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魔物資源活用機構  作者: Ichen
始祖の龍追懐
2666/2956

2666. 一週間の振り返り・アリータック島 ~別れ・妖精の像

 

 一番目の歌を持つ馬車の家族に『白い骨』を返しに出かけて(※2633話参照)、思いがけず発見した、十番目の家族の『白い骨(※2643話参照)』。



「戻ってから、まだ二日。一日一日、なんと濃厚なのだ」


 いや、イーアンが来て以来、ずっと毎日てんこ盛りで、一日が一週間分の濃度だ・・・ うっかり忘れていたドルドレンが、首を振り振り『物事が多過ぎて忘れた』と言いたげな様子に、ミレイオは笑って『どうするの』と、お茶を出して訊く。


「貝が必要である。前に話したが、歌を聴くには()()()()巻いた貝がないと。ポルトカリフティグは昨日来た時、何も言わないでいてくれたが(※知ってて黙ってあげる優しさ)。俺は不甲斐ない」


 ドルドレンはお茶を受け取り、お礼にミレイオの器に注いであげる。他の皆も食堂で、ドルドレンが十番目の家族の話をした後、内容を言わないと思った、と囁き合う。


「そう。なら、アリータックで聞いてみたら?どこにでもありそうだし、砂浜とか磯とか探してみようか」


 協力姿勢のミレイオに感謝して、『十番目の家族の歌を聴くための貝』探しが決定。クフムはこれを聞いて、余計な事を言わずにいたが、あの貝はどこでもあるのか疑問だった。



 話を聞いていないと言えば、イーアンも戻って早々、船倉に行ってしまった。


()()()()離れないんだろうな」


 ちょっと笑ったタンクラッドだが、イーアンが大精霊の報告より、コメに傾いている時点で、大精霊との会話は急ぎの問題・大きな問題ではないと判断している。それなら何より、とも思えるわけで。


「朝一番で、精霊の水。水に頼っただけで大仕事ではないけれど、大きな一歩だった」


 不意に話を変えたドルドレンは、丸い窓の向こうに消えて行く島影に呟いた。皆も頷いて、シャンガマックが『アリータック島で、妖精の像があるらしいんですが』と話す。


「そう言っていたわね」


「はい。俺もロゼールも、機会を逃して見ていないんです。離れる前に、皆で行きませんか」


 ミレイオに顔を向けた騎士は、変化の最初を目に焼き付けて思い出にと微笑み、これも貝探しに続いて決定。是非、見てみようと、皆の表情も柔らかくなる。


「写本から始まって。一週間で随分、大きな波が来たんだな」


 頭の後ろで手を組み、オーリンが背もたれに体を預ける。誰もが同じように思う。一週間より、もっと長く感じた。



 ―――精霊島、写本、祝宴の一幕、豪雨と清めの水、教会、職人の悪夢と岩祀り、弓工房と妖精の話、妖精の石碑に治癒場の鍵、メ―ウィックの書物、アリータック島解放、海賊伝説の舟歌、混合種のウィハニ、サネーティの船難破、サネーティとサッツァークワンの宣言、新たな大精霊ティエメンカダ、サーン農家と清めの水―――


 ・・・『原初の悪』の手出しもあったな、と誰かがぼそっと言ったが、それは他の者の溜息で終わった。


 ここで廊下に足音が聞こえ、開いた戸口を見た皆とイーアンの目が合った。イーアンは笑顔だった(※おコメ堪能)。


「おコメはどう?」


 笑いそうなミレイオに、はじける笑顔で頷いて『素晴らしい質と量です』とイーアンは喜びを伝える。案内したルオロフも幸せそう。今日は私が夕食を作る、と女龍が申し出たので、皆さんは二つ返事でお願いした。


「ルオロフに聞きました。お塩で握った()()()()()を頂いたと」


「そうそう。一見、素朴だけど、サーンの香りが素敵な料理よ」


「それはきっと、『塩むすび』です。夕食に出しますね(※自分が食べたい)!」


「あ。あとさ・・・ええっと、こっち来て。調理済みのも包んでもらったのよ。これも夜に食べないと」


 昼に食べようと思ったけれど、アリータックで昼食かも知れないし、とミレイオはイーアンを台所に呼び、イーアンもいそいそ・・・あっという間に離れた女龍を、少し寂し気に見ていたルオロフだが、『どうだった』とタンクラッドに聞かれて、意気揚々、船倉での彼女の反応を伝えた。



 ちらっと褐色の騎士を見たイーアンだが、『そうでした。ティエメンカダとの話は、夜にゆっくり伝えたいです』と、一言断り、タンクラッドたちは了解。夜でも良いということは緊急はなし、と理解。


 台所でサーン料理に感激の声を上げるイーアンは、治癒場について気になっていたが・・・短く話せる内容ではない。皆に話せば、アイエラダハッド同様、ティヤー決戦時にまた難題が?と意識するだろうから。


 それと、始祖の龍の鱗も後で・・・シャンガマックはまた忘れている感じだった。


 移動の一時間は穏やかに過ぎ、何が阻むこともなく、船はアリータックに到着―――



 *****



 局長とはここでお別れ。彼は巡視船を下りることなく、あっさりと手を振って『またな』で終わる。

 イーアンは浮上して手を振ったが、彼は女龍にも『こっちへ来て挨拶をしろ』などとは言わなかった。もう、充分楽しかった・・・そんな風に感じる、さばさばしたお別れで、帰ってゆく巡視船を見送ってから。



 島での用事は幾つか。一番目が弓工房で、皆は挨拶へ向かう。


 ロゼールは今後も来るが、他の者は会う機会もない。おじいちゃんや息子さんたち親戚一同(※話してると増える)に、無事を祈り、受け取った土産の礼を言い、仕事の話をし、別れ間際を詰め込む。


 イーアンは、着くなりおばちゃんたちに連れて行かれて、そこそこ数が上がっている作業の早さを見て、ロゼールに伝えた。

 この場で作業報酬を決め、ロゼールはそそくさ契約書類に必要事項だけ書き込むと、総長に署名させて最初の支払い日も決定。ルオロフに、ティヤー語で注釈を書き足してもらう。


「矢も、今はまだ数もないけど、取り掛かっているから」


 やり取りを見ていた、ネッツラーラヤティーが書面を覗き込み、『何度も来るのは大変』と気にしてくれて、道具制作料の支払いの際、矢も揃えておくから、矢の制作料も一緒にと提案。気遣いに感謝して、ロゼールと総長は矢の予定仕上がり数を聞き、その分も持ってくると約束した。


「俺は、ピンレーレーの手仕事訓練所も行きますから、また何度も会うと思いますよ」


「そうしてくれ」


 良い思い出が出来た、ハイザンジェルの騎士に、海賊のおじさんは微笑んで頷く。



 この間、タンクラッドとミレイオ、オーリン、シャンガマック、クフムで『もらった土産』について話を聞く。

 客人たちがイケメンで、職人の奥さんらが側に群がり、聞いてないことまで教えてくれ、タンクラッドは触られない距離を保ちつつ、予備知識を増やす。


 あの面は、古い龍の顔。龍には似ていないぞとタンクラッドが呟くと、『昔からあの顔つきで通ってる』()()()()()()、の認識らしかった。


 不思議な作り方についても尋ねてみたが、面職人はピンレーレーにいないようで、近くの島に住んでいる職人から買い付けていた。材料にするものが身近な環境に、工房を持つのはどこも一緒で、この話題はここ止まり。



 職人のおじさんは『シャンガマックも総長も良い顔してると思ってたが、仲間さんが皆、()()だな』と話を脱線、イケメン揃いに笑う。


 ティヤー人の好みと違うのかと(※顔)シャンガマックは思っていたが、特に話題にならないだけだった。クフムは誰に目を注がれる事なく、ひっそりと部屋の端に立つのみ。


「ヨライデ人なんか、滅多に見ないけど。独特の顔つきだもんな。人種が良い顔設定っていうかさ」


 私?と眉根を寄せて振り向いたミレイオは、ティヤー人がそんな印象を、ヨライデに持っていることに驚く。


 気にしたことはなかったし、自分はサブパメントゥで、単に地下から上がった初っ端、ヨライデに住んでいただけだが(※事実)、彼らはヨライデ人の特徴をミレイオに見ているらしかった。

 それにしても、『人種が良い顔設定』・・・そうかしら?と母国(※一応)の人々を思う。



 そんなこんな、雑談交じりの最後。シャンガマックがネッツラーラヤティーに『妖精を祀った広場へ行きたい』と伝え、彼らは『この前、それどころじゃなかったな(※2648話参照)』と案内を引き受けてくれた。


 広場は、市場通りの反対側で、工房からすぐのところ。工房にさよならの挨拶をして、皆はぞろぞろと広場へ向かった。


「あれか」


 ドルドレンは目が良い。近づいて行く道で、木々の隙間から覗く、不思議な像に妖精を見た。


「そう。妖精ってさ。見た事も関わることもないんだが。でも姿形の伝承は残ってるから」


 聞いた話・残った記録から作り上げた、その姿。広場に入った旅人の一行は、中央の台に祀られた妖精に目を奪われた。


「ティヤーで妖精の印象は、こんな風に語り継がれているんですね」


 イーアンがぼそりと呟き、地域独自性が美しいと褒める。職人のおじさんは女龍に顔を向け『いや、じゃなくて』と付け足す。


()()()()()()どうか、分からないよ。アリータックはこうなんだ」


「あ、そうか!ここは妖精の話が残っていたから」


「そうそう。ピンレーレーの中でも、妖精に絡まれてるのはアリータックだけだ。だから、ティヤー全体ではまた、妖精の印象は違うだろう」


 それもそうかと、皆さんは高い位置に祀られた妖精の像を見上げる。



 4mほどの高い木組み櫓の上、ツヤツヤと光る羽を二枚付けた、黄色い髪と黄色い体の男・・・だと思うが、女にも見える。胸が強調されていないので男かも知れないが、顔つきは子供だった。


 その目は大きく真っ黒に塗られ、小さな鼻と口は感情を示さない。子供の体とも違う。手足が長くて、細身、衣服は着用していないけれど、黄色い体には鋭角の模様が走る。喉から始まり、指先、つま先まで鋭角を交互に繰り返した模様が全身に描かれていた。



「この模様。稲妻?」


 シャンガマックが呟くと、おじいちゃんの長男が『妖精は雷で、人間を叩きのめす』と言った。そんなイメージなのねと・・・イーアンは唾を呑む(※イメージがセンダラ彷彿)。


 島民は妖精を見たことがないらしいけれど、この像の要素は合っている気がした。

 誰もそこまで口にすることもなかったが、フォラヴが何度か見せた雷を使う攻撃や、センダラの宙から生まれる光の槍、今も恐れられる過去最強のアレハミィを、この像に重ねる。


 この際だからと、イーアンが制作過程や材料を尋ねると、おじさんたちは『また作り直すんだよ』と答えた。


「これは即席だ。ちゃんとしたのを、面師に依頼して飾り直す予定だよ。ほら、羽のトコとか、安っぽいだろ?色や雰囲気に近い布に、膠塗っただけだし。体は大弓の木材で急ごしらえした。髪の毛は、網に藁結んだ程度でさ」


 とりあえず雨対策はしたけれど、と教えてもらい、イーアンたちも頷くだけ(※安っぽい即席だった)。


「即席でも、妖精を祀ったのは初めてなんですから。すごい変化ですよ」


 ロゼールはそう言って、自分を可愛がってくれたおじさんたちに拍手した。ハハッと笑ったおじさんに、シャンガマックも『俺もそう思う』と拍手参加。やめろよと笑うおじさんに構わず、ドルドレンも『素晴らしいことだ』と拍手を追加し、結局皆で拍手した。


 恥ずかしそうだが、おじさんたちが気にしているのは、一緒に拍手するイーアン・・・ イーアンをチラチラ見て、龍の前でと気まずそうだが、イーアンはその視線をじっと受け止めて微笑み、『大事な事です』と笑みを深めた。


お読み頂き有難うございます。

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