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魔物資源活用機構  作者: Ichen
始祖の龍追懐
2661/2958

2661. ⑤女龍と精霊ティエメンカダ ~精霊疎遠『淘汰』対象・アティットピンリーと治癒場の設定・龍の頼み

 

 南の美しい治癒場で、イーアンは精霊ティエメンカダの話を聞く。



 アティットピンリーに任せる形で、ほぼ精霊が関与しなくなった、海と島。


 一ヶ所から動けない小さい精霊は、アティットピンリーの指導で、民を守る動きをやめなかったが、移動できる精霊は人々から離れた。



 遠い昔は身近な関係だったものが、身近過ぎたか。

 人間は要求が増えた。思い上がりと一蹴するには違うかもしれないと、ティエメンカダは理解を示すが、かといって、国の人間全体に蔓延した感覚を、決して肯定しない。


 あらゆる理由をつけて踏み込む。例外を理解するよう押し付ける。弱い立場を使える時に使い、弱い立場でも分不相応の主張をする。

 最初は妖精に対して、次に精霊に対して、最後に龍にも『同等』の主張を認めるよう、態度に出た人々。



 余談だが―― サブパメントゥに関しては『この国の民は馴染みが薄い』らしく、口に上ることすら少ないようで、闇や死への危険意識からだろうと、大精霊は捉えている。

 恐怖や惧れとは異なり、危険だから受け入れない。受け入れない姿勢、その一番手がサブパメントゥのような話だった――


 海が合間に挟まる島だらけの国で、人々は他所よりも多くの自然災害に遭い、営みの犠牲を出す。

 それを地続きと変わらぬ範囲で支えていたのは、人間以外の力であり、人間以外の存在が常に側に居たからだった。その意識は人から薄れ、同等を求めるまでなったある時から、精霊は手を引いた。



 ここまでの話だと、タンクラッドたちが遺跡で知った事情、イーアンたちが海底を探った六日間、そしてあの最終日、向かい合った幽霊の一群から得た推測は、遠からず正しいと思える。


 それに気づいて今は取り組みを始めたんですよ、とイーアンは自分たちの実行した幾つかを例に出し、『今後もそう伝えていきたい』と話すと、ティエメンカダは微笑んで頷く。

 ただそれは、イーアンにを愛でる微笑みの範囲で、期待や喜びを含んでいない。意味は分かる・・・・・


()()、無理でしょうか」


 人間の心が変わり、他種族と再び重なる時代の到来。でも。もう遅いのか。イーアンが尋ねると、ティエメンカダの大きな目は瞼を半分下げる。


『私が決めることではない』


「・・・海賊と、宗教者。ティヤーで、二つに分かれた意識の人間たちは、ご存じですか?」


『大まかに。どちらも、取った行動の礎は同じ』


「ああ、そうか。精霊の視点で見たら、そうですよね」


 結局、とどのつまりはそこなんだと理解する。海賊は龍信仰に絞られた。宗教関係は現人神的な対象を定めた。やってることは、一緒なのだ。


 偏って、傾いて、何か一つだけを選んで、それだけが正しく、それだけが素晴らしい。それだけが自分たちを支えると、態度で示し続けた顛末・・・ 顛末。ここで終わるような雰囲気に、気が重い。


『イーアン。精霊が手を引いて長い。この意味が分かるか』


「いいえ。きっと、きちんと理解していないと思います。私が思うは、()()です」


『・・・それが正しい』


 イーアンを正しいとした精霊は、自分を見つめる鳶色の瞳に『龍よ。お前の思うところは』と確認を問う。女龍はちょっと視線を逸らして、言いたくなさそうに呟いた。



「精霊が離れた。全体ではなかったですが、その示す意味が。私は人間という種族が生き残る、大きな守りを一つ失った状態に思えました。

 現在、三度目の旅路に於いて、四ヵ国目とされるティヤーは、手前のアイエラダハッドで選別された続きです。この四ヵ国目で、人々は淘汰対象にされる可能性を外せなければ、全滅するでしょう。精霊はもう、人間から離れて久しいので、これが『生き残るにふさわしくない』裏打ちではと考えています。

 精霊が離れている事実は、ずいぶん昔からです。この何百年もの間、人々は自ら変わろうとしなかったのかと思うと、疑問だらけですが・・・今、間に合ってほしいと願うばかりです」


『女龍よ。お前は優しい。そして正しい。昔の龍も同じように遠い目をした。どうにもならない人間の未熟を、嘆くでもなく、見捨てることも出来ず』


 イーアンは吐露した内容を肯定されて、俯いた。やっぱり合ってるんだ、と溜息も落ちる。精霊が見限った時点で、人間は存続安全範囲から()()()()()()()も同じ。


 テイワグナの人々が、精霊信仰だったのを思い出す。アイエラダハッド人も、貴族は精霊自体否定したが、地方の人は空神の龍以外も祀っていた。

 ハイザンジェルはそもそも、精霊や龍がお伽噺でなぜか浸透していなかったが、龍が現れたら誰もが一斉に信じた。


 ティヤー以外の国の人がいかに・・・別種族に崇拝の目を向けていたとしても。

 この国の人々が、存続決定の代表。もう、後がないんじゃないかと、イーアンは息苦しい。


『お前の仲間の人間は、生き残るだろう』


「え?」


『イーアンの仲間の人間たちは、その存在に人間以外を保つからだ』


「あ・・・そういう・・・意味ですね」


 沈鬱な女龍に同情したか。大精霊は慰めるように『仮に全滅になっても、仲間は無事』と言ったが、理由はイーアンの仲間が、『人間外の種族と関わる状態だから』だった。


 これは、サブパメントゥの祝福を受けたシャンガマック、ロゼール、龍の祝福を得たドルドレン、タンクラッドのこと。

 ふと思い出した、テイワグナ警護団のバイラは、古代の海の水を潜っているので、あれもそうかもしれないと過った。ドゥージ・・・彼は今、精霊の保護下にあるそうだが、彼の場合はどうなのか。

 ルオロフは?今は人間の彼は、全滅決定で消えるのかもしれない。クフムなんて、人間そのもの。


 こんなことを思うにしても、仲間や知り合いが消えるだけが問題なのではない。

 全世界から人間が消える状態は、予想すると息が詰まりそうだった。



()()()()()良いな』


 ティエメンカダは静かに、この話を終わらせる。イーアンは頷く。はい、と答えたつもりだけど、か細い声は掠れて、息を漏らす音に変わる。イーアンは感情が顔に出やすいので、ティエメンカダは可哀相になり、女龍を大きな鰭で撫でた。


『悲しむな。と言っても無理だろうが・・・うむ。イーアンの悲しみに希望がない訳ではない。希望に変わるかは分からないが、私の子の役割も教える』


「・・・はい。そう言えば、アティットピンリーはあなたが親だとも知らなくて。ご自身が素晴らしい能力を持つのに、それも控えめでいらっしゃいました。もしこれから、アティットピンリーの役割をお話し下さるなら、あの方に私から教えて差し上げることは、余計でしょうか」


 そうだこれも、とイーアンは掛け合ってみる。アティットピンリーは何にも知らないのだ。多分、今から聞く話も知らされていないだろう。自覚もなくて自信も低くては、あまりにも気の毒で、許可を願う。


 大精霊はフフッと笑って大きな蛇の頭を横に振る。ダメかしらとその仕草にイーアンが戸惑うと、精霊の鰭がばふっと頭に乗った(※愛でる)。


『龍の代役だった私の子。なぜ代役にしたかも問わず、代役の出来がどうだったかも意に介さず。

 イーアンは私を訪ねた目的に、あれが私の子であり、混合種であるか、それだけを気にした。そして私が認めると、お前は礼を言い、あれについた名がアティットピンリーで、海の愛という意味で、自分の代わりに影日向なく支えてくれたと。矢継ぎ早に感謝を伝えた。

 私がお前を気に入ったのは、お前が大きな愛を持っているからだよ』


「その。つまり(※褒められてるけど答えが不鮮明)」


『伝えよ。お前が話したいように、あれに伝えて良い。私があれに一度も会わないのは、任せたからだ』


 伝えて良いと許可をもらい、一安心する。しかし、任せると会わないのか・・・精霊の親子は違うな、とイーアンは思う。

 言われてみると、シュンディーンもあんまり。彼は赤ちゃんだから、ちょいちょい会う具合だが、ほぼミレイオに任せっきりである。


 テイワグナのヴィメテカも、自分で『親はナシャウニット』と話したが、確かに会っている感じはなかった。

 彼の妹、アイエラダハッドの武神アシァクは、親の一文字すら口にしなかった。兄がヴィメテカとそれすら、『だから?』な感じ・・・(※印象がストイック)。


 ふーんそうなのかーと、精霊の親子図に学びながら、イーアンは許可を感謝する。



『アティットピンリー。私の子。あれは私が動けない代わりに、動くよう役目を与えた。龍の想いも籠めて』


「それは。もしかして、あなたがティヤーの民を守る訳に行かないから、アティットピンリーが」


『解釈は、そうなる。他が人間を離れた中で、精霊を包括する私が気まぐれに助けるのも違う。ただ、何も考えないものでもない。これは、古の龍の心が、()()宿()()()からかな』


 龍はよく人間の不甲斐なさを気にして・・・と寂しそうに微笑む大精霊。不甲斐なくて当然の生き物だから、気にしてやるのも当然と、龍は言っていた。それを聞いてイーアンは、始祖の龍の気持ちが沁みる。


 ティエメンカダも、人間を見放す気になれなかったのだ。始祖の龍がそう話したことが心に残り、今もそれを思う。


 でも、精霊全体で『離れる』姿勢を選んだ日から、水の精霊の頂点にいるティエメンカダは、動きを控えたようだった。その代わりに、良い機会―― アティットピンリー誕生 ――を得て、民を守る役目を与えた。


 移動できない小さい地霊も導かせ、ティヤーの人里にわずかに残った精霊を任せて、子が龍の代役として務めを果たす姿を、ティエメンカダは見守る。


『それとね』


「はい」


 しんみりして話を聞くイーアンに、大精霊は『あれの役目だが、他にも大事な事がある』と最後に話す。


『先ほども言ったな・・・もし。人間が生き残る種族に見合うなら、その時はアティットピンリーが、治癒場へ人間を集めるだろう』


 ハッとする女龍に、大精霊はゆったり頷く。ティヤーの民に存在が知れ渡った後であれば、それも滞りなく行われる・・・大精霊は、女龍に優しい目を向けて『お前が、私の子を光の当たる場所へ出してくれた。これも世界の示唆かも知れない』と、前向きな励ましをした。


『龍は、私に何度か頼んだことがある。仮に人間に存在の道が開かれたら、可能性を守ってもらえるかと。存続に値する判断を下された時くらい、一人も死なずに次へ進めるよう、守ってほしいと』


 イーアンは頷く。東の治癒場下にある、白い遺跡・・・記憶の空間で、始祖の龍がそう言っていたのを聞いたばかり。ずっと昔に思っていたことを、今も引き継いでくれる精霊は、なんと心強いだろうか。



 始祖の龍が、気にかけていたこと。治癒場が出来ることを、彼女は当時、見通していたかどうか知る由ないけれど。

 アイエラダハッド南山脈の治癒場でも、キトラ・サドゥに頼んだ始祖の龍は、『私とは違う女龍が来て雨を降らせる時、この場所を開放』を設定していた(※2308話参照)。


 始祖の龍は、徹底的な破壊を司る存在として呼ばれた。

 後の世で、人間が生き残る道があれば、それを少しでも手伝ってやりたいと考えただろうけれど、立場上叶わないと見越した場合、精霊や信頼できる誰かに、願いの先を託した気がする。

 それは、今も―――



『あれは混合種だから。精霊の領域にあって、精霊より自由が利く』


 限度はあるけれどなと付け足したが、大精霊は託した想いを忠実にこなしてきた我が子に、満足そうだった。

お読み頂き有難うございます。

15日の投稿をお休みします。

少し意識が途切れがちなので、一日お休み頂いて物語を書こうと思います。どうぞ宜しくお願い致します。

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