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魔物資源活用機構  作者: Ichen
沈んだ巨大島
2604/2959

2604. 6日間の報告②~ロデュフォルデン、祈願方法、知恵の歯車、古代剣、異時空、幻の大陸秘話

 

 亡霊と会った―――



 情報が多いので外せないけれど、どう話そうかと言い澱む。起きたことを全部話す気はないが、ある程度細かく話せば、確実に皆も怒るだろうし、霊から得た情報を疑うなどもあるかも知れない。


 イーアンが気にしたのはそこで、霊の情報は恐らく本当だから、それは皆に覚えておいてほしい。毛嫌いすると、難しいところ・・・・・



 亡霊、と聞いた皆は、それなりに驚いた。イーアンたちの表情が曇ったので、気分の悪い接触だったかと気づく。ドルドレンの同情的な視線と目の合った女龍は、少し微笑んだ。



「察して下さっていると思います。良い出会いではありません。でも、かつて実在した時代の声を聴けたという、大きな収穫はありました。情報は、調べていた数日間よりも、さらに多く、さらに詳細が。

 そのために、愚かしい侮辱を聞き続けることにはなりましたが―― 」


「愚かしい、侮辱」


 繰り返したのはシャンガマックで、タンクラッドは目つきに苛立ちが籠り、ロゼールはイーアンが耐える人だと知っているので、嫌な事を我慢した彼女を可哀相に思った。クフムは、その霊が無事では済まなかっただろうとだけは思った。


 じっと見つめる灰色の瞳に、イーアンは『情報のためには我慢もしますが、私が手を下す前に、アウマンネルが終わらせてくれた』と先に伝え、ドルドレンや皆を安心させる。小さく頷いたドルドレンの手が、イーアンの頭を撫でて『よく耐えた』と労った。



「聞くに堪えないものね。いつ怒るのかしら、と思ったけれど・・・ 」


 ミレイオがぼやき、続けてオーリンが『人間と龍の差がない、勘違い』と呟いた。


 人間より大きな存在を、軽んじて見くびった亡霊。それは、精霊に恩恵を受け取れなくなった、反発。

 オーリンもミレイオも、無論、イーアンも、その蔑みを一言でも繰り返そうと思えない。


 精霊アウマンネルが片づけた事実は、『精霊が再び罰した』と捉えるべきで、そう理解した誰も、無礼な内容を尋ねなかった。イーアンは皆が理解してくれた様子を見て、収穫と呼んだ情報を話す。



「まずは・・・パッカルハン神殿地下にあった、始祖の龍の物語を刻んだ壁(※2598話参照)。

 12色の精霊創世と違う話で、始祖の龍と初代勇者が中心に描かれています。これは、当時の()()()()()()で記されたようでした。

『初代・魔物退治の物語』は、オリエラン・ケトルティク王の統治した国に、外から持ち込まれた話だったのです。私が龍だから、龍境船の記憶を辿るように話していました。龍境船自体も、やはりロデュフォルデンが出てきます。名称は違いますが」



 ―――龍境船が行き来する際に現れる、海の渦と水柱、空の輝き。炎が海から噴き出して、水柱が立ち上がり、空が光る時。龍境船がこちらの世界と向こうの世界を往復する。

 船が運んでくるのは、天候の変化。憂いのない豊漁―――


 

 これはロデュフォルデンのことじゃないかと、イーアンが区切ってから話を続けようとすると、タンクラッドが遮る。



「それは、どこからでも?場所は」


 驚くタンクラッドがすぐに食いついた。イーアンは続きを後に回して、親方の質問に応じた。


「場所までは特定できないです。私も、場所が関係ありそうでないような、そんな印象です」


「古代の大きな島は、アイエラダハッドにまで掛かるのか?」


「分かりません。でも創世の物語に『雪』の表現があったようなので、雪を知っているとは思います。アイエラダハッドとは言い切れませんが」


「その情報だと、龍境船が往復する際に、不思議な場所がどこにでも()()()()ように聞こえる。火山があって、海流が激しい、水柱も見られるとなると、地形的に限定されるが」


「古代の地形も考慮しないとなりません。かなり昔の話ですから、当時は在ったかもしれませんし」


 矢継ぎ早のタンクラッドの質問に、イーアンも想像していたことを答え、一区切り。他は?とシャンガマックが、二人をちょっと見て話を促し、イーアンは別の情報も教える。



 亡霊の元は、普通の人々。彼らは、最後の王の時代に生きていた者たちで、日常的な事から、儀式的な事、現象を『侮辱』に混ぜていた。


 イーアンが『当時の龍ではない、新たに来た者』と分かった霊は、相手を無力で無知だと決めつけ、本物の龍ならこうだった、ああするだろうと、最初はそこから文句を言いだした。


 龍ならば、あれも出来る。これも出来る。偉大な現象と、だがその偉大さに物足りなさやケチをつけ、綯い交ぜにしたのが、『ロデュフォルデン』らしき話。

 ロデュフォルデンの名こそ出ないが、まず間違いないと判断したイーアンは、『龍に願いを祈り、叶えられるまで』の一部始終を、文句と侮辱付きで聞き終えた。



【願いのかけ方・応対】


 龍に限らず、妖精にも、精霊にも、人々は『願ったが結果がいつも間に合っていない』と言い、それは呼び出す際に面倒が多かったから、とも分かった。

 願いを聞き入れてもらうために、供物を用意するだけではなく、最初に精霊を通していた。


 ()()()()()()()()()は、人の建築物を建ててはならず、また、周囲の自然に、手を入れる事も許されなかった。


 そのため、精霊の絵がある場所まで出かけ、供物も運ぶ。絵の場所で、儀式。


 最初に呼び出すのは、もちろん、精霊。

 精霊に願いを伝えて、次は聞き届ける相手(※龍や妖精、もしくは各精霊)が現れる。何をするべきか・何をしないか等の方法を教えられたり、奇跡的な解決の場合は日にちを伝え、用意することを指示される。


 例えば、海の嵐や漁獲量減少の解決を願うと、『これこれこうしなさい』と人間が出来る対処を言われることもあれば、『何日後に雨が降る。船を全て小屋に入れ、網を繕っておきなさい』と奇跡が起きる準備を命じられる時もあったのだ。

 ちなみに、この例え。海と空に関する事は、龍境船の往復が、その奇跡を起こしたらしい。


 脱線するが、イーアンはここを聞いて『龍ではないのでは』と改めて思った。



 話を戻す――

 こうしたことで。直に『願いの対象』が現れるのではなく、幾つもの順序を踏んで願いを聞いてもらうものだった。


 そして、造られた色別の神殿は、実は祀った対象が来ない場所でもあった。あくまでも、人間の思惑でしかない産物止まり。



【知恵の歯車】


 人間の思惑と言えば、パッカルハン遺跡の広場にあった『知恵の残り』だが、沈んだ島の西側で発展した文明のようで、東は霊信仰が強いために、人の文明を意識的に育てなかった・・・声もあった。


 歯車やレールで動かした『陸の舟』―――車のようなものは、怠惰の延長にはなった印象だが、危険ではなかったもので、精霊はそれでなのか、咎めるまで行かなかった様子。



【古代剣】


 他、古代剣であける異時空は、亡霊の言葉だと『大して役に立たない』と捉えられていた。これは欲が増した結果、欲に適うものが用意されるわけではない・・・から。


 古代剣を使用して『恩恵』を受け取る風習は、徐々に()()()()()()()により廃れていったのも、『役に立たない』理由にあった。



【色別の神殿】


 精霊に取り入るために建造された神殿は、その相手が決して来ることはなかったが、人間が居座った。司祭のような職の人間が、ここを使い、人の祈りや相談、憩いの場所として、精霊に関係なく宗教的な行いが続いていた。



【パッカルハン神殿地下室の『始祖の龍と勇者の彫刻』】


 後から持ち込まれたものだが、これは沈んだ国の民のものではなく、『龍境船』を見た外部の人間が、刻んで遺したものだった。亡霊は、外部のその者たちを『移動民』と呼んだ。



「移動・・・民」


 ぽつりとドルドレンが繰り返す。イーアンは頷いて『先ほど言おうとした』と、タンクラッドを見た(※遮った人)。


「馬車の民、と思って良いのだろうか」


「私も今は、そうとしか思えません。確かにあの刻まれた絵は、パッカルハンや同系列の美術と異なります。そして、ロゼールが所持するお皿ちゃんと似た絵ですから」


 ロゼールは、ハッとして部屋の方を見る。『取ってきます?』と急いで尋ねた部下に、ドルドレンは『そこまでしなくても』と止めた。



【幻の大陸】


「それと、幻の大陸についてです。動く大陸・・・私を『力不足の龍』と思った亡霊は、『動く陸から来たわけでは、ないのではないか』と言いました」


「動く、陸。まさにですね、俺は行ったことありますが」


 思いっきり話の腰を折ったのはロゼールだが、皆の視線がパッと集まった。ロゼールは目を泳がせる。


「あれ。言ってなかったっけ?え、でもテイワグナ決戦で、俺はコルステインたちの手伝いをして(※1680話参照)」


 色々ありすぎて、話したような話してないような。皆も聞いたような聞いていないような。でも、ああ確かにと、ロゼールがコルステインを手伝う流れを連絡されたドルドレンは、大きく頷く。タンクラッドも『そうだったな:』と思い出した(※1700話参照)。


「そうであった。お前は、彼らと沖を守っていたから」


「はい。でも俺は直で降りてなくて。『決して地面に足をつけるな(※1679話参照)』と注意されました。大陸に入った人間はこれまでもいて、偶に戻れても、戻った先で()()()()()()話・・・あ、これは言って良いんだったかな?」



 ・・・なんだか危なっかしい情報(※コルステインが絡んでいる)をポロポロ話すロゼール。


 興味深そうなタンクラッドたちの視線をちらっと見たドルドレンは、『貴重だが、聞いてはいけないかもしれないから』とロゼールを止めた。


 コルステイン・レベルでもないと、あの大陸に関わることは出来ない・・・イーアンもそれを思う。

 謎が多過ぎて、そして、吉と出るか凶と出るかのきっかけだらけの、あの大陸。


 シャンガマックも、口にはしないが思うことあり。テイワグナを離れる前に、ヨーマイテスに教えられたこと(※1713話参照)が過る。

 彼が教示しなかったら、自分はあの島の恐怖に、足を突っ込もうとしただろう。危険だと言い切ったヨーマイテスもまた、あの島に触れていないようだった。



「で?亡霊から何を知った?」


 若干の沈黙が流れた場に、タンクラッドが先を頼む。イーアンは咳払いし、すみませんと謝るロゼールに微笑んでから続けた。


「古代剣で開く異時空が、そこに在ることです。そして、どこか遠くから呼ばれる存在が、その大陸を通過することも。

 さっき私は、遺跡を調べていたら分かったことで『龍、妖精、精霊それぞれの異時空があり』、『古代剣もまた別に異時空を持つ』と話していますが、亡霊が話していたのは、『古代剣』と『外から呼ばれる存在』が、その大陸に関係するようです」


「龍と、妖精と、精霊。は?遺跡探索で、各時空があると」


 ちょっと尋ねたシャンガマックに、ミレイオが『それは多分、種族別の世界のことだと思うわよ』と簡単に答えた。



「想像だけどさ。妖精は、フォラヴみたいに妖精の国に戻る方法があるじゃない?木や森の水が変化するとか、見てわかるじゃないの。

 精霊もそうでしょ?土地に踏み込んだら違う風景、ああいうのだと思うの。龍や龍境船だって、空に戻って行くから、空までは見てなくても『違う世界がある』と認識してるのよ。

 だけど、古代剣はまた雰囲気が、ガラッと違ったんじゃないの?私は入ってないけど、イーアンは『そうかも』って言うし、あんたもそうじゃない?」


『言われてみれば、ですね』と頷く褐色の騎士。イーアンもタンクラッドもシャンガマックも、確実に二回は見ており、共通の世界観を感じている。


 イーアンはパッカルハン以外で、総本山の宝物殿。総本山に同行しなかった親方は、パッカルハンと精霊島で二度。シャンガマックは、風景だけを見たのがパッカルハンと総本山で、入ったのは精霊島、計三度。


「幻の大陸が、もっと身近な時代だったのよね。多分だけど」


 ミレイオが重い溜息と共にそう言い、イーアンもうーんと唸る。


「亡霊が知っていたこと。幻の大陸を通過して、別の存在がこの世界にやってくる。このことを歌にした馬車歌も、詳しすぎる情報に驚きましたが・・・いろいろと試されていた時代だったのかもですね」


「試されていたんじゃなくて、()()()()()()()()()と思われていた時代だったかもな」


 タンクラッドが呟いて、その言葉にしんみりする。タンクラッドは『色別の意味も、後でまた』と言い、壁の時計を見上げた。



「異時空について、変化に目を逸らすなと導かれている気はする。今、俺たちが知るべき時機だったんだろう。

 さて。そろそろ、迎えが来る時間だ。キツイ体験もあったが、これまでにないほどの成果を凝縮した報告をありがとう」


 フフッと笑って親方が軽く拍手し、ドルドレンたちも拍手して〆る。キツイ体験・・・亡霊との対峙は本当に辛く思ったが、沈んだ島の末路まで分かったし、イーアンたちは成果を褒めてもらい、礼を言った。




 *****



 夕方の外を窓から覗き、一人が席を立つと、続いて他の者も腰を上げる。


 これを持って行こう、と精霊島物語の原本をドルドレンは棚から出した。祝宴の煩さでは、声も聞こえないかもなとタンクラッドが、総長の肩に腕を回す。


「だが、聞かせるなら最初に伝えたい相手だ。彼らは重んじるだろう」


 精霊島の話も、イーアンたちが調べてきた話も、海賊側の人々ではなく、宗教の人々について忠告しているようにしか思えなかった。皆もそう思う。



 遠慮しそうなクフムを見つけ、オーリンは『お前もだ』と彼を引っ張り、ぞろぞろと甲板へ。


 夕焼けの金橙に染まる海が煌めく時間。甲板から波止場に落ちた影を、目ざとく見つけた男が『早くしろ』と銅鑼のような大声で、手を振った。

お読み頂き有難うございます。

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