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魔物資源活用機構  作者: Ichen
沈んだ巨大島
2603/2959

2603. オーリンの『手仕事への想い』・ピニサマーニヤの港・6日間の報告①

☆前回までの流れ 

本島から次の島までの間、イーアンたちは古代に沈んだ大きな島の、歴史と悲しい末路を知りました。残り続けた亡霊も消され、イーアンたちは船に戻って報告。ドルドレンたちも数日間で精霊島物語をまとめました。この午後、ようやく入港。でも、着いた先では。

今回は、港から始まります。

 

 ピンレーレー島、中心区『ピニサマーニヤ』。



 黒い船はピニサマーニヤ入港にあたり、船底を守るトゥの判断で『浮く船』状態の派手な演出を伴い、着いた側から大人気(※大騒ぎとも言う)。


 船の錨を下ろす前に、漫画みたいなおっさんが怒鳴るような声でイーアンを呼び、出るのを渋っていたら、舷梯をかけようとするせっかちで、イーアンは嫌々(※降りるにしても)『早く来い』と命令されて、ひょろろ~と力なく降りて行った。


 上から見送ったドルドレンは心配ではあれ、奥さんが悪く扱われるわけではないと分かっているし、単に彼女にとって苦手な性質の人間というだけも理解しているので・・・それでも気の毒だから、とりあえず荷箱の準備は後にして、自分たちも降りることにする。



「魔物材料は?後なの?」


 船倉から出そうとしていたミレイオが、止められて振り向く。ドルドレンは『あとでもいい』と、波止場の騒ぎをちらっと見た。


「イーアンが()()()()である」


「人じゃないですよ、龍にそんなこと言ってはいけないです」


 シャンガマックの、正当だけど斜めな注意が入り、ドルドレンは部下に『そうだね』と往なし、彼女だけでは相手にするのが大変だから早く早く、と皆を急き立てる。


 船の高さは相当あるが、『それじゃ』と各々、自由に下へ。ドルドレンは普通に飛び降りる。ロゼールも問題なく、ひょいと。

 シャンガマックは『ルオロフ系の運動能力じゃないと無理だな』と先の二人を褒めて、トゥの首に乗せてもらって、親方と下船。

 ミレイオも飛び降りられないことはないが、赤ん坊に配慮でお皿ちゃん使用。


 飛び降りたり、銀色の異形のダルナが首を下ろしたり、板(※皿)に乗って降りてくる姿を見て、波止場はさらに盛り上がる。大変賑やかな・・・入港しただけなんだけれど、お祭りのような人だかり。


 まだ船にいたオーリンは、クフムを振り返り、『お前も行く?』とちょっと気遣う。クフムは下を見て、途惑いがちに『いいえ』と首を横に振り、自分は船で待つと答えた。


「オーリンは行って下さい。皆、また戻りますよね?魔物製品と材料を出すし、宿泊だと馬車も」


「まぁね。じゃ、俺も残るよ」


 あっさり、オーリンは下船を断り、クフムに『中で待ってよう』と昇降口へ歩き出す。いいんですか?と小走りに後を追うクフムに、オーリンは『戻ってくるし』で終わらせ、それから肩越しに思い付きを口にした。



「ピンレーレーで、お前の()()()()。買おう」


「はい?服ですか?僧服だから・・・ 」


 僧服と、一般民の服を交互に着るクフムは、やはり僧服は着替えとして気に障るのかもと考えるが、オーリンの続けた返事は違う話。


「もう、金もそろそろ、ないんじゃないのか」


「あ・・・いや。いえ、まだ。もうちょっとは、その」


 何でお金の話?言われていないけど、乗船代?食費は払ってるが。焦り出すクフムなんて見もせず、オーリンは先を続ける。


「服買って、心機一転して。僧侶辞めたようなもんだから、違う仕事覚えろ」


 急な話。違う仕事・・・船を出ろの意味かとクフムは緊張したが、弓職人は可笑しそう。


「何を心配してるんだ。俺の仕事を手伝え。いつか、この船を出る時は、教会の手仕事訓練所で教えられるくらいになっておけ」


 ちょっと勝手だけどね、と無理やり未来を決めた発言を、オーリンは笑う。クフムは一瞬、唖然としたが・・・特に何をするかも決まっていなかった自分の『いつか』を考えてくれていたと知って驚いた。


「無理やり手伝えとは言わないけどさ」


「やらせて下さい。私も、出来ることがあれば」


 即答するクフムは、目が潤む。その目を見ないようにして、笑みを浮かべたオーリンは『じゃ。まずは魔物材料をまとめよう』と最初の手伝いを教えた。



 オーリンは――― ニダのいる訓練所を見た時、ハイザンジェルで仕事にあぶれた人々に、手仕事を教えて職に導けないか、と思った(※2525話参照)。


 それはまだまだ先の話だが、オーリンの中にずっと意識はあって、まずはクフムに教えてみるかと考えた次第。手先が器用だし、のめり込むと職人のように集中する態度は、教え甲斐がありそうに感じた。



 *****



 胸打たれたクフムが、オーリンに指示されて、船倉で荷物をまとめている間。波止場でも、胸を打つ男に、女龍は悩んでいた。


 こちらは本当に、拳で胸をどすどす打っては、不要な大きさの声で強引全開。

 何か言う度に、胸を叩く癖でもあるのか。それとも男らしさのアピールなのか。イーアンはどう反応するべきか、うーんうーん悩む。


『任せておけ』『じゃ、決まりだな』『それは俺がやってやる』『大したことじゃない』『気にするな』


 これらは各数回ずつ繰り返される、決まり文句のようで、その都度、漫画のようなおっさんは、どすっと胸を拳で叩いて笑うのだ。つまり、自信がある・引き受ける、の場合だろうが、正直、うっとうしい。だって、イーアンは小脇に捕まっているから(※挟まれてる)。



 イーアンをとっ捕まえて離さない、この大型のおっさんは、思った通りで『南部海運局の長』だった。


 タニーガヌウィーイの方がまだ・・・と思える。彼も強引なところはあるが、こちらの言葉は聞いてくれた。会話になった。でもこの人は、ならない。


 元気でうっとうしい、話そうとすると被せてくる、命令調の強引な性格の推定年齢60前後の、漫画のようなおじさんは、名を『ハクラマン・タニーラニ』と言う。


 タニー・・・に何かあるのかな、とちょっと思った(※タニーガヌウィーイもそう)イーアンが、そろりと訊いてみると、『日』を示すらしい。ハクラマン・タニーラニは、『俺は、紫の明ける日』と名前の意味を教え、イーアンがうっかり『素敵な名前です』と言ったことから、余計に相手の好意を煽った。



 イーアンは馴れ馴れしいおっさんの、分厚い片腕に肩を組まれ、ドルドレンはおっさんのイーアンへの『一種の崇拝(?)』を見守りながら話を進め、ミレイオやタンクラッドは、シャンガマックとロゼールの側で、海運局の局員に話を聞いていた。


 この場所は、国境警備隊が巡視船を出していたようだが、出迎えがハクラマン・タニーラニ長だったので、お付きの人たちも海運局員。警備隊は明日、海運局長(※おっさん)と改めて挨拶に行くことが決まり、今日は海運局の・・・・・



「困る。いつ魔物が出るとも分からないのに」


「いいじゃないか。酒が入った程度で、あんたが倒れる気がしねえよ。今日、入港って聞いてから、こっちはずっと首を長くして待ってたんだ。強いんだろ?総長」


 えー。と思うドルドレンとイーアン。

 さっきから会話の端々に『今夜』『一緒に』『夕食で』と不穏な響きが挟まっていたから、もしやと(※最初の島がそうだった)過らせたそれが、当たっていた。


 祝宴がある。嫌ですとは言えないけれど、魔物退治があるとは言った。だけど跳ねのけられる。南部海運局総動員で祝宴だからとか。


 気の毒にと、イーアンはおっさんの脇の下で目を閉じる(※脇のにおいも結構強め)。

 上司に逆らえない部下は、おうちの用事があっても、個人的な都合があっても、超強制的な指導者のためにあらゆる犠牲を払うのだ。


 うう、私たちが原因なんて恨まれる!とイーアンはつらい。それは、同じように察するドルドレンも胸中一緒で、眉間にしわが寄りっ放し。だから、警備隊の人たちは、あっという間に帰らされていた、と今になって気づく。


 ドルドレンが一緒にいてくれるから、まだこの程度で済んでいるが、飲み会=祝宴になったらどうなるやら分からない。イーアンは『やだなぁ』と顔に出しているが、ハクラマン・タニーラニは全く気にもしてくれない。超・我が道を行くタイプだった。



 こうして、港での会話は、実があるような無いような具合で(※話の中心が祝宴)、強制的に場所と時間を指定され、それまで船で待っていてくれと、待つ場所まで決められて終わった。


 でもミレイオたちは局員たちと話をしたので、もう少し中身がまとも。


「(ミ)宿は一応、手配してあるみたいよ。ワーシンクー島に、結構長く居たのを知ってるから、ここでも滞在すると思っている感じね。馬車の積み荷で、食料の廃棄物や水の交換があれば、夜でも運んでいいって教えてくれたわ。

 私が消滅させているから、出すゴミはないんだけどね。水の交換は有難いじゃない」


「(タ)宿代を持ってくれそうな言い方だったがな。見知らぬ相手であるに変わりない、断っておいたぞ」


「(シャ)手続きが必要なのは、貨幣が。ワーシンクーで換金したお金を両替した方が良さそうです。ピニサマーニヤで両替所があると。どちらの通貨も使える話ですけれど、南部は、南部全体で使う通貨が一般的とか」


「(ロ)貸馬ならぬ、貸し船も提案されました。ピンレーレーは幾つか島が繋がっていて、浅瀬が多いようです。だからアネィヨーハンで移動しないで、小型船を提案されたんですよ」


 イーアンとドルドレンは、ふーん・・・と聞く(※自分たちの中身のない時間と比べる)。

 ということで、一先ず解放された皆は、船を降りて一時間後。また船に戻った。船待機で、夕方にお迎えが来るとか。



「それまでに、報告を聞かせてくれないか」


 タンクラッドがイーアンに、時間を有効に使おうと振り、イーアンは大きく頷いた。



 *****



 そして、午後は報告会。乗船前に、準備の良いおっさんのおかげで、お昼は問題なし(※屋台食買ってくれた)。



「ミレイオの気づいた点から、調べる方向性が決まりました。ただ、結果はどうだったのだろう。様々な異時空の片鱗を、調べれば調べるほど感じた・・・事実を抜粋すると、それだけにも思います。最終的に私たちは、異時空とは少し関係のない場面に向かい合いました。うーむ、うまく言えない」


「ある意味、『様々な異時空に関わった人間の姿』その一つを知ったことで、私たちが、受け取るべき成果だったと言えるんじゃない?」


 ミレイオが口を挟む。イーアンは頷いて『ミレイオが少し先に話して』と頼む。霊のことを話すと誤解が出そうで、説明下手のイーアンは難しい。ミレイオは了解して、考えていたことを話し出す。



「私たちが狙いにしたことは、イーアンが言ったみたいに、『成り行きにも成果にも()()()()()()()()()』・・・先に感想だけど、後でちゃんと内容も伝えるから聞いてね。

 私は最初、これまでに絡んだ多くの異時空話と、今回の調査が、密接な関係にある気がしたの。

 異時空の何か、知らなければいけない事を示唆された感じ。それで調べ進めたけれど、私たち自体が別の時空に入ったのは、ただの一度もなかった。

 最後の最後で、『異時空に現を抜かした結果』を見たのが、〆みたいに思えたわ」



 これが6日間の感想、とミレイオは言葉を一度切り、イーアンもオーリンも同感。


 先に結果と感想を聞いた、船待機組は、イーアンたちが異時空自体に入っていないまま、探り続けた日々に、深い意味を渡されたのではと感じた。



 ―――甲板で、初めの報告を聞いた時、ドルドレンたちは衝撃を受けた。繁栄した陸地諸共、古代の人々が海に沈められて幕を閉じた話。


 理由は、精霊のみならず、龍も妖精も、民は敬わなくなったから。


 精霊の島も、パッカルハンもこの沈んだ島の一部らしく、『大陸』と分類しても良さそうな規模が沈んだわけだが、そこでは『古代剣による異時空』が使用され、文明も発達していた。


 賢かったであろう人々の印象に、なぜ、そんな悲劇を迎えたか。

 そして()()()()()()は、成果に現れなかったにしろ、どう受け止めるものかと、ドルドレンたちは説明を頼む。



 パッカルハン遺跡から調べ始め、砂浜に埋まる記念柱から、大昔の島の創世物語と、歴史が出てきた。


 創世は『12色の精霊が作った世界』で、歴史は簡単に言うと『前期は、豊かで共存できた』が、『後期は、欲にかられた民から精霊が離れ、滅亡した』。


 ミレイオは、神殿遺跡の宝飾壁画『龍境船』から、色別の条件を仮定し、かつて宝石が産出した採石場を辿り、採石場からほどなく近い場所に沈む、宝石と同じ色の神殿遺跡を発見。


 これにより、色で祀った相手への供物や願いが、精霊・龍・妖精のもたらした特徴を示すことも見つけ、当時、どの色の精霊が、どの様に人間へ恩恵を与えたかを調べた。


 全ての色を探すのは、当然だが無理。崩壊して、何も遺っていない場合も承知で探し続け、分かったことは『異時空との接触が身近だった』結論。


 妖精が関わると、妖精の開く異時空。龍が関わると、龍境船が行き来する異時空。精霊は、精霊の・・・あの古代剣の開く異時空は、また精霊とは別らしい。

 そしてこれで終わらないのは、古代剣のあける異時空は、どこかの一部であると想定出来ること。


「つまりそれが」


 思わず、身を乗り出したのはドルドレン。馬車歌が被る。イーアンは、頷いてから『多分そうです』と答えた。


「僧兵が話していた、十番目の馬車の家族の歌。多くの異界への出入り口を抱える『島』ではないかと思います」


「それは、はっきりと証拠や照明になるものは」


「ないのです。そこまでは手に入れていませんが、繋がっていると考えても大丈夫でしょう」


 ドルドレンに答えたイーアンが、ここで話を一度終えて少し黙り、言葉を考えてから、また話す。



「私たちが、一度も異時空に入っていないけれど、調べるほどに異時空の片鱗を感じた、と言ったのはこうした事でした。他、沈んだ島の地域なども、彫刻地図の発見から知るなど出来ました。

 そしてこの流れで、最後に戻った始発点のパッカルハンで、シュンディーンの協力により、私たちは亡霊を相手にしました」

お読み頂き有難うございます。

ストックが切れがち、体調を崩しがちで、年々休む機会が増えてご迷惑をおかけし、申し訳ないです。

意識が途切れたり、PC作業で体の痛みが治らなかったり、物語を書きたくても中々進まない現状ですが、続けていきたい気持ちは変わりませんから、書けるときに出来るだけ書いて、休む時は休んでを繰り返すと思います。こんな状態ですが、どうぞ宜しくお願い致します。


いつもいらして下さって、本当に本当に有難うございます。心から感謝しています。

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