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魔物資源活用機構  作者: Ichen
勇者の三代の呪い
2685/2958

2685. 南西移動8日間 ~⑰ティヤー魔物事情中半・シャンガマック考察『神様』・パッカルハンと剣の持ち主

 

 タンクラッドが留守で開けた間、皆の動きは特に何があったわけでもない。


 魔物は退治しても退治しても、出続けているのが現状と知った日から。異界の精霊の世話になっていた期間を反省する如く、イーアンたちも毎日出かける。



『一つの国に二万頭』の目安は、アイエラダハッドでも疑わしいほど振り切っていたが、ティヤーも同じ。下手すると、()()()()()くらい、倒していそうな気がすることもある。


 アイエラダハッドが『土地の邪と増殖した魔物』なら、ティヤーでは死霊。


 どういう仕組みか、死霊が混じった魔物はやたらと多い。混じっていない魔物もいるにせよ、どこかに『骨・体』の一部が見えたらそれは死霊混じりで、これらは倒された魔物にも憑いてまた動く。


 完全消滅か、死霊が()()()()を満たしていない状態でなければ、『さっき倒したはず』の魔物も増えて動いている。条件は何か、皆目見当もつかない。

 偶々、死霊が側にいなかったからなのか、死霊が憑くには持ちが悪いのか。


 とにかく、海でも陸でも魔物は多く、死霊が憑いた魔物は気持ち悪さもあって、魔物材料として回収に至らないため、ひたすら倒すのみ。


 イーアンは、壊滅した総本山裏で見た水中の墓(※2582話参照)が、魔物を退治する度に過っていた。

 海で行方不明者が多数出ていることも、もしかすると、死霊が後を絶たない状況なのではと。



 ―――ちなみに。獅子が『原初の悪』に見せられた、アソーネメシーの遣いの末路。


 今後、死霊が出てこない可能性もありそうだが、その部分の話も伏せられていたイーアン含め他の者も、()()に気が休まることはない。こんな状態で。



「行くつもりですか。ルオロフを連れて」


「タンクラッドさんも戻った。ルオロフが開くなら、あの空間で聖なる存在に会えるだろう。俺は聖なる存在に、伝えたいことがある。聞いてもらいたい重要な話だ」


 胡散臭げに尋ねる女龍に、シャンガマックは『重要』を前に出し、ルオロフを連れたいと言う。


 赤毛の貴族は、見るからに機嫌が斜めになったイーアンを気にし、シャンガマックに『日を改めては』と譲歩を求めたが、シャンガマックはいつものあの調子(※誠実だけど他を見てない)で悲しそうに微笑んだ。


「間に合ってほしいんだ。人々が消されると差し迫った今・・・俺も、出来ることはしておきたい」


 大真面目。このシャンガマックの熱い一直線は、()()()()()()とイーアンも思うが、これで振り回されてもいるので、ぼりぼり頭を掻く(※態度で示す)。


「それ、お父さん了承しているのですか?」


「父には了解を取ってある。あの空間に()()()()()()としても、ルオロフを通じて話を聞いてもらえるなら」


 ルオロフ任せだよと、心でケチをつける女龍。

 シャンガマックなりに考えて言うことだろうが、何かがズレている。任されるルオロフも、自分が役に立つのであればとは呟くが、正直困っている様子。


 数秒間の沈黙。うん、と頷いたのはシャンガマックで、次の一言は『パッカルハン遺跡へ行こう』と行先を口にした。

 仕方ない・・・イーアンも付き合おうとしたが断られた。理由は、『退治の人出が減る』だった。



「・・・急ですよね、シャンガマック。気持ちは分かるけれど」


「イーアン、打てる手は早いに越したことはない。あなたもそうだろう?」


「あの。『埋め合わせ(※2671話参照)』はいつです?」


「ん?埋め合わせって?」


 聞こえない程度に舌打ちするイーアン。この前、私に埋め合わせするって言ったじゃないかと目を眇めた。何のことだろう(※忘却)と首を傾げた騎士に、女龍も粘るのがめんどくさくなる。


「はい。では・・・ 」


 不承不承の許可。ちらっとルオロフを見ると、とっても心配そうに見つめており、彼には強張る微笑を送った。



()()()戻りますので!」


 シャンガマックが呼び出したアジャンヴァルティヤに乗り、ルオロフが思いっきり『早く切り上げる宣言』で手を振る。

 イーアンも仏頂面で『終わったら呼んでー』と手を振り返す。黒い岩石のようなダルナは、慕う褐色の騎士と赤毛の貴族を背に、さっさと青空の点となって消えた。



 *****



 賛成ではなさそうだった女龍を、振り切った形で出てきたルオロフは、シャンガマックの要求も詳細を知らないし、イーアンを不愉快にさせていそうだしで、急いで戻るために、まずはシャンガマックに説明を求める。


 シャンガマックは『今から話そうと思っていた』と、話す順序を考えたらしく、自分が気づいたことやタンクラッドが確認した事を擦り合わせて確定とし、それを前置きに『ルオロフにしてもらいたい内容』を告げた。

 打ち明けられる話は、驚きばかり。ルオロフは目を丸くする。



「シャンガマックは、いつも()()()()()()を想像しているのですか」


「うーん。かもしれない。この旅は、過去と謎と遺跡、同時期に三つ遭遇する場合、まるで導かれているようによく関連を持つ。だから紐づけて考える癖がついた。父は『余計な空想が真実への邪魔になる』と止めるけれど」


 でも今回は合っていた、と頬を緩めた騎士に、ルオロフは彼を見つめ『遺跡の色と、創世神話と。神の存在』と呟く。頷いたシャンガマックは、ティヤー限定の神の可能性もと、足した。



「私とタンクラッドさんが、精霊島の遺跡で会った相手こそ・・・タンクラッドさんが、昨日一昨日、単独で話をつけた相手。その方が、神話上での『神』で・・・ シャンガマックの推測だと、創世物語の『黒』と、『黒い精霊』は別の存在で、『黒』は影とされたサブパメントゥを示しているのでは、と思うのですね」


「そう。かといって、サブパメントゥ全体ではない可能性も消せない。一部の彼ら、コルステインたちのように善良で純粋なサブパメントゥではないか、と俺は思う。

『言葉を教えた』のは、サブパメントゥにあまり結びつかない部分ではあるが、これも無いと言い切れない。俺の父は、知っての通りサブパメントゥで、彼は『知恵の宝庫』の別名を響かせるほど賢い。

 かつてのサブパメントゥに、父と同じくらい賢い者が、世の事情を先見の明で捉えたなら、『言葉を教える』のも有り得る」



 後半が父自慢だが、それはさておき。ルオロフも、シャンガマックと共に居る獅子が、いつでも知恵高く聡明に感じるので、理解はする。が。自分が話した相手は、果たしてサブパメントゥなのか。


「行けば分かる。ルオロフなら、『剣を持っている者の言葉を聞く』と認定されたわけだし(※2594話後半参照)」


 少し途切れた会話で、赤毛の貴族を見たシャンガマックは微笑む。そうですね、とルオロフも返して前を見た。気が付けば目的地は視界に入る。島の片側、大きな岩に・・・イーアンのような女龍と龍の彫刻を見つけ目を瞠る。


「あれがパッカルハンだ」


 教えてもらって感動するも。

 ルオロフはシャンガマックが、『タンクラッドが伝えた宝剣と、ルオロフの状態』を知らないにも関わらず、鋭い推考と的確な調べによる考察で真実に迫る、そのことに驚いていた。



 *****



 そうして、パッカルハン着。ダルナと一緒なので最初から崖上に降りた。


 以前は、ヨーマイテスが開けた石の蓋(※2478話参照)へ連れて行き、シャンガマックはルオロフに、『この石を父が持ち上げた』と教える。ふむ、と目を合わせた貴族に、ちょっと笑いかけた騎士は、彼が持ち上げると期待。

 それが分かるのでルオロフも苦笑して『頑張ります』と、両端の欠けた箇所に指を入れた。


「シャンガマックのお父さんは獅子なのに、こうしたものも手を使うのですね」


 ぐっと、ルオロフが力を籠めながら呟く。獅子が人の姿になるのを知らないので、シャンガマックは『彼に不可能なんかないと思う』とだけ答えた。


 ハハッと笑ったルオロフは『違いない』と頷くや、細身の体で分厚い石の蓋を持ち上げ、脇へ置く。踏ん張りもせず、机でも持ち上げるように軽々と。

 これはさすがにシャンガマックもびっくり。やってほしいとは頼んだが、楽々突破・・・とは。


「凄まじい。ルオロフ」


「でも、動物の力には敵いません」


 まだ遠慮気味。謙虚に微笑んだ貴族は、怪力を披露してパッパと手を払うと赤毛をかき上げ、降り口を覗き込み、暗いですよと気にした。ここからはシャンガマック。


「あ」


「うん。魔法があるから」


 シャンガマックが、精霊の魔法で淡い緑の光を出す。右手の平に、小型魔法陣がくるくる回り、魔法陣の清い明るさは充分。


 あなたも凄いです、美しいですね!と褒める貴族を後ろに、笑いながらシャンガマックが先に階段を下る。

 ここは本来、階段ではないのもルオロフに教え、落ちたら一巻の終わりと注意して、二人は慎重に進み、無事、階下へ降りた。



 薄暗く妙な臭いの籠る崖内部。この臭いの正体を、シャンガマックは知っている・・・『サブパメントゥの宝』は、ここにもあった。出所は、タンクラッドの報告で凡その見当もついて、だからこそ。



「ここですか」


「そう。溝がある」


 ありますねと、ルオロフが視認した床は、以前、タンクラッドが切りつけた溝で、壁を浸して床に張る水越しでも光加減で分かる。


 シャンガマックが真上から照らしてやり、ルオロフは言われた箇所に意識集中、剣を一振りして水ごと床を切りつけた。ジャッと音立てて飛沫が宙に上がったと同時、パチンと弾けた音も重なる。


 その瞬間、ルオロフは跳び上がり、シャンガマックも急いで後ずさった。


「大丈夫か!」 「私は。シャンガマックは」


 慌てて互いを気にかけた二人は、音と共に足に痺れを感じて驚く。最初にタンクラッドが『乾かした』ことを、シャンガマックはふと思い出し、水を伝った痺れを避けたのかと、今気づいた。


「大丈夫ですか」


 少し息荒い騎士に、ルオロフが剣を片手に側へ寄り、シャンガマックは『問題ない』と驚いた顔のまま頷く。


「お前は?」


「私は足には痺れが一瞬・・・手は大丈夫です。剣も、大丈夫そうですね」


「良かった。うーむ、これだったか。こういうところは、職人やイーアンが一緒にいないと困るな」


 何の話ですかと、何か知っていそうな騎士にルオロフは尋ねたが、褐色の騎士は苦笑して『とりあえず無事だから』と()()については終わりにし、壁に視線を移した。ルオロフも、その視線を辿る。二人の前に、あの空間が映像で現れていた。



 *****



 入りたい気持ちを押えこんで―――


 シャンガマックはルオロフに、神に会ったら伝えてほしいことを頼み、彼を送り出す。危険な場所ではない。ルオロフは古代剣の持ち主として認定された。


「俺も行きたいが」


 小さい魔法陣と共に待つ、穏やかな草原の前。褐色の騎士は暗く湿っぽい空洞で、羨ましく、そして期待を込めて待つ。



 一方、送り込まれたルオロフは、一人で草原を歩きながら、辺りを見回して観察する。精霊島の遺跡内とはまた雰囲気が違うなと、奇妙な風景の中を進んだ。


 ここは確かイーアンが、黒い物質を見つけた話。声が聞こえて、拾い上げて・・・『ん?逆かな。拾ったら声が聞こえたのだっけ』うろ覚えで首を傾げ、貴族は剣を鞘に戻さず、片手に握ったまま歩き続ける。


 風景は、不自然なほど穏やか。風は吹くが味も素っ気もないと表現すべきか、何も匂いがしない。


 これだけ草があって、草の匂いすら感じさせず・・・ある程度進んだところで、先に海の煌めきと水平線を見たが、すぐそこが海でも潮の香すらなかった。



『来たのか』


 海が視界に入った草原端、ルオロフに風が語り掛ける。ハッとして見回し、誰の姿もない空に『来ました』と、とりあえず答えた。


『求めはあるのか』


 声は用事を尋ね、ルオロフは深呼吸して『求めと言えば、そうです。しかし物が欲しいのではなく、話を聞いて頂きに参りました』としっかり返事。


 すぐに返答はなく、数秒の間を置いて水の音が聴こえた。音の方へ顔を向けると、草原の右側に小さな水場が出現している・・・さっきはなかったな、と頷いて側へ行く。左側は海で、海から遠ざかる具合。


 水場は腕に抱えられるくらいの小さいもので、精霊島の庭を思い起こす。


『何を話すのか』


 ちょろちょろと流れる水は、側に来た貴族に話しかけ、ルオロフは水場の前に片膝をつき、剣を脇に置いて手を添え、手放さないよう姿勢を保ちながら、『はい。実は』とシャンガマックの伝言を話した。



 姿形らしきものを固定しない水相手。ルオロフは、シャンガマックが民を助けるために手を貸してほしいと願ったこと、『神』と仮定したその根拠も含め、丁寧に説明し、水は口を挟まずに聞く。


『私を神と思うのか』


「表現として、でしょう。何でも叶える、それだけの印象ではなく、民を想う与えを続けているので」


『ルオロフ。お前は、この願いをどう思う』


「私ですか?私は人間ですから辛いけれど、消されるに当たり、世界の決めたことに楯突く気もありません。腹は括っています。ですが、もし人間に望みがまだあり、世界の期待に添える残りがわずかでもあれば、それに賭けたいとも思います」


『私に可能なことは、私が知っている。それを越えることはない』


 この返事に、ルオロフは断られたのを感じる。そうですかと頷いて了解し、剣の柄を握り直して立とうとすると、『ルオロフ』とまた名を呼ばれた。


『諦めるのが早い』


 何故か注意される。え?と眉根を寄せた貴族は、無理を言うつもりはありません、と答えたが、声は続けた。


『ルオロフ、聞きなさい。私がお前を迎えたのは、()()()()()()()()まで、お前という存在なら問題なく、私のために動くだろうと考えたからだ』


「あなたのために。動く。私が。ですか」


 突拍子もない神様のお声に、ルオロフは思考が途切れがち。説明をしてもらえないか聞いてみると、神様は『教えよう』と姿を現した。



 水場に清く流れていた水は、黒色透明に変わる。サンキーが見た、黒い柔らかいガラス。タンクラッドが見た、黒いくにゃくにゃ。それはルオロフの前で、黒い鏡となった。


 黒色の澄んだ鏡に、自分が映る。

 これは話しにくいと面食らう貴族に、鏡は『座りなさい』と命じ、神様の話拝聴へ。


 ルオロフはこの時、自分が何をすべきかを告げられるとは、さすがに想像しなかった―――

お読み頂き有難うございます。

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