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魔物資源活用機構  作者: Ichen
剣職人
268/2946

268. ミンティンと、白い棒と白いナイフの話

 

 ダビ話より、時をちょっと戻して。



 タンクラッドの工房で、半日過ごしたイーアンは帰り道に、頭の中で整理することが山積みだった。

 読んでもらった棒の秘密。自分の持つ白いナイフの話。これらはこの先、かなり大事なことに繋がると分かった。


 龍で戻りながら、龍に話しかけてみる。きっとこの仔は知っているだろうと思った。


「ミンティン」


 途端に大鐘の咆哮が空に鳴り響いた。イーアンびっくり。『やっぱりそうなのね。お前はミンティンなのね』龍の名前が分かって、イーアンは確かめる。もう一度、名前を呼ばれた龍はハイザンジェルに響くほどの大きな声で咆哮を上げた。


「ああ。良かった!タンクラッドが、お前の名前を見つけたのよ。お前はミンティンと呼ばれていたのね」


 この身体と顔から想像できない可愛い名前!!何て可愛い名前なんだろう、と思ったイーアンは背鰭に目一杯抱きついて頬ずりした。ああ、可愛い。女の子かしら?(女の子には見えない)性別あるかしら?


 嬉しそうな龍・ミンティンは、イーアンを振り向いて金色の目で見つめる。

 ぐるぐるっと旋回して、最初にイーアンを乗せた時のように雲を突き抜け、上下へ駆け抜ける。喜ぶミンティンにイーアンもとても嬉しかった。



 はしゃぐ龍にいつもの倍の時間をかけられて、イーアンは夕方くらいに帰宅した。

 龍は嬉しいのがよく分かる尻尾の振り方をして、そこら中の土を叩き上げてバタバタしていた。土煙で咳き込みながらイーアンが顔を撫でて頬ずりすると、ミンティンも目を閉じて、イーアンの体温に浸っていた。


 また呼ぶからねとご挨拶。さよならすると、ミンティンはご機嫌で帰っていった。



「後もう2頭」


 どこかにいる、一緒に旅をする()()。その存在が分かったイーアンは、急いでドルドレンに会いに行った。



 イーアンはその日から忙しくなった。


 試作品の製作以外で、謎解きと、地形と地名の照らし合わせに没頭する。(ついで)に保存食作りも加わった。

 執務室が稼動するまで残り二日の間で、ドルドレンは演習続き。執務室が再開したら、怒涛のように仕事が流れ込む。知らぬが何たらの現時点で、自分のことだけ出来る貴重なこの時間は、出汁取りスープの骨の如く使い尽くす。


 謎解きはドルドレンと一緒にいられる時間限定。朝と夜。昼はちょっとだけ。




 白い棒と、白いナイフの話を、タンクラッドに聞いたその日に教えるイーアン。


『もう理解を超えている』とドルドレンは驚いた。ミンティンの名前もそこから見つけたこと、名前を呼んだら喜んだことを話すと、『顔に似合っていない』と苦笑いされた。



 最初に白い棒を見せると、タンクラッドは暫く考えて、これはすぐに分からないと答えた。

 ナイフを見て何か分かったのかと訊いて、白いナイフを渡すと、職人はナイフを横向きにして左手に柄を持ち、イーアンに見せながら、右手の指で模様をなぞりながら読み始めた。


 ナイフには、このナイフが誰によって何の目的で作られ、何をするために存在するのかが書いてあった。


『このナイフは精霊によるものだ。精霊が作り、精霊が自分の化身として一部を分けた。お前の夢に出てきた妖精の女王だ。友達がそう言ったんだろう?』


 イーアンの夢に出てきた白い人について『フォラヴが妖精の女王だと教えてくれた』と話してあったので頷いた。


『かつてこのナイフを使った者が。その者のためにこれを作った。使命は【世界を照らす羅針盤】として。【立ちはだかる魔の全てを切り裂く】。正確な意味は分からないが、そういったことが書かれてる』



 どうして読めるのかを訊くと、別の僧院から資料を持ってきたから、とそれを見せてくれた。東にあるティヤーという国の僧院遺跡を訪れた時、鉱石が集められた部屋に入ったら資料があったらしい。そこには書庫がなく、遥か昔に書かれた木の板が何枚かあったという。


 切り出された形の鉱石の下にあり、不思議な模様が書いてあったから、興味があって持ってきたら、板の裏に読み方が書いてあったので、それを見ているうちに読めるようになったタンクラッド。



 感動して抱きつきたくなるのを、どうにか抑えるイーアン。ひたすら賛辞を贈った。タンクラッドが少し照れていそうだったので、話を白い棒に変えて、棒はどうして分からないのかを訊いてみた。


『この棒は謎々のようなものだ。ただ文字を拾っても、全く意味が掴めない』


 イーアンは自分が考えていたことを話した。ドルドレンの借りてきた本を持ってこなかったが、それに相当する知識を蓄えたタンクラッドなら、もしかしてと思い、話したら。


『それはもしかして。ちょっと待て、言われたようにすれば。ここから、もう一段か。見えた』


 試してほしいと言われた通りに、タンクラッドが文字を拾い、位置を確認しつつ、文字を紙に書きながら並び替える。タンクラッドは異様に飲み込みが早い。すぐに次の工程を見つけるので、あっという間に読み方を習得した。



『これは。ここだ、この線が分かるか?この部分を読む。【笛・の・音・より・空・地・を・開く】【添う・心・その・名・を・ミンティン】【空・の・全て・神・の・全て・の・声・を・担う】』



 目を見合わせて、イーアンは『それは龍では』と呟く。タンクラッドも頷いて同意する。急いで隣の線を辿り、そこにある文字を拾い、規則に沿って並べ替え、マス目の数字に当てはめる。



『【地・の・奥・水・の・中】【千切れし・碇・の・綱・は・導き】【息・する・岩・命・の・宿り】【誇り・その・名・を・グィード】 』



『【常しえ・冠・抱く・壁・を・裂く】【聖なる・その・名・を・アオファ】【熱・の・花・燃ゆる・川・を・得る】』



『【頭・上・太陽・貫き】【足・下・土・立つ】【二つ・は・一つ・目・は・照らす】【昼・に・闇・に・需め・標す】これは何だかちょっと、違うことだな』



 疲れた、と机に被さって訳していたタンクラッドが、背もたれに身体を預ける。イーアンは背中側に立って、職人の両肩を擦った。イーアンの手に大きな手を重ねて、職人が微笑む(←この部分内緒)。


『お前は大したものだ。何てことを思いつくんだ。詰められた情報は相当な数があるが、これが手に入っているとは。この先かなり力強いぞ』


『タンクラッドのおかげではないですか。私は規則がある気がしただけです。まさか勢いで読める人がいるなんて。素晴らしいです、ありがとう』


 愛犬イーアンに誉められて、タンクラッドは自分の肩に乗せられたその手に頬を寄せた。少し伸びた髭がじょりっとするが、ここは微笑んでそっと手を引っ込める。男らしいタンクラッドの背中から離れたイーアンは、これからも少しずつ解読してほしい、とお願いした。もちろん職人は了解した。




 こうした流れから、ドルドレンの時間が取れる間、自分の時間が取れる間に、タンクラッドに読んでもらった文を調べるイーアン。


 一つ思いついたことがあって、タンクラッドの工房の翌日朝。


 イーアンは白い棒とナイフを持って表に出て、土の地面のある場所に棒を立てた。ちゃんと立たないので、少し土を掘って、石で周りを固定した。



 棒の両端の片側は窪みがある。窪みを見ていると、真ん中に小さな穴があるように見えた。針の先ほどの小さな穴で、これを作るときに固定したのかと最初思った。しかし、ナイフを持ってイーアンはちょっと考えた。この、ナイフの柄頭の鱗のような青い何か・・・・・


 同じ素材で作られた、この棒とナイフ。柄を掴んでいる感覚と、棒を掴んだ時の感覚がほぼ同じ。


 もしかして、これが『二つは一つ、目は照らす』と『世界を照らす羅針盤』ではないの、と思う。違ってもやってみようと試みることに。



 固定して地面に立たせた棒に、ナイフの柄頭を合わせた。

 くらくらしているが、そこは『かちゃーん』とは上手い具合に(はま)らないということで、手で固定する。全部が彫ってあるんだから、そんな『かちゃーん』が出来そうな彫り込じゃない。仕方ない。



 どれ、と思って、ナイフの切っ先を空に向けた。が、何もなし。あれ?と思うイーアン。何か起こりそうなんだけどなと思いつつ。もう一度、タンクラッドが読み上げた文を思い出す。


「あ。そうだわ。きっとお天道様(古い言い方)が真上の方が良いのかも」


 上を見ると。当たり前だが、その時間は朝。まだまだお天道様は向こうっ方。気が急いて朝試みたイーアン。


「頭、上、太陽を、貫きって言っていたものね。じゃ、お昼にもう一度やりましょう」


 うんうん頷いて、とりあえず退散する。お昼になったら裏庭は空くから、その時にと思う。工房で地図の本を開いて、国の場所を確認し、地名をどうにか読めるように練習する。ドルドレンにお願いして現在の地図をもらい、それと照らし合わせながら、名前を覚える。


 お昼になる前に昼食を済ませ、ドルドレンも一緒に表へ出て再試み。お天道様の真下に陣取って、ギリギリ壁手前くらいの位置に穴を掘り、棒を立てて固定し、ナイフの柄頭を重ねた。


 お天道様を貫くように上を向けた切っ先。



 白いナイフに熱が走り、イーアンはびっくりした。『イーアン、見ろ』ドルドレンが叫ぶ。ナイフは白く輝き、棒の模様から光が溢れ出て、青い光の図面を地面に円を描いて広げた。


「こんなことが」 「すごい。本当なのか」


 二人は驚きながら、自分たちの足元の地面に広がった青い図面を見つめる。昼間の太陽の下でそれは煌々と光を立ち上げる。


「これは地図ではないでしょうか」


 午前中に地図を見ていたイーアンは、目を走らせる。ドルドレンも頷いて『間違いなく地図だ。この世界だ』そう言いながら少し動き、指差す。『ここがハイザンジェルだ』次々に指差して国を教え、その国の地図に、一際明るく輝く赤い場所や濃い青い場所を見つめる。


 見ればその色の違う部分は、ナイフの柄に入った小さな石が照らしている。


「このナイフの位置。回したら光の場所が変わるのでしょうね。どこが正解かしら」


 イーアンは調べる。暫く調べてから、少しナイフを回してみた。また違う所に光が当たる。『違うか』ぼそっと呟くイーアン。何か正解の印があるはず。ただナイフを乗せただけでは、地図のどこに大切なポジションを教えているのか分からない。


「手がかり、あるだろうか」


「分かりません。あると思うのですが、今の私には・・・タンクラッドに聞いてみましょう」


 またタンクラッド~?とドルドレンが子供のように嫌がる。イーアンは笑って『だって彼が謎を解いたんですもの』頼った方が早いでしょう、と言い聞かせた。


 次回にタンクラッドに会う時は、『この棒の、正しいナイフの合わせ位置を質問する』と紙に書いた。


お読み頂き有難うございます。

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