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魔物資源活用機構  作者: Ichen
知られざるウィハニ
2650/2956

2650. 出生の想像・呪符の残り・出会いと分かつ道と・混合種についての報告・お土産

※少し長いです。お時間のある時にでも・・・

 

 ティエメンカダの話を、私から話して良いのかなとは、思ったのだが。



 精霊ポルトカリフティグは私に教えた際、彼も直に聞いたわけではないことを、きちんと前置きしていた。

 そして、ティエメンカダ自体が隠していたかも知れず、アティットピンリーは誕生してから現在まで、一つとして情報を受け取っていなかった。『大精霊ティエメンカダ』を知っていても。



 でも――― イーアンは、滅多にない()()で思う。


 今までティヤーを助けていたのは私じゃない、と真実を伝えるには、どうやったってアティットピンリーの存在を公表しないといけないし、なぜ代役を通していたかも、ある程度明らかにしなければ。


 民に明らかにするのであれば、当事者のアティットピンリーにも、当然、教えておきたい。


 全く触れずに済ませるのも出来るが、それはまた()()()()()として、しこりになる気がした。


 混合種の精霊は、以後『ウィハニの女改めアティットピンリー』で通じるだろうが、今後も同じ行為を続ける理由が、()()()()()()()分からないだろう。それが存在意義と決めつけるにせよ、女龍と会ったからには、自分の動きを振り返らないとも限らない。


 そして人間は、何百年も信じ込んでいたものを覆すのに、理由が必要なのだ。強烈な信者は、サネーティのような柔軟な思考の方が珍しい。



 私自身が・・・アティットピンリーに告げるなら許されるはず。私は、女龍なんだもの。


 もしかすると始祖の龍の噂話、かもしれない。

 アティットピンリーが、精霊ティエメンカダの子供と明快な答えもないし。

 私が勝手に決めつけた想像を、事実と思って伝えてしまったかも、だけど。


 女龍ではない誰かが、()()()()()()()()行動を、女龍の自分がただ『見知らぬ誰かの好意に感謝』で済ませるより、『遥かな海の一時に起きた、龍と精霊の交流の続き』を前提にした方が、想いを膨らませて伝えられる。


 それはきっと、海賊の皆さんにも、アティットピンリーにも必要―――



「一応。ティエメンカダに会えるよう・・・ちょっと探してみよう」


 イーアンは、混合種の精霊に話した内容を、ティエメンカダ本人にも言っておいた方がいいかな、それで確認も出来たらいいよねと、ここで弱気になる。



 アティットピンリーにお別れして、トワォも海に返し、今は帰り道。

 と言っても、弓工房まであっという間で、呟きながら到着した。


 工房の外は、夕方の片づけで人が出ており、イーアンを見て『サネーティたちは公民館』と教えてくれたので、お礼を言ってイーアンは公民館へ移動。公民館=サッツァークワンの印象があり、展開に期待した。



 思ったとおりで、公民館の外には彼らが屯し、戻って来た女龍を迎えて一部始終を聞かせる。それは、今後の予定で、今日のところは引き上げるのだが、雑談してイーアンを待っていたらしかった。


「(イ)そうか。私と連絡が通じる人、いませんものね」


「(ロ)はい。俺とシャンガマックは、総長と連絡取れますけれど」


「(ル)私は、何の役にも立たず申し訳ない」


 連絡珠を使えない同士、の話がルオロフで脱線し、イーアンは笑って首を横に振ったが、サネーティが『そのくらい何か用意しておけ』と口を出し、ルオロフが『お前に関係はない』と言い返し、慌てて止めた。


「ルオロフはサネーティの友達だから、ちょくちょく()()()()んですよ」


 ロゼールが『ずっとこんな具合だった』と笑い、シャンガマックも顔が笑っている。サネーティの付き添いで来た以上、真面目なルオロフは彼から離れず、何かにつけて言い合いしていたようで、二人は仲が良いのか悪いのか。イーアンは彼らを丁寧に労い、もう帰ろうね、と促した。



「戻ってから聞きましょう。サッツァークワンたちが見えませんが、彼らと話はついたんですものね?」


 この場にいない彼らを確認するイーアンに、『一時間前に戻った』とシャンガマックが教える。宿の手配と、船の予定を変えることになった為・・・イーアンもピンと来て頷き、それではと、シャンガマックたちと一緒に残ってくれていた近隣の人たちにお別れした。




 18時には病院に戻るサネーティを連れ、アリータックから船を出してもらう。この辺は手配済みだったようで、イーアンも同船した。


 翌日以降の約束を取り付けたサネーティとサッツァークワンは、滞在期間を延ばして、『新しい伝説』をアリータック島で書き残す。船でその話をしながら・・・ロゼールが関係ないことを思いだした。


「俺、そういえばなんですけれど。サネーティさんのお守りを持ってなくて」


「あ。そうかもですよ。ちょっと待ってね」


 サネーティのことも、彼のその呪符の効果も知らなかったロゼールに(※2612話参照)『そうだった』と思い出し、イーアンはサネーティに貰った呪符を腰袋から一枚出した。12枚貰っていて、余っている(※2465話参照)・・・・・


 まだ余ってる、と呟く女龍の横、受け取ったロゼールはしげしげと端革を見て『これが()()()()()で通用するのか』と驚く。サネーティもこの会話を横で聞いていて、微笑みながら『また誰かに渡しますよ』と意味深なことを言っていた。


「誰、かは分からないですが。私はきっと、1()2()()()()()()()()()と思って用意したんです」


 だから持っていて、とサネーティは女龍に言い、イーアンは改めてお礼を言った。


 ・・・サネーティは混合種の精霊について、イーアンとどうだったかを特に尋ねない。

 それに、自分が大勢の前で何を話したかも言わなかったが、イーアンもサネーティもそれで良かった。公民館前でも、他の人の口から精霊について質問は一つも出なかった。納得し、イーアンが話すまで遠慮し、かなとイーアンは思う。


 ただ。イーアンから『これだけは言っておきたい』と、一つは伝えた。サネーティはそれを知り、感慨深そうに目を細め、『嬉しいです』としんみりする。


「私が付けた名を」


「はい。ご自身でそう名乗られて」


 微笑み合う女龍と呪術師は、アティットピンリーが『サネーティが名を付けた』と教えたことを、噛みしめて喜ぶ。この喜びの一時に、他の言葉は要らなかった。波寄せる音が精霊の声のようで、二人は波の音を聞き続けた。



 船はピンレーレー島の港に入り、サネーティを病院へ送り届け、『明日また』と挨拶してイーアンたちも船に戻る。イーアンは明日、公民館でアティットピンリーの発表予定。


 歩きながら『説明は聞いたけど、包まれていたからお土産をまだ見ていない』と工房で持たされた手土産の話題になり、船到着後、トゥに『宿にいる』と聞いて、今度は宿へ歩く。


 夕暮れ前の徒歩の時間は、雑談が飛び交う。

 ロゼール、シャンガマック、ルオロフは、お土産話から海賊伝説の()()について思うところを伝え合い、イーアンは微笑んでそれに耳を傾けていた。



 宿に着き、ルオロフを振り返る女龍。赤毛の貴族は一人挟んだ横を歩いていたので、女龍の側に寄り、並んだ。見上げる何も言わないイーアンを見下ろし、二秒、鳶色の目を見つめる。


「この目の色を、いつも思うのです」


 宿の塀の前で、残照に赤毛が輝く貴族が呟く。うん、と頷くイーアンも、彼の薄緑色の透き通る目が、アイエラダハッドの森林みたいにいつも思う。


「偉大な龍。自由な空を統べ、大地を映すその瞳。天地の両方を抱えるあなたに、そそっかしい私ですが一生お仕えします」


「こんなところで口説いて!」


 真横にいる騎士二人。ロゼールが突っ込みを入れるとイーアンも吹き出す。

 ルオロフは苦笑して『口説いていない』と真面目に言ったことを強調したが、ロゼールは笑いながら『総長に言います』と宿へ入った。

 口説いていませんよ!と誤解を止めに急いで後を追うルオロフを笑いながら、イーアンとシャンガマックも続いて宿へ入る。


「イーアン、サネーティからあなたに伝言だ」


 扉を開けてホールへ促す褐色の騎士に、イーアンは振り向く。明日も会うのに何かと思えば。


「ウィハニの女は、()()()()自分の人生だ、と」


「ハハハ。彼らしい」


 シャンガマックも可笑しそうで、『鞍替えしたと思われては困るとか』と付け足し、イーアンは大笑いした。


「誰もが、イーアンを慕う。イーアンについて行き、そして自分を見つけるんだな」


 ホールに集まっていた仲間に、手をちょっと上げたシャンガマックの呟き。彼を見上げたイーアンが首を傾げて微笑む。


「違いますよ。私が皆さんの力で、自分を見つけられるのです。私に気づかせると、皆さんはそれぞれの役目と人生へ旅立つのでしょう」


 あなたも、と女龍はシャンガマックの腕に触れる。シャンガマックは頷いて『そうか』と微笑み返した。


 シャンガマックは、ヨーマイテスに会えた。イーアンの言葉は一理あるかなと思うし、イーアンは出会いを繰り返すたび、そして出会った相手がまた道を分かつたびに、毎回そう思っていた。



 *****



 夕食は、晴れて赤毛の貴族も一緒に、食事処で摂った。

 ささやかに戻ったことを祝い、祝っているのは皆の方なのに、なぜか貴族が代金を持った(※金はある)。

 こういうの、いつも悩むドルドレンだが、『彼も嬉しいから』と周りに言われて受け入れ、大衆食堂の食事処で腹いっぱい食べさせてもらった。


 魔物は出ていても、ティヤー人は食事をたくさん作る。海が無事なら何とかなると、誰もが信じていて、食事処にはいつも人が溢れる。食べさせる側も食べる側も、日々の糧を得る恵に感謝している。



「ここに、精霊信仰が()()日は近い」


 ぼそっと呟いたシャンガマックが、美味しい魚を頬張って微笑む。

 総長たちにも、サネーティの話を聞かせたばかり。イーアンも、混合種アティットピンリーとの会話を大まかに話した後で、皆はシャンガマックの一言に深く同意した。


「アリータック島では妖精を祀った。サネーティとサッツァークワンが広めれば、精霊も近くなる。そして、タンクラッドさんと俺とルオロフの受けた試練『精霊島』の写本も回り始めれば」


「ティヤーの新しい風が吹くんですね」


 ルオロフが褐色の騎士に続け、目を見合って頷いた。こんな形で変わっていくなんて、誰が想像しただろう。

 賑やかな食事処で、揚げ物の匂いが充満する中、大皿料理を余すことなく食べきった一行は、口数も少なく外へ出て、宿へ戻った。ティヤーの魔物はまだ終わらないが、前向きな時間の流れを感じながら。



 宿の部屋、一室に集まってからは、イーアンの報告二部。外で話せなかったことを伝える。


「アティットピンリーが」


 ドルドレンが眉を上げて驚く。皆も、忘れた頃に聞く名前で、え?と声が上がった。イーアン頷く。


「はい。デオプソロの名を与えました。その前後でも、ウィハニの女として祈りを受けた時は、人間とやり取りしていました。印象に残っていること・覚えていることをたくさん話して下さったので」


「本当に、まるで想像もつかない方向からね」


 お茶を淹れて配るミレイオは、『でも精霊は、彼らを悪人と思っていなかったの?』と気づく。これもイーアンは同じ気持ち。


「私もそう思いました。アティットピンリーは、聞く言葉よりも、感情や心の動きに大変敏感です。それでも『悪い』方へ捉えなかったということは、民の未来に良いと判断していたのでしょう」


「デオプソロは、何にも分かってなかったっぽいじゃない?彼女はまぁ、そうかなって思えないこともないけど。弟は腹心でしょ?軍隊とか死霊とか、そんな内容でも通じたってことかしら」


「そこは分かりませんが、死霊に焦点を当てないかもですよ。『ヨライデは元々、悪魔崇拝じゃないけれど、感覚的に違う』と、ミレイオも教えて下さいましたが、ヨライデ人の彼らがやり取りする際、悪事を働く感覚より、当たり前の感覚で話していたら」


「ああ~・・・そうか。でもそれでも、危険かそうじゃないかくらい、伝わりそうなもんだわよね」


 女龍とミレイオとの会話を聞く周囲も、『感覚の違いで、自然体=感情に悪事を持ち込まない』理屈が分かる。善悪の判断は、精霊にとって大まかであるし、民のためになる前提なら・・・なのか。



「話をまた変えますが、アティットピンリーはかなり能力が高い精霊ですよ。彼女の直向きな活動の数々、詳しく知って舌を巻きました。能力の範囲が幅広く、また、それは強力です。

 さすが、と私が言うのも何ですが、龍の代役をこなすに当たり、本当に隈なく覆えていたのであろうと感じます」


「考えてみれば、シュンディーンと同じ状態ってことだよな?」


 黙って聞いていたオーリンが尋ね、イーアンは『私もそう思った』と言う。


「シュンディーンも、ファニバスクワンとサブパメントゥ、そして複数の動物が彼の元になっています。アティットピンリーは、ティエメンカダとサブパメントゥと」


「龍、か。それは強力な混合種だ」


 親方も驚いて続ける。『テイワグナの』と言いかけたので、『ヴィメテカ』と女龍が頷く。


「そう。彼は、大地の精霊ナシャウニットが親だ、と教えてくれました。アイエラダハッドにいた、妹のアシァクもそうかもしれません」


「あのおばちゃんも気になってくるわね。氷の峠の、さ」


 ミレイオはドルドレンに顔を向け、ドルドレンも『おばちゃんは実はすごい精霊だと思う』と同意する。


「混合種は純粋な精霊ではないけれど、だからと言って引けを取るとは限らず、他の種族にも関われます。水の精霊ティエメンカダは、サブパメントゥを通過した龍の何かを選び、自分の子として誕生させたわけですから、アティットピンリーがご自分を知らないだけで、相当な能力を得た精霊に思います」


「自分を知らなすぎて、ずっと不安を持っていたなんて。これから幸せになってほしいですね」


 ぽそっと呟いたロゼールが同情する。皆も精霊に同情するなんて良くないと思いつつ、人間的には同情してしまう。



 少し場がしんみりしたところで、シャンガマックがふと思い出す。


「あ。袋」


「んん?ああ、お土産?」


 関係ない一言を放った騎士に、ロゼールがすぐ反応。そうだね、と椅子を立ちあがって、イーアンに報告はそれで終わりかを尋ねる。イーアンは頷いたので、ロゼールは『お土産を見せる』と袋を部屋に取りに行った。


 間もなく戻ってきて、貰った二つの袋を机に置くと、いざ開封。紐で口を閉じてあった袋から、取り出したのは―――



「お面ですか」


 ルオロフが一番乗り。イーアンも目を瞠って『きれい』と続け、ミレイオが眉根を寄せて顔も寄せる。


「(ミ)ねぇ。これ。あれに似てるんだけど」


「(ド)俺も思ったのだ。オーリン」


「(オ)あれだろ?」


「ファニバスクワンのお面ですか?」


 イーアンは彼らの言いたいことを察すると、三人は頷いて『アイエラダハッドのサグン集落』と異口同音(※2185話参照)。


「模様が似ていますよね。()()()()うけれど」


 見た目の色や、模様使いは確かに、とイーアンが認める。その言い方に引っかかったオーリンは『イーアンはそう見えないのか』を尋ねると、イーアンは親方を見た。彼は、じっとお面に視線を注いでおり、ちらと上げた視線を受け取る。イーアンと親方は同じ感覚、と互いに通じる。


「俺は・・・お前の思う方、かな」


「私も、多分あなたと同じ」


「なんか嫌なのだ」


 ドルドレンが挟まって二人は笑い、周りも苦笑するが、ミレイオが『何を思ったの』と笑いながら促すと、二人から意外な答えが戻る。


「バサンダの面だ」 「バサンダの昔のお面で」


「え。全然違くない?」


 即否定したミレイオに、また二人同時でお面の一部を指差した。


「口元の接着が、あれと近い」 「バサンダの鳥の面の加工に似ています」


 あれは、海の特殊な接着剤(※1370話参照)――― イーアンとタンクラッドは目を見交わして、『ですよね』『だよな』と頷き合った。



 ドルドレンが、むすーッとする中。皆は、どれどれと面に群がり、親方とイーアンの解説時間になり・・・ これが、近日中に次の移動のきっかけに続く。

お読み頂き有難うございます。

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