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魔物資源活用機構  作者: Ichen
敵輻輳
2677/2956

2677. 南西移動8日間 ~⑨決裂・コルステインの覚悟・ダルナの懸念・接触2へ

 

 嫌。 コルステインは断った。


 理解出来るのは、この精霊に使われる、それだけだった。

『原初の悪』はあからさまに顔を歪めて、機嫌悪そうにねめつける。コルステインの青い目がそれを見下し、しっかりと首を横に振った。


『お前は・・・精霊の居場所に勝手に入ってきた時点で、()()()()()()()()いる、それすら礼一つ言わない。本来なら、お前は消えてもおかしくないのを、分かってないな』


『分かる。する。でも。お前。コルステイン。ホーミット。壊す。ない』


『変なところで頭が回る。それとも単に、真っ直ぐそれしか信じてないのか・・・だから、俺の味方も断るつもりか』


『お前。違う。サブパメントゥ。知る。ない』


 サブパメントゥのこと知らないくせに、と言いたげなコルステインに、『昔と変わんねえだろ』と吐き捨てる精霊は、鬱陶しそうに頭を振って『もういい』と手を左右に払った。



『お前と喋るだけでこんなに疲れると知っていたら、わざわざ話してやることもなかったな。もういい、獅子も連れて行け。俺の味方を断って、勝手に困ってろ』


『困る。ない。大丈夫』


 大丈夫とまで言われて、精霊は狂った調子が戻らずうんざりして、しっしと追い払う。その仕草に、コルステインは不愉快だったが、話すことは終わったので背を向けた。背後に向いた途端、獅子の姿が遠目に現れ、床は黒い木張りから、血に濡れた床に変わり、コルステインは部屋を後にした。


 サブパメントゥが出て行くや、部屋は消え失せ、コルステインはびゅっと飛んで獅子を抱え上げる。驚く獅子だが、血の床が唸りを立てて沸き上がり、コルステインは獅子を連れて一気に闇へ飛び込み逃げおおせた。最後のは嫌がらせだな、とそれも分かる。



『コルステイン。俺は』


『後で。ホーミット。お前。話す。する』


『・・・そうだな』


『お前。悪い。ない。違う』


 獅子を両腕に抱え、コルステインは自分の世界の暗闇を飛び抜け、お前は悪いわけじゃないと先に言った。獅子は黙り・・・『バニザットが心配している』だから一度戻してくれと頼んだ。


『だめ。お前。話す。する』


 こういうところは厳しいコルステインなので却下。獅子は舌打ちしかけ、でもやめた。救われたので従う。



 *****



 何があったと、面倒の最初を訊かれ、獅子は息子が襲われかけたことを話した。


 状況は推測だが、ダルナ・アジャンヴァルティヤの迎えで聞いた経緯から、推測は正しいはずで、息子は()()()()()()()()()・・・ここは重要なので強調。


『原初の悪』には何を言われたかだが、コルステインが来るまで間もなく、二度目の旅路にいたとか、精霊の遣い(※死霊の長)は処分を受けたとか、その程度。獅子が口を利いたのは、コルステイン到着直前で、『俺は答えない』のみ。



 コルステインの横には、スヴァウティヤッシュがいて、獅子はこのダルナにも聞かせる状態は不満だった。

 だが、コルステインが片腕に迎えたと言っても過言ではないダルナに、同席拒否も出来ず。

 不満の理由は、単に『こいつはサブパメントゥじゃない』だけだし、獅子は必要な事だけ伝えると、もう戻っていいかを尋ねた。コルステインは頷き、ダルナは違う方を見ていた。


「じゃ」


 獅子が背中を向けたと同時、黒いダルナが『皆に』と一声投げる。振り返った鬣の隙間に、碧の瞳が鬱陶しそうに光り、スヴァウティヤッシュは彼の視線を捉える。


「何があったかは言わない方が良い」


「お前に命令される覚えはない」


「だが、神殿関係で見つかっている、人間もどきの動力については、注意が必要と先に伝えておくと」


「聞こえなかったか?俺は命令される気はないんだ、ダルナ」


「命令じゃない。ただの手伝いだ」


 知るかとばかりに獅子は顔を背け、進もうとした足が止まる。コルステインが彼を封じ、側へ行って、固まった獅子の顔の高さに背を屈めた。鼻先がつくほど近くへ顔を寄せ、コルステインは目を見開いて首をゆっくり傾ける。

 これは威嚇で、お前は私より強いか?と聞いている行為。獅子は何度かこれを食らっているので、目を逸らし『お前の言いつけならまだ聞くが』と苦し紛れの言い訳をした。


『手伝う。スヴァウティヤッシュ。ずっと。イーアン。皆。守る。する。違う?』


『俺が言ったのは、そうじゃ』


『ホーミット。お前。何』


『・・・分かったよ』


 お前は何者だと真っ青な目を近づけられ、睫毛の先が触れる。瞬きのない威嚇に敗けた獅子は、息を吸い込んで承諾。コルステインは離れ、行けと拘束を解いた。獅子は動いた前脚で土を蹴って、闇へ滑り込んだ。



『コルステイン。俺は邪魔した?』


『お前。邪魔。ない。ホーミット。いつも』


 いつもああだよと、流すサブパメントゥの最強は、ちょんと黒い鉤爪で自分の頭を示し、スヴァウティヤッシュに『見て良い』の合図。


 言葉に変えるより早いので、コルステインはたまにこうする。ダルナは遠慮なく記憶拝見。本当に獅子は、歯向かっては威嚇された場面があった(※ちょくちょく)。


『そうか。でも、()()()()()()()()()()()聞きたくないのは、分からないでもないからさ』


『違う。ホーミット。強い。スヴァウティヤッシュ。強い。だから』


 強さの妬みと片づけたコルステインに、ダルナはちょっと笑って礼を言い、それから本題。



『精霊は、サブパメントゥに手を出しそうか?』


『うん』


『コルステインはどうするんだ。断ったみたいだけど』


『嫌。コルステイン。サブパメントゥ。守る。する』


 守るの意味は、残党サブパメントゥも必要なら倒すことを示す。

 サブパメントゥが人間を殺す行為。既にやり過ぎで、種族が排除対象に置かれるのは時間の問題、そうした雰囲気も聞いたばかりだが、だからと言え、他の誰かに自分の種族の後始末を任せる気はない。自分が任されているので、自分の手で管理する。


 難しい気持ちを言葉に変えられないコルステインなので、その想いを読み取り続けるダルナは、何度か頷き『そうだね』と同意した。コルステインは責任を取る気なのも、伝わる。


 どうにもならない時、種族全体をまとめられなかった自分を消すよう、世界に頼むつもりでもある。


 今すぐ、サブパメントゥの反逆者を成敗しないのは、旅の仲間に混乱を増やすから。それも望まない。二度目の旅路は、溢れたサブパメントゥと魔物の両方が、旅を長引かせた。


 どこまで防げるか分からないが、サブパメントゥという種族自体、人間を悩ませる立場として生まれているため、やり過ぎなければ・・・消されることはない。


 世界に()()()()()()()()()、その理由もコルステインは、感覚的にちゃんと理解している。



『コルステイン。俺が出来ることは、まだあると思うよ。手伝えるから言ってくれ』


 強い意志のコルステインに、ダルナは協力を改めて申し出る。真っ直ぐなコルステインを尊敬もする。サブパメントゥの主は、黒いダルナにニコッと笑って頷いた。


『お前。ホーミット。教える。した。人間。変なの。動く。皆。知る。する』


 先ほど帰り際に、獅子に伝えた『人型動力』について、皆にもう話せと言ったのは正しい。コルステインもそう思っていたので、余計なことじゃなかったと肯定。スヴァウティヤッシュは『そうか』と、思いやりを受け取り・・・・・



『仮にさ。その黒い精霊が、俺たちの追う相手を手に入れたら、その時は』


()()。大丈夫』


 スヴァウティヤッシュの懸念。コルステインの断言。そうならないと良いな、と嫌な加速を感じながら、ダルナは小さく頷いた。


 黒い精霊は混乱を引き起こす。

 コルステインに断られた後も、混乱のきっかけをサブパメントゥに与えようとするのでは。ただでさえ、厄介なサブパメントゥなのに、黒い精霊の手下紛いになり下がった日には。


 スヴァウティヤッシュには、面倒が面倒を抱えて膨れ上がり、生き残る者たちに次々課題を増やしているように感じた。



 *****



 獅子が息子を探して呼びかけ、応じたシャンガマックがダルナと共に居るのを知って安心し、見つけ出して無事を喜んだ後―――



『ホーミットが攫われた』ことで、一時待機していたドルドレンとオーリン、ロゼールは一つ所に集まって、魔物を倒していた。ドルドレンは連絡珠が光るのに気付き、シャンガマックから『彼が戻った』と報告を受け一安心する。


 ホーミットを攫ったのは、相手が相手。イーアンに続いての出来事で警戒は上がる。

 この日のイーアンは異界の精霊とルオロフを連れて別行動中。彼女にも事件発生を報告したので、ドルドレンは無事に獅子が戻ったこともすぐ伝えた。


『ホーミットとシャンガマックは、何か言っていましたか』


『いや。無事に戻った以外では、後で話すことがどうとか。急ぎではなさそうな』


『ふむ。ホーミットは自己判断が多いですが、あの精霊相手、口止めもあるかも知れないし。でも話せることは伝える気かもですね。とりあえず解放された状況で、彼らは・・・船に居て頂いた方が良くないでしょうか?』


 なんで?とドルドレンが聞き返すと、『ファニバスクワンに戻されても』とイーアンは呟き、何が引っ掛かるか分からないし、船に戻った状態でファニバスクワンに連れて行かれたら、誰かしらは見ているからと、理由を言う。なるほどとドルドレンも思い、そうすることにして連絡終了。



「言われてみれば。今回のことが、精霊同士ではどう映るかも分からない。船に戻っていてもらった方が、何かあっても仲間が事情を知る。

 今も、彼らにダルナたちがいるけれど、ダルナでは()()()が多いし」


 ダルナは主従関係を築いていないと、細かいことも聞きにくい。他のダルナが従うイーアンすら、シャンガマックを慕うダルナから、話を聞くのは手間。


 ドルドレンはシャンガマックにもう一度連絡し、船に居てくれるよう頼み、懸念を添えると『あ』と部下も思い出して、即了解した。


 それから、ドルドレンは近くに見えるオーリンとロゼールにも伝えに行き、『俺たちはこのまま退治続行』として、一ヶ所集中だった持ち場を広げた。



 これが、ドルドレンにマイナスに動く―――

お読み頂き有難うございます。

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