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魔物資源活用機構  作者: Ichen
沈んだ巨大島
2624/2957

2624. 旅の四百三日目 ~アリータック島公民館着・弓工房へ契約に

※週末5日(土)の投稿をお休みします。翌6日も休むかもしれません。体調とストックの都合でご迷惑をおかけしますが、どうぞ宜しくお願い致します。

 

 巡視船で行く、朝8時の10分航海。アリータック島は見える位置にあるので、港に到着するまで島を眺めて進む具合。


 波を分けて、帆に風を受ける船はゆっくり穏やかに進む。巡視船一隻では人数が入らず、二隻出してもらった。局長がいない方の船は、局員が船を操るだけで、この前のこともあり、会話もぎこちないかとイーアンやドルドレンは少し気にしたのだが。


 船が港に入った時、隣に着いた船で笑い声がし、見てみると甲板で局員とミレイオたちが仲良くなっていた。年の功は違うなぁとイーアンが思う横で、ドルドレンが『さすがである』と同じような感想を呟いていた。

 何をきっかけに、仲良さげになったかと思えば。



「帰りも宜しくね」 「すまないな。助かる」 


「気を付けて!楽しんで下さい」


 ミレイオとタンクラッドが舷梯を下りて手を振り、局員も船の上で手を振り返す笑顔。オーリンとクフムが続いて降り、待っていたイーアンに『タンクラッドの剣がね』と可笑しそう。


 タンクラッドを見ると、彼はちらっとイーアンの視線を受け止め『剣を持ってきたのが』と困ったように笑って、背負う大剣に首を傾げたので、え、とイーアンは目を丸くする。


「もしや。あなたは『海賊の伝説』に出てくる剣を(※2453話参照)」


()()()誤魔化した」


 バレなかったのですねと笑うイーアンの背に手を当て、『これから本番だ』と頭を掻きながら歩き出す。


「剣は、置いて来ても良かったんだが。剣職人の俺が丸腰って訳にいかんだろう。剣を見たら何か言いそうだとは思ったが、やっぱり目ざとかった。勘みたいなものかな」


「時の剣は、柄と鞘で既に目立ちますから。剣身が金色だと知れたら大変ですよ」


 小声で話している側から、前を歩く局長の視線も受けるので、イーアンは『誤魔化し続けましょう』と励ます。タンクラッドも勿論、そのつもり。船はミレイオが、あれこれ話を逸らしてくれたから、どうにか回避したものの・・・今から行くのは、海賊の伝説を歌う場。心して、と顔を見合わせ、二人で笑った。



 一昨日来たイーアンたちは、弓工房の道に入るところを通り過ぎ、『契約その他諸々』を思う。

 港から右に進むと最初の通りに出て、そこは市場に似た雰囲気。朝は賑わっており、昼になると落ち着く。


 この通りの途中に、弓工房へ行く路地があり、この前はこっちを歩いたが、今日は市場のある通りを過ぎて、次の通りも入らず。

 丁字二つを通り過ぎた具合で、イーアンはドルドレンを見る。ドルドレンも頷いて『ロゼールに』と呟くと、すぐ後ろを歩いていたシャンガマックが前に並ぶ。


「俺がロゼールに付き添いますよ。契約ですよね」


「うむ。彼は今日書類を持っているし、頼んで良いか、シャンガマック。お前たちが戻る頃には、いろいろと進んでしまっているかもしれないが」


「急ぎます。そっちが終わるのは、いつになるか分かりませんし・・・ おい、ロゼール」


 シャンガマックは二つ返事でニコッと笑って、別行動承諾。数m離れた後ろのロゼールに声をかけると、彼も察してパッと手を挙げた。これが聞こえた局長が肩越しに向いたので、部下が契約に行くとドルドレンは伝え、局長も『それか』と頷く。


「シャンガマックが一緒に行くのか。なら大丈夫だな」


「おじいちゃんと顔見知りになったのだ。シャンガマック付きなら、言葉の問題もないだろう」


 局長は軽いので、分かったと即答。ドルドレンは、シャンガマックとロゼールに『終わったら知らせてくれれば迎えに行く』とし、了解した二人は道を引き返す。



「迎えに行くにしても、迷うような道じゃない。ここをまっすぐ行った、突き当たりだ」


 ハクラマン・タニーラニの太い腕が上がり、狭い直線の道の先にある、平屋の建物を示す。平屋でも一風変わった色彩と門構えに、離れていても目立つ建物は『公民館』らしい。


「屋根が、船の」


「そうだ。船型の屋根は、本来ティヤーの伝統だ」


 へえ~・・・ドルドレンとイーアンは感心する。両端が高く、中央に向けて凹む形は、遠目に見たら船のよう。


 冠婚葬祭全てを受け入れる公民館は、それらが気高いものとした感覚で華やかに塗られる。葬儀さえ、『花はあるだろ』と当たり前のように局長が言い、二人は頷いた。行う建物が特別な花そのものと見立てている。


 そんな素敵な公民館もあるんだなあと、イーアンは感動。近づくにつれ、華やかな色の公民館脇に人だかりを確認し、歌い手が先ほど到着したらしいと、局長が教えた。


「ざわざわしてるから、こんだけ離れていても聞こえてくる」


 笑う局長は、イーアンたちに『来たばかりじゃ、まだ始まらないから、中で休んでくれ』と先に言い、この数分後に一行は公民館へ入る。

 玄関は公民館の正面左側にあり、人だかりが出来ていたが、ハクラマン・タニーラニと彼が連れて来た団体について、先に知らされていた人々は道を開ける。


 屋内に入る前から、取り巻きの声が飛び交ったけれど、局長がこれを面倒そうに『あとで』と払ったため、イーアン他ドルドレンたちも特に足止めされずに済んだ。


 公民館玄関から直接、広間。広間は天井の梁が見える造りで上に高く、奥行きはそこそこで幅も広い。壁際に机や椅子が置かれていたが、人数分とは程遠く、ここは床に座る様子。内装も凝っており、貝殻細工が腰板代わりにぐるっと取り巻く大きな部屋は、東西南北の壁に海図が描かれていた。


 広間と、広間横の部屋に通じる廊下に人はちらほらしかおらず、局長について行くイーアンたちは、短い廊下に並ぶ、違う部屋へ案内される。


 歌の写しが始まるまで、この部屋で待つらしい。歌の次は、持ってきた写本原稿、その次がイーアンの・・・イーアンはあんまり乗り気ではないが、『人間だった龍』の話の記録を行う。


 二十名くらい入る部屋は、待合室や準備室として使われることが多そうで、中庭に向けた窓と、長椅子、横長の机、物の置かれていない低い棚があるだけ。

 局長が『飲むもの持ってくるから、待ってろ』と部屋を出て行った後、皆は何をするでもなく長椅子に座った。



「一応、私たちも()()()()のね」


 ミレイオは部屋に通された状況に、そう呟く。写すだけだから、もっと普通に書き写すだけだと思ったが、待合室に引っ込んでいると出番待ちみたいと、ミレイオが少し笑い、イーアンは眉を寄せた(※自分の話する=出番)。


 局長が戻るまで、雑談・・・どんな予定になっているのか、海賊の伝説を全部歌うのはどんな人物か。そんな事を話し合っていると、空いている窓の向こう、中庭に人が動いた。最初に気づいたのは窓が見える位置に座ったドルドレンで、こちらを気にする人影の様子を見ていたのだが。


「あ。こっちへ来る」


 他の者は気にしていなかったので、全員が窓を振り返る。これと同時、中庭から甲高い声で挨拶が掛かった。



「あなたたちが、()()()()?」



 *****



 窓越しに現れた『おばちゃん』に一行が目を丸くし、ドルドレンと目が合ったおばちゃんが『あなたが勇者でしょ!』と見抜き、窓から入れた腕で、ドルドレンに握手を求めている時。


 大弓を作る職人・ハーインアムー(※愛称おじいちゃん)の工房では、シャンガマックがおじいちゃんに挨拶し、集まった息子さんたちに『契約』の状態を再確認。ロゼールは、ついこの前の『目の色』を少し気にし、微笑み浮かべて伏目がちに大人しく。


 おじいちゃんの工房横で同作業をする息子さんや親戚は、橙色の髪の毛の青年が、目を合わせないようにしている事に気づき、その瞳の色をちらと見て気になった。


「あの。ねぇ、お兄ちゃん!」


 シャンガマックがティヤー語の挨拶続き、契約内容を話していた終わり間近で、聞いていた一人が遮る。褐色の騎士の一歩後ろに立つ青年に、『お兄ちゃん』と呼びかけ、ぴくっとしたシャンガマックとロゼール。ロゼールの反応に、『そうそう、お兄ちゃんだよ』とまた言われる。


「こっち見ないからさ。どうしたの」


「何でもないです」


 相手は共通語で尋ね、ロゼールに分かるよう気を遣う。ロゼールは首を横に振るが、相手は『その目の色』と・・・やはり、そこを突く。シャンガマックは顔に出さないけれど、まずいかなと咳払い。


「彼が契約を交わすのだが、俺が通訳するので」


 ちょっとだけ前に出てさり気なく阻んだつもりだが、息子さんの一人は『親父じゃなくて、俺たちが矢を作るから共通語でもいいよ』と―― シャンガマックは悩む。彼は正しい。おじいちゃんじゃなければ、通訳は不要だ。


 息子さん・親戚は、年齢が50~60代。局長と同じくらいなので、年下のシャンガマックたちは、彼らの気遣いを断り難い。

 ロゼールに気づいた息子さんなんて、ヘタしたらロゼールのお父さんくらいの年齢である。彼は筋肉の厚い腕を伸ばし、友達の背に隠れるロゼールの肩を掴んだ(※積極的)。


「隠れてないで、友達と並べよ」


 ぐーっと引っ張り出されるロゼールは、顔を俯かせて『ええと』と戸惑う。これを、脇の椅子に座るおじいちゃんもタバコを吸いながら見守っていたが、息子に一言注意した。息子が肩から手を浮かす。


 何やらおじいちゃんは、嫌がる客にそれはよせと言ったらしく、息子は『嫌がってないよ』と両手の平をちょっと上に向けた。が、おじいちゃんは続けて注意。それを聞いて、シャンガマックが驚いた。


「何?」


「あ、シャンガマックは分かるんだよな。俺もそう思ったから、お兄ちゃんに」


 おじいちゃんの二言目の注意。シャンガマックの聞き返し。息子の悪気ない気づき。他の家族も『言われてみれば』『こっちの()()そうだよな』と、異口同音。


 キョトンとするも顔を上げないロゼールの肩を次に触れたのは、シャンガマックだった。



「なんて言ってるの?」


「俺とお前の目が、()()()()()だと」


「え。え?なんで」


「お前も俺も、ほら」


 シャンガマックは黒目が漆黒の色。ロゼールは深い紺色。どちらも、普通より瞳孔が大きい(※シャンガマックは天然)。


「それ?でも妖精って・・・(フォラヴみたいなんじゃ)」


 ロゼール、小声で本物の妖精(=フォラヴ)の名を出すが、シャンガマックは彼らの言う妖精が誰か、理解している。小さく首を横に振ると『妖精とは違うはずだ』と急いで答え、二人を見ている息子さんたちに向き直った。


「契約書だけ、先に済ませて良いだろうか?もし聞かせてくれるなら、その話の方に時間を取ってもらえたら」


 驚くロゼール。何言ってんだシャンガマック?と言いかけて、彼の手に口を塞がれる。


 息子さんたちは、聞きたいと言った騎士に興味を持ったらしく、互いに顔を見合わせて『()()()()そうだ』と面白そうで、それは妖精を恐れている人たちの反応に見えない。


 おじいちゃんは煙草をすぱすぱ吸い、窺うように見た紺色の目に、しわくちゃの笑顔を向けた。

お読み頂き有難うございます。

5日の土曜日をお休みします。体調が崩れストックが追い付かず、もし土曜日で間に合わなかったら日曜日も休むと思います。その際は、最新話前書きで追記します。

いつもいらして下さる皆さんに、心から感謝しています。本当に有難うございます。

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