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魔物資源活用機構  作者: Ichen
剣職人
269/2944

269. 試作・目玉とパワーギア開始&親方用保存食

 

 その後も忙しいイーアン。目玉製品を作ってから、シャンガマックの脛当ての革と土台を用意して、製作に備える。

 脛当て用の白い皮はダビに・・・・・仲直りしないと難しいかもと思いつつ。いつでも取り掛かれる準備は終える。


 タンクラッドに会うのは、契約金が用意できた時。彼は、早く来いと言っていたが、『契約金を持って行く時』と設定した方が覚えやすいので、執務室が稼動する頃合の日にちを伝えた。


 自分は本当に、タンクラッドの大事なワンちゃんになったのかも、と思うイーアンだった。彼は心の優しい人だし、一人の生活が寂しいのだろうと。

 もし、本物のワンちゃんと出会いがあったら、是非タンクラッドに世話してもらいたい。きっと仲良しになるだろうなと考える。



 目玉製品は、剣を使う人にはあまり用がなく、これまたダビ待ち。弓部隊に知り合いがあまりいないので、大弓を持つダビに試着してもらう。一々ダビに頼っていることを思い出すイーアン。


「早くしなきゃ。仲直り」


 ちょっとイラつき過ぎたか、と反省する。大人なんだから、あんな感情的にならなくても良かったのだ。ダビがマブダチ(古)だからかもしれない。何でも言えると思っていたし、彼だけはいつも変わらず普通に淡々と。そう淡々。


「でもまあ、人目を気にするっていうのは。ダビも今後、自分が関わる仕事なんだから言いたくなるのも分かるわね」


 これまでは騎士修道会の中でしかなかった、人付き合いが外に向けられていく。身内じゃないんだよ・・・という感じだろう。契約金を運ぶ日に誘ってみようとイーアンは思った。



 目玉製品をある程度、形にした後は、幾つかの毒の仕分け。量が少ないので、ちょっとずつ分けて保存する。


 大きい蝙蝠の頭の中から取った毒。毒というか、血液が固まらない唾液。これもいつ使おうかと小分けにして包んでおいた。


 ツィーレインの森の魔物の毒は、割りに使っているので、これも小分けにして大事に使う。イオライの黒い体液は毒とは違うが、何かとあれば役に立つので、これも小さくして容器に入れた。


 この前の南の川の魔物の白い粉(←白い体液って名前がエッチでやめた)は、これが毒か薬かと思う存在なので、これも容器にしまっておく。


 骨の粉を使う機会がないので、最近はしまってあるままだが、あれもあると便利なので、出来れば持ち運びたいと。



 遠征がいつなのか分からないけれど、すぐに出ても良いように『遠征セット』として用意した。



「保存食だわね。そろそろ厨房へ行っても大丈夫かしら」


 午後の2時過ぎ。夕食の仕込が終わった頃だからと行ってみると、エゼキエル・バージック ――黄金色の金髪で青っぽい灰色の瞳。20代後半。(クローハル隊)―― が手を振った。クローハルの隊の人らしく、以前、洞窟の蝙蝠を退治した時に一緒にいたのを見たことがある。


 ハルテッドもクローハル隊だが、確か『クローハルの隊は悪い人はいないけど、パーで浅い』とつまらながっていた。バージックは顔は良いが軽そうである。顔で揃えるところは、クローハルが隊長だからかもしれない(←偏見)。



 バージックは隊長に負けない甘い笑顔を向け、イーアンに、作るお菓子の材料と分量を質問。でもイーアンの答えから、非常に不思議そうな顔をする。


「お菓子。でしたよね」


「今日はちょっと違うのです。だからこれは試作品で、量も少なめ」


「お菓子じゃなくても、多めに作りませんか」


「作るのは保存食です。美味しくないと思う人がいる、そうした分類の食べ物なのです」


 ちょっとだけ作ってみましょうね、すぐ出来るので・・・イーアンは一応、材料を出してもらって、作り始めた。


「僕は横にいて見てても良いですか」


「ええ。大丈夫です。でも」


 ちょっと吹き出してしまったイーアンに、バージックは『ん?』と訊く。ごめんなさいとすぐに繕って笑顔を向けるイーアン。


「私ほら。後から知ったのですけど、遠征の時に皆さんに怖い思いをさせたから」


 ハルテッドに聞いて、ドルドレンにも聞いて。イーアンは、自分が魔物の頭を割ったことで、クローハル隊が全滅し、その日の遠征の慰労会がなくなったことを知った。ひたすらすまなく思った。


「私が料理するもの食べたくないかもって」


「思い出させないで良いです。あれは過去。過去は過去。今があれば良いじゃないですか」


 何だか分からない立ち直り方で、肩を組んでくるバージック。後ろで見ていた、同じクローハル隊のメイーレが、丁寧にその手を剥がす。『軽率と思われるから』真っ当な意見を聞き、イーアンは安心して、メイーレに笑顔でお礼を言って、料理を続けた。バージックはぶつぶつ言っていた(※隊長似)。



 イーアンは鍋に入れた獣脂を溶かし、弱火でしばらくふつふつさせてから、それを漉してボウルに移した。

 干し肉を細かく細かく割いて小さくしてから、脂のボウルに入れ、乾燥させた甘酸っぱい木の実を小さく刻んでこれもそこに加える。ベリーやイチジクやブドウのような、ちょっと見た目や味わいが違っても、美味しい干し果実があるので、これらを混ぜた。


 蝋をすり込んだ紙を長方形の箱型に折って、そこにこの混ぜ物を注ぐ。周囲が冷えてきたら、更に冷たい場所へ置いて固めた。


「あれで終わりですか」


「そうなの。固まったら切ります」


「お菓子ではないですね、確かに。肉が入って脂があって」


「はい。でもとても栄養価が高いし、水も入らないので持ち運べて長持ちします」


 イーアンはちょっと考えてから、アティクを探しに行った。もしかして。彼なら知っているのではと思い、探していると、アティクは演習中だった。まあそうか、と諦めてイーアンは厨房へ戻る。



「イーアン、誰か探しているのか」


 向こうからよく通る声がして、廊下を振り返るとシャンガマックがいた。『アティクをちょっと。でも急ぎではないので』笑顔で返事をしてお礼を言うと、シャンガマックはじっとイーアンを見る。


「俺は遠征の話で、執務室に呼ばれていたんだが。その様子だと知らないのか」


 遠征?何だか不安な言葉にイーアンは立ち止まる。シャンガマックが言うには、援護遠征で何人か派遣されるだろう、と言う。


「相手はそれほど大変ではないらしいのだが。全滅までが。数が多くて範囲が広いとかで、南から要請が来た。

 南西と南東の支部からも交代で出ているようだ。西は人数があまり多くないし、しょっちゅう魔物退治だから借り出せず。北西(こっち)にも要請が入ったのだ」


 そうなのか、とイーアンは納得。南なら行ったから、自分もと思う。いつ行くのかと聞くと、出向は2日後という。南西で一泊してからの予定で、『あまり急がなくても良いから、助っ人に来てほしい』様子だ。



「イーアン。そろそろ固まりましたよ」


 廊下で話していると、厨房からメイーレが出てきて教えてくれた。『はい。行きます』返事をしたイーアンは、シャンガマックに遠征予定の話を聞けて良かったと伝え、厨房へ向かった。


「また何か作ってるのか」


 シャンガマックが楽しそうな表情で付いてきたので、『お菓子ではないの』と答えて一緒に厨房に入る。


「シャンガマックもご相伴に。美味しくないかもってイーアンが言うんですよ」


 バージックが冗談でそう言うと、シャンガマックはちらっとバージックを見て『美味しいだろう』とだけ答えた。真面目なシャンガマックに誰も突っ込まない。


 笑いながらイーアンが包み紙を開けると、所々白っぽく、茶色や紫や赤が埋め尽くす不思議な棒が出来ていた。


 覗きこむ騎士たちの前で、イーアンはナイフで薄くそれを切る。ちょっと手に持ってから溶け具合を確かめて、一齧り。シャンガマックがなぜか少し顔を赤らめる。


「うん。こういうものです。これはこういう味」


 そうそう、と一人頷くイーアン。『食べてみて良いか』シャンガマックは薄くされたそれを見つめる。イーアンは振り向いて『はい』と自分が齧った半分を口元に差し出した。


「あ。いや」


 真っ赤になるシャンガマックに、一瞬分からなかったイーアン。ああそうだった、と慌てた。ついドルドレンのノリで失礼なことをした、と思い、『すみません。酷い失礼を』と謝りながら、慌ててもう一枚切った。

 シャンガマック以下。それが食べたいと心から思うが、誰も言えなかった。


 急いで一切れ摘んで、今度こそきれいだからと、シャンガマックの口に運ぶ。非常に悩ましげに眉を寄せた褐色の騎士は、恥ずかしそうにそれを食べた。周囲はわあわあ煩いが無視する。


「いかがでしょう」


「これは。俺は好きだ」


 食べたシャンガマックは暫く味わってから、目を見開いて頷いた。


 もう一切れもらえるかと言われ、嬉しいイーアンはせっせと切り出して、はいどうぞと差し出す。再び少し赤らめつつ、やはり食べさせてもらうことにした褐色の騎士(※周囲も整列)。


 目を瞑って、恥ずかしさと嬉しさと美味しさに固まるシャンガマックをどかして、料理担当の騎士たちが自分も自分もと並ぶので、イーアンはとりあえず全部切って皿に置いた。


 なにやらぶーぶー聞こえるが、イーアンは往なしつつ保存食を勧める。『シャンガマックだけ』『並んだのに』とうるさいので、仕方なし、突き匙に刺したのを食べさせることにした。

 これはこれでOKらしく、満足そうに笑顔で全員食べさせてもらう。雛が多過ぎるわ・・・イーアンは雛だらけの支部に呆れる。やれやれ、と思いつつ、自分も食べる。これは大変に高カロリーなので気をつけないと太る。



 騎士たちはちょっと微妙そうな顔をするものもいた。『初めて食べますから』と前置きして、肉と果実は不思議な味だと言っていた。


 イーアンも最初に食べた時、同じことを思ったので、自分もそうだったと話した。『ブレズと食べたら丁度良いかも』とイーアンがブレズに挟んであげると、彼は『この食べ方の方が味わいが広がって好きだ』と笑った。


 シャンガマックはとても気に入った様子だった。『これは、これしかないのか』と訊かれて、好き嫌いが分かれるから、大量には作らないだろうと答えると。


「故郷の味を思い出す。なぜイーアンはそれと似たものを作るのだろう」


 そう言って寂しそうに最後の一枚を食べた(※ほぼシャンガマックが食べた)。バージックも『最初は何かと思うが、口に入ると味が濃くて、もう一度食べたくなる』と気に入ったようだった。


「これは保存食と話していたが。遠征に持っていくのか」


「冬の間は良いでしょうね。シャンガマックが出向されるのなら、今度の遠征用にも作りましょうか」


「本当か。そうしてほしい。今の5倍はほしい」


 そんなに食べたら鼻血が出ると注意した。太りそうにないけれど、彼が鼻血を出す姿は怖い。シャンガマックは笑っていた。他の騎士も笑って、とりあえず材料は安いし大量にあるんだから・・・とゴソッと作るように言ってくれた。



 おかげで遠慮なく作れるイーアンは、シャンガマックの5本分以外に、タンクラッドの分と、騎士たちの分を作った。

 混ぜるだけだから、簡単といえば至極簡単。でも材料を細かくしたり、脂と具材の配分を考えるのは、ちょっとしたコツだった。



 明日も保存食を作って良いかと訊いて、了承を得たイーアンはこの日はこれで終了。



 翌日も同じように、目玉製品を作り、それとちょっと試したかったパワーギアに取り掛かった。鎧の下に装着するかどうするかで悩んでいたが、最初は鎧下に装着と決めて、取り組んでみる。


 そう簡単に出来る気がしないので、少しずつ調整しながら作るつもり。これもダビがいないと面倒くさいとすぐに気が付く。


 ダビはいないので、ドルドレンに頼んで、腕や肩や胸周りを測らせてもらう。しかし、ドルドレンは恵まれた身体なので、試作を作っても彼以外に適用できない可能性が高い・・・と不安が募ってきた。


 おまけに測ってると、抱きついたりキスしたりするので、時間がかかってしようがない。貴重な時間を、さらに彼しか使えない試作品のために使うのは、大変に勿体無い。


 已む無し、嫌がるドルドレンを追い出して、フォラヴかロゼールか、平均的に肉体を鍛えた人たちを探す。



 フォラヴが捕まったので、事情を話すと、これもまた若干手を焼くが、とりあえず測らせてもらえた。しかし一々反応するので、最初こそ笑顔で流していたものも、最後のほうはイーアンもゆとりがなくなり、無表情で終えた。


 終わってからお礼を言って、丁寧に帰す。『いつでもお呼び下さい。私はいつもお待ちしています』と。優しい妖精の騎士は微笑みながら帰っていった。


 どうにかサイズを手に入れたので、イーアンはそれを参考に、塩漬けの腸を取り出して樹脂を用意し、切り出し始めた。




 こんなふうに1日が終わり、2日目が過ぎ、3日目が終わる頃。執務室からお呼びがかかり、ドルドレンと執務の騎士に契約金を運ぶ話をされた。


 イーアンは契約金を受け取って、何に署名をしてもらえばいいのかを確認し、翌朝タンクラッドのところへ行く準備に取り掛かった。


 ダビとは会わなかったけれど、朝にでも聞いてみようと思って、そのままだった。



 そしてこの夜。ダビから会いに来るとは思いもしなかった(※クローハル付き)。


お読み頂き有難うございます。


ここでイーアンが作っている保存食は、聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、

ペミカンという食べ物です。私が若い頃、ネイティブアメリカンの人に教わりました。ハイカロリーですが、大変に栄養があります。イーアンには干し肉を使わせています。私も干し肉と思っていましたが、地域で焼いた肉などもあるようです。思い出の料理です。

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