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魔物資源活用機構  作者: Ichen
沈んだ巨大島
2615/2959

2615. 阻まれるタンクラッド・アリータック島の大型弓工房・南部の妖精話

 

 イーアンたちが、アリータック島の弓工房を訪問し、局長付きでお話を進めている時間。

 オーリンたちは、名のない地区の山裾で、手仕事訓練所に入り、ロゼールが警戒されている頃。


 宿待機にしたタンクラッドだが、とっくに出かけて、宿には居なかった。



「トゥ。こっちも無理そうだ」


 覗き込んだ岩の隙間から、顔を上げる剣職人。海岸の濡れた岩に置いた手を腰で拭いて、水面すぐ上に浮かぶ巨体の銀色を振り向く。


「この奥と言うがな。道らしいものなんかないぞ」


「あるんだ、タンクラッド」


「場所を変えても変えても、お前の言う『道』に似ている名残もありやしない」


 ダルナの伸ばした首に跨り、タンクラッドは吸い込んだ息をふーッと吐くと、周辺を見渡す。『見ている訳じゃないんだろ?』とトゥの揚げ足を取るが、トゥも『見えたから教えたんだ』と言い返す。


「俺が言ったのは」


 タンクラッドが髪をかき上げて呆れるのを、もう一本の首がぐーっと寄って遮る。


「誰かの記憶が、俺に見せた。この中に道はある」


「四方八方から調べても、()()。崩れた可能性だってあるぞ」


 ダルナが嘘を言うなんてことはないが、トゥが教えた『今だからこそ許される知恵(※2602話参照)』の場所まで来て、なーんにも掠らないタンクラッドは、いい加減疲れる。トゥが何者かの記憶を手繰った情報は、現在、もう地形変化で()()()()()とか、そんな状況ではないのかと思うが。


「もう少し探せ」


「お前は俺を、主だと思ってるのか?本当に」


 命令するダルナに、ぼやくタンクラッド。無人島の一つで、誰に姿を見られるわけでもないから、まぁ付き合うというか。トゥの言う事だから、きっと役に立つことだと分かるけれど。手応え無しはやる気が削がれる一方。


 魔物は二度ほど襲い掛かってきたが、タンクラッドが渦を起こし、トゥが燃やして終わった。

 全く材料にならない超小物が相手。小さすぎる魔物の群れで、『こんなの初めて見たな』と眉を寄せたタンクラッドは、切るに切れない小物の群れを、時の剣の渦に巻いて、トゥが横から炎で焼いた具合。


 魔物退治しつつ、新しい探索中のタンクラッドはやれやれと、急かすダルナに合わせて、また位置を変える。



 銀色のダルナが主と共に、岩場を離れて見えなくなった後。

 岩場の黒さが薄れ、靄がかかり、靄越しに縦に渡る亀裂が現れた・・・とは、トゥも気づかなかった。



 *****



 連れ回される親方が、屈みすぎて背中が痛いと文句を言う、昼過ぎ―――


 彼らのいる無人島から、反対に位置するアリータック島では、イーアンとドルドレンとシャンガマックが、優しいおじいちゃん職人と相談も終えて、優しいおばあちゃんに持ち帰り用お昼を受け取り、それを食べながら(※持ち帰りなのに)、おじいちゃんの工房を見せてもらっていた。


 局長も一緒だが、局長は工房の中に入らず、外で待つ。海に近い弓工房から、神殿が見える。おばあちゃんの話だと、『もう一週間は誰も見ていない』そうだが、局長は一応、見張り番。



 結果から言うと、矢だけの制作は引き受けてもらえた。

 ただ、おじいちゃん一人だと数が間に合わないので、おじいちゃんは仲間にも仕事を振り分けたいと言い、ドルドレンは『負担がないようにして頂ければ』と受け入れた。


 イーアンの作りたい道具についても、『それは危なくないなら、女が出来る仕事』おじいちゃんは手先の器用な女たちに、この話を回していいか尋ね、イーアンは喜んでお願いした。


「ウィハニの女が頼みに来たんだ。皆も、精を出して頑張るよ」


「私が教えますから、そちらの都合の良い日を、いくつか選んでおいて頂けますか。私の予定と合う日、こちらに来ます」


「皆、いつでもいいって言うはずだ」


 ハハハ、と前歯のない口をあけて笑う、しわくちゃの小さいおじいちゃん。これは全部、シャンガマック通訳付き。おじいちゃんとおばあちゃんは、共通語を話せないので、シャンガマック必須。


 同時通訳に優れた褐色の騎士と一緒に、イーアンとドルドレンも笑う。このおじいちゃんは、ハクラマン・タニーラニのお父さん時代の海賊らしく、局長曰く、『しぶとくて生き残った』人だった(※褒めてるつもり)。


 おじいちゃんの工房は、大きな取り付けの弓を作る台が置かれ、何十本もある刃物でおじいちゃんは丁寧に削り出して、安定した熟練の業で仕上げる。船取り付け用の弓は、買い替えることが殆どないので、高額でもある。


 普通の弓も作るには作るけれど、おじいちゃんの業は船用の大型弓で時間を使うので、息子や仲間がその他の仕事を分けている。


 おじいちゃんの名は、ハーインアムー。『波を切り分ける、飛んだ矢の飛沫を意味する』と教えてもらって、シャンガマックが『いい名前』と褒めた。おじいちゃんは褐色の騎士の腕をポンと叩いて、何かを答え、シャンガマックはちょっと瞬きしてからお礼を言っていた。


 何故かおじいちゃんに気に入られたシャンガマックだが、その理由はこの時言わず、おばあちゃんに貰ったお昼を完食して(※持ち帰り用・・・)皆は工房をおいとまする。


 また来ますと挨拶し、ハクラマン・タニーラニが、予定日を明日にでも聞きに来る約束をした。



 弓工房を出て、巡視船待ちの時間。

 アリータックの港で、ドルドレンは部下に『おじいちゃんはお前に何か言っていたような』と気になったことを尋ねた。シャンガマックは総長に頷く。


「俺の服のことです。服の模様は、妖精の碑みたいだから、お前は妖精かなと」


「妖精。精霊ではなくて」


「はい。あのですね、話してなかったかな。この服、正確には、精霊ではないんです。どちらかと言うと、()()()()()存在の」


 言いかけたシャンガマックの口が、ピタっと閉じる。どうしようかと目が泳いでいるので、ドルドレンは『無理に教えなくても良い』と遠慮した。

 おじいちゃんが物知りなのだなと、簡単にまとめる総長に、シャンガマックも『はい』と頷いて、話題はあっさり終わった。


 横のイーアンは、ホーミットと共有もある『シャンガマック秘密』は、言えない方が多そうに思う。

 それより、おじいちゃんが『妖精』と口にして、シャンガマックを気に入った感じに驚いた。妖精はあんまり話題にも出ないので、これは意外。


 もう一つ思ったのは・・・やっぱり。精霊や妖精より、龍は海賊に慕われていること。


 慕い方がとても慣れ切っているのは気になるにせよ、注意すると態度をすぐ改めるところなど、龍相手には素直に感じる。


 精霊島の話は、専ら神殿の人間たちへの忠告で、海賊ではないと最初こそ思ったけれど。

 海賊は龍信仰が浸透している分、龍に対してはあまり問題ないが、それ以外の種族には、やはり少し、考えを深めた方が良いかなと、イーアンは引っ掛かった。


 おじいちゃんとおばあちゃんは、とても良い人たちだった。でも精霊の話が出た時、さらっと流していたのは、彼らに遠い印象だからなのか、分からなかった。

 軽んじている訳ではないと言った、ハクラマン・タニーラニの言葉を薄っすら理解する。そういうつもりじゃないんだろう。でも、精霊にはそう見えて―――



「船が来たな。どうだ、3時間もかかってないだろ」


 考えていたイーアンの頭上から、だみ声が降ってくる。見上げると、局長は『これから出かけない方が良い』と付け足したので、何かと思ったら。


「雨が降る。土砂降りになるだろう。止むとすれば、早くて夜だ」


「局長は、天気が正確に分かるんですね」


 シャンガマックが感心して尋ねると、局長は『生まれた時から、この海にいるんだぞ』と呆れたように答え、視線を合わせたシャンガマックを少し見つめた。なぜ見つめられているのかと、褐色の騎士が瞬きする。局長は目を逸らす。


「子犬みたいな目だな」


 一言食らって、苦笑いするシャンガマック。吹き出しそうになったイーアンとドルドレンが、サッと俯く。どこでも目のことは言われるんですよと、困って笑う褐色の騎士に、局長は真顔で『お前みたいな目の・・・ちょっと違うが』と続けた。



「南部の海のどこかに、お前みたいな真っ黒い目の、不思議な種族がいるんだ。彼らの島は常に、秋のように涼しく、春のように穏やかってな」


「え」


 伝説とは違うよと、局長は港に近づいてくる船を見たまま呟く。シャンガマックは急いで『海賊の伝説ではない?』と確認する。巡視船がすぐに横付けし、局長は局員とあいさつを交わし、聞いていない。


「あの、伝説ではないんですか?」


 短い舷梯を出している局員の横で、その話を追うシャンガマックに、局長は何となく言い淀んでいる。教えてくれそうだったのに何か良くないのか、話してもらえず焦る騎士が覗き込むと、局長は太い白い眉をぐっと寄せ、騎士をじっと見た。


「海は。妖精を恐れる。さっきの話の彼らは、何者か誰も知らないが、妖精じゃないかと皆は思っている。地元の言い伝えみたいなもんだ。海で話をするのも、あんまりな・・・船に乗って話せない」


「あ。そういう・・・分かりました」


 シャンガマックが察して、すぐに引き下がると、局長は『お前の目が見ると、()()()()()()()()()気になる』と苦い顔で舷梯を進んだ。

 シャンガマックにそんなつもりはないけれど、何も言えず。イーアンもドルドレンも、局長の気持ちがよく分かった。

 


・・・それと。イーアンは『あれ?』と感じる。おじいちゃんは妖精のことを口にした時、シャンガマックに好意的だったのに。局長は『恐れて、話さえ避ける』と言った。


 おじいちゃんは、海賊だったけれど、妖精への怖れはないのだろうか?



 アリータック島での、本日の収穫――― イーアンは、魔物対抗道具作りの予定が立ち次第、またアリータック島へ訪問する。矢の制作については、ロゼールに契約書取り交わしを頼む。


 シャンガマックは個人的に・・・自分の衣服にまつわる、ファナリの種族ではないか(※2410話参照)と予感した話を聴けた。『真っ黒目』かどうかは別として、()()()()()ファナリの力は、温度を人に住み良く調整する。サネーティに貰った地図を使う日が、いきなり飛び込んできた、そんな高揚感を味わう。



 巡視船は波を分けて、ピンレーレー島へ。この間、局長はドルドレンと『雨が降るから予定が一日延びるかも知れない』として、明日明後日の集合時間を話していたが、シャンガマックに少しだけ教えた不思議な種族には、一切触れなかった。


 アリータック島から離れる十分前後で、風は冷たく変わり、空はどんどん雲の厚みを増していた。



 その頃、ピンレーレー島の山の裾野では―――

お読み頂き有難うございます。


昨日の後書きと同じことですが、知らない方のために書いておこうと思います。


土日のお休み前、休み中は書く時間がないと思い、木曜日までにストック8話分の用意をしました。

ストックで用意した内容は『雨』です。偶然、先週末に起きた現実の大雨被害と重なってしまった状態です。


今週投稿する内容は、2611話でハクラマン・タニーラニが『雨が降る』予告から、大雨の話へ進みます。


現実の大雨被害の前に書いていたとはいえ、気になる人もいらっしゃると思います。

気持ちに障るなどありましたら、どうぞ無理せず読み飛ばして下さい。来週くらいには、流れも変わる予定です。

自分の意識が持つ時間で、詰め込むように書いたため、書き直すのは難しく、このまま投稿しますことをご了承下さい。


いつもいらして下さって有難うございます。


Ichen.

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