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魔物資源活用機構  作者: Ichen
剣職人
262/2944

262. ダビと剣工房

 

 シャンガマックが、いろんな星の予想を話してくれて過ぎた午後。


 ツィーレインの叔母さんからもらったお菓子と一緒にお茶を出して、3人は今後のことを話していた。実際にヨライデへ出かける時が来たら、その時北西の支部から数名の騎士がいなくなるとか、魔物がそれまでに減っていればとか。


 結局は、未来の話だからという結論で午後のお茶会はお開きとなる。


 夕方だったので、シャンガマックは戻り、イーアンは風呂へ行って、ドルドレンが風呂の間は寝室で待った。ドルドレンが戻ってから二人で夕食を広間に行って食べ、早めに戻って眠ることにした。


 執務室が稼動するまで、後4日。大きな報告や緊急が入ってこないから、急務は無いだろうとドルドレンは言う。一応、いつそうした事態があってもすぐ動けるよう、気をつけているものの、被害が出ていないことを祈るだけしか出来ないとも話した。



 ベッドに入って、ドルドレンがいちゃいちゃし始める時。イーアンが心配そうに呟いた。


「もし。私が出かけている間に、急にドルドレンが出ないと行けない場合は、後から行きますから、絶対に居場所を残していって」


 不安げなイーアンを抱き締めてキスをして、ドルドレンはキスをしたまま了解した。『もちろんだ。必ず』ドルドレンは、自分を見つめるイーアンの目元も頬も全てに口付けしながら、ゆっくり愛し合う。


 長剣の存在は、長い旅路への支度が一つ整った合図にも思えた。そしてシャンガマックの告げた星の人物も、既に出会った。音を立てずに、確実にその時は近づいている。

 二人はそれを、口に出さなくても感じていた。お互いの不安を埋めるように、ドルドレンもイーアンも、絡み合って抱き合って、お互いを求めた夜だった。



 安心するまで求め、満たされた夜が眠りに誘った後。夢から覚めて、朝日が部屋に差し始める。


「今日。午前中だけ出かけます。すぐ戻ります」



 着替えながらイーアンは、ドルドレンに声をかけた。ドルドレンもぬくぬくしながら、うんとか、ああとか、返事をした。自分が行けないのはとてもイヤだった。


 着替えたイーアンは。相変わらず綺麗だけど、素直に喜べないドルドレン。龍に乗るから厚着、と話しているが、それでも体の線は出るし、いろいろ心配な旦那さんである。

『暑くないなら上着を、極力、脱がないように』とよくよく注意しておく。二人は一緒に朝食を摂りに広間へ行き、食べながら今日の予定を話し合って、お昼は一緒に食べようと決めた。



 赤い毛皮に青い布と、毛皮の足筒、ベルトに下げた白いナイフと腰袋。いつもの常備を身に付けて。イーアンとドルドレンが裏庭へ出ると、ダビが時間通りにやって来た。


 ダビは肩掛けの焦げ茶の革袋を持っていて、外套は自前の、質の良さそうな芥子色の仕立てのものを羽織っていた。荷物の確認を一応するが、今日は相手と約束もないし、ぶらっと行って帰ってくる内容。


 イーアンは龍を呼んで、自分が先に乗ってからダビを後ろに跨らせた。


「ではドルドレン。行って参ります。お昼には帰りますからね」


「総長。今日は演習ないんですってね。良かったです。のんびり行ってきます」



 何がのんびりだ、とドルドレンは苦虫を噛み潰す顔をしてダビを見るが。今日はイーアン企画で、ダビがボジェナと見合い(※工作)だと理解しているので、渋々送り出す。


 龍はさっさと浮かび上がって、あれよあれよという間に空の向こうへ消えて行った。



 ダビは空の旅は初めてで、それなりに緊張したり龍に驚いているようだったが、そこはダビらしく、すぐに通常運転に戻った。


 あーだこーだと龍の速さを馬や馬車と比較しながら、距離などの計算をしては、一々龍の速さに驚いている楽しそうなダビ。乗ってから到着するまで興奮気味のそんなダビに、多分これはボジェナと喋る・・・淡い期待をするイーアンだった。



「町の外に降ろしますから。そこから歩きましょう」


 イーアンの指示に沿って、龍は町の外側の壁沿いに降りる。今日は荷物はないので、龍をそのまま帰して、二人は町の中へ入って行った。


「最初の遠征。イーアンの。覚えてるんですよ」


 歩きながらダビが言うので、イーアンは意外に思って聞き返した。『私あの時、隊長の人とばかり話していて、ダビ知りませんよ』どこにいたの、と訊かれたダビは『一応、見える範囲』と答えた。


 大型遠征は、1班とか2班とか3班とかにも分別するから、普段の隊とは少し人員配置が異なるそうだ。


「この町にも来たでしょ?クローハル隊長と、イーアンと総長が先に行った、って聞いて。その時、思ったんですよね。あの女の人、多分、金属買う気だなって」


 そんなこと思われてたのか、と驚くイーアンに、ダビはちょっと笑って『意外でもないでしょ』と何てことなさそうに往なした。



 ダビ打ち明け話を聞きながら、まずは親父さんの工房に到着。イーアンは3日連続のご挨拶をし、親父さんにひっそり昨日の話しを少しだけすると、親父さんはイーアンに笑いかけて『イーアンは世話焼きだな』と背中をドンと叩いた。


「とりあえず、タンクラッドの工房の外観を見たいというので、あっちにも連れて行きますが、予約してませんし、あちらも今日は用があるでしょうから、すぐこちらに戻ると思います。

 良かったら。ちょっとで良いので、あの長剣の話を聞かせてもらう時間はありますか」


 ダビに聞こえるように普通の声で言うと、親父さんも分かりやすい態度で『ああ良いよ。今日はのんびり仕事始めだから、時間はある』と頷いてくれた。



 ボジェナはまだ来ていないようだったので、ダビと一緒にすんなり親父さんの工房を後にして、タンクラッドの工房へ向かった。


 週の前半は用事があるようだったから、もし居ても邪魔をしないように静かに見よう、と話し合って、タンクラッドの工房前の通りに出た。


「あそこ?あれですよね」


 ダビが目ざとく気がつく。指差された場所が大当たりで、『よくこんな離れてて分かりますね』とイーアンは誉めた。勘です、勘、と笑みを浮かべるダビに、よほど楽しみなことがじわじわ伝わる。


 工房の壁に来た時、門のない白い壁沿いに、そっと二人は中を見た。


「ノゾキだよね」 「ノゾキじゃないですよ」


 ひそひそ笑いながら、門のない壁の入り口から庭の様子を伺う二人。ダビが、ふとイーアンを見て『イーアン目立つから』あっち行ってて、と言われた。

 言われて見れば赤とか青とか、確かに目立つ。仕方なし、あっち行けと言われたからには壁の向こうにたたずむイーアン。ダビは堂々と中を覗いていた。


「そろそろ行きますか」


 いいもの見た、とばかりに満足したダビがイーアンに声をかける。良し良し、手を擦り合わせてほくそ笑むイーアン(※越後屋状態)。次が大事なのよ、と、親父さんの工房へ歩き出すダビに、ほいほいついて行く。



「待て。イーアンだろ」


 後ろから声がかかる。タンクラッド?振り向くとその人が庭から出てきた。『なぜ挨拶もしないで帰るんだ』心外そうに近づく精悍な職人に、ダビが少なからず驚いて表情で見つめていた。


「イーアン。おはよう」 「おはようございます」


「どうした。挨拶もしないで」 「今日はちょっと。ダビが工房を外からでも見たいと言うので」


 ダビと呼ばれて、イーアンの横にいる男に目を向ける職人。ダビは急いで挨拶し、自己紹介した。タンクラッドも自己紹介を短くして握手し、なぜ外から見るだけだ、と訊ねた。


「今日は予定がありますでしょう。約束もしていませんでしたから」


「昨日。イーアンが戻ってきて、剣を見せてもらいました。どうしてもすぐに来てみたくて、それで」


 ダビらしからぬ情熱を言葉にして、イーアンはちょびっと驚くが、顔には出さないで頷いた。タンクラッドは自宅を振り返ってから、少し考えてもう一度二人を見る。


「少し寄って行け。10分くらい良いだろう」


 ダビ大喜び。顔が輝く。生き生きして、これまでの無表情の時間を取り戻すような勢いで蘇った(※何が蘇ったのかは不明)。

 お礼を言う二人を招いたタンクラッドは、家の中に入れてやり、椅子に掛けるように促す。


「イーアン。茶を淹れるのを手伝ってくれ」


 3日連続お茶係のイーアンはいそいそと台所へ行った。ダビは部屋と、左側にある工房を見ながら嬉しそうだった。


 運ばれてきたお茶を飲みながら、タンクラッドはダビの作った剣の細工を誉めてくれた。金属を面白い形で使う、と誉められ、ダビは少し恥ずかしそうだった。その後、少し工房の中を見せてもらって、ダビの喜びようは絶頂。

 いろいろ質問しては、感心し、自分もこうした環境があればと何度も羨望を口にしていた。


「これから時々、お世話になると思います。今日は朝から突然、失礼しました。また週末にでも宜しかったらお邪魔させて下さい」


 10分が足早に過ぎる頃。ダビは自分から話を締め、お礼を言った。イーアンもお礼を言い、タンクラッドにまたの日を約束した。



「ちょっとイーアン。いいか」


 何かな、と思ってタンクラッドの側へ行くと、タンクラッドが少し屈んで小声になった。『これからサージの姪に彼を?』イーアンは微笑みで答える。分かったと職人も微笑み、イーアンの背中を押した。


「後で迎えに行く」


 イーアンにそう言うと、職人はダビとイーアンを送り出した。迎えに行く、というのを聞いていたダビは、イーアンを見て『何かあるんですか』と訊ねた。イーアンも思い当たらないので、さあ、としか答えられなかった。



 親父さんの工房に着くと。親父さんは見える場所で待っていてくれて、面白いことでも始まるように楽しげな顔で二人を中へ通した。


「連日ですみませんけれど。どうぞ剣の話を聞かせて下さい」


 改めて頼むイーアンに、親父さんは大振りに頷き(バレバレ)応接間に案内して二人を座らせた。ボジェナにお茶を頼む親父さん。ダビが肩掛けの革袋から自分が書いた資料を出して、机に用意した。



 お茶を運ぶボジェナが来て。ボジェナは応接間に入って立ち止まった。イーアンと、ダビと。目を丸くしてから、ぎこちなく机に盆を置いて、お茶をそれぞれに渡す。


「あの。おはようございます」


「あ、おはようございます。お邪魔します」


 ダビが普通すぎて、イーアンはハラハラする。ボジェナは眉を寄せて顔を赤くし、イーアンの側に寄ってきて袖を引っ張る。


「ちょっと待ってて」


 ダビに一声かけてから、イーアンはボジェナと廊下へ出ると、ボジェナが小さい声で怒鳴る(?)。


『どうして急なの!』心の準備が、とかあれこれ言うので、イーアンは丁寧に謝ってから『ダビが自分で来たいと言った』と伝えると、ボジェナが止まった。


『彼が自分で?ここへ』信用していない目のボジェナに、昨日戻ってから剣を見せたら食いついたと話すと、何となく理解したようで『つまり剣のことを知りたくて?』と言うので、イーアンは頷いた。


「イーアン。ちょっと来て下さい」


 ダビに呼ばれて、イーアンとボジェナは戻る。ダビが背もたれからこっちを見ていて『今日、何時までですっけ』と訊くので、お昼と答えると、ダビは嬉しそうに笑顔になった。

 親父さんがニヤッと向こうで笑ったので、イーアンも頷いて、ボジェナを椅子に座らせる。扉がノックされたので、親父さんが戸を開けに行った。



「迎えに来た。イーアン来い」


 向こうからお声が掛かるイーアンは、急いで入り口へ向かう。親父さんとタンクラッドがいて、親父さんはイーアンに『後は任せろ』と笑った。


 タンクラッドに背中を押されながら、特に挨拶も出来ず、イーアンは連れて行かれた。ダビとボジェナが良い時間をすごせるように、と祈りつつ。



「悪いな。イーアンはちょっと、タンクラッドの所へ行っちまった。でも彼女は昨日も来て話したから、とりあえずダビだけでも良いか」


「私だけで。私がお願いしたので、彼女は連れてきてくれたんです。これ、自分の資料です。知りたいことが一杯あるんですが、どこから訊こうかなって」


「うん。すごいな、よく一人でこんなに考えて。あれだ。ちょっとダビ、工房巡って来い。俺がこの資料読んでる間、時間がかかるから」


 読むのが遅いからなと親父さんは笑う。ダビはちょっと急いで止める。『大丈夫ですよ、待つのは何ともないので』だから質問して下さい・・・と断りを入れた。


 親父さんは負けないで返す。『良いから良いから。どうせ後で工房とか中庭とか見せるつもりだった』尤もらしい言い方でダビを立たせ、『ボジェナ。工房の中見せてやってくれ』と振る。



 出番・ボジェナ。


 固まりながらも、3段階くらいの動きでどうにか頷く。総長への威勢は消え、すずらんのように可憐な女性状態で、ダビの案内役を請け負った。


「すみません。仕事あるんですよね?」


「大丈夫です。大丈夫なの。気にしないで大丈夫よ」


 妙な言い回しだとダビは思いつつ、何か余計なことを聞かれて困るのかな、とか、仕事内容は極秘なのかな、とか少し考えた。


 ボジェナがダビの少し前を歩いて、工房の中へ入れた。ダビの工房散策が始まる。


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