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魔物資源活用機構  作者: Ichen
沈んだ巨大島
2614/2959

2614. 宣教師ニソーニーキン・手仕事訓練所・悪夢の噂

☆前回までの流れ

二手に分かれて動いた朝。イーアンたちは警備隊施設へ製品を届け、そこで弓矢を作る工房を教えてもらい、海運局長と共に、隣の島アリータックへ向かいました。一方、オーリンたちは両替所で会った職人に、教会へ案内してもらいます。買い物したり、船で川を進んだり、ゆったりした時間を過ごしたのですが。

今回は、到着した教会から始まります。


※後書きに、今週の投稿内容について書きました。雨のことで、書いておかないとと思い、もしお時間がありましたら読んで頂けると有難いです。いつもいらして下さることに感謝しています。

 

 山の裾野。森を横にした、民家の見えない土地に立つ教会―――



 ロゼールが扉を閉めると、前から『鍵は気にしないで』と声だけ聞こえた。

 玄関から、一つ小部屋を挟んだ続きの居間は、外から見るより広かったが、屋根は低い。質素だが、清潔で落ち着いた部屋は豊かに感じる。

 編んだ椅子と木製の素朴な机が置かれ、備え付けの棚に、燭台と本、筆記用具、灯り用の油瓶が乗る。


 灰色と茶色が混ざり、年月を感じさせる、角に丸みを帯びた木材。窓枠に掛かる、虫よけの網が風に翻る様子は、初めて来たのに、ロゼールには支部を思い出させた。光の感じが似ているのかな、と思いながら、勧められた椅子に腰かける。椅子は木質の骨組みに、頑丈な蔓がきちっと編み込まれていた。



「ロゼール。手紙」


 腰掛けた騎士にオーリンが用事を促し、はい、と腰袋を開けてロゼールは紹介状を出す。それをじっと見つめる白髪の男の目は優しく、微笑んでいるように見えた。


 骨ばった手を伸ばし、ロゼールから手紙を受け取った男は、開封して読む。短い手紙で、読み終わるまで、ものの数秒。


「ニダの字だな」


「そうだね」


 隣の席から手紙をちらと見たセーイチョウが、フフッと笑い、白髪の男も目を細める。手紙を持つ手で、紙面の一部を親指でなぞり、『ちょっとこの文字は読みにくいな』と指摘して笑った。


「チャンゼは甘いからな。癖字を直すように、言わないのかも」


「でも、良く書けている。前はもっと読みにくかった」


 手紙にニダを思い、二人の男が可笑しそうなやり取りをする。仲が良いんだなと、オーリンもちょっと微笑むと、白髪の男は訛りの強い共通語で、『友達なんだって?』と尋ねた。キョトンとしたが、オーリンはすぐ笑みを深めて頷いた。


「龍に乗るんだろう?ニダが自慢した」


「手紙で?」


「いや。職人たちから聞いて。この手紙には、協力願いしか書いていない。ニダの自慢の友達、あー・・・あんたもかな。目が()()()()()()アイエラダハッド人」


「私も?」


「朝焼けのような髪。白い肌が雪のよう、若葉のような眼は()()()()と」


「・・・・・ 」


 すごい紹介に絶句するルオロフ。どこから突っ込んでいいか、眉根を寄せる。その横でオーリンが苦笑して『俺より全然持ち上げられていそうだ』と揶揄った。ロゼールも笑って椅子の背に体を預け、『ルオロフが()?』と、そこだけ面白そうに繰り返す。


 狼はティヤーにいないでしょう、と俯いた若い男に、『雪も狼も、別に知らない訳じゃない』と白髪の男は可笑しそう。オーリンも『見たことがなくても、印象はあるだろ』とルオロフに笑ってから、自分たちに指をくるっと回して次の話へ移る。



「名前までは伝わっていないだろうから、自己紹介だ。俺はオーリン・マスガムハイン。弓職人で、ニダの友達だ。こっちはハイザンジェル魔物資源活用機構の騎士で、ロゼールだ。彼が書類のやり取りをする。で・・・その、白い雪の狼が」


「私はアイエラダハッドから来た、ルオロフ・・・です」


 苗字は伏せたルオロフ。ケホッと軽い咳ばらいをし、『褒められているようで感謝します』と硬く挨拶を続け、ロゼールとオーリンが笑った。


 ここで、白髪の男も自己紹介。その前に、ちらっとロゼールを見て。目の合ったロゼールは、最近は気にしなくなったが、はたと気づいた。


「俺は宣教師をやってる、ニソーニーキン」


 ぜい肉もないが、筋肉質でもない。長い白髪を後ろで束ね、骨太で、瘦せていてもがっちりした骨格は、無駄を削り落とした隠者のような印象。白髪の男は静かに自己紹介して、焦げ茶の目を壁の向こうに向けた。



「手仕事訓練所に用があるんだろう?一緒に行こうか。ええと、その前にな。あんた、ロゼールと言ったか。()()()()()の色。ちょっと先に言っておくが、気を悪くするなよ」


「目?」


 ドキッとしたロゼールは、紺色の瞳をサッと上げてから、反射的に顔を背けた。ニソーニーキンは、不審そうなオーリンたちを目端に、必要な事を教えておく。


「珍しい目の色だ。訓練所で寝泊まりする連中がな、最近、夢見が悪いって話がある。夢は似ていて、人間じゃない何かが現れては、『ついてくるな』と言うらしい。どこについてくるなと言っているのか、分からないが、その目は」


「俺の目に似ているんですか?」


「真夜中色なんだとよ」


 さっきまで笑っていたロゼールは、目を伏せたまま黙る。オーリンは首を傾げ、ルオロフはじっと白髪の男を見つめ、『要は』とロゼールの代わりに聞き直す。


「訓練所にこれから行ったら、ロゼールが変に扱われると言っているんですか?」


「変に扱われるわけじゃないが、警戒されるだろうな。迷信深いんだ、俺たちは」


 ニソーニーキンはそう言うと椅子から立ち上がり、肩を竦めた知人の背中をポンと叩いて、『お前が先に言っておいてくれ』と別の部屋へ行った。



「セーイチョウさんは、俺の目のこと、何にも」


 白髪の男が居間からいなくなったので、ロゼールが声を潜める。セーイチョウは『私は夢を見ていない』と先に理由を告げてから、ロゼールの大きな紺色の瞳を覗き込んだ。困惑する若い男に微笑み、『大丈夫』と彼も席を立つ。


「ロゼールは良い若者だ。話せばすぐ分かる事だ。おかしな夢の何者かと、一緒になんかしない。だけど、一足先に伝えておくよ。『目の色が多様な外国人が来るけど、丁重に』と」


 冗談めかした気の好いセーイチョウに、ロゼールも微笑んで頷く。彼が扉を出て行くと、入れ替わりで別の部屋からニソーニーキンが戻り、ロゼールに一枚の布を渡した。



「気になるなら、それで頭を覆うと良い。目深に被れば見えない」


 ロゼールは深い緑色の布を受け取って少し見つめ、『いいえ』とそれを返した。


「俺の目の色は、俺の大事な家族から継いだ色。隠さなくて良いです」


 大事な家族がサブパメントゥなんて、普通の人間は思わない。戻した布は、かつてのロゼールの瞳、森のような緑色だった。



 *****



 瞳の色を気遣ったとはいえ、急に悪夢と並べられたら気を悪くされて当然。


 ニソーニーキンは、『悪かったな』と短く謝り、布を引き取ると、椅子に座らずそのまま戸口へ歩き、三人の客にも来るようにと無言で振り向く。オーリンたちも彼に続き、外へ出る。


 目のことで、ロゼールは機嫌を損ねてはいないが、彼の表情は読み取り難かったので、ルオロフもオーリンも下手に声は掛けずに、下る道を黙々と進む。


 先ほどまで午前の光が差した風景は、ちょっとの間で雲に遮られて輝きを失くし、野原に吹く風の方向が変わっていた。


 訓練所は本当に目と鼻の先。教会の反対側に回ったら、見下ろす丘の下に建物があった。道はそこへ続き、歩いても一分ほど。馬車の車輪に邪魔にならないよう、道だけが草刈りされて、踏みしめた道は、乾いている状態だと硬く感じた。


 歩きやすい道を辿って、二階建ての簡素な建物に着く。道は先へ続いており、建物は道の横に添う。

 こちらは全体が木造で、屋根はよく見かける形。二階があるが、柱だけで壁がない。暑い空気を遮る屋根の下は、熱気を込めない造りになっており、木造の壁の隙間は通気のある塗材で埋められていた。


 黄色と明るい茶色の大きな建物に、緑に塗られた扉。扉は両開きで開かれ、しっかりした戸口の柱付近で、セーイチョウが他の職人と喋っていた。



 宣教師と来客を見つけた彼らは、軽く手を挙げて挨拶し、客はニソーニーキンから紹介する。セーイチョウの話し方が良かったのか、彼と話していた二人の職人と、すぐ奥にいた十代くらいの年齢の子供たちは、ロゼールの目と視線が合っても気にしていない。


「ニダから、紹介状付きだ」


 ニソーニーキンは片手に持っていた手紙をちらっと見せて、来客を中へ通す。

 ティヤー語でガヤガヤしている訓練所は、カーンソウリー・ピインダンの訓練所と似た雰囲気で、広々した作業場に幾つもの作業台とそれの倍ほどの椅子が置かれている。壁に棚、道具工具や材料が籠に入り、作った製品を入れる、色の違う籠も机の側に置かれる。


 ここで話すのは、オーリンとロゼール・・・ オーリンは、ロゼールの弓を広めたい話の解説、ロゼールは契約まで取り付けられたら、書類を交わす。共通語は使えるティヤー人だけれど、細かい表現の通訳と筆記はルオロフが受け持つ。


 訪問理由は、セーイチョウに『魔物製品の制作依頼』として伝えてもらっているので、ここでは矢の制作を中心に相談したい。材料は魔物じゃなくてもいいが、鏃や矢柄に適した魔物材料が出てくれば、それを使ってもらう。



「こんにちは。俺はこの訓練所のまとめ役で、シコートサマールだ」


「こんにちは、シコートサマール。俺はオーリン・・・変なこと聞くが、もしかしてその名前は職業?」


「ん?あ、そうだな。通り名だ」


 オーリンと同じくらいの背でがたいの良い男は、何のことかと言った感じだが、すぐにセーイチョウが『さっき名前の話をした』と笑って教え、オーリンが羨ましがっていると付け加えると、シコートサマールも少し笑い、黄色い瞳の男に『あんたは何の職業だ』と聞く。


「俺は弓職人だ。矢も作れるけれど、弓本体が多い」


「そうか。オーリン、弓は『ウンニューツ』と言う。俺たちの言葉で」


「ウンニューツ・・・弓職人で、そう呼ばれている人はいるか?」


「いるかもな。だが、ティヤーで仕事しているなら、呼び名は『シームボーンツ』だろうな」


 そうなんだ、と分からないけれど違いに微笑むオーリン。その意味は?と尋ねるルオロフ。海賊の言葉は訳せない。シコートサマールは赤毛の若い男に『船の弓』と教える。


「普通の弓が、ウンニューツ。船の弓だと、シームボーンツ」


「そうなる。船でも使うから、船とつけてやった方が」


 へぇ~と新鮮な教えに、ロゼールは笑顔になる。昨晩は、ざっくばらんで荒っぽい一面を酒場で見たが、職人と話すと、ティヤー人は印象が変わるなぁと思う。ティヤー人の職人は、海賊だとしても誇り高い感じ(※海運局と比べて)。


 この時、笑顔を浮かべたロゼールに、シコートサマール他がちらっと視線を向けたが、すぐにオーリンに向き直り、『制作相談と聞いたが』と本題を振ってきた。


 今のは何だったんだろうか・・・ロゼールは職人たちと側にいる十代の子たちの視線の一致に、目の色かなと眉根を寄せたが、話には上がらない。


 今は時間があるから話をして、と言うシコートサマールに、オーリンとルオロフは早速、用件を伝え始め、ロゼールもその傍らにいた。のだけど―――



 十代の子たちは、ここで仕事を習っていて、オーリンより一歩離れたロゼールに近寄ると、『自分たちの仕事を見るか』と誘った。


 あ、とそちらに意識を向け、ぜひ頼みますと答えたロゼールに、5人ほどの子供たちが案内する。今日の午前は若い人ばかりで、午後は年の高い人たちが来るという。


 広い部屋の手前は、職人と作業員がちらほらで、奥の作業台には数十名ほど集まっていた。


「今日は職人が8人来ている。私たち、子供は40人いるよ」


 一人の男の子が、ロゼールにそう教えて見上げる。少し背の低い彼は『私は16になったばかり』と自分を紹介し、ケイトシーニと名乗る。


 子供たちは、10代前半が多いようで、皆、小柄でほっそりしている。ティヤー人は、大人もそれほど背が高くない。局長やコアリーヂニー、シコートサマールみたいな背の高さはあまり見かけない。向こうにいる人も大きいかなと、奥をちらと見たロゼールだが、そんなことで、子供たちはさらに小さめに感じる。



「俺はロゼールだ。ケイトシーニ」


「ロゼール、仕事をくれるんだっけ?」


「あ。大人にもう、聞いているのか。そうだよ、良かったら仕事を頼みたいんだ」


「どんな事するの?魔物をどうにかするんでしょ」


 反対側にいた痩せた男の子が聞き、ロゼールは簡単に話してあげる。ロゼールを取り巻くように一緒に歩く子供たちは、興味津々で目を輝かせ、『倒した魔物の材料で武器や防具を作り出す』そのことに、とても魅了されている。



「こっちで話してくれ!」


 共通語で奥の方から大声で呼ばれ、ロゼールが顔を上げると、作業台を囲む子供たちの側にいる、年輩の男性が手を振る。さっき、大きい人だと思ったおじさんで、ロゼールたちは彼の方へ行く。


「派遣の人。俺はムーソンティ―」


「仕事中、お邪魔します。俺はロゼールです。話をしても大丈夫ですか?」


「問題ない」


 太った大柄な男性は、頭に布を巻き、ゆったりした紺と白の長衣を着ているが、半袖から出ている腕はとても筋肉質で、ただ太っているのではないと分かる。


「あなたは何の職人ですか?」


「俺は鋸を作る。ロゼールは何の職人?」


「いや、俺は職人じゃなくて・・・戦うだけで」


「細いけど、動きは速そうだよな」


 ちょっとした雑談。少し和んで、ムーソンティ―はロゼールの側にいる子供たちにも、作業に戻るよう言い、またね、後でね、と笑顔をくれた子供たちに、ロゼールも笑顔で頷く。


 ムーソンティ―がロゼールの腕をちょっと触って、『棚に道具が』と紹介するため、少し作業台を離れた。子供たちからほんの数歩離れた、備え付けの壁の棚。天井までの棚は多くの道具と材料を載せ、予定表や走り書きの紙も積んである。


 大柄な男は、細身のロゼールを棚に向かせて、物を取りながら『ロゼール。変わった目の色だな』と言った。



「セーイチョウは客に気遣えと言うが、俺は直感で聞きたい性質でな」


「・・・はい」


「お前に聞いたら、何か分かりそうな気がするんだ。思うことを聞かせてほしい」


「たった今、挨拶した俺の意見を信じる気ですか」


「海賊なんて、そんなもんだよ。真夜中の目の男よ」


 静かな低い声は、空気に少し掠れる。子供たちの会話や物音に、届くほどの大きさはない。十歩もない距離に大勢いるのに、ムーソンティ―は素知らぬ顔で、強張る外国人に続けた。


「ここで教える期間。職人はここで寝起きするんだよ。数日前からかな。宿泊した職人の半分が悪夢を見た」


「悪夢?」


「そうだな、『悪い』じゃなくて『怖い』って意味だ。揃いも揃って、同じ内容の夢でさ。人間の身体に、動物の手足がついた、黒い影が現れる。きっつい顔している女だ。だが美人なんだよ」


「美人。キツイ顔でも」


「暗闇から、ぬっと出てくると、暗闇が大きな翼に変わる。闇を翼にした美人がな、真正面から覗き込んで『ついてくるな』と脅す。その目が、ロゼールの目の色と同じだ」


「・・・どこについてくるな、と言って」


「分からない、うん。()()()()()な」


 ポンポン進んで、ピタと止まる。ロゼールの顔を見た職人と目が合う前に、ロゼールは視線を棚の材料に逸らす。何気なく手を伸ばして、触れる前に手を浮かせ、『触っても?』と尋ねると、『もちろん』と答えが戻る。


 ロゼールには、『分からない』と彼が最後に結んだのは、実は()()がある気がした。俺が答えたら、続きがありそうだな。そう思ったロゼールの指は、材料の樹脂をつまみ上げ『これは木の液ですか』と質問する。


「よく知ってるな。固めたものだよ」


「各国の職人の工房に、お邪魔しました。中に、これと似ているものがあった。イーアンの工房にもあったな」


「ウィハニの?」


「はい。彼女は工房を持っていて、魔物製品を最初に作ったから」


 ふぅん、と眉を上げたムーソンティ―に、ロゼールはつまんだ樹脂を戻して、職人に顔を向ける。鷲鼻の、丸っこい両頬。太い眉毛に黒っぽい目。顔に古い傷がある。悪い人じゃない、と思った。


「夢についての俺の意見は、ハイザンジェルでも似た話があった、それくらいです」


()()()か?魔物か何かの」


「最初は魔物だと思われていました。。それとテイワグナでも似た内容を聞きました。美人かどうかは別ですが、翼があって人の姿で、夜の闇を動く。精霊とも違う。でも魔物ではないんです」


「昔話か何かか」


「ムーソンティーさん。ティヤーにもあるんじゃないですか?その存在が目印の、()()()()()()所が」


 ロゼールの大き過ぎる紺色の瞳は、真夜中の森の色。イーアンはそう褒めた。俺の目は、サブパメントゥの目。この職人が話した存在は―――



「ロゼール。お前がウィハニの女の仲間じゃなかったら、俺はお前を捕まえてるぞ」


 ムーソンティーの含みある響きは、脅しのように聞こえた。ロゼールの人間とは違う瞳を見つめ、『お前は、俺に訊いているんだな?』と一層低い声で、確かめた。


「人間か?」


「半分は」


「嘘じゃなさそうだ」


「正しい表現です」


 ムーソンティーが次の一言を口にしかけた後ろで、『ムーソンティ―!こんなになっちゃった!』と子供が大声を出し、職人はすぐ振り返る。子供の一人が失敗したらしく、慌てている。


「ああ、全くもう!動かすなよ、ちょっと待ってろ・・・どうするとこんなになるんだよ。こっちが先、って覚えろよ。良いか、塗る前に瓶を確認する。箆で掬うと、どっちも透明だから、見分けがつかないだろ?こうなっちまうと、もう力づくで引っぺがすよりないな」


 大柄な男が子供の作業を引き取って、心配そうに真横から覗き込む子供が『忘れるんだよ』と言い訳する。

 接着剤の順番を間違えて、職人が慎重に部材を引きはがす様子。それはロゼールに、優しいだけのおじさんに見える。一秒前に俺に凄んだ海賊は、普段はこんな感じなんだなと眺めた。



「あ、そうだ、ロゼール。これが終わったら茶を淹れてやるから、()()()で先に待っててくれ」


 手元から目を離さない職人は、『あっち』と二重顎を奥の廊下へしゃくり、ロゼールに()()()()を促した。

お読み頂き有難うございます。


これから数日間、同じことをここに書くかも知れません。

土日のお休みに入る前、私は休み中は書く時間がないと思い、木曜日までにストック8話分くらい用意しました。それで金曜日は、2話連続投稿もできました。


ただストックで用意した内容が、『雨』でした。偶然、現実の大雨被害と重なってしまった状態です。


今週の投稿する物語の内容は、ハクラマン・タニーラニが『雨が降る』と言った予告から、大雨の話が進みます。

現実の大雨被害の前に書いていたとはいえ、気になる人もいらっしゃると思います。

気持ちに障るなどありましたら、どうぞ無理せず読み飛ばして下さい。来週くらいには、流れも変わる予定です。


お正月の時もそうでした。白い筒の対処で地割れを起こした回は、現実の地震災害に偶然重なってしまい、あの時もどうしようかと悩んだのですが、書き直せるほど頭が持たなかったので投稿しました。

今回も、自分の意識が持つ時間で詰め込むように書いたため、書き直すのは難しいです。


長くなりましたが、こうしたいきさつがありまして、大雨の話が出てきますが、どうぞお気持ちに障る方がいらっしゃったら、読まずに飛ばして頂けますように。


いつもいらして下さって有難うございます。


Ichen. 

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