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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二色の鳥の島
2692/2956

2692. 営巣地跡・嵐の客

 

 行ってきますと伝えた数十秒後に、イーアンは営巣地跡にいた。



 もう?と驚くほどの距離で、あまりにも近かったため、雨が降るまで四方八方から観察し、海にも入ってぐるーっと周回し、海を上がって周辺の環境も見に行った。


 皆が馬車を出したくらいの時間で、イーアンの下調べは終わり、小さな島で一休みした。

 東にあった雨雲は少し上までかかっており、強く吹く風が雨粒を飛ばす。空の半分は暮れ行く残照の強烈なオレンジ、もう半分はどす黒い雲の、ドラマチックな真下で、イーアンは座った場所から龍気を広げ、島全体を包み込んだ。


 それから、久しぶりの魔法・・・ 始祖の龍の遺した記号で、龍気に形を齎す。両手を龍の腕に変え、尖った爪をかちゃかちゃ記号をなぞるように合わせて、ふーっと息を通すと、龍の爪の隙間から吹かれた息は、龍気に当たって艶のある覆いになった。


「アイエラダハッドで、ダルナたちを守ったアレ(※2395話参照)。こんな感じでも使えるのは便利です」


 あの時はやばかったですが、と女龍は半球シェルターの内側で呟き、膝を抱えて座った左右を見る。営巣地跡・・・グアノほどではないが、小島の一部はそんな感じもある。島の全体の形は凹凸と横に伸びる窪みが目立つ。


「容食作用の窪み。離水ノッチがあるから、きっと地震で上がったのかもしれない。裏に小さい空洞もあるし、海水で変形している島なのね」


 石灰質なのかなとイーアンは思う。雨粒が増えてきて、龍気の天蓋に落ちては煌めく。この雨が行ったら、龍気の補充しないと・・・あれよあれよという間に、雲が張り巡らされて大雨に変わる様子を、女龍はじっと見ながら、一人、誰もいない島で過ごす。



 営巣地跡というのは本当で、沢山の卵の殻があった。風や波で攫われてなくなっていそうなものだが、凹んだ岩の内側や、隙間に落ちたものは残っている。識別できる殻を見つけたら、可愛い円形模様があって、破片の曲線から想像するに、8~10㎝ほどの卵。他にも違う卵の殻を見て、集団繁殖地だったと思った。


 バサンダが作ったお面の材料―― こうした営巣地で、接着剤材料を採っていたという話(※1414話参照)。タンクラッドが若い頃に訪れた、アマウィコロィア・チョリアで聞いたようだが。


「親方の反応『初めて来ました』って感じでしたけど・・・同じ地域の、別の島だったのかしら」


 バサンダの故郷も、広い地域のどれかだろうし、親方が寄った島もそうかもしれない。ざらッとした岩を撫で、イーアンは『でも()()()()()が、きっとアマウィコロィア・チョリアの宝物なのよね』と頷く。


 他にもありそうだが、ここが一番採れたとか、儀式の代表だったとか。そうした感じもあるだろう。


「聞いてみない事には、決めつけられないけれど。繁殖期に人が入って撹乱したやら・・・ではない、と思いたいです。

 確かタンクラッドの話では『卵の膜』と『海鳥の膠』だったような。どちらも、生もの採取だとしたら。卵の膜ってことは、相当集めないとならないでしょうし、海鳥の膠だって、一羽二羽では済まない気がする・・・・・ ふーむ」


 鳥たちが一ヶ所だけを繁殖地に選ぶこともないので、この界隈で複数の繁殖地があると思ってもよい。乱獲しないよう、順繰りに鳥や卵を捕まえていたのかどうか。


 島の形に影響する地震のために、鳥が使用していた場所が消えた・使い難くなったなども理由にはありそうだから、人為的な原因で減少したわけじゃないかも知れない。



「どうなのかな。見たところ、島自体に、人の手は入っていないけれど」


 大雨最中、白い龍気のカプセルでイーアンは推測しながら、本当にすごい雨だと、叩かれる天蓋を見上げた。波も高く、ザブザブ掛かる。


 ここが壊れると心配された理由は、島自体がなくなるのではなく、何か所か崩れた後が見えるので、それのこと。雨程度でと思いそうなものだが、削れ始めていた崖や磯は、嵐の勢いや、倒木の漂流などで壊されかねない。


 女龍は後ろを振り向いて、ガラッと崩れたであろう箇所を見つめ、ここの最期は近いのかなと少し・・・思ったところで。


 何かがパタッと音を立てた。豪雨暴風の嵐で、軽い音が耳に届き、眉根を寄せる。



 ん?と怪訝に感じたイーアンが立ち上がり、どこから聞こえたのか、空耳かとゆっくり周囲を見渡すと、また同じ音がした。気配は特に怪しくない。


 小さい島の面積は、船二隻分程度。アネィヨーハンが二つ並んだ印象で、島の縁が磯と砂地、内側を岩が占めていて、中身の一部に空洞付き。島には植物もない。草は砂地に生えているがそれだけ。カニや貝などはいそうだけど、他の生き物がいる様子はなかった。


 で、また『ぱた』と軽い音はする――― んー??どこから~?とイーアンがぐるぐる見回した一ヶ所、ハッとしてイーアンは急いで翼を出した。風吹きつけるのと逆の面に、ちっこい鳥発見。


 うわー大変!急いで鳥の影の側へ行き、イーアンは魔法の一部解除と同時、ちゃっ、と鳥を鷲掴みにして引き込んだ。ハトより一回り小さい鳥はバタバタしており、イーアンは慌てて掴み直す。


「怪我、怪我していませんか?ここに来たかったのに、封じていてゴメンね」


 大丈夫?どこか悪いとこある?とイーアンは鳥を持って、くるくる回す。鳥は相手が人間ではないと分かって、諦めたように大人しくなった(※死ぬ予想)。


 何やら項垂れた鳥に気づき、イーアンは『食べませんから』と正面切って約束し、とりあえず乾かそうねと下に降りる。

 龍気のカプセルの中は仄かに白く明るい。鮮やかな鳥をそっと下ろして、動くことすら覚悟してやめたような鳥相手、龍気を注いであげた。


「乾くし、元気になると思います。龍気だから。骨折とかしてないと良いのだけど」


 どっちみち治りますけどねと、独り言を言いながら、海鳥を保護したイーアンは、龍気を注ぎ終わった後、鳥の前にしゃがみこんで観察する。鳥は微動だにしない(※警戒)。


「とてもきれい。美しいですね。あなたはここに、避難したのか」


 何でまたこんな天気の時に~と同情するが、鳥が答えられるわけもないので、とりあえずイーアンはその場に腰を下ろし、鳥の背中を撫でようと手を伸ばす。鳥はちらっと見てから、その腕に乗った。


「あ」


 意外な反応に女龍はほころぶ。白い龍の腕に乗った鳥は、鱗をついばみ、ああそれかとイーアンは頷いた(※鱗光ってるから)。食べられませんよ、剥がれないし、と教えながらも、そんな行動を楽しく観察。


 青緑の頭部と背中、翼を広げた外側もそう。お腹は銀色みたいな明るい灰色。白い線が喉元を巻いてその下が朱色、翼と尾には輪っか模様がたくさん。輪っかは、ぱっと見で膨らんでいるようなグラデーションがある。クジャクの羽の目玉模様より、もっと立体的な見かけ。


「嘴は真っ黒ですね。足は真っ赤。輪っか模様は、青から緑色、黄緑、薄黄色の順。なんて豪華な色彩でしょうか。目の周りも、首と同じで白い線が縁取る。ここだけ白いのですね」


 きれいきれい、と褒める女龍に、鳥も少しずつ気を許す。鱗が剥がれないと知るや、ちょんちょん跳ねて肩に移動し、くるくるした螺旋の髪を越え、白い角に乗っかって落ち着いた(※枝)。


「あ。そこ。まあ、とまりやすそうですよね。角捻じれているし、段差あるから」


 でもそこで糞はやめてね、と女龍はお願いし、鳥を角に乗せたまま、また嵐の外に視線を向ける。珍客は助かったから良いものの・・・他にも鳥が来ていたらどうしようかと少し心配。



 そして思いつく。イングを呼んで、鳥が外にいるか見てもらえたら―――


 人助けならぬ、鳥助け。この鳥一羽で済めばそれで良しだけど、違うとなれば大変。


「龍気の壁を下げて、開放しっぱなしになるのも島に響くし」


 角に鳥をとまらせたまま、イーアンは立ち上がって『今からお友達を呼びます。驚かないでね』と先に伝え、イングに呼びかけた。

 魔法に使う魔力は、イーアンの場合龍気変換なので、無駄遣いしたくない。早く来てーと願いながら一分後、あの香りがどこからともなく漂った。


 ふっと、壁の内側に青紫の男が出現。イングは周囲を見回し『これは?』と最初の一言。それからイーアンを見て、角に鳥がいるため、『それは?』と指差す。


 イーアンは大まかに説明し、頭の上の鳥を人差し指で示しながら、周辺にも鳥がいないか知りたいと伝えた。イングは、鳥程度のために呼ばれた、などとは言わず、ゆっくり頷く。



「その鳥と同じように、この辺りに生きる鳥がどうしているかを知りたいわけか」


「そうです」


「一つ先に教えてやろう。その鳥の種類か分からないが、鳥だらけの場所が()()()()()()。そこは人間の目につかない。もしかするとその鳥は、そこへ行こうとして間に合わなかったかもしれないな」


「・・・今。さらっとビックリなことを話していますよ、イング」


「そうか?あっちだ」


 あっち、と青紫の男は首を傾け、鳥はそちらを見て、イーアンは方向とイングを交互に見る。


「この仔、一羽が迷子になったとか・・・ 」


「迷った何だは、分からないだろ。この風で飛ばされたとかな」


「人の目に映らない、島?」


 イーアンが繰り返すと、イングは少し間を置いて『島とは言っていない』と答えた。そして鳥に視線を投げ『()()()()()よな』と同意を求め、鳥は羽繕いを続ける。



「精霊の領域、ですか」


 女龍の問い。イングはイーアンの側へ寄って、少し背を屈めてから鳥を撫で、『そんなところだ』と呟く。鳥はイングに全く警戒せず。


「生きている者は誰だって、命は惜しい。弱肉強食など、自然の掟でもない。弱者は単に襲われて死ぬか、逃げて生きるか。強者は単に襲って殺し、逃がしたら次を求める。『自然の掟』と掲げて、好き勝手な振る舞いに理由をつける人間は、どこの世界も、嫌われて仕方ない生き物」


「イング。それは」


 ちらっと、水色と赤の動く瞳が、尋ねた女龍を見る。女龍の表情は不安気で、イングは鳥を撫でていた手を下ろした。


()()()、避難だ。鳥が、人間の手から逃れただけの話で、避難先が守りの海だ」



 守りの海・・・ 呟いた女龍から、鳥はダルナの手に乗り換える。青紫の男の大きな指に止まり、ピピとかチチとかさえずり、イングは興味深そうに『ほう』と頷く。


「イング、鳥と喋ることが出来るのですか」


「喋っていない。こいつの思考が見えた」


 そっちかと女龍が理解すると、イングは海を振り返って『精霊じゃ、なさそうな』とまた、気になる事を伝え、イーアンは困った。


「精霊ではない。人目につかない、何かが、鳥たちを保護しているのですね」


「妖精かもな」




お読み頂き有難うございます。

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