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魔物資源活用機構  作者: Ichen
十二色の鳥の島
2688/2957

2688. 南西移動8日間 ~⑳四百十七日目渡航延長・アマウィコロィア・チョリアの一帯

※明日の投稿をお休みします。もしかすると明後日もお休みするかもしれないので、その場合は早めにこちらでご連絡します。どうぞ宜しくお願い致します。

 

 昨夜、ルオロフを連れたダルナに続き、伝言を預かった巨体のフェルルフィヨバルが来た以降、シャンガマック親子が戻らなかった朝を過ぎ―――


 船は今日、南西の目的地『アマウィコロィア・チョリア』へ到着予定。だが実際は。



 アリータックを後にして、8日間でとは言われたが、出港早々タンクラッドの留守(※トゥの留守)もあったし、そもそもそんなに早くは着かない遠さ。


 ハクラマン・タニーラニが『8日』と航路を教えたのは、あくまでも目的地を含む海域に入る意味で、そこは沿岸警備隊が回っている(※2651話参照)ので、彼らに誘導を頼む・・・そうした意味だった。



 アマウィコロィア・チョリアは、南西でも海域別海岸の一番奥。


 イーアンたちが、沿岸警備隊の管理する海に入って間もなく、銀のダルナを確認した民業の船が警備隊に報せに向かい、報告を受けた警備隊が西方面へ出て、黒い船アネィヨーハンは午前の光が照らす海で、南西の警備隊と合流し、目的地がまだ先と教わる。


「先?どれくらい?」


 甲板から身を乗り出して、横についた船に大声でミレイオが尋ねる。向こうからも『もう4日くらい』と返事が戻り、え~?と眉根を寄せたミレイオは、船縁並びに立つクフムを振り返った。


「クフムが聞いて。私には『4日』と聞こえたけど、違うかもだし」


「いえ。合っていますが・・・でも、はい」


 共通語の発音がよく聴き取れないのを理由に、ミレイオは『聞き間違い』と思いたい。

 間違いなく共通語を喋ってくれている相手だが、確かに訛りは強いのでクフムが交代して、もう一度ティヤー語で尋ね直した。でも返事は同じ・・・・・



「ほんとー?後4日なんて聞いてないわよ。そりゃ一日停止もあったけど(※トゥの留守)そこから順調だったじゃない。夜も進んで、天気も崩れなかったし」


 大声で嫌がるミレイオの言葉を聞いた警備隊は、ティヤー語で即返し、クフムが下を覗きこんで聞き返す。ティヤー語のやり取りだと早いので、クフムは心配そうなミレイオに『天気が』と言い難そうに空を指差した。


「何よ、天気が」


「崩れるそうです。今日」


 なによそれーーー!さらに嫌がるミレイオに、青空を見上げたクフムは『今は晴天ですけれどね』と困った顔。天気は海で生きている人たちでもないと読めない・・・下からまだ何か大声が飛んでくるので、クフムは少し会話を続け、とりあえず警備隊の後について、船を進めることを推奨した。



「天気が崩れるから?」


 片眉を上げたミレイオに頷き、『大雨が来るようで』と航路変更の指示をクフムは話す。腕組みしながら聞くミレイオは、左舷についた警備隊の船二隻を横目に『遠回りになりそうだわ』とぼやいた。


「このままじゃダメなの?」


「話によると、島は点々と続くんですが、干潮で砂州繋がりになるため、大雨だとそこへ乗り込んでしまう危険があるとか」


 雨が引いた後の干潮で水位が下がって、砂州乗り上げなんて羽目にならないとも限らない。

 そんな一部のために大回りするのか、と両手をお手上げのように上に向けたミレイオだが、砂州が繋ぐ距離を聞いて目が据わる。


「嘘」


「いえ。たった今聞いたので、本当だと思います」


「そんな、()()()砂州?」


「確かアピャーランシザー島の農家さんは、昔話で地続きだったような話をしていませんでしたっけ」


「あんた、それが未だに残っているって言う気」


「こっちは浅瀬が多いのかもしれないです。まだずっと先ですが、テイワグナの最東端もありますから」


「あ・・・そうか」


 地図を思い出したミレイオは唸る。そうだった。まだまだうーんと先だろうが、テイワグナはハイザンジェル南を通り越して東へ伸び、その端っこは、ティヤーの最西端近いのだ。勿論、島であって地続きではないが。


 ということは、全体的にこっち側の経度は浅い海底が。そこまで考えてミレイオは一度目を瞑り『あー・・・()()大丈夫かしら』と呟き、溜息。


 ここまでの会話はもちろん、トゥも聞いている。警備隊の船の反対側にいるダルナは、何の反応もなし。タンクラッドに頼まれるなら食べ物も出してやることになるなとは思うが、今ミレイオたちに言うものでもない。


 そして、ミレイオもまた、トゥに丸投げで頼む気もない。が、クフムはちらっと大きなダルナを見た。ただ、その理由は食料ではなく―――



 *****



「はぁーあ。でも仕方ないか。乗り上げるのも困るし、とりあえず誘導に従いましょう。でも彼らも4日間()()()()()()()じゃないと思うから、クフム、あんた話聞いて来てくれる?」


 食料と水の残量に眉を寄せたミレイオは30秒考えてから、とりあえず『4日間』予定を、クフムに訊いてもらうことにした。


「え。私?」


「ティヤー語で話した方が、誤解もないし早そうじゃない。手が空いてるの、今はあんただけで、()()()も待ってるし」


 待ってる、と腕組みした片手で船横をちょいと指差し、ミレイオはクフムに命令。



 この時。船にはイーアン、タンクラッド、オーリン、ミレイオ、ルオロフ、クフム、シュンディーン。

 朝食後はすぐ魔物退治へ出るようになってから、イーアン、オーリン、ルオロフは、時間帯的にもう出発後。タンクラッドも行くが、今日は出遅れてこれから。留守を預かるミレイオは、クフムとシュンディーンを側に置いて、船を守る担当。


 今はタンクラッドがいるが、彼を呼ぶ内容ではないし、シュンディーンも関係ないので(※基本赤ちゃん)、クフムに回す。これはこれで、クフムが信頼されている証拠。



 ということで、ミレイオは横の船に少し待っていてもらい、船室からお皿ちゃんを持って来て、クフムを小脇に抱えると、警備隊の船甲板へ下ろした。

 前置きなく抱えられたクフムは驚いたが、降ろされた側の船員の方がもっと驚いていた。


「じゃ。ちゃんと聞いてね。一時間後に迎えに来る」


「そんなかからないですよ!」


 私やることあるのよ、とミレイオはさっさと切り上げる。置いて行かれたクフムは、凝視している警備隊に『一時間、居てもいいですか』と必死の形相を向け、許可された。


「交代なんですよね?今も、私たちを見に来てくれただけで、違う仕事中だったとか」


「うん、まあ。でも入って来た船に確認を取るのは、仕事だから。交代はするけれど、午後だ」


 そうなんですか?と聞き返すクフムだが、よくよく聞けば、ピンレーレー島の海運局長から知らされていた話で、行先も分かっているから、アネィヨーハンが来たら案内する段取りは出来ていたらしかった。


 ホッとして『そうでした。局長が』と呟いたクフムは、でもなぜ8日間と言われたのか?と気になったが、尋ねるより早く、答えが出た。



「全体?一つの島の名前だと思いました」


「それ言ったら、ピンレーレーもそうだっただろう?」


「ああ・・・言われてみれば」


 目的地アマウィコロィア・チョリアは、砂州繋がりの島全体の総称でもあった。警備隊のおじさん二人が、舳先の向く進路に視線を移し、昔はあっちもこっちも全部がそうだったと教える。


「全部。すごい広さですよ」


「そう。ここら辺は歴史上、何度か大きい地震があったんだ。それで海底地形が変わってさ」


「それ・・・相当昔の地震も含んでいますか」


「だね。何百年前とか。地域の昔話や、舟歌、民芸品で地震の事実が残ってるから、資料館に寄れる時間があれば見ると良い。最近の大きい地震だと・・・おい、あれだっけ?」


 喋っていたおじさんが、あれだっけと、隣のおじさんに振ると、彼も日差しに目を細めて『8年前な』と答える。8年前の大地震を、クフムは知らない。クフムはアイエラダハッドにいて、外の情報は疎かった。


 あと、去年のテイワグナ沖地震も結構()()()、とおじさんたちは頷き合う。去年の地震でも、島の一部に被害が大きく出たとか何とか。


 相槌を打つだけのクフムに、おじさんたちは『地震で沈んだ場所もあるし、浮き上がって来た場所もあったな』と付け足した。



「その。地震が及ぼした地形変化で、大きい島だったというか、地域全体が分断してという話なんですね?アマウィコロィア・チョリアと呼ばれ続ける島は、中心なんですか?」


「中心じゃないよ。端っこだから。でも、その名前を最初に名乗った土地なもんで、定着している」


「へぇー・・・でも、全体がそう、と」


 頷くおじさんたちに、クフムも進行方向を見て『すごい広さだったんだな』と呟いた。


 見渡す限り、ここからは一面、海。あっちがそうだよと指差された右遠景に、薄っすら青い島影を見つけ、似た島影を視界に入れながら、西へ舵を取るようだった。



 警備隊の船はさほど大きくなく、大型のアネィヨーハン脇につくと、半分くらい下にいる感じ。この高さの視線も興味深いな、と海面の近さを眺めていたクフムは、ふと海の色が違う事に気づいた。


 甲板に残ったおじさんは、クフムにも事情を聞くため、紙とペンを取りに行き、少しの間放置。警備隊の人数は一隻に30人くらいいそうだが、他の人たちは見える位置にいなかった。


 クフムを待たせる間、二人のおじさんが一度離れて、すぐに一人が戻り『今、書くもの持ってくるから』と教える。こちらの人数やら何やら質問に答えるらしい。それはさておき。



「海の色が違いますね。大雨が来る時期だからですか?」


 ちょっと気づいたことを尋ねたクフムに、黒い長い眉をちょっと寄せたおじさんは『知らないのか』と返す。知らないですよと首を横に振ったクフムだが、おじさんの反応は『知っていて当たり前』の感じ。


「ピンレーレーから来たんだろ?誰かに聞かなかった?」


「え?いや、特には」


「アマウィコロィア・チョリアの意味は教えてもらわなかったのか」


「えええ?いいえ、そんな話にはならないです。昔話は聞きましたが、名前の意味はあっちで聞いてと」


「なんだよ。そうなのか?知らないってことはないだろうに」


「海賊言葉じゃないから・・・ですかね?この島の名前は、アピャーランシザーで教えてもらったので」


「ふーん。アピャーランシザーは年寄りばっかりだから、思い出せなかったのかな・・・意味は『十二色の鳥』だ」


 おじさんの太い腕が進む船の後ろから前へ、サーッと平行に動く。


「光の加減もあるが、水に入ってる所がいろんな色を見せる。この色に引き付けられて、ここにしか来ない鳥がいた。その鳥も、何十年前からか来なくなったが・・・地域限定の鳥らしくてさ。学者が調べに来ていたくらいだ」


 砂州が出ると意味が分かるだろうと教えてもらい、クフムは目を皿にして海面を見つめた。『どこの言葉なんだろう』思わず好奇心が呟かせ、おじさんが笑った。


「古代も良いところだぞ。それこそ、地名でしか聞けないんじゃないか?昔話を教えてもらったと言ったが、古い大きな島の王の話だろ?その頃の言葉だろうから、普通に話せるやつなんて今はいない」


「死語なんですね」


「当然だよ」


 意味は伝わってるけれど~とそんな話しをしている内に、紙とペンを手にしたおじさんが戻り、質問に応じる時間へ。返答しながら、自分たちの目的地まで、警備隊が同行予定する時間や距離も教えてもらい、なんだかんだで一時間はあっという間。


 馴染んだ頃に、ミレイオが太陽を背に黒い船から降りてきて、『終わったぁ?』とクフムに尋ねる。


 終わりましたと答えたクフムに、ミレイオは腕を伸ばして小脇に再び抱え(※獲物のように)驚いているおじさんたちに『何かあったら呼んで』と軽く挨拶し、来た時同様、あっさり戻って行った。



 甲板に下ろされて、クフムは警備隊の同行予定を伝え、そして―――


「本当?」


「そうみたいですよ。『十二色の鳥』って」


「なんか・・・色が。海賊言葉よりも前に存在した古語でも、色が重視って」


 私もそう思いましたとクフムは頷き、ミレイオは『面白い』と耳たぶを掻きながら笑った。


「とりあえず、食料どうにかしなきゃ。ちょっと分けるの手伝って頂戴。あと、タンクラッドに今日はいてもらうよう頼んだから、船は進むわ」


 そうミレイオは言って手招きしながら、昇降口へ歩き出し、クフムも後をついて行く。銀のダルナをちょっと見ると目が合ったが、クフムは目を逸らして中へ入った。



 トゥは昇降口に消えた背中を見つめたまま、『俺に頼むのは、お前では無理だ』と鼻を鳴らす。


「だが、そうだな。クフム。確かにお前の思い付きの方が、俺も手っ取り早く思う。砂州を跨げば目的地だ」


 大周りの理由、妨げとなる砂州を跨いだ先は、距離を短縮した目的地。クフムの思考を読んだトゥは、彼が皆の役に立とうと考えて、最短距離を思いつき、それを確認するためにトゥを―― 何でも可能にするダルナにお願いしようとしたのを認める。


「悪くないな。俺の主のためにもなる」


 銀のダルナは青空に増えた雲に『雨も来ることだし』と、面倒の予感を呟いた。



 いつの間にか、晴天は雲の切れ間に除く。早足で空を進む雲は風に急かされ、時々音がなるほど強い風が、水面を煽り騒がし始めていた。

お読み頂き有難うございます。

この前休んだばかりで申し訳ないのですが、明日の投稿をお休みします。

時間が取れず、意識も持たなくて、ストックがなくなりそうなので、年末に向けて、明日(もしかすると明後日も)お休みを頂いて書こうと思います。


意識が持つ時間が短く、繋げて考えることが少し難しい状態にあり、物語をお休みする頻度が高くなって申し訳ないです。どうぞ、よろしくお願い致します。


いつも来て下さる皆さんに励まされます。毎朝応援して下さるお気持ちに、とても力を頂きます。

本当に本当に有難うございます。


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