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魔物資源活用機構  作者: Ichen
沈んだ巨大島
2629/2957

2629. 春と秋と古代民族イザタハ・許しの願いの行き先

 

 落下が止まらない。いつだ着くの、と落ちながら膝を抱えるロゼール。その余裕の姿勢を見上げたシャンガマックは、自分に呆れられている気がして懸命に考えるのみ。



 ―――ずっと、考えているけれど。


 なんでだ?の疑問が消えない。ここで合っているはずだし、俺は()()()だし、ロゼール同行だから引っかかるとも思えない。


 ファナリに会いに行った時、父が同行でも問題なかった。ロゼールは純粋なサブパメントゥではない上に、まだ()()()()()()()()()()()()のだから、彼が問題とは思い難い。


 では俺か?と自分に矛先を向けてみるが、やっぱり腑に落ちない。俺に問題がある気もしない。何かし忘れた?いや、そんな手順なら、そもそもここまで来れないだろう―――



 ぐるぐる巡る、こればかり。なんでだ?何が良くなかった?

 褐色の騎士も、組んだ腕の片手を顎に添えて足を組み、椅子に座る姿勢で落下し続け、悩む(※姿勢は余裕そう)。


 ぜーんぜん、終わらない。かれこれ十分は経っただろうと、ロゼールもシャンガマックも体感で思う。


「ねぇ!シャンガマック!」


 痺れを切らしたロゼールが叫ぶ。二人の落下速度は変わらず、5mほどの間隔で上下状態。上から叫ばれて見上げる褐色の騎士。


「ここ、『入り口』なのか?」


「はあ?」


 ロゼールの大声の質問に、大声で『はぁ?』と返した顔は、ロゼールには呆れた。自分もコルステインたちと不可解な遺跡に入った経験があるが、初っ端から難儀する場合、既にそこは入り口の意識だった。


 シャンガマックは入口だと思っていなさそうで、謎解き慣れしてるんじゃないのかよと呆れたロゼールは、それを言ってやる。


「はぁ、じゃないよ!()()だとしたら、何かしないとダメだろ!」


「入り口は」


 ロゼールの文句に言い返しかけて、見上げている顔が固まる。それもそうかと(※変なところで鈍い)ハッとしたシャンガマックに、ロゼールは『この状態は試されているか、疑われているかだ』と畳みかけた。


 急いで考えるシャンガマックは、周囲を改めて見回す。最初と何ら変わらない、海中の筒。深度が進んでいても暗くもなく、温度や気圧に変化もない。謎はどこに在るのかと言えばこの状況だが、手探りできそうな違和感は・・・と思っていると、ロゼールがまた叫んだ。


()()()()()なんだ?!相手はこの道を、誰のために開けたんだ!」


「あ、そうか!『アリータック島の遣い』だ!話を、相談を聞いてくれ!」



 仕掛けでもなく、謎でもなく―― どうして来たか、その理由。大声を張り上げた褐色の騎士に戻った返事は。



「うわっ」 「おおおおおっと」


 突如、真下に地面が現れ、慌てて着地。続いて焦ったロゼールがくるっと一回転して、無事着地した。


「地面だ。やっとか」


 はーっ、と苦笑いするロゼールが、屈めた背を起こす。横で失笑するシャンガマックも、ぐっと背を伸ばして『お前がいて良かった』と頷いた。


 二人の足元には、地面。海底だと思うが、地上と変わらぬ青草が生える。黄色や白や、淡い赤の可愛い花がちょこちょこと咲き、涼しく温かく。

 海をぽっかりくり抜いたかのような半円に広がる空間は、固めた砂の白さが美しい壁に囲われて、向かい合う前には、つるっとした丸い建物。小さな扉が一つある。扉の左右には、数本の木が立ち、その葉は黄金色に揺れていた。



「黄色い葉っぱか。ここだけ()()()


 春のような地面に立つ、黄色の葉を付けた木に、ロゼールは微笑む。この一言で・・・シャンガマックは気づく。言った本人ロゼールも、ハッとする。


 目を見合わせ、『秋』と同時に口にした瞬間、小さな扉が開いた。



 *****



 治癒場を開く鍵。それは、孤島の僧院を巻く川を遡り、木々の葉が黄色い島にある(※2623話参照)―――



「ここだ」


 ロゼールは扉の隙間を見つめて呟く。小さい扉が動いた後は誰もいない。入って来いと言われているような隙間に、ロゼールは友達を見る。シャンガマックも紺色の瞳を見て頷いた。


「もしやとは思ったんだ。アリータック島の遣いと、鍵の話までは繋げていなかったが」


 少し前の急展開は、ファナリの種族ではと、そこに集中した意識。

 朝、タンクラッドが話したメ―ウィックの治癒場行き条件も、ファナリの種族が過ったけれど、それと今回は直結していなかった。


「でもどうやら、直結そうじゃない?」


 子供のような笑みを浮かべるロゼールのそばかすの頬を見て、シャンガマックもちょっと笑い『そうだな』と肩を竦める。


「よし。入ろう」


「俺も良いのかな。俺はサブパメントゥの」


「ダメなら言われるから」


 断られるのは傷つくよと返すロゼールに、父の気にかけ方と違うなと可笑しく思いながら、シャンガマックは小さい扉の前に立ち、奥を覗く。真っ暗。暗さに強いロゼールは瞼を半分下げて『彫刻があるね』と、見えるものはそれだけで人はいないと教えた。


「半開きだ。入って良いはず」


 心配そうなロゼールの背をポンと叩いて、シャンガマックが先に入る。

 ロゼールも窺いながらゆっくり足を入れ、何事も起こらないので、シャンガマックと一緒に奥へ歩いた数歩先、また足を止めた。


 誰の気配もしなかったのに、不意に小さい影が暗がりに動いた。


 立ち止まったロゼールに合わせ、シャンガマックもその場で止まり『アリータックの遣いで来た、俺はバニザット・ヤンガ・シャンガマック』と名乗る。

 ロゼールもすぐ『俺はロゼール・リビジェスカヤです』と続けたら、急に通路に明るさが差し込んだ。


 まるで、海面下のような明るい光に満ちた通路。目を瞠る二人の前にいた者は『こちらへ来て下さい』と話しかけた。

 その姿を見て、シャンガマックは嬉しい。ファナリそっくりで背が低くて、白目のない、猫のような面持ち。ロゼールは初めて見る種族に、妖精ではないと理解したがこれは言葉に出さずにおく。


 促されて着いて行き、通路を曲がった横の部屋に二人は入った。壁や天井を作る白い砂は煌めき、床の虹色の板は、貝殻の内側と気づく。砂を彫刻したのではなく、型に詰めた砂が模様作る、なめらかで見事な部屋。


 派手とは違う微細な美しさは空間の全てを覆い、あまりにも見事な技に二人の騎士は言葉も忘れて見入った。


「座って下さい」


 来客の反応に気を良くした相手は着席を勧め、あ、と我に返った来客は、示された白い長椅子に腰かける。これも布ではない、別の何かで作られていて、フカフカ、ひんやりした座り心地。

 向かい合う壁に縦長の窓があり、その外を泳ぐ魚に部屋は遮断されていると分かる。だとしても、部屋の中も水中と思うと、何だか不思議でたまらない。


「ファナリの家とよく似て・・・風土は異なるがここも美しい」


 感想を呟いた笑顔の騎士に、相手は頷いて『ファナリ』とその名を繰り返し、低い机を挟んだ向かいの椅子に腰を下ろす。シャンガマックは相手の反応から、知り合いかもと尋ねてみる。


「知っているのか。彼は、アイエラダハッドの山脈奥に住んでいた」


「知っています。ファナリがその服を?」


 その服、とちょっと指差した相手に、シャンガマックは一層笑顔を深めて、服の裾を少し両手で引っ張り広げ、よく見えるようにする。子供が新しい服を自慢するような動きに、ロゼールは『シャンガマックは素朴』としみじみ思い、相手も微笑まし気に見つめる。


「そうなんだ。最初は毛皮だったが、ティヤーは暑いからと、この薄さにしてくれた。とても重宝している。本当に素晴らしい服で、暑さも寒さもない快適な」


 捲し立てて感謝を伝える騎士に、小柄な相手は不思議な笑い声を立て、ハッとしたシャンガマックは恥ずかしそうに言葉を止めた。


 頭に模様の入った四角い帽子をかぶり、白目のない目と猫のような顔つき、人の体を持つ相手。大きな渦巻と、象徴的な絡まり草が織られた、白と黒と薄明るい青緑が彩る服は、どこの国とも違う。その模様と、褐色の騎士の服は『同じ種類』と一目で判る。シャンガマックの服は青ではなく、緑色が入るが。


「他には?」


 恥ずかし気な騎士の黙った顔に、相手はもうちょっと聞いてあげる(※話したそうだから)。咳払いして、シャンガマックはこめかみを掻くと、服に視線を戻した。


「俺は、精霊の魔法を使うのだが。この服からも」


 言いかけて、ロゼールにも聞かせて良いのか口ごもった。察した相手は『大丈夫ですよ』と促し、シャンガマックは『祈祷衣だからか、宿る力で魔法が使えた(※2370話参照)』と浮き立つ心を抑えて伝えたが、表情に嬉しさが溢れているので、相手はまた笑って『そうですね』と腕を伸ばす。


 シャンガマックの袖に触れようと出された腕に、ファナリも服に触れてくれたと思ったシャンガマックも腕を差し出し、彼も何かするのかと思いきや。相手はナデナデしただけだった。


「これはね」


「あ、うむ。何だろう」


 何もないと思った側から、秘密めいた出だしに入り、シャンガマックも身を乗り出す。相手の手は、これまた少し変わっていて、猫の指が長くなったような形。尖った爪でちょんと黒い模様に触れ、『あなたの力と()()()()』と言った。


「呼応」


「そうです。あなたは精霊の魔法を使う。私たちは妖精と精霊の住む領域に間借りしているから、どちらにも反応するし、どちらにも馴染める。魔法の邪魔にはならないで、一緒に声を上げるような感じです」


「一緒に声を上げて・・・そうなのか!なんて心強いんだ。いや、力強いと言うべきだな。俺は、こんな素晴らしい効果があると知らなかったから、初めて使った時はどれほど驚いたか」


 興奮するといろいろ喋るシャンガマックに、相手も笑い、ロゼールも笑う。

 ロゼールからすると、支部で魔法や占いの講釈をした彼の印象で、好きな話になると夢中になって喋るところは、ちっとも変わらない。



 相手が楽しそうに耳を傾けているので、シャンガマックは服の素晴らしさを褒め称え、ロゼールもニコニコして聞くだけだが・・・・


『いつになったら、アリータックの話をするんだろう?』と思っていた。


 治癒場行きの鍵についても、聞かないといけないんだけど・・・ロゼールの紺の瞳は、頬を紅潮させ、一生懸命喜びを伝える、友達の横顔を見つめるのみ(※シャンガマックは止まらない)。



 そうして、十分近く経過して、ロゼールがそろそろ本題を・・・と落ち着かない視線を彷徨わせていると、ずっと黙っている彼に、相手は顔を向けた。


「ロゼール」


「え?はい、俺ですか」


「私は名乗っていなかった。私の名はイザタハ」


 ここまでの時間、シャンガマックにも名乗っていなかった。喋っていたからかと気づいた褐色の騎士は、また申し訳なさそうに『名前も聞かずに失礼した』と俯き、イザタハは笑う。ロゼールも友達の腕をポンと叩き、『熱中するからね』と苦笑した。


「あなたは何かを聞きたいですか」


 イザタハは、今度はロゼールに話を振り、ロゼールは友達をちらっと見て『俺が話そうか』と一応気遣う。シャンガマックは一人喋っていた自覚があるので、『そうだな』で返答。


「あのですね。挨拶時も用件は含んでいたんですが、アリータック島のことをまず、訊きたいと思います」


「ふむ。まず、と言うのは、他にも質問があるんですね?」


「あります。俺は二つの質問をしたいです。あ、いや・・・三つかな。先に聞いた方が良いか」


 何やら気づいて言い直すロゼールに、イザタハは言って下さいと促し、頷いたロゼールは『俺は半分サブパメントゥなんですが問題ありませんか』と率直に尋ねた。イザタハの首は縦に振られる。


「知っています。サブパメントゥの力があっても、あなたはサブパメントゥではないし、私にも、抱えている問題にも、影響しません」


「それなら良かった!じゃ、遠慮なく聞きますね!」


 明るい笑顔になったロゼールに、相手も笑顔で頷き、ロゼールは『アリータック島の言い伝えで、こちらへお使いに出された』と訪問理由を伝えた。


「許してほしいそうです。彼らは普通に暮らしながら、いつも念頭にこの言い伝えがあったと思うんですよ。でもどうやって辿ればいいか、皆目見当もつかなかった感じで。

 俺も分からなかったけど、シャンガマックは謎を解くのが得意だから、どうにかなった具合です。島の人たちは、『来たくても来れなかった』と解釈してもらえませんか?」


「発端は、妖精が怒っても無理ない出来事でした。でも確かにあれから時は流れて、もう誰も当時を知りはしないし、詳しくも分からないでしょう。その怒りの忠告を引き摺るにしても、同じ島に住んでいるからと、他人の罪を被っているのは難しい」


 イザタハの理解ある言葉で、ロゼールとシャンガマックは許してもらえるのかな、と期待する。

 『ではね』と不思議な色の目を二人に向ける、イザタハ。白目はないが、黒くもない。紺ではないし、他の色でもない、吸い込まれるような透き通った暗さを持つ瞳は、時間を越えるように動く。



「私が決めるのではないから、()()()()()()下さい。許してあげるかどうか。妖精が許可したら、島に掛かった忠告は解消するでしょう」



 *****



 愕然とする二人に、イザタハは『()()()()()()、妖精』と普通に言うが。



 イザタハが言うに、『当時と関係ない妖精が許可しても、見張りを引き受けた自分を通した話だから、解消はされる』らしく、要は、見張りの仕事の完了を以て、過去の縛りを解く。


 説明されて理解はするものの。


 フォラヴはいないので、センダラ行き案件―― ロゼールはセンダラをよく知らないが、噂は宜しくない。シャンガマックは会話したことがあるけれど、得意ではない(※他の人誰もが同じ)。


 イザタハには、旅の仲間に妖精がいると分かるため、身近な妖精に言えばいいよくらいの気軽な感じだが、二人には重荷だった。ロゼール、ここは相談に入る。



「ええっとー・・・イザタハ。妖精、いるにはいるんですが、ちょっとその、なんて言うか。気難しいから、俺たちだと話も聞いてくれない気がするんですよ。なので他の人から、この許可について伝えてもらっても大丈夫ですか?」


「妖精は扱いにくいものです。でも、そうですね。他の人は誰でもいいわけではないから、当てがあるなら今、教えてくれますか」


「イーアンです」


 割り込んで即答するシャンガマックの勢いに、さっと二人が彼を見る。イーアンなら!と推す騎士に、イザタハは数秒黙ってから『龍?』と確認。イーアンが誰か伝えていなかったと思い出し、慌ててシャンガマックが謝る。



「謝らないで良いですよ。女龍から伝えてもらうのですか。うーん、まぁ大丈夫ですね。あんまり龍の範囲じゃないから、手伝わせるのもどうかと思うけれど。当時も、()()()()()()()()()()()()()()し」


「当時?当時は分からないが、()()センダラは、イーアンの言葉なら聞くんだ」


 強調してイーアンに押し付ける状態だが、イザタハは『種族の問題』を気にかけても、とりあえず『仲良しなら』と頷いたので、騎士二人はホッとした(※問題回避)。



「それから?もう一つ、何か聞きたいのですよね」


 イザタハは次に移る。胸を撫で下ろしたロゼールは、はいと答えて、シャンガマックと目を合わせ、二つめの質問『治癒場』について尋ねた。

お読み頂き有難うございます。

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