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魔物資源活用機構  作者: Ichen
勇者の三代の呪い
2682/2964

2682. 南西移動8日間 ~⑭四百十四日目タンクラッドと『神様』前半

☆前回までの流れ

サブパメントゥと対峙したドルドレンは、これまでで一番の衝撃を受けました。ポルトカリフティグに救われた後も、初代二代目勇者の記憶に襲われ、只ならぬ事態に、イーアンの計らいで空へ退避。創世のサブパメントゥを引きずる残党の一人『燻り』は、勇者を狙います。

その頃、黒い物質を奪った『腕』を探していたタンクラッドは、ある遺跡に。

今回は、タンクラッドの話から始まります。

 

『ここへ来い、と言われた以上は』



 タンクラッドはそう言って、遺跡に一人で入った。だが彼は出てこないまま、トゥは主を待ち続けることになった。



 ―――あの遺跡に到着し、首の一本を下げ、タンクラッドを地上近くへ下ろしながら、彼の考えを読んでいたトゥは尋ねた。


 ルオロフを連れて来るか?


 草地に飛び降り、振り向いた主が、『()()()言われていない』と答え、半壊した平たい遺跡へ進む。


 屋根が崩れている片側を大回りし、屋根と柱の残る、裏の壁横へ消えたタンクラッドが見えなくなっても、トゥはそのままでいた。


「お前は、ルオロフがいなかったら入れない、と思っていた。だが、行くだけ行ってダメなら戻る、とも思った。それは二度手間じゃないか?タンクラッド」


 トゥが従ったのは、行かせたくない場所であっても、危険はないと分かっていたから。

 タンクラッドが一人で入って、彼の身に生じることまで感じ取らないが、少なくとも彼の心身を()()()()に至らない。


 ルオロフがいなければ、入れない場所かも知れない。入れなければ戻ってくるだけ。それならルオロフを最初に連れておけとトゥは気を回し、タンクラッドは断った。


 ()()()()()()()ことに、彼は重きを置いた―――



 そして、主が入ったきり戻らない遺跡の外で、銀色のダルナは待ち続ける。危険はないだろうが、一歩ずつ、暴露されてゆく真実へ近づく、その予感。古代の時間が蓋を開ける時、それに()()()()も混じるだろう。


「余計なことを知らされないといいが」



 *****



 船が南西へ向かって、6日目。

 タンクラッドとトゥが、出港翌日から出かけるようになり・・・そうすると船が動かない状況に陥るため、イーアンは異界の精霊・大亀二頭と人魚に、船の移動をお願いするようになった。


 初日はイーアンも朝っぱらから連れ出されたことで、船は進めずに停滞したのもあり、毎日とにかく来て頂いては、トゥが戻らない内は動かして下さいと頼み、異界の精霊は船を誘導してくれる。



 戻らなかった親方がどうしているか。イーアンも皆も怪訝はある。ただ、トゥがいて大事になるとは思い難く、探すなどの行動には出ない。


 トゥは彼から決して離れないし、見捨てもしない。トゥという『ダルナ』に回避できない危険が起きたなら、まず間違いなく、トゥは誰かに()()で知らせる。例え、中途半端な情報の切れっぱしでも。それは、彼がタンクラッドを絶対に守ろうとするためで、皆も信じている。



「では宜しくお願いします。何か異変があれば連絡をください」


「分かってる。今は・・・ドルドレンもいないし、仕方ないよね」


 甲板で、魔物退治に向かうイーアンに、留守を任されたミレイオは引き受けて呟いた。はい、と頷いたイーアンも小さく溜息を吐く。イーアン待ちのルオロフは少し離れたところに立って、黙っている。


 ザッカリアが外れ、フォラヴが妖精の国へ戻され、ドルドレンも今は緊急退避。

 ロゼールは来れる時は滞在してくれるし、シャンガマックとホーミットは残っているが、そのロゼールも今は仕事で母国。

 シャンガマックたちは魔物退治に出かけたが、昨日の事件・・・『原初の悪』の接触を、ファニバスクワンにいつ指摘されるか、万が一戻されても、と気にしていた。


「でも。タンクラッドまで居ないと、ちょっと怖くなるわ」


「気になりますが、探しに出て手薄を高める訳にも行きません。ミレイオ、私はでも心強いです。二度目の旅路の話を思い出せば、私たちは頭数が減っても、あんなにひどくありません」


 イーアンの励ましにちょっと笑ったミレイオは頷きながら『それもそうね』と、女龍を送り出す。



 イーアンはルオロフを抱え、異界の精霊が戦う場所へ出発。オーリンが龍で先に出ているので、現地合流予定。

 シャンガマック親子も、別場所で魔物退治すると話していた。ホーミットは暫くシャンガマックを自由にさせていたが、昨日のことから自分の用事を後にし、彼と行動する。

 船には、ミレイオとクフムが残る。それと、最近は地下にいさせていたシュンディーンも、船室に来るよう頼んだ。


 ・・・二度目の旅路は手薄どころではなかったわねと、ミレイオも思う。

 確かにバニザットは最強の魔法使いだろうけれど、彼一人しか頼れなかったズィーリーの状況を想像すると、それが日常とはどんなに過酷か。いつまで旅が続くのか心配だったはず。


 船の舳先前、穏やかな波飛沫と共に進む大きな亀を見つめ、『私たち同行がいる、異界の精霊がいつも側にいる。それは旅の安心になってるかな』と思い直した。



 焦げ茶に光る船縁に手を滑らせながら、今日も大きな雲が立つ青空に目をやる。連絡もなく、戻りもしなかった友達・・・タンクラッドの無事を祈り、ミレイオは船内に入った。



 *****



 遺跡自体が別の異時空――― タンクラッドは壊れかけている遺跡に入って間もなく、それに気づいた。


 ルオロフがいないと開かない、あの空間がある。()()()()()()()いたが・・・あの空間へ続く場所でもない。



 暗く湿度の高い通路。両手を広げたら指先が左右の壁につく狭さ。天井は高いが、幅はない。元は石で出来ていそうだが、踏む靴が沈む量のコケやカビが、床を埋め尽くす。崩れた瓦礫にすらそれらが付き、どこもかしこも、なだらかな敷物を掛けた曲線に()()()


 そう。タンクラッドが入ったのは夜なのに、ここは()()()


 タンクラッドが歩を進める間、通路の天井にちらほらと穏やかな光が灯っており、それは足元や周囲を識別できる明るさを持っていた。導かれるとはこのことだと、剣職人は周囲を観察しながら歩いた。

 どこへ行けばいいか知らなくても、光が教える。蠟燭の炎ほどの大きさで、光が点々と天井の先へ先へと点くため、その方向へ歩くだけだった。


 途中、横に入る通路や、脇に階段の踊り場が見えたし、一旦は外に出るような中庭風の出口も通過したが、小さな光は湿った遺跡を案内し続け、タンクラッドが足を止めることはない。


 じめじめとして、生温い空気が漂い、かび臭く、苔生す独特な臭いが充満する遺跡。中庭らしき場所も、天井が高い位置にある部屋の一つで、風が入り込む表とは違った。


 タンクラッドは、この遺跡が既に違う空間だと、ずっと気づいている。

 外から見た遺跡はこれほど広くなかった。中庭の位置も異なる。


 進んだ歩数、角を折れた回数と方向から、頭の中で展開した図は、外観と()()()()()()()()()の建物。どこまで進むのか、何が待っているのか、そしてこの遺跡の特徴も考えながら、黙々と歩いた先は、足元の床がすっぽり抜け落ちた大穴の間。


 通路はそこで終わり、高さを上げた天井に集まる小さな光が、ぼんやりと照らす大穴の間は、船一隻分ほどの・・・アネィヨーハンの前後甲板を思う広さで左右の壁は遠く、向かいの奥の壁は更に遠い。


 もう一つ思い出したのは、精霊の祭殿。床がない部屋の記憶が過った(※2205話参照)。



 そして、順調だったのはここまで。何が起こるでもなし。

 まっすぐ誘われたので、呼んだ相手に会うだろうと、疑いもせずに到着したは良いものの。


 部屋の際、扉のない石の入り口に立ったまま、立ち尽くして数分。十分。二十分・・・経つ頃には、いい加減、変だとタンクラッドは後ろや左右、上下を見回した。何もないし、何も起こらない。


「誰か・・・いるんだろ?俺をここへ呼んだのはなぜだ」


 訝しいばかりの状況に、タンクラッドが少し大きめに声を張り上げるが、声は木霊することなく周囲を覆う苔に吸収されて消える。


「何だってんだ。何かするのか?」


 遺跡内は、これと言って目立つ彫刻も、目を引く不思議もなかった。

 全体的に苔やカビで黒ずんで、立体彫刻などがあっても分からない。隙間ない天然の壁紙で隠された通路は、色も素材も包み込んで特徴らしきものが出ず、せいぜい形状を情報として覚えるくらいしか。


 遺跡から読み取れる情報も無いのに、すでに別の異時空に入って放置・・・・・


 タンクラッドは髪をかき上げ、床なしの大穴の上、やんわりと照らす光に、この遺跡に来る前までの流れを思う。



 *****



 サンキーから黒い物質を取り上げた『腕』を探した三日間。


 手応えはなく、一日一度はサンキーの工房へ寄って、出かけていた間で考えついたことを調べさせてもらった。

 何となくだが気になり始めたのは、『昔あった大国』の創世物語。それと、あの空間にいた、()()()()()()()


 サンキーは、シャンガマック親子が持参した材料の、出所は知らなかった。


 親子が長居した日、古代剣が出土した場所の地図、遥か過去に沈んだ国の伝説、海賊言葉でついた名称に関心を寄せていた話から、親子が知ろうとしたことを薄っすら理解。



 黒い物質を民にもたらす意味。引いては、与えた誰か。親子はそれを探していたような。


 サンキーにも工房にも被害がなかったのは本当に救いだが、あの物質と、それで作った剣もなくなってしまった。以前、イーアンが入手した物質で作られた剣である。

 残ったのは『ルオロフの剣』だけで、船に帰ると、ルオロフが剣を持っているのを日々確認した。



 突如現れた腕は、黒色で透き通り、爪の先は動物のそれに似て尖っていたという。腕自体は女の腕に近く、『まるで柔軟なガラスで出来た人間の腕のよう』とサンキーは表現した。


 尖った爪、黒ガラスの女の腕。他に覚えていることがあるかと言えば、サンキーは少し考えて『一瞬、羽が見たような』と首を捻ったが、はっきり見えてはいない、と正確性を弱めた。


 すっと、空中から突き出された二本の腕が、床に置いてあった黒い物質を挟み込んで消えた、その後。


 タンクラッドはトゥに相談し、もしやと古代剣出土地点へ出かけた。パッカルハンもそうだったのだ。あの剣が発見された場所近く、異時空へ通じる道を持つ場合もあると考えて。


 探ってみては移動し、一日終わりにサンキー宅へ戻って無事と地図を確認、ティヤー以外も出かけ、異変があった()()()に行き着く。



 ティヤーではなく、アイエラダハッド領海の南東端で、古代剣が出土した島は、集落が二つある程度。集落から離れた遺構で、タンクラッドは伝えられた。


『』


 地名でも、目安でもない、ある風景。大きな風景が脳内に広がって、タンクラッドの思考を読むトゥが、同時に場所を限定した。



 それが・・・ティヤーの、この場所だった。

 ここへ行けと示唆が与えられ、タンクラッドは訪れた。古代剣絡みだけに、ルオロフが同行しないと入れないかと思ったのだが。



「やっぱり、剣がないとダメなのか」


 何にも起きない入り口で、タンクラッドは唸る。用意周到で彼を連れて来ても良かっただろうが、何となし、タンクラッドは自分が呼ばれたのだから、まずは自分だけで、と拘ったことを後悔する。


 はー、と大きな息を吐いて、来た道に顔を向ける。『もどるか』そう呟いて大穴を振り向き、もう一回来ると誰に言うでも無し、口にした。


「ここまで来て・・・まぁ、変な相手じゃないから、()()()はくれるだろう」


 通路を戻るタンクラッドは、明かりが少ない様子に天井を見上げ、来た時よりも減った明かりに若干心配。

 そもそも、ここで合ってるよな?と今更、自問自答もする。トゥが連れて来たから正解だろうが。


 そうして、暫く進んで、光が消えた。完全に真っ暗。ふーむ、と立ち往生のタンクラッドに、何者かが喋りかけた。



『なぜここへ来た』


「示された」


 急に始まる。気を引き締めたタンクラッドも、慎重に返事をする。


『何を求めている』


「腕だ。剣の材料を持って消えた、腕」


『材料ではなく』


「材料は諦めても良いが。腕が何者かを知らん内は、落ち着かん。なぜ材料を持って行ったのかを尋ねる」


『お前が材料を運んだのか。あれはお前のものか』


「どちらも違うな」


 なぜか材料に固執する質問で、タンクラッドは勘が働く。これは、材料を守る方面の流れか?となると、と思った矢先、ふーっと辺りが白い霧に包まれて、霧がわずかな光を含み、周囲が少し見えた。タンクラッドは目を凝らし、向かい合う者を見つめた。



 一羽の黒い鳥。大きくて、タンクラッドと同じくらい背がある。

 その目は海のように青く、顔は猛禽のもの。真っ黒な鳥は首を傾げて『部屋に戻れ』と言った。タンクラッドはこの鳥を見たことがあり、それが誰の姿かもすぐ思い出した。

 だが、思い出した相手では()()のも感じる。


 言われた通り、また後ろを向いて大穴の間へ歩き出す。タンクラッドの周りには白い霧があり、それらは足元も包んでしまうが、躓くことはなかった。


 振り返りはしないが、背後から鳥がついて来ているのも分かる。足を止めず、ただ黙って戻り、大穴の間の前に立った時。

お読み頂き有難うございます。

私の意識が飛びがちで、度々休みが増えてご迷惑をおかけしています。申し訳ないです。

休みを挟んでも、読まれる方が分かるように、前書きに出来るだけ流れを書きます。年内はもう一回か二回、お休みすると思うのですが、予定が立ち次第、ご連絡します。


いつもいらして下さって、本当に有難うございます。いつも、とても励まされています。朝もたくさん励まされます。心より感謝を捧げます。

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