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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二色の鳥の島
2693/2961

2693. ルオロフ『神様対談』報告・親方、若かりし旅路確認・模型船の方角

 

 真っ暗な嵐に、白い柔らかな光の半球が灯る、荒れた海―― に、近い島の宿屋では。


 嵐で食事処も早仕舞いしたため、タンクラッドたちは馬車に少し積んできた食料で夕食を済ませ、 質素な風呂なしの宿(※食事もないので素泊まり)で早々に部屋に引き上げた。



「明日は別の宿にしましょう」


 着替えを済ませたルオロフが、タンクラッドの部屋に入るなりそれを言い、ミレイオが笑った。タンクラッドは、ルオロフの報告を聞くために皆を部屋に呼び、それぞれ寝支度まで終えてから集まった時間。


 クフムはさほど気にしていないし、オーリンやタンクラッドも『素泊まりとは知らなかった』程度だが、ミレイオは朝食も出ない宿を紹介されたことにちょっと不満で、ルオロフは()()()()だった。


「嵐前に食事処が閉まると知っていたなら、少しは気を利かせて」


「明日、移動すればいいから。な?」


 ルオロフが文句を言いかけたのを、オーリンが宥める。何となく、赤毛の貴族は『自分がいるのに申し訳ない』みたいな感じで、これは貴族の配慮と皆は思う。



「じゃあな、いつ何が起きるか分からんから、早速聞かせてくれ」


 苦笑でパンと両手を打った親方に、ルオロフは『はい』と切り替え、立ったまま報告開始。

 出だしは、シャンガマックに連れて行かれた朝から始まり、シャンガマックが誰に何を伝えてほしいか、その用事を引き受けたと、出かけた理由を伝えた。



 ―――それから、シャンガマックと共に、パッカルハンの不思議な空間前まで行き、自分だけが中に入って、シャンガマックの言う『神』と会い、話をしたこと・・・ 

 神とは呼んでいたが、相手は『神』ではないようだし、とりあえずの呼び名。


 民の全滅を避けられる手段を尋ね、神様の範囲で教えてもらった方法は、これから実行する予定。


 すぐ実行に移さなかったのは、その日からいなくなったシャンガマックを待っていたからで、まず彼に報告しようと思ったから。だが、急ぐべき内容だし、明日にでもと考えている。


 神様から教わった手段は、確実に人間の存続を保証するものではないが、手段の一つには違いない。


 ティヤーの人々が、自分に因む色を頼る方法があり、色は別種族の範囲を示す。

 概要の理解としては、敬い頼ることに於いて姿勢と心の変化を伝え、受け入れられるならば、それが『人間の持続を認めた』状態と判断されること。


 自分はあの空間に迎えられたと、はっきり言われたので、今後もあの空間に出入りすること。

 自分から出向いても、神様から呼びかけられて行くにしても、あの空間に繋がる場所であれば、入り口は問わないこと―――



 そして、自分は・・・ とルオロフはここで言い淀む。止まった話に、皆の視線が集まり、ルオロフはちょっと咳払いすると『変に思わないで下さいね』と前置きした。


「私は、動物と通じ合うそうで。尋ねると答えをもらうとか」


「変じゃないだろ」


 言い難そうな貴族に肯定したのはオーリンで、職人たちは『変じゃない』と普通に受け止める。クフムは微妙そうだが、ミレイオが『フォラヴと同じね』と続けた。


「フォラヴ?彼と同じ、とは」


「あんた知らなかったっけ?あの子、妖精だから、動物や鳥と話が通じるのよ。滅多にその力は使ってなかったと思うけど、たまにあったわよ。鳥のさえずりとか鳴き声を聞いて、周囲の異変を教えてくれたとか」


「そ、そうだったのですか。私は、動物と話せるなんて言ったら、変に思われるかと」


「思わないだろ、誰も。これだけ異質揃いで、何で今更そんなこと気になるんだ」


 ハハハと笑ったオーリンは、『それ言ったら、俺なんか龍相手に喋ってるのに!』と首を傾げ、言われてルオロフもハッとした。タンクラッドたちも可笑しそうで、『良かったじゃないか』でまとめる。



「それで。ここから質問時間だ。話はそこで終わりだな?」


 タンクラッドが次へ進め、貴族が頷いたので、『あの空間は』と状態の詳細に話が移る。タンクラッドは、異時空が幻の大陸ではないかと考えており、それは最初にイーアンが入った体験談が元にあった。


()()()()()()()、お前に話したよな」


「はい。覚えています。イーアンが黒い物質を手にし、それを聞いたと」


「その声は、『神』だったのか?俺は『神』と思っていない状態で、黒いくにゃくにゃ(※親方にはそれだけ)と話したから、話題に触れずに終わったんだが、お前はどう思う」


 黒いくにゃくにゃって何だろうとルオロフは疑問を抱きながらも、親方の質問を少し考えてみて『ええっと』と自分なりの意見を出す。


「神様の話を思い出しても、幻の大陸・・・という感じは受けなかったのですよね。『剣一本で探す道』についても、私はすっかり抜け落ちていて思い出せませんでしたから、そうした話は出なかったのです。

 今度会ったら聞いておきます。ただ、時間がとても曖昧であることや、あの世界が、こちらの世界とは別物であることは教えてもらいました」


「ちょっと話の腰を折るけれど。先に聞いとかないと忘れそうだから、話し変えても良い?」


 割って入ったミレイオに、タンクラッドがイヤそうな目を向ける。ミレイオは自分の部屋をサッと指差し『あの子が待ってるからさ』と、長引きそうな話にシュンディーンを気遣い、とりあえずミレイオが優先された。



「幻の大陸かどうかは、また後で聞いてもらうにして。さっきの話よ。()()()()()()()とか言うやつ。

 改心した気持ちでちゃんと頼ったら、助けてもらえるみたいな、さ。それどういうことなの?そんな簡単に、一度は呆れられて離れた相手が、生き残りたい焦り丸出しの人間に助けの手を伸べてくれるわけ?」


 直線な言い方だが、ミレイオが心配するのはルオロフの方。


 彼は明日にでも実行に移すと言ったが、どうにかこうにか最近、精霊や妖精を受け入れ始めたティヤー人に伝えて、もし失敗したらルオロフが責められる。

 それも併せた懸念を言うミレイオに、ルオロフは嬉しそうに微笑んだ。



「心配して下さっているんですね」


「当たり前でしょ」


「私も神様に具体例を確認しましたが、それも勿論伝えます。ただそこから先は、運任せですから」


「あんたったら、さばさばして」


「実のところ、私もピンとこないのです。私は人間ですが、神様が私に()()()()()剣を与えたことにより、思うに私は、全滅の枠外を設定されたような気がしますが・・・ 神様は、『私の状態と同じようになれば、乗り切れる可能性あり』と話していました。しかし、人々が別種族を頼った結果、手に入れる象徴が何かすら、私は知りません。

 四の五の言わずに実行し、結果が起きてから知ることなのだろうと」


 クフムはこの話で、今や自分だけが死ぬのかと悟ったが、それはさておき。


 ルオロフの『実行後に知るのみ』の答えに対し、ミレイオは小刻みに頷きを繰り返すと、ふーっと息を吐いた。


「達観とも違うけれど、ルオロフの従う、信じる気持ちは分かったわ。まぁ、そうね・・・一から十まで用意された方法なんて、精霊や別種族相手にないものだし。で、ねぇ。タンクラッド。あんた、どうよ」


 ミレイオは理解を示してすぐ、不意に親方に質問を投げた。なんでタンクラッドさん?とルオロフが、そちらを見る。だがタンクラッドは意外でもなさそうで、友達の視線に頷いた。オーリンも理解したようで『そうだな』と呟く。


「俺やドルドレンみたいな状態か」


 タンクラッドは答える。ミレイオは彼をじっと見て『私もそうかなって』と肯定した。オーリンが口を挟み『()()()じゃないだろ?』とまた意味深な発言をし、三人が頷き合ったので、ルオロフは止めた。



「申し訳ない。とても重要そうに聞こえるのですが、今、何を話しているのですか」


 少し前のこと―― イーアンが、サーン料理を作ってくれた夕餉に、この話は出ている(※2669話参照)。ルオロフも『人間』の箇所で、自分とクフムだけがそう、と言われたのは覚えているが。



 しかし、神様の意図と、タンクラッドさんたちの気づきは重なるのか、聞いてみない事には。


 止めた赤毛の貴族に、タンクラッドは『祝福だ』と額に指を置き、ミレイオに『多分、そこだよな』と同意を求める。


「あのう、『祝福』自体を具体的に知らないのですが、それはどういったものなのでしょうか」


 貴族の困惑ぶりに、オーリンがちょっと笑って『ちゃんと話すよ』と片手を振ると、タンクラッドに促す。

 タンクラッドはルオロフに、求められる行動を()()した。それは、『祝福』がどう行われたかではなくて。



「ルオロフ。俺は龍族の祝福を受けている。ドルドレンもそうだ。頼んだわけではなく、向こうが俺たちに祝福を与えた。バニザット(※シャンガマック)もそうだろう。彼は父であるホーミット、サブパメントゥに祝福されている。

 龍族は『祝福だ』とはっきり告げる。ホーミットは分からん。だが彼も、息子と認めたバニザットに対し、自分の受け入れを示した。


 お前の剣を象徴にした『神』は、この世界に属さないようだが、その行動と期間は、立場の認められた特権付きだ。その『神』にお前は、俺たちで言うところの『祝福』を授けられたんだろう。祝福の形は、一定しないと思った方が良い。


 助言の『因む色に頼る』・・・は、その色を司る種族が、気にかけてくれる可能性の高さだろう。

 だが、遥か昔の、色の話を知る人間がどれくらいいるのか、現在は分からない。だからお前は、呼びかけの時に、色を司る対象の話も含むべきだ。これはオーリンが調べてきているから、オーリンに聞け。


 遠かった繋がりが、今一度呼び起せるかも知れん。

 この話の重点は、『人間』が世界に存在する状態を認めて受け入れることだ。人以外の種族は理解しているわけだから、人間の行動によっては機会を得られるんだろう。

 

 祝福を受けると、思うに分かりやすい結果が出るはずだ。それまでと異なる、別の感覚が体に起こる。変化を感じたら、『受け入れられた・頼れた』と解釈していい気がする」



 タンクラッドは一気に喋ってから、額に指をまた当てた。


「俺は龍族の祝福をここに受けたが、見えない。でも確実に、龍族は俺と共にある。俺はそれを身を以て体験し、今もそのままだ」


 龍に仕えるつもりで生きる。この意志が、ティヤーで求められる改心なのかもな・・・ そう結んだ剣職人に、ルオロフは感銘を受けた。

 その横で、『の割には、コルステイン大好きよね』とミレイオが茶々を入れた。



 *****



 この後、ミレイオはシュンディーンを待たせているから先に抜け、タンクラッド、オーリン、ルオロフ、クフムが残る。


 親方は思い出したことを伝えようと、地図を持っているか若い二人に聞き、ルオロフが腰袋に入れた地図を机に広げた。



「俺が若い頃だ。この辺りに来たことがあってな」


「え?タンクラッドさんは、こんなところにまで出かけたんですか」


 クフムが驚き、タンクラッドは『ティヤーの端っこだ』と笑いながら、地図に手を伸ばして現在地を確認。少し考えて、やはり自分が当時見た地図では、この辺の島の様子が違うと感じた。


「あんたが旅した頃って、20代前半だったよな」


 オーリンが尋ねると、剣職人は頷いて『鉱石を探しに』と地図を見たまま短く答える。


 順路としては、アイエラダハッドへ上がり、ティヤーへ降りて、ティヤーからテイワグナ東、テイワグナからハイザンジェルに戻った。それを聞いてルオロフとクフムは感心した。


「すごい距離ですね」


「長旅だったが、目的地滞在以外は点々と動いていたから、距離はあんまり気にならなかったな。でも改めて考えると・・・お、こっちかな。当時と航路は違って当然だろうから。とすると、これか。俺が行った島は、アマウィコロィア・チョリアの、手前かな」


 話しながら、親方は紙に置いた人差し指の先をずらし、トン、と叩いた。


「十二色の海か。俺は当時、その話を聞いたかどうか。まー、いろんな海鳥が来る貴重な地域、と聞いてそれで頭がいっぱいだったかもしれん。でも海はきれいだな、どこも」


 朧げな記憶に失笑して、タンクラッドは垂れた前髪をかき上げ、懐かしそうに目を細めた。


 オーリンが向かい側から覗き込み、『ちょっと指どかせ』と頼んで、親方が若かりし頃に訪れた島と、現在島の距離を見る。



「すぐじゃないか。バサンダの故郷はこっちか?」


 親方が訪れた島で、バサンダの面と同じものがあった・・・オーリンの黄色い目がちらっと上がり、視線を受け止めて『言いきれないが』とタンクラッドも頷く。


「鳥の営巣地跡も、そっちの島からも近いよな。無難な解釈だ」


「行ってみるか。どうせここの用事はコロータだろ」


「『魔物製品を渡す』のと『魔物退治』と、『文化再興の手伝い』だ」


 あけすけなオーリンに、言い直したタンクラッドが笑い、クフムとルオロフもつられて苦笑する。


『なんか違うと思っていたんだ』と、タンクラッドは島に入る前の雰囲気を正直に伝え、この地域一帯が同じ名称とクフムに聞いた後でも、『島の名前も違った気がしてな』と記憶を辿った。



「昔のことだから、俺も覚えているのは会話に出た博物館の名前程度。ガウエコ・イヒツァ、と」


 呟いた親方を見上げ、クフムは少し気にしたように、地図に顔を戻す。机から一歩離れていたクフムは、地図の側に寄って、記載された名称を見つめ『ここかも』と一ヶ所を示した。親方、驚く。


「何?お前は知らないのだろ」


「はい。知らないですが、読めますから」


 ビックリする親方とオーリンとルオロフを見ず、ここ、と地図にちょんと指先をつける。クフムが言うに、一部が同じ島の名称だとか。じっと見る親方の視線に照れ、『多分ですよ』と態度が控えめになる。


「じゃ、そこ行くか」


「龍で行けばすぐだしな。明日でも、俺がクフムと下調べに行ってくるよ。お前、予定ないだろ」


 予定なんてあったためしがないクフムに、ちゃんと訊く弓職人。はぁ、と頷く元僧侶は、あっさり受け入れてもらえて嬉しく、オーリンの気遣いと信頼にも感謝した。でもオーリンは、別の思惑もあったので―――



「俺も、そっちに用があるんだよ。アリータックを出てからずっと、模型船がそっちの方角を向くからさ」


 この一言で、さっと視線が集まったオーリンは、『ザッカリアの代わりに教えてくれる模型船だ。見に行ってこないと』といつもの意味深な言い方で、口端を上げた。


「魔物製品は午後、警備隊に出そう。ここに卸す弓矢は、もう分けてある」


 オーリンは、『間に合わなかったら頼むな』とタンクラッドに言いながら地図に目をやる。



「模型船絡みで、長引かなかった記憶がないからね」

お読み頂き有難うございます。

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