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魔物資源活用機構  作者: Ichen
勇者の三代の呪い
2684/2964

2684. 南西移動8日間 ~⑯四百十六日目サンキーへの報告・巻き戻された創世の真偽・『神様』に会いに

 

 二日使った遺跡を後にしたタンクラッドは、トゥに話しながら、サンキーの家にまず向かった。



 タンクラッドが日がな『腕』を探して、毎日様子を見に寄り、アオファの鱗も持たせた彼は、心配はしていなさそうだったが、解決した報告を届けるや、顔に安堵を浮かべた。


 張りつめていたと分かる、サンキーのホッとした様子。

 一般人は、魔物だけでも恐ろしいのに、正体も分からない何かに絡まれたとなれば、それはタンクラッドが思うよりも、かなりの精神的負担だった、と改めて思わされる。


「サンキー。大丈夫か」


 ふーっと息を吐いて玄関口で腰を下ろしてしまった鍛冶屋に、タンクラッドは『これほど憔悴していたのか』と驚くが、鍛冶屋は剣職人を見上げて笑顔で頷いた。


「私は・・・古代剣なんて好きで作っていたから、とうとう呪いに手を出した怖れを思いました。昨日はタンクラッドさんも来なかったので、いよいよかと。そっちが気になっていました」


「そうか。サンキーは、以前から作っていたから」


「はい。材料が違う()()()でも、古代人が儀式に使用した剣と、推量されているものですし、どこでいつ引っかかるかなと。普段は気にしなくても、ちらつくことはありました。

 黒い手が部屋の中に出た時は、殺されると思ったので」


 正直な怯えの声に同情したタンクラッドが、単に回収されただけで、相手は聖なる存在だったと・・・もう一度、念を押して伝えると、鍛冶屋は疲れた笑みで『調べて頂いて助かった』と腰を上げた。



「材料はなくなり、あの材料と魔物材料を合わせた剣も消えましたから、新しくでも材料を得ない限り、私はもう作れません。紛い物なら作れますが」


「『紛い物』は謙虚が過ぎるぞ。だが、材料が違うなら制作を止められないだろう。あくまで、あの材料の・・・()()()が」


「分かりました。大丈夫です。タンクラッドさん、本当に有難う」


 サンキーと握手して、タンクラッドは朝っぱらから来たことを謝り、また来る約束をして戻る。海辺に待機するトゥが、朝焼けの空に姿を現し、タンクラッドはダルナに乗った。



「安心してたよ」


「そうだろうな」


「お前は?」


 銀色の太い首をポンと叩いた親方に訊かれ、前を見たままトゥは『話を知って、俺が何を安心したと思うんだ』と聞き返す。嫌味ではない、少し呆れた口調。タンクラッドは、気遣ったつもり。


「お前の心境が分からないから聞いたんだ、トゥ」


「俺が()()()()()()()()()()()()()は、砂一粒分すら動いていない」




 繰り返し、巻き戻された創世―――


 それを聞いたトゥは、『なんのことだ』と一蹴しなかった。

 タンクラッドが黒いくにゃくにゃに伝えられたことを、ダルナは静かに最後まで耳に入れ、話が済んだと同時、『()()()()()わけだ』と言った。


 タンクラッドはこの返事を、想像で理解するのみ。銀のダルナの表情はいつもと変わりなく、しかし辟易した感じも滲む。



 時を巻き戻し、生じた全てが真っ新にされた。


 本当にそのままの意味であれば、創世が何度もそれを繰り返したとして、トゥという銀色の二本首の姿は、世界の(しがらみ)サブパメントゥに『最終切り札・奇獣ザハージャング』を誕生させるきっかけに残され、奇獣はその後に現れた。


 トゥの立場であれ、人間なら『自分は世界の運命に選ばれたのか』と諦念で受け入れるかもしれないが、トゥはそう思わない。


 何度もやり直した創世の話が事実であれば、なぜ俺を罪の位置に括り付け固定したのかと遣り切れない。この世界に連れてこられる前も、存在が生まれた瞬間から、罪の存在だったものが。



 タンクラッドがいずれ、俺を元にした奇獣と対戦する時。

 奇獣を倒すに、俺が手を貸すこと。


 事実の一部を新たに知っても、その内容は、絡み付いた枷を外す()()()への重圧が、上塗りされただけに過ぎなかった。


 巻き戻された創世の記憶など、トゥには思い当たらない。


 連れてこられて間もなく、絵に変えられた。絵から出るまでの期間は、何も知らない。

 俺に話をした『龍』は、巻き戻すたびに記憶が残されただろうか。

 タンクラッドが聞いた、当時のサブパメントゥの頂点は、何度繰り返しても記憶を残したから行動が変わった話だが―――




「トゥ」


 考え込む銀色のダルナに、会話が途切れて気まずくなったタンクラッドが名を呼ぶ。主を悩ませる気はないので、トゥはやんわり話を変えた。


「船で、誰かに話すのか」


 トゥは、真っ赤な朝焼けの雲の下を潜って、銀の体色に赤と鮮烈な橙色を撥ね返す。

 主に尋ねた言い方は止める雰囲気で、タンクラッドは少し考えてから『いや。言わない』と答えた。ダルナの頭がゆらっと一つ振り返る。


「イーアンにも、ドルドレンにも、か」


「俺は話して良いか、分からないんだ。匙加減が分からん内は、やめておこうと思う。この話を知るのは、俺とお前だけ」


「賛成だ。ルオロフは」


「ルオロフに言うことは伝える。彼の身の振り方が定まったようなもんだ。あれも、数奇な運命と言うべきか。しかし、良い形で救われた流れも思う」


「いい加減、あの男の()()()()口癖『自分は人間』が、消えると良いがな」


 トゥの一言に笑って、タンクラッドも『願おう』と返し、小さな雑談を続け、黒い船に到着。タンクラッドは誰にも言わないつもりだったが、あっさり覆されるまで、ほんの数分―――



 *****



 朝食前の時間。甲板に降りたところで、昇降口に影が見えたと思いきや、褐色の騎士が振り返った。

 シャンガマックは、戻らないタンクラッドを気にして、朝早く甲板へ出て、見えないから戻ろうとしたところ。



「タンクラッドさん」


「おはよう」


「おはようございます・・・今、戻ったんですか?」


 そうだと答えた剣職人は、船の前に移動したダルナが、海中で船を引く大亀に話しているのを肩越し指差す。

 二晩戻れなかったが解決した・・・と微笑んだタンクラッドに、シャンガマックはぎょっとして、剣職人の両腕を掴んだ。


「解決って、どう」


「もう大丈夫だ。サンキーにも報告した」


「う、『腕』は?サンキーさんの工房に出た腕は」


「おい、落ち着け・・・その『腕』と()()()()


 た、まで言えず。シャンガマックの目が見開き、『話』と繰り返す。しがみつく勢いの騎士に苦笑して、両腕を掴まれたままタンクラッドは『今、話すから』と彼の手を見た。


「あ、すみません。つい。ええと、『腕』と話しを」


「言えない事も多いが、話の通じる相手でな。散々、推測で探し回った後、不思議な声に導かれて行った先で、材料が消えた理由を教えてもらった」


 このくらいなら、話しても良いかと。


 シャンガマック親子が運んだ黒い物質のために、サンキーを脅かしたわけだから・・・シャンガマックが気が気でないのも分かるタンクラッドは、それで?と目で迫る騎士に『近いから少し距離を』と笑って間を開け(※でも真横にいる)教えてやった。



 創世、初代サブパメントゥ頂点、それには触れず。


 黒い物質をサンキーに届けたシャンガマックが、入手した場所の見当もついたため、併せて話す。


 あの黒い物質は管理されるもので、『腕』は管理者だったこと。

 与え過ぎの状態により、引き取られたこと。

 そして、今後も管理者の範囲で、あの物質の()()は行われること。すなわち、『あの異時空で、黒い物質を持たせる、聖なる存在』がそうだった、と結ぶ。



 こんなところだと頷いた親方を、じっと見つめていたシャンガマックは『それじゃ』と、戸惑いがちに目を泳がせた。気がかりはまだ晴れずの口ごもり方。


「その・・・ 」


「うん?お前が治癒場の、サブパメントゥの宝で得たことなら、俺は誰にも言わないぞ」


「あ。そっちではなく・・・それも、大事ですが」


 言い淀む騎士に、タンクラッドは『人が来そうだが』と船内から聞こえる声に呟き、続きを急かすと、漆黒の目がきょろっと上を向く。言い難そうにじーっと見ているので(※負ける)、怪訝に思いタンクラッドも首を傾げた。


「どうした。気になるのか」


「変に思わないで下さいね。『神』に俺は会いたかったので」



 *****



 神。 何の話だと、今度はタンクラッドが驚いたところで、昇降口に出て来たオーリンが『おかえり』と軽く挨拶して、二人の会話は強制終了。


 オーリンは、甲板で話し声がするから上がって来た。挨拶した二人に『もう朝食だ』と教え、三人一緒に食堂へ。



 タンクラッドは、『神』の一言にモヤモヤ。

 シャンガマック親子が嗅ぎ付けた相手が『神』?・・・俺が話した、あの黒いくにゃくにゃが?確かに創世の時代も知っているから、変ではないにしろ―――


 シャンガマックも、モヤモヤですまない。剣を介して異時空に入る人間に、あの剣の材料を与えていた()()

 剣職人が聖なる存在と言い切ったので間違いない。俺が話したかった―――


 留守明け戻った剣職人が食堂に顔を出すと、ちらっと見たミレイオが『おかえり』の素っ気ない挨拶をした。ただいま、と返事をしながら椅子に掛けた親方に、ミレイオが黙って料理の皿を出す。いつもより少し多め。


「トゥに食べ物、出してもらったかもだけど」


「そんな暇はなくてな。サンキーに『()()()()()()』と報告しに行った時は、腹が鳴りっぱなしだった」


 この量は助かると、気遣いに礼を言って食べ始めた親方だが。自分が戻ってもさほど・・・と皆の様子に気づく(※反応薄い)。


『もう解決した』と聞いて、この反応?

 さーっと周囲に目を走らせ、揃った顔触れに違和感を持つ。ドルドレンがいない。そして全員がやや緊張気味。


 イーアンと目が合い、『お疲れさまでした』とは言われたが、それだけ。ドルドレンは・・・・・


「ドルドレンが、大変な目に遭いました。彼は今、空で療養して」


「療養だと?ドルドレンに何が起きた」


 驚いたタンクラッドは、彼がサブパメントゥと接触して危険に陥った話を知り、現在は空にいることで安心したものの、それでかと改めて皆を見た。


「大丈夫なんだな?」


「大丈夫です。ポルトカリフティグが救い出して下さった後、すぐに空へ連れて行き、男龍に預けました。イヌァエル・テレンなら絶対安全です」


「なら、まぁ。そうか。どんなサブパメントゥだったのかは、聞いたか?」


「うーん・・・それがちょっと。残党の一人ですが、アイエラダハッドで私たちに付きまとったサブパメントゥとも違う、新手のようで。彼を狙ったようなのだけど」


 イーアンが濁して黙る。これは話せない内容と、タンクラッドは判断して『そうか』で終わらせる。話せない内容を抱えて、誰もが悩む。いつかそれが足を引っ張りかねないにしても、今は共有できない。



 タンクラッドは話を変え、自分の報告にする。『腕』は探し当て、味方で、精霊とも違うが近い存在だったとし、あまり古代剣を作り過ぎると余計な面倒を増やすから、今後、古代剣の再現は控えられると伝えた。


 正体曖昧な情報だが、これもまたタンクラッドが言おうとしないため、皆も探らずにおく。


「とりあえず。あんたが戻って良かった」


 ぼそっと呟いて、茶を注いだミレイオに、タンクラッドも頷き『頭数もあるな』と付け足した。アイエラダハッド後半を過らせる、人数の減り。徐々に、抵抗できない理由で、じわじわと離れて行く自分たち。



 食後は、イーアンがルオロフと出かけるというので、タンクラッドは少しイーアンを待たせ、ルオロフに大切な話をした。驚いたルオロフは、腰に帯びた剣の柄に手をやり『私が』と目を瞬く。


「そうだ。入れるのがお前だけ・・・ではないが。お前は()()()()()


「旅の仲間でもないのに、私が剣を持って良いのでしょうか」


「お前だから、じゃないのか?ルオロフ。しっかり話す暇もなかったが、お前が人間以上の力を備えていると聞いて、誰も変に思わなかった。度々、その異質な威力を見たからではなく、お前の人柄と考え方、それと、お前が()()()()狼男から現在に至る経緯を知っているからだ」


 ルオロフを静かに諭す剣職人に、赤毛の貴族はやや照れくさそうに俯き『はい』と答えた。


 タンクラッドはこの後、少し休んでから退治に出かけると言って部屋に戻り、ルオロフは甲板で待つイーアンの元へ行った。そこで、イーアンの横に立つ男が―――



「シャンガマックが、一緒に行きたい用事があるそうです」


 隣に立っている騎士を、やや困った感じで見上げたイーアンがそう言った。よく分からないが、頷いて『どこでしょうか』とルオロフが尋ねると、褐色の騎士は力強く微笑む。


「民を救う()()に付き合ってくれ」


 イーアンが小さな溜息を吐き、シャンガマックは聞こえていないようで、『重要だ』と戸惑うルオロフを誘った。



 これがルオロフの起点続き、とはまだ知らず―――

お読み頂き有難うございます。

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