2602. ドルドレンたちの写本計画・トゥから次への導き・ピンレーレー島前、海に思う・入港
※この前お休みしたばかりで申し訳ないのですが、ストックがなくなってしまい、明日からお休みします。
明日明後日お休み予定です。もしそれ以上長引く場合は、こちらに追記でご連絡します。ご迷惑をおかけしますが、どうぞ宜しくお願い致します。
船待機組は、この六日間どうしていたかと言うと。
残った面々は『精霊島物語』に適した者ばかりで、魔物退治より原稿作り(?)に勤しんでいた。
魔物退治を引き受けてくれたトゥが、時々『材料にするのか』と聞いてくれるので、そうした時はタンクラッドとドルドレンで出かけたが(※材料回収)、それ以外は船だった。
ダルナに頼り、任せっぱなしはどうなのだろうと、真面目なドルドレンは気にならなくもなかった。だが親方が、『お前が馬車歌のように残す言葉は、多くの民に染み渡る』と、劇的な持ち上げ方をしてくれたおかげで、自分しか出来ない事に責任を持ち、この期間はトゥに頼む事にした。
掃除を嫌がらないロゼールは、手際良く食事の準備を済ませると、空いた時間はせっせと船を掃除してくれ、掃除も終わるとおやつも作ってくれた(※家庭向き騎士)。
シャンガマックも彼を手伝い、一緒に掃除したり、台所も手伝ったり。料理の下ごしらえを手伝うと、いつもロゼールが味見をくれるのも、シャンガマックには楽しみとしてあった。
そんな状態を好まないお父さんは、べったりシャンガマックにくっついて、ロゼールにチクチク嫌味を言うけれど、ロゼールがサブパメントゥの話を出すと、黙った(※相手がコルステイン>自分)。
シャンガマックはロゼールの手伝いもしたが、食堂でタンクラッドたちが原稿を作っているのも聞こえるし、クフムの翻訳も、時々、側に行っては一緒に考え・・・中々に有意義な日々を過ごした。
クフムはと言うと、誰の目にもクフムは一生懸命に映っており、彼が何とか役に立とうと努力する時間は、ティヤーの未来の一旦に関わらせることで、きっと彼の『贖罪』になるのだろうと思えた。
ただ、六日間ずっと最初の本を作っていたわけではなく、原稿はその続き。最初の本が書き終わったのは、早いもので取り掛かった翌日だった。
内容を確認し、いいじゃないかと笑顔を交わしたすぐ、『着いた先で配れたらな』とタンクラッドが思い付きを口走ったことから、写本に適した形を考えてはどうかと、ドルドレンが提案。『騎士修道会でも、報告書を各支部に送るため、写本用の原稿を作るもので、数名で行えば、内容量にもよるが、一週間ほどで製作可能な印象だった』と教える。斯くして、冊子を作る方向へ。
馬車歌風に作られた一冊の手書き本は、原本扱い。早速『配る冊子』用、簡易版原稿に取り掛かる。こうなると、シャンガマックの『数々の古い伝承を収集した経験』が役に立つ。
雰囲気の良い馬車歌の要素も含めながら、情緒よりも要点を強調する。これがまた頭を使うもので、簡易版だけに誤解のないよう、ああでもないこうでもないと膝突き合わせて、原本より熱入れ込む製作となる。
船待機は暇な時間、と思いきや。『充実した冊子作り』が毎日を埋め、意義を感じて取り組む男たちは、来る日も来る日も、精霊の思いを如何に伝えられるか、尽力した。
そうして、船の道も、六日目に入った昼過ぎ―――
朝に送り出したイーアンたちが早々戻ってきて、甲板で出迎え、お疲れ様の挨拶が吹っ飛ぶ、報告を受ける。この数日間、彼らは戻ってからも忙しく計画を練り、碌すっぽ報告らしい報告がされなかったのもあるが、最終日のそれは衝撃だった。
掻い摘んで聞いただけでも、これも冊子に入れるべき重要なことではと、視線を交わすドルドレンたちだが、前方に目的地ピンレーレー、最初の島影が。
トゥは、甲板の話題を聞きつつ、水平線に島々の影を眺めつつ、そろそろ主に次の動きを教えてやろうか、とタイミングを見計らう。
「タンクラッド」
「うん?どうした」
下にいる主に呼びかけ、顔が向いた彼に、ダルナは首を一本下ろした。
「あの島のどこかに、俺を封じた場所に来たやつが、隠した物がある。精霊の期限付きで、今であれば見つけ出す人間に受け継がれる、『隠されし・許された知恵』だ」
*****
鳶色の瞳が丸くなり、何言ってるんだ?と呆れた第一声が戻ると、トゥの二本目の首が降りてきて『言ったままだ』と真面目に、しかし、主の反応を面白がるように返した。タンクラッドは瞬き。
「ちょっと待て。お前、トゥ。何を見た?何を聞いたと言うべきか・・・俺に教えたってことは、探しに行けるわけだな?『トゥを封じた場所に来た誰か』?そいつが、ピンレーレー島のどこかに、『知恵』を隠したって言っているのか?それは、精霊に期限が設けられていて、現代なら受け取っても咎められない『知恵』?」
「一度聞いて、それだけ理解できていれば上出来だ、タンクラッド」
上から目線で教えてくれるダルナに、タンクラッドはいよいよ呆れて『ちゃんと言えよ!』と叱る。フンと鼻で笑った銀色のトゥは、すーっとまた首立てて、遠方の島影に二つの頭を向けた(※主、無視)。
「着いてからな。今は、『流れの初っ端』だ」
「お前は!気になる言い方はよせ!」
何やら後ろでトゥ相手に怒っている親方を、甲板にいる皆はちらちら気にして振り返るが、トゥが余裕そうなので、タンクラッドが毎度の如く、あしらわれているんだと(※主なのに)理解して終わる。
わぁわぁ怒る親方の声が煩いが、ドルドレンたちはイーアンやミレイオ、オーリンが持ち戻った結果報告が衝撃で、島に着くまでの時間、できるだけ詳しく聞きたい。
「到着したら・・・いや、到着前にトゥに驚かないよう、先に知らせに行かないといけないから、残り時間はあと一時間もないだろうが。俺たちが聞いて置いた方が良い部分を、今教えてほしい」
ドルドレンは戻ったばかりの奥さんに頼む。出張組が帰ったと知って、ロゼールが甲板に飲み物を運び、昼の日差しを受ける甲板で、イーアンたちも時間を気にしながら、要所・要点を絞って伝えた。
この報告には、『龍を侮辱した霊たちとの場面』など、細かいことは入らず、あくまで客観的に・あくまで事実の箇条書きを伝えるだけで終える。
詳しくない分、繋ぎがぎこちなかったり、抜かした場面で理由付けが利くところもあるため、聞く側に疑問は残るものの、ドルドレンたちも『あとでまた全体を』と頼んだ。
目的地、ピンレーレー島。正確には列島なので、それぞれに名前があるのだが、ここを示す呼称は一口に『ピンレーレー』で済む。
本島ワーシンクーの内側を流れる川から、東に向かって島の外へ出て、南下すること7~8日。
天候や時期により、海の状態が変わるため、一番長い航海では、3週間もかかることがあるらしいのだが、大体はその時期を避ける船ばかりで、ドルドレンたちが移動したこの時も、順調に7日目で到着した。
ただ、ドルドレンたちの船は、どうやっても『動く力=ダルナ』なのもあり、そこは反則的に順調が保たれる恩恵付き。風がなかろうが海が凪ごうが、関係ないのだ。逆を言えば嵐が起きても、どうってことはない(※順調続行)。
余談だが、『船を出してから、一度も帆を下ろしたことがない』のも、巻いた帆布に汚れがつくのではとロゼールが気にしているくらい、帆を張った状態を見る機会もなく、ここまで来ている。
話を戻す。ピンレーレーの列島、中心地の島から手前は、いくつかの小島がある。それは中心の島の向こうも同じで、旅の一行が入港するのは中心の島だが、後日周辺にも行く予定を立てた。
入港する島にある警備隊施設は、ティヤー南部の統括(※2586話参照)で、ここには海運局も揃う。こちらは『南方海運局』と呼ばれていて、南方海運局には、北を守るタニーガヌウィーイのような存在がいらっしゃる話・・・だから。
「私とドルドレンと、シャンガマックで」
風が出てきた、島の近くの海まで来て、巡視船がちらほら浮かぶ様子から、イーアンは『先にトゥがいることを伝える役割』を振り当てる。
通訳シャンガマックは、イーアンが抱えるとお父さんが嫌がるし(※予想)、自分の龍ジョハインを呼んでもお父さんが嫌がる(※予想)ので、ドルドレンの龍に乗せてもらう。
甲板から飛んで、午後の眩しい光に鱗を煌めかせながら、藍色の龍と白い6翼は巡視船へ向かった。
見送ったオーリンたちは、ロゼールの持ってきた籠から、もう一杯ずつ水を貰い、三人が戻るのをのんびり待つのみ。
後ろでまだ親方が喚いていたが、それはそれで。少し小耳に挟んだ感じでは、後で話があるだろうと・・・放っておく(※これからな感じだったから)。
見渡す限りに海が広がる風景から、島がぽつぽつと見え出すと、人の住まいに近づくのを意識する。
陸を進むのと訳が違う、海と触れる生活で、まだ慣れないなと誰からともなく呟きが落ち、他の者もその意味を同じように感じる。
魔物退治は多く、しょっちゅうだと、開戦前に聞いた気がするが、そうでもない。
魔物もそう強くはないし、被害が酷いところは気の毒だが、応戦力がこれまでの国で、一番高いティヤー。
海賊が半数を占めるこの国では、海付近の魔物が出れば、確実に彼らが迎え討つ。旅の仲間が手伝いに行っても、既に戦っていたなんて当たり前で・・・そういった場面をよく見かけるのもあり、少し。少しだが、『魔物退治で必死・悩む』ギスギス感は薄れている。
戦おうとする人々に必要なものは、武器で防具で道具で戦法。
勿論、手助けもするし、代わりに倒すこともするが、自分たちの国を守る意志が強い人々相手、製品の伝授に動いた自分たちのすべきこと、その視点も少し原点に戻った。
だから―― こうして甲板から眺める、青い穏やかな海と昼下がりの光の中、のんびりした時間も生まれる。
ミレイオとオーリンは、出かけてそれなりに疲れていたし、シュンディーンも抱っこベルトで寝ていたが、アイエラダハッドだったら緊張が途切れてなかった、とも思う。
「考えさせられる国よね」
ぼそっとミレイオが呟いて水を飲み干し、船縁に手を置いて横にいたロゼールが彼を見る。
「いろいろ、と言っていますか?」
「そう。いいことも悪い面も。私たちの意識を変える状況も、複雑さを増す新しさに見えて、実は遡って戻っている謎も」
「さっきの・・・話。まだ詳しいことを、教えてもらえるんですよね?」
ミレイオの言う意味が何となく理解できるロゼールは、情報の詳細を尋ね、ミレイオもオーリンも頷く。ただ、今は喋る気になれない。『嫌な場面が最後だから』ではなくて、今伝えたばかりの『様々な含みを考える』から。
深い茶色の手摺りは木製でも、光に熱されて熱く、黒い甲板も熱を持つので日陰に入ろう、とミレイオは話を切った。
「もう、戻ってくるわ」
昇降口に歩きながら肩越しに海を振り返る。小さく見えても藍色に輝く龍と、昼の光より白い女龍の翼が、少しずつ大きく見え始めていた。
*****
甲板で待つ皆が、日陰で涼んで数分後。イーアンとドルドレンとシャンガマックが帰ってきて、『結構細かく質問された』と甲板に降りる。
「港まで、湾が浅いらしいのだ。アネィヨーハンの大きさから、喫水線下がどのくらいかと」
「ドルドレンが分かるわけないのに、ずっと聞くのですよ。私も分からないけど」
潜って見たことないからね、と総長に困り顔を向けられ、女龍も『見たって何て言えばいいやら』とぶー垂れる。
なんだかとってもしつこさが嫌だったらしい二人の反応に、後ろで黙り続けるシャンガマックが大変だったなと、皆は同情した(※通訳=板挟み)。
「最後の最後まで。もう浮上してるのに、何回も引き留められました。浅くて危なかったらこっちへ出て、とか。一人はそういうのに、もう一人はあっちへ回って、と違う方を指差すし。どうすりゃいいのよって感じでした」
「結局はイーアンが『こっちでどうにかするから』とまとめたが。遠目からでもトゥの姿は見えていたし、人間の操る船ではないと分かっていれば、ああも神経質にならずに良さそうなものである」
「船底が引っ掛かった、なんてアホな事になる前に、私が浮かせますよ。ダルナに港まで運んで頂くこともできます」
やぁねーと伴侶に言うイーアンは、文句が止まらない。それでも口が悪くなっていないので(※まだまだ大丈夫な範囲)、警備隊が真面目に心配性だった=それがしつこさだったのだろうと、タンクラッドたちは理解する。
誰とも目を合わせようとしない褐色の騎士が、若干疲れ気味に見えて、ロゼールは彼に手招きして水をあげた。
「で。どうするんだ。こっちに巡視船が来ないが、あの方向へまっすぐ進めば良いのか」
島近くにいる巡視船を顎でしゃくり、タンクラッドは進行方向を尋ねる。港まで巡視船が誘導するから、とりあえずついて行くことになった。
こちらが動き始めると、巡視船数隻も動き、尖る山が目印の、最初の島の前を通過。
島は先へ先へと繋がって、一つぽこんとした島を過ぎると、次の島まで小さな島や離れ岩が、合間を埋める。そしてまた次の島が大きくぽこんと在り・・・どれも似た印象で、尖った山が共通の特徴。
ピンレーレーの列島は、同じような尖り山が必ず島にある。山はそこそこ大きく、周囲に森が広がり、人の住処は海辺に集中しているのか、さほど町らしい雰囲気はなかった。
この風景を何回か通り過ぎたところで、グーッと向きを左に逸れる。ピンレーレーの中心の島に入った。
「中心です、って感じ」
フフッと笑ったミレイオは、ひときわ大きな尖り山を見上げる。『噴煙?』目を細めた女龍は、山の頂から上る細い煙にちょっと嫌な予感。活火山ってあったの・・・?これまで見てないんだけどなと思いつつ、ここでは独り言で終わる。
「こっちへ!」
巡視船の一隻が速度を落として、前から大声で呼びかける。大きな山が見下ろす麓は、これまでの島と比較にならない人口を抱えており、家々が隙間なく沿岸を埋め、入港する湾は屈曲して角度がつく。
黒い船は誘導される湾へ進み、心配してゆっくりになった巡視船が船の前に溜まり始めたところで―――
「おっと」
「壊れるより良いな」
アネィヨーハンは、ざぁぁぁと水を落として宙に浮かび上がる。わーっと巡視船から魂消た叫びが次々上がる中、トゥは主の命令より早く自己判断で、船を高々と持ち上げて『運んでやる』と余裕綽々、高い視点から見下ろす先の港へ、黒い船を飛行させた。
「大騒ぎですね」
笑うイーアンが手摺りから下を覗く。『あっちもですよ』とロゼールが町を指差し、港でも騒ぎが起きている様子に、『着いたら大変そうだ』と笑った。
船はこうして、目立ちながら三分後に港に入り、下から叫ぶ誘導に従い、端に降ろされる。降ろした時も、船底が当たるようならと波止場の船員が心配していたが、一番端は深さがあり、アネィヨーハンに傷がつくことも傾くこともなかった。
大騒ぎの午後の港。今までのように『ダルナがいる』『ウィハニの女がいる』騒ぎとそう変わらないのだが、船が浮いて入ってきたのはまた斬新。少し落ち着いてから降りようかと、ひそひそ話し合う甲板だったが・・・それは叶わない。
「派手に入って来たな!顔を見せろ」
訛りの強い標準語、割れ金のような声が飛ばされ、さっと皆が波止場を見ると、上半身に袖のない長衣を着た、筋肉の分厚い男が立っていた。
「もしや」
ドルドレンが眉根を寄せる。イーアンも何気に予感でドルドレンの後ろに隠れる。
「早く出てこい!舷梯なんか要らないんだろ!ウィハニの女、飛んで姿を見せてくれ」
声が銅鑼のよう・・・あれが多分そうでは、とドルドレンの影からイーアンは下を見る。あの勢い、あの馴れ馴れしさ、あの感じ。
皆は、そんなイーアンがすごくイヤがっていそうに見えた。イーアンは、強引で命令調の性格が嫌いと知っているが。
あ、とシャンガマックが驚く。分厚い男が舷梯をかけさせているのを見て、『無理やり乗り込む気?』とミレイオもびっくりする。強引ね、せっかちですね、我慢しないんだなと皆で驚く。
さすがに乗り込まれるのはダメなので、イーアンは渋々顔を出した。見上げていた男と思いっきり目が合い、直感でこの人苦手と判断。相手はニヤッと笑った。
「早く来いよ」
髭面の強面。筋骨隆々、体に傷あり、それも自慢げにむき出し。漫画みたいな海の男が、イーアンを片手で招いた。
お読み頂き有難うございます。
明日明後日の投稿をお休みします。ストックが追い付かず、ご迷惑をおかけして申し訳ないです。
どうぞ宜しくお願い致します。




