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魔物資源活用機構  作者: Ichen
知られざるウィハニ
2648/2964

2648. アリータック島の用事・イーアンと精霊アティットピンリー・ラファルの秘密

☆前回までの流れ

海で遭難、精霊に助け出されたサネーティは、精霊の事情を聞いた上で、島に届けてもらった病院で、見舞いに来たイーアンと会い、ウィハニの女は別にいること・すぐに真実を伝えたいことを告げました。イーアンはそれに同意し、まずは病院で告げてから・・・

今回は、アリータック島から始まります。

 

 島の解放祝い当日には、参加できなかったけれど―――



 昨日の内に、『後日都合が付いたら来て』と伝言を受け取ったシャンガマックとロゼールは、イーアンも総長も戻った後、アリータック島へ向かった。


 午後に島へ入った二人は、お土産袋を先に持たされた上で、今日もお祭り延長状況の中、女性に囲まれないよう(※大事)身を潜めつつ、おじさんたちに昨日の様子を聞いていた。それはアリータックの行事に、今までなかった内容。



「妖精を祀ったんですか」


「そう。やっぱりほら、許してくれたのをこっちが理解した、そういう証拠って言うか。あった方が、妖精も良いだろ?あとで見せてやるよ。女たちが午後に家に入ったら」


 長い昼下がりの休憩。『庭や通りで、くっちゃべってるからさ』と笑うおじさんに(※家に入る=外出ても安全)騎士の二人は宜しくお願いした。『妖精も、自分が祀られた広場を見たら嬉しいはず』と真面目に言う海賊に、シャンガマックは変化の風を感じる。


 そんな昨日の話をしていたら、急に表が騒がしくなり始め、おじさんの一人が扉を開けて確認する。で、おお!と喜んだ。どうしたかと思いきや。


「イーアンが来たんだ。あ、あっち行っちまった。こっち来ないな」


「あれは?もう一人の。違うか、男二人いるな」


 最初のおじさんに続き、他のおじさんも戸口から外を見て、男連れイーアンだ(※語弊)と騒ぐ。おじさんたちはぞろぞろ出て行くので、シャンガマックたちも『男』と顔を見合わせついて行った。


 勿論、心配されていた女性陣は外にいたが、通りには男性も多い。来た時はそうでもなかったのに、一度に集まったような印象で、人混みを分けながら騎士二人は進み・・・シャンガマックは『あっ』と驚く。


 難破した船の乗船名簿にいた男―― 自分の会いたかった人物―― が、無事な姿でそこにいた。


 すぐに走った褐色の騎士に置いていかれたロゼールは、赤毛のルオロフは遠目で分かるものの。シャンガマックが手を振った、もう一人のティヤー人を知らない。あれ誰?と様子を見つつ、後から側へ行く。



「無事だったか!良かった、サネーティ!」


 その名を叫んだシャンガマックに、イーアンたちを取り巻く人々より離れた輪で『ンウィーサネーティ?』と驚きの声が上がった。サネーティの顔を知らない人が多い中、着いた側から紹介初め。サネーティも名を呼んで走って来た騎士に、笑みを浮かべて両腕を広げる。


「シャンガマック!元気だったか。無事だよ、有難う!()()()()()と思っていたんだ!」



 抱き合って無事を喜び、シャンガマックは『あなたの地図で話したいことが』と即用件を口にし、さっと口を閉じて『すまない、無事をもっと祝うべきだ』と真顔になり、サネーティが笑う。抱擁の手を解いてポンポンと騎士の背中を叩き『私もそのことで会おうと思った』と言い、シャンガマックの顔がまた明るくなった。


 二人の周囲は人だかりなので、今はここまで。

 イーアンも島民の皆さんに囲まれて挨拶しながら、サネーティも『あなたがそうか』と群がられ、シャンガマックに『あとで!』と切り上げた呪術師は、大人気ぶりで初対面の皆さんに挨拶を再開する。


 ロゼールの知らない人・サネーティ。人が凄くて、側まで近寄れなかったロゼールには、ルオロフが来る。微笑む貴族に、ロゼールは『イーアン、精神的に疲れていませんか』と真っ先に気遣う。


「大丈夫そうですよ。彼女はやることがありまして」


「いつも『やること』ばっかりですよ、イーアンは」


 ハハハと笑うが、そんなイーアンは、振り向いたら早速用事に取り掛かっていた。


 彼女の用事は幾つかあり、順番に業務的にこなす。製品の出来を尋ねて、作品を籠で見せてもらい検品。『可』を出して女性陣に喜ばれた後は、解放祝いの祭りに参加できなかったことを詫び、続けてお祝いの言葉を交わし、そして―――



「連れてきました、この彼。ンウィーサネーティから皆さんへ、重大な話があります。それと、サッツァークワンはまだ島にいますか」



 *****



 女龍が口にした、二つ。

 一つは『ンウィーサネーティ』が来島し、重大な話をしたがっていること。

 そして、歌い手サッツァークワンの居場所。


『サッツァークワンは、今週末に島を出る』と誰かが言い、それに反応したまた違う人が『宿は最初から同じだ』と答える。イーアンは、サッツァークワンに用があるのはサネーティで、良かったら誰か伝えてもらえないかと、取り巻きの周囲に聞いてみた。



 すると、あっという間に何十人かが輪を離れ、話しながら同じ方向へ歩いて行ったので、『イーアンたちはここで待っていて』と他の人が椅子を持って来てくれた(※ここは道)。だが、イーアンは。


「行くんですよね。私は一緒じゃなくても大丈夫ですか」


 椅子に座らず空を見上げた女龍に、サネーティは尋ね、女龍は頷く。


「あなたの紹介、と話しかけることにします。ピンレーレー島の祠では留守だったけれど、時間を置いた今なら会えるかもしれません。アリータック島の祠は行ったことがあります」



 ―――病院を出てすぐ、ピンレーレー島の祠には行ってみた。


 島に二ヶ所ある内の一つが、丁度、病院真裏だった。てくてく歩いたイーアン、サネーティ、ルオロフで祠を前にしたものの、精霊はお留守。それで、次の用事・アリータック島へ来た三人―――



 ンウィーサネーティは、海賊呪術師で生き伝説状態の人物のため、自己紹介した以上、おいそれと動けない(※人気者)。


 ルオロフは、彼の側・・・病院で、『自分が呼んで、彼が来た』ことにして、付き添いを引き受けた。サネーティ、実はまだ退院ではなく(※遭難当日)。


『緊急の事情だ』と医者に交渉し、病院に戻るまで安全のためにルオロフが付き、『イーアンと一緒にアリータック島へ行くならまぁ』の許可を得た。『元気かもしれないが、今日だけは入院してくれ』と医者に口酸っぱく言われて、戻る約束をし出て来た。



「では、行って参ります。私が出ている間に、皆さんに・・・あなたの新しい伝説をお伝え下さい」


 ニコッと笑ったイーアンは、周囲の人に気を遣い、二枚の翼先を上に向けて背中から出す。おお、と人が後ずさった隙に、ひゅっと真上に上がって六翼にし、『それではね』と祠の方へ飛んだ。


「カッコいい」


 憧れの表情で呟くサネーティに、ルオロフは『当たり前のことを』と切り捨てた。この間、シャンガマックとロゼールはおじさんたちと側に居たが、この二人は『サッツァークワン』に会っていないので、サネーティと一緒に待つことにする。おじさんたちも『祭り後半だし、今日仕事しないから』と付き合ってくれた。



 *****



 サッツァークワンのいる宿へ行った人たちが、出かけている彼らの行き先を聞いて道を()()、あの公民館で『サッツァークワン最新作』―― もう一人のウィハニ ――の写しを作っている広間にお邪魔し、緊急の用を伝えた後。


 彼らが、市場通りの辻に集まっていた群衆にこれを伝え、サネーティと人々が、公民館へ移動し始めた時。



 アリータック島の、海が見える川端に女龍は座っていた。


 すぐに着いた祠に、少し緊張しながら話しかけたが、祠の反応がなく・・・まだ、お留守かも知れないと、女龍は側の地面に腰を下ろして、ぼんやり待つ。


 前に流れる川は中央に砂州が見えていて、この前来た時間より早いから、と思った。でももう、気づけば夕方前。今日もあっという間に過ぎて行く。


 向かいには民家が点々とあるけれど、水辺に接近しておらず、川に近い家屋は小屋のようだし、近くに人の姿はない。人々の話声も聞こえないため、イーアンは静かな午後のそこにポツンと佇む。



 サネーティが話してくれた、救出された後のことを考える。


 沈む船が起こした水流に、抵抗出来ない勢いで水中へ引きずり込まれた彼は、死にかけ寸前で『ウィハニ』と呼び、意識が途絶えた。


 次に目覚めたら無人島の浜で、横に精霊がいた。

 その姿は上が人間に似て、下は尾の長い魚に似るが、上下のどちらも、例えるなら人や魚というだけで、まるでそれと違う雰囲気を持つ。


 頭の中に話しかけられて、龍の話を聞きたいと頼まれたので、サネーティはイーアンについて話し、そして海賊伝説に出てくる龍も話した(※2644話参照)。



「でも。話を聞いてもらった後で、彼は自分を助けた相手こそ、()()()()()と感じたのです。サネーティの良いところです。真実を見抜く」


 精霊は、気づいたサネーティに肯定はしなかったものの、そっと触れて・・・『控えめですよ』とイーアンは溜息と共に目を伏せる。自分からは言えない、そう示したのだろう。その態度を以て、サネーティは間違いないと確信した。


 それを伝え、名を教えてほしいと言ってみたら、精霊は涙を流し、『自分に名はない。龍の影として動いた私を、龍は許すだろうか』と言ったという。



「許さない訳ないでしょう!許すとかそんなの、関係ないですよっ 私は()()()()()()()いけない立場なのに!」


 切ないよーと、両手で顔を覆う女龍。そんな風に思っていたなんて、どんなに辛かっただろう、どんなに寂しかっただろう、可哀相だよーとイーアンは、その場で手に顔を突っ伏して泣く。


「可哀相すぎますよ。何百年?ずっとずっと、ティヤーの海を守りながら、一回も、誰も、自分に気づかない。そりゃ、龍の影を真似るのを大切にしてきたんだから、バレない方が良いのでしょうけど、それがどれほど心に重いか。どうして、いつから、龍の影になっていたのか・・・私は謝り、感謝こそすれ、許さないなんてとんでもありませんよ!」


 うう、ううっと泣きながら目を拭く女龍は、鼻をすすり上げて、精霊が来たらちゃんと言わなきゃ、と顔を上げる。そして固まった。


「ぬ」


 いつから居たのか・・・祠の前の地べたに座っていた、女龍の前。

 川の水際に、こちらを見ている目と目が合った。その目は大きくて、透き通る真緑。川面に、目から上だけ出ている頭は、金のような銀のような、上から下へ流れを止めない粒子の髪で、水中にもその輝きが撥ねている。



「あなたが・・・そうですか。私は、イーアンです。私は龍の」


『龍よ。私のために泣いたのか』


 遮って、話しかけられ、イーアンは頷いて、濡れた目を腕でゴシゴシっと拭き、うっかり・・・『お名前は』と聞いてしまった。言った側から慌てて口を両手で押さえる。なかったんだった!と思い出し、ごめんなさいと謝ったが、思わぬ返答が戻る。


『アティットピンリー』


「え。あ、名前ですか」


『アティットピンリー、と。名を付けた』


 瞬きした大きな目は、初めて自己紹介した名前が気恥ずかしいのか、ちゃぷっと・・・水に沈んでしまった。



 *****



 焦ったイーアンが川に入り、『どこ行ったんですか!』とザブザブ水を分けて探し、少し離れたところに出て来た精霊が、こっちへと招く手に急いでついて行った、その頃。



 うんと離れた島の村で、煙草を消したラファルが微笑んで『良かった』と呟く。魔導士もそう思う。


「イーアンに会えるんだな」


「そういう話だったな」



 ―――ラファルはこの村で『ウィハニ』を呼び出せて、最後まで微妙そうだったバニザット付きで、光りの宿る祠と話しをし、意外な答えをもらえた。

 相手は『女龍と会う段取りが付いた』状態を教え、ラファルはそれの理由も状況も、すっ飛ばして喜んだ―――



 帰るぞと、魔導士が風に変わり、厚ぼったい古い僧服姿のラファルを、緑色の風がひゅるっと巻いて消す。空高く上がった緑の風の中で、ラファルは『会えていると良いけれど』と、満足げに目を閉じた。


「今すぐじゃないだろう」


 風が答え、ラファルも少し笑う。


「早いと良いよな、って意味だ」


「お前が部屋に戻って、一服するくらいには、会ってるかも知れん」


 魔導士の答えに、ラファルも声に出さず笑い・・・魔導士はつくづく、この男は本当に無欲だと思った。


 ちょっとした間に()()()()()()をつけたらしき相手に、なぜなのか、誰なのか、どうしてか、の一言も尋ねることなく、『そりゃ良かった』で終わらせたラファル。


 さっぱりしているというか・・・ 気にしていた割に、相手が解決したと見るや、普通に喜んでそれで別れる。期待しない男の性質に、魔導士は彼を幸せにしてやりたいと願った。



「お前の事情を聞いていたようだが」


 話を変えて、魔導士はラファルに尋ねる。相手の変化に首を突っ込まないラファルだが。相手はラファルの事情に首を突っ込んだようで、その話の方が長引いていた。


 村の外にある祠相手、ぼそぼそ喋る外国人を、時折家畜と共に通り過ぎる地元民が微笑ましげに眺めて、何度か通り過ぎた・・・くらい、ラファルは結構長く話し込んだ。


 人の目に映らない魔導士は、ラファルの後ろに立っていたが、祠の誰かが気にしている感じを受けていたので、後半は少し離れたところで待った。なので、会話の内容は知らない。



「んん?俺の事情、まぁそうだな。初めて話しかけられた時、それが疑問だったみたいだから」


「お前は、身の上を言ってるんだろ?」


「話して良さそうな部分はな・・・大まかに、だ」


 そう言うとラファルは、流れる千切れ雲の合間に見えて来た、自分たちの小屋に視線を向ける。


「俺が『死んでいない』って、言ってくれたよ。サブパメントゥの水だか何だかで、()()()()()()ようなことを言ってたな」



 さらっと――― メ―ウィック姿の横顔が、何てことなさそうに少し微笑んだ。


 魔導士はつい。滅多にないが、彼を落としかけて慌てた。

お読み頂き有難うございます。

忙しさで何度も休んで申し訳ありませんでした。体調が崩れているので、また休まないといけないかも知れませんが、できるだけ話が止まらないよう、分からなくならないように気を付けます。

いつもいらして下さって、本当に有難うございます。心から感謝して。

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