。が、瞬間で、誤解した正義感は失せた。



()()()()ですよねぇ」 「()()()()だな。すぐ取り掛かれたってことか」


 何喋ってるか分からないけど、共通語じゃダメなんだな、とイーアンとオーリンが話している・・・ ハッとしたシオスルンは、『ルオロフとは』と口を挟んだ。謝らなければいけない相手の名前、と意識はそっちへ向く。


 空気に紛れていた声は終わったので、龍族二人は振り返った。


「ルオロフですか?昨日、あなたから()()()()()人がそうですよ」


 ちょっと冷たい言い方で教えたイーアンに、シオスルンの青い目が揺らぐ。目を逸らして『失礼しました』と謝ってから視線を戻すと、オーリンも突き放すように眇める。


「現場は知らないけど、ルオロフへの態度が悪かったみたいだな」


「いえ、そんなことは!ただ、名前も立場も知りませんでしたし!」


「それ言ったら、あなただって名乗らなかったでしょうに」


 オーリンに言い訳したら、イーアンに突かれて、シオスルンは口を閉じる。


「でも。謝らなければと思っています。近い内に謝罪したいのです」


 気まずそうなシオスルンの態度に、龍族二人は、彼が『ルオロフの正体(※貴族)』に気づいたと察する。でも今は、そんなことどうでも良い。



「あ、イーアンも来たんですか」


 建物正面からクフムが覗き、オーリンが手を挙げる。クフムは側に来て『今の、ルオロフでは』驚いたから外に出てきたら・・・と、海を見た。


「(ク)彼はこの近くですか」


「(オ)違うと思うよ。近くじゃないだろ」


「(イ)クフムは今の、分かりますよね?」


「(ク)はい。ティヤー語でしたね。ちょっ・・・説明したいけど。ええと、その人は」


 昨日、シオスルンを見ていないクフムは、後ろのハイザンジェル人に躊躇う。イーアンは『気にしないで』と流した。

 慌てたシオスルンが『()()()()()入ることで、貴重な収蔵品もすぐご覧頂けます』と大声を出し、クフムとオーリンは目を見合わせた。


 それが理由でついて来たのかとオーリンは貴族をちらっと見て、嫌そうなイーアンは断り切れなかったと解釈。



「じゃ。とりあえず、中入ろう」


 え?と眉根を寄せた女龍に、促すオーリンは軽く頷いて、『シオスルンの顔が利くならそれで』と合理的に同行を受け入れた。イーアンとクフムの不審そうな様子を横目に、とりあえず館内へ戻る。



 シオスルンはすぐに、入り口近くの学芸員に自己紹介し、手紙を出そうと思ったが急ぎで出せなかったと前置き。何のこと?と首を傾げる学芸員に、知人の貴族の名前を出して分かってもらい、大切なお客様をこちらに案内しましたと伝えた。


 学芸員はクフムとオーリン相手に話していたので、改めて紹介されても、はいと言うだけ。

 シオスルンが『館長が~』の流れで、もし倉庫に移した展示物で、イーアンたちが見たいものがあれば、見せてもらえないかを交渉すると、学芸員は館長を呼びに行き、間もなくして70代くらいの男性が廊下を歩いてきた。


 白髪交じりの黒い髪。おでこが広く、目元が優しそうに垂れ、鷲鼻が光る。柔和な印象の館長はイーアンと変わらない背丈で小太り。白い長衣の襟と袖と裾は鮮やかな朱色の縫い取りと刺繍が施され、品が良い。


 館長は角のあるイーアンに驚き、笑顔で『ウィハニ!ウィハニが来るなんて』と真っ先に声を掛けた。


 イーアンも微笑んで『ウィハニの女ですが、本当に尽力していたのは私ではありません』これを先に伝え、館長は笑顔を一旦引っ込めたものの、『はい』と理解してくれた。


 シオスルンの挨拶、館長の挨拶。来客の紹介、来客それぞれ挨拶・・・ ここまでやって、イーアンは『私は警備隊から教えて頂いた、()()()()()()()を見たいのですが』と話を横から引き取った。


 ハッとした館長と、学芸員の目つきの変化にイーアンは気付く。シオスルンは何のことやら。でも自分の立場は確保、と思いきや。オーリンが振り向いて、さらりと手を振った。



「ご苦労さん。ここからは俺たちの用事だ。悪いんだけど外してくれ」



 *****



 シオスルンは粘ろうとしたが空しく、イーアンに『一刻を争う時もありますので』と追い払われた。

 部外者扱いは不満だが、ルオロフ一件があるため、しつこくするのは控える。


 とはいえ、シオスルンのおかげ、とすべきか。この後―――



 イーアン、オーリン、クフムは、館長に案内されて地下室へ行き、倉庫収蔵の展示品の部屋に入った。


「アリジェンさんのことは聞いていました。アリジェンさんの親しい友人ギニリーさんが・・・ 」


 ギニリーさんは、ハイザンジェル貴族でこの島に別荘を持っている。少し前に母国へ戻ったそうで、戻る前にも寄付してくれたらしかった。

 この『ギニリーさん』が、無理やりな具合で港の強化を意見して、増設施設も建てた張本人だが、博物館は補修工事に感謝しており、ギニリーさんには世話になったと話す。


 ハイザンジェル貴族で、有名どころ。知らないなと思っていると、どうもキンキート家の流れと分かった。彼らの家系『ギニリーさん』は、本島ワーシンクーのキンキート家の貿易()()()だった模様。


 キンキート家は私も知り合いが・・・と呟いたイーアンに、館長は目を細め『そうでしたか』と嬉しそう。


「博物館老朽化は心配でしたが、寄付を頂いてここまで回復したんですよ」


 地震で相当な崩壊をし、貴重な収蔵物も壊れてしまったものは多かった。館の外側は新築のように回復したが、壊れてしまった出土品や記録の品は戻らない。その後、貴重な展示物は、地下に入れたようだった。


「でも。ギニリーさんの縁の方となれば()()です。ウィハニの女がもし、必要と認めるものがあれば、私は持ち出しを許可します」


「えっ」


 埃臭い乾いた地下。天井から据付た大型の棚に、ぎっしりと詰まった古代の産物が見下ろす倉庫の奥。


 館長は立ち止まって、後ろの客を振り返る。微笑む皺の多い顔の横に、人の丈ほどの石板。縦長の石板は、風変わりな面と、鳥の姿が幾つも彫られていた。



「先ほど聞こえた声。あれは、()()()()()()()ですね?」


 館長は、石板の途中に指を向け『ここの部分です』と言った。オーリンの口端がわずかに上がり、クフムは目を丸くし、イーアンはしっかりと頷いた。嵐の夜の鳥と、同じ形がそこに―――

お読み頂き有難うございます。

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