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魔物資源活用機構  作者: Ichen
沈んだ巨大島
2628/2956

2628. 南部の『ごはん』・石碑を辿る道

 

 一通り、お話を聞いたところで、廊下に人の声がし、局長は椅子を立って戸を開ける。


 美味しそうな香りが部屋に流れ、『昼だ』と局長が職員を中に入れた。


 人数分の皿、二枚の大皿と、飲み物を運んだ職員は、『美味しいと良いけれど』と笑顔を向けて退室。料理は一皿に肉や野菜が盛られ、大皿はお菓子に似た丸いものが沢山乗っていた。



「食べてくれ。アリータックだけの料理じゃないが、郷土料理みたいなもんだ」


 局長も扉を閉めて座り直し、ミレイオとイーアンが皆のお茶を注ぎ、それから皆で食べ始める。良い匂い、美味しそうと匙で野菜や肉を取り出す皆だが、すぐに『あれ?』と止まる。


 局長は皆の反応を想像していたようで、『主食だよ』と面白そうに教えた。オーリンが『これって』と、目を凝らす側で、イーアンは息が荒くなる――― 


「本当に?」


 最初の一言は、口を衝いてこぼれた。何が・・・と反応した局長が顔を向け、女龍を見て驚く。皆の視線もイーアンに集まって、凝視。


「どうしたの」


 数席横のミレイオが、席を挟んだ横のイーアンに慌てて訊くと、イーアンは涙を伝わせた頬を拭った。はた、と隣のドルドレンは気付く。『もしや、イーアンの』匙に乗った主食は、彼女の故郷に。



「そうです。まさかこんな形で出会うとは。『お米』です」


 イーアンは濡れた目元をぎゅぎゅっと拭いて、驚いている皆に『懐かしくて』と笑顔を向けた。

 話してほしそうな視線に、イーアンは、はーっと大きく息を吐いて、心で神様に感謝してから感動の経緯を教える。


「私が、この世界に来る前。以前の世界で暮らした母国の主食が、お米と呼ばれるこれでした。形は短く粘りがあり、加熱で白く柔らかくなります。古くから代表的な穀物です」


 こっちの世界で見たことがなく、麦は食べたけれど、米はないのかと諦めていたが、こうして同じ種類の穀物を、思いがけず頂ける機会が来て心底嬉しい、と話す。


「私のいた国では、一日一食は、確実にお米を食べたい人も少なくありませんでした。お米大好きな人だと、毎食お米が当然です。そのくらい浸透している主食なのです」


 イーアン自身は、『お米がなくても平気な人』なので、こちらへ来て全く食べなくなって以降、たまに懐かしむくらいだったが、やっぱり会えると嬉しいもので・・・だからつい、泣いてしまいましたと、へへっと笑う。


 皆さん、ほっこりする。そうだったのか、そうなのね、いっぱい食べておけと笑顔が満ちる。局長は『似てなくないか?』と匙で掬った主食に眉根を寄せた。



「サーン(※ティヤーのお米の呼び名)は長いし、粘ってないのに。イーアンはこれで同じだと思えるのかよ。感動してる所、水差すようだが」


「ハクラマン・タニーラニ。私には充分、感動に値します。こちらではサーンと呼ぶのですね。私の国では『お米』でした。国によって呼び方違いますが。こうした長い粒のお米も、勿論あります・・・ 」


 愛情溢れる眼差しを、お皿の長粒米に向け、イーアンは掬い上げたサーンを口に運ぶ。


 注目の一瞬。笑みを深めた女龍は『()()()()()ですよ』と、もぐもぐ味わいながら、また涙を零した。

 イーアンが食べ物に『ちゃん』づけする時、それは愛があると皆は知っている。たまに食べたいだけだからって、愛がない訳ではない―――


 そんな女龍の喜びよう、ドルドレンも嬉しいので、『食べながらお米の話をしてくれないか』と頼み、二つ返事のイーアンはお米について語った。

 皆さんも、普段は語られない女龍の過去の食生活に興味深く、いろいろ質問しては、知識を増やす。



 この人泣くのか(※龍だけど)と思ったのはクフムで、パラパラした粒の主食を見つめ、さっきから食べているが、そこまで旨いだろうかと内心思っていた。

 でも、遠い異世界から来たイーアンは、海の国・お米の国の出身と聞いた後、彼女が涙して喜んでいる様子は、普通の人間と変わらないし、また距離も近くなった気がした。



 食べ終わる頃には、局長が無言で部屋を出て行き、五分ほどで戻ってきたその片手に持った袋、米をくれた(※公民館の台所にあった)。イーアンは感動し、頭を下げてお礼を言い、両手で拝領。


 お支払いしますので、と律儀な女龍に局長は笑い、なかなか頭を上げない彼女の角を撫でて、顔を覗き込むと、『()()()()()に連れてってやろうか』と提案。

 優しい笑顔の局長に、イーアンは目を丸くして口を開けたまま二秒、すぐに深々お辞儀して、宜しくお願い致しますと丁寧に頼んだ。


「サーンを作ってるところは、麦もやってる。南部の穀物料理に詳しいんだ。そうだな、ピンレーレー周囲じゃないけど、もっと西に行くと麦で・・・この位の、()()()みたいな主食もあるんだ。地元の家庭料理だから、店じゃ食べれないけ」


 どな、を言う前に、イーアンは局長の腕を掴む。食卓で聞いていたタンクラッドを始め、ドルドレンもミレイオもオーリンも、凝視。


「メンだ」


 察して呟いた親方に、ぱっと顔を向けたイーアンは力強く頷き、『コロータ!(※1395話参照)』と名を口にした。今度は、局長が驚いて一同を見渡す。


「どこで()()()知った?」


 彼の返事はイーアンたちに満面の笑みを齎した。なぜ極一部の地域の食事を知っているのか、全く見当がつかないにしても・・・局長も、そんな彼らに可笑しくて、首を傾げながら『魔物退治してるってのに』と笑った。



 オーリンは食後、イーアンに『俺はコアリーヂニーの工房で、サーンを食べた』と教える(※2548話参照)。驚かれたが、オーリンも説明されたわけではなかったので、『本島では売っていたかもね』と情報止まり。


 ルオロフと魔物退治した昼・・・と言いかけ、イーアンが少し悲しそうになった顔に、この話はやめた。


 丁度ここで、廊下から人の声がし、扉を叩かれて『写本の原稿を写します』と声を掛けられる。皆は準備し、広間へ移動した。



 *****



 お昼――― 別行動中の、シャンガマックとロゼールは。



 ロゼールが思ったまんまに物事は動いており、少し違うと言えば、サネーティの地図を取りに一度宿()()戻ったことで、戻ったのはロゼール。


 シャンガマックは『お皿ちゃんで行ってくれ』と頼み、仕方なし付き合うロゼールは出かけ、宿に置いた馬車の中にあった地図を手に戻った。



 俺は使われてるんじゃと、思わなくもないが。シャンガマックはまずいことをしている訳ではないし、人助けになりそうだから、ロゼールも協力する。


 今回は妖精が絡む。精霊の魔法を使わないと決めたシャンガマックなので、ロゼールも使用する便利な力はお皿ちゃんだけにする。


 それでどこまで行けるやら、疑わしくないと言えば嘘になるけれど・・・ とりあえず。最初の展開を経て、現在、二人は、海の道を歩いている最中。



 チャットウィーラニーとネッツラーラヤティーは、先に船で帰ってもらった。


 彼らは、『道』を見つけ出した褐色の騎士に、戻っていてと言われて、期待大!の笑顔で励ますと、妖精の碑の島で分かれた。


「最初は心配そうだったけど、すっきりした笑顔だったね」


「それはそうだ。こうして()()()()を目の前で見せつけられて、期待以外ないものだろう」


 妖精の碑を振り向くロゼールは、とっくに見えなくなった島から、どれくらい歩いたかなと思う。二人は海に敷かれた(もや)の上を進んでおり、早い話が、水の上を歩いている状態。



 ―――てっきり船で次へ行くと思っていたのが、シャンガマックの『何かある』の一言で、この道が現れた。


 透けた石碑とサネーティの地図を合わせ、方角を確認した後、シャンガマックは服の模様を元に、石碑の透けなかった点々を考えた。

 模様の渦巻き方、流れの方向、源流の位置と広がりの行方。

 照らし合わせた石碑の点の繋ぎに、始と終をあてがい、線を通した視点の向きから石碑を見てみた。上から見下ろす姿勢だが、透けなかった点を通過するため角度がある。その角度で見た先に異物を発見した。


 それまであったかどうか。気づかなかったが、石碑の基部の一ヶ所に同色の小さな玉が嵌っており、砂に目地が埋まった玉に触れたところ、埋めていた砂はもわっと白い靄に変わり、あれよあれよという間に這い出して、島を下り、海に一筋の道を敷いた。

 それはまるで、海を両岸に見立てた、一本の小川のように―――



「お父さん、怒らないかな」


「大丈夫だと思う」


 シャンガマックはロゼールに『人助けだし、知っている種族だ』と、大丈夫の根拠を伝える。父も知っている種族で、サネーティの地図とも場所が合うから、まず間違いない。問題ないだろうな、と彼は言った。


「それに。俺の服が教えている」


「服が教えるって?」


 推測だけで自信あり気なのかと思いきや、シャンガマックはポンと胸を叩いて、また笑顔を向ける。理由を言ってよ、とロゼールは思うが、話が逸れそうなので、時間の当てを聞いてみる。



「どれくらい歩くか。地図でシャンガマックは見当つくのか?」


()()()()からな、二時間も歩けば」


「二時間」


 朝はちゃんと食べたし、腹は平気だろ?と、褐色の騎士はケロッとしている。ロゼールのげんなりする顔に、『お前が宿に行っている間、総長には連絡している』と安心させ(※してない)、ニコッと笑った。


「・・・アリータック島の人たちの代行だし、頼む内容をしっかり理解していないと」


「心配するな。言い伝えを聞いた上で行くんだから。俺がそんなバカだと思うのか?」


「思ってないけどさ。何か間違えたら、ごめんで済まないし。大役だと思うけど、こんな呆気なく引き受けて」


()()()()()、俺も気を引き締めて挑む」


 ロゼールは黙る。隣を歩く友達をじっと見つめて、見つめ返されて『?』の表情に、平行線の寂しさを溜息で表す。シャンガマックは咳払いし、無駄に心配するなとロゼールを励ました(※余計気落ちする)。



 歩いている間、真上に輝く太陽と、空を走る千切れ雲の影、ひっきりなしの潮風と、足元を動く波の煌めき、透けて見える魚の姿――()()しかない道で、ロゼールは聞いておきたいことをあれこれ質問した。


 会話が止まると、景色に飽きているのもあって、やる気が漏れて行く。

 乗り気ではなかっただけに、ロゼールは質問を出来るだけ絶やさず、気を紛らわすことと、効率的な状態を維持した。


 シャンガマックが『妖精ではないだろう』と言った意味、不思議な模様の服の話、()()()のサネーティの地図。質問に全て答えてもらった後、なぜ、シャンガマックが飛びついたかが、理解出来た。勿論、謎解き大好きだからもあるのだけど。



「アイエラダハッドで着ていた服と、同じ柄だと思ったんだよ。そんな時から続いていたのか」


「最初は、不思議な服だとしか思わなかったが。決戦後にセンダラに教わって会いに行った種族は、今のこの状態に変えてくれて、服の秘密や詳細は特に言わなかったが、俺がこの服を着ていることで」


「世界各地の同族(彼ら)に会えるのか。で、()()()()()から正しい判断、と」


 ロゼールの理解に、自信満々で頷くシャンガマック。以前、ファナリは教えてくれた。自分たちの近くへ行くと『こうして教えてくれる』と(※2410話参照)。

 服が、ふわーっと温かくなるのが目安。石碑から靄が出た途端、シャンガマックの服はこの温かさを持った。それで、確信している次第。


 シャンガマックは、ロゼールには話して大丈夫かなと思ったので、一部始終、訊かれるままに教えてあげた。


 ファナリのことも本当は別に隠すものではないと思うが、総長やイーアンや、多くの耳が利く状況となると口を閉ざした。『特定の誰かに話した』そう覚えていられる、一対一の状態であれば良いとして。



「あ」


 ロゼールが足を止める。正面から吹いた、青草の匂いを運ぶ風。

 シャンガマックも出しかけた足を戻し、口端を上げる。見上げたロゼールに顔を傾け『迎えだ』と呟いた続き、シュウッと風は強まり、見渡す限りが海の世界に、野原の春を知らせる。


「どこから?」


「ちょっと待ってろ・・・まだ見えないから、この道をもう少しだ」


 そうなの?と正面を見てロゼールが瞬きする。シャンガマックは彼の背に手を当て、『きっと先にある』と歩かせた。その言い方も顔つきも確信に満ち、目は好奇心しか映していない。ロゼールは仕方なさそうにフフッと笑う。


 二人が歩いていた直線は、数分後に途切れ、途切れたところは直下する穴が待っていた。


()()()()()わけだ」


 下が見えないが、海に筒が開いている状態のそれを見下ろし、ロゼールは頭を掻く。そういうことだなと笑ったシャンガマックは『先に行くぞ』を挨拶に、ひょいと飛びこむ。


「ほんとに()()()()()()ずだよ」


 全く、と苦笑してロゼールも後に続く。ポンと飛び降り、落下する青色の透明の中。

 下に見える淡茶の頭が見上げ『お前に言われたくない』と、聞こえていた『怖いもの知らず』に笑う。ロゼールも笑うが・・・ その笑顔も徐々に真顔に変わり、眉根が寄る。



「シャンガマック!いつまでだ?!」


「俺が知る訳もない!」


 延々と降りて行く、海の筒。ちっとも終わらない落下に成す術なしの二人は、戸惑いを胸に、この後もずーっと・・・落ち続け―――

お読み頂き有難うございます。

ご飯の写真を撮りました。場面の雰囲気は作れてないのですが、料理だけでも~



挿絵(By みてみん)

一人一皿。お肉や焼いた野菜が乗っています。



挿絵(By みてみん)

光で見えにくいのですが、炒り玉子を混ぜた、長い粒のご飯です。

パラパラしているから、匙で食べます。

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