表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
異界と馬車歌
2588/2963

2588. 太陽の手綱9つの歌、失われし10番目の歌・小さな骨と『貝の歌』・ドルドレンの馬車歌解説

※今回は、6400文字近くあります。長いので、お時間のある時にでも。

 

 馬車歌については、先に聞いた分を話してあった(※2563話参照)ドルドレンだが、今日からまた数日は船上だし、詳しく皆に伝えようと思う。



 突発的に飛んで行ったイーアンが戻ってきて、しょんぼりしているので慰め、ルオロフを抱きしめて別れの挨拶をしただ、何だと聞きながら、この人はすぐ抱きつくからと思いつつ(※相手は成人)、とりあえず『息子になったらしきルオロフ』が早く戻ると良いね・・・で終わらせた。


 自分がいない間に、息子さんが出来た奥さんだが、寝耳に水。

 どういう経緯なのと聞きたいし、それじゃ俺の息子でもあるんだよとか、その辺もどう思っているのか確認したいけれど(※その話を未だされてない)、今はさておき。


 ドルドレンは、人情に厚く、感情豊かな奥さんをよしよししながら、食堂へ一緒に入る。



 朝食はこれからで、ミレイオを手伝うシャンガマックが、食卓の準備をしていた。イーアンとドルドレンも手伝い、集まってきた皆と食事開始。クフムは相変わらず肩身が狭そうだが、どことなく顔が嬉し気だった。


 イーアンはルオロフからの伝言を教え、タンクラッドがそれに表情で反応したが、特に何も言わず。シャンガマックはそんな剣職人を見て、『近い内に行くな』と思った。


 この話はすぐに終わり、次はドルドレンから収集した馬車歌について。

 以前話した、一の家族・二の家族の後、他の歌も知ることが出来たが、一つだけ知るに叶わず、強制終了で終わったことを先に話す。



 ティヤーの馬車歌は、全部で10の家族が持つ―――


 その一つが、僧兵ラサンに関わられた『模様付きの馬車』の家族で、精霊ポルトカリフティグと最後まで探していたのだが見つけられなかった。理由を聞けなかったが、ポルトカリフティグが中止にしたため。


「歌も行方も分からないまま、引き上げた。しかし、ポルトカリフティグが中止を決めた以上、何かあるのだろう。探しようがない」


 精霊の決定に従うのみ。ドルドレンは話を戻して、9つの歌について教える。



 ①サブパメントゥが地上を制圧した一部始終。双頭の龍の役割、勇者加担が入る。勇者が赦される条件も含む。


 ②ぼかされているが、勇者とサブパメントゥの関係があることと、これによる、時の剣を持つ男との因縁開始。

 この二つの歌は、先に話してある(※2563話参照)。



「それと()()についても、後で話すが。最初の家族から、受け取った『歌』だ」


 前置きに挟んで、『これ』と広げたドルドレンの大きな手に、小さな白い小石一つ。

 一発で見抜いたのはイーアンとシャンガマックで、『骨?』と二人は同時に眉根を寄せ、他の者も目を瞬かせた。

()である』と寂しそうに答えたドルドレンは、小さな白いそれを腰袋に戻し、話を戻す。



 ③勇者は魔物の王を倒し、人間の王となることで、サブパメントゥの侵攻を誘導する懸念されていた。

 人間の王となった時、サブパメントゥに座を譲り、世の頂点を見上げる不穏が歌われる。


 ④①~③までは勇者についてで、④と⑤は始祖の龍。空を作り、龍と生き、龍族を生み育て、下界を守る最初があり、しかし中間の地に生じる問題の数々に、時に全てを奪う対処を取ったこと。魔物の王が動き出した後に、勇者に呼ばれて力を貸したことなど。


 ⑤始祖の龍は、何も分からない人間の勇者に教え、他の種族と関わることで学ばせる。精霊、妖精、対立しないサブパメントゥ、また、精霊とも異なる純粋な存在の関与を含む。これが、空の司や、不思議なヤロペウクを思い起こさせる。


 ⑥この馬車歌は、次の世(※二代目)について語られている具合で、予言に近い。二代目の魔物時代が荒れること、大きな亀裂を引き摺ること、中間の地の人間を()()ことへの示唆など。

『人間を残す』意味は、『選ばれたものが使える魔法・誰もが使える危うい知恵』のどちらが人間にもたらされるに良いかを思案している様子で、さらに魔物とサブパメントゥによる死傷で、激減が予想された人間の保護『治癒場』を仄めかしている。


 ⑦7つめの馬車歌は、三つの時代を俯瞰して述べられる。世界が到達するまでの学びを組むのが、創世の意味。混乱と崩壊の打撃を超えて残すのが、二度目の意味。世界の到達を見据えた、種族の交錯を経て、淘汰を済ませ、さらに選別を終えるのが、三度目の意味。これには、創世の時代にいなかった種族、の隠喩がある。もしかすると『異界の精霊』のことかもしれない。


 ⑧ここで創世の時代に戻る。進む順番を決める内容。物語調ではあるが、『未来に向けて道筋を残す』意味合いが窺える。一度に行う大戦ではなく、一つずつ国を守りながら動くことで、創世から託される真髄を理解する。


 ⑨これも創世の時代。『道具』を用意する歌で、この道具は集った種族が作ったり、持ち寄る。

 ―――歌の解釈に沿った場合、ゼーデーアータ龍時代の勇者のものだからであり、『勇者の家族=馬車の民(彼ら)が受け取った印』として、その回を歌う馬車には、代々、描かれている話(※1624話参照)―――

 テイワグナ馬車歌2章を持つ家族は、馬車にメダルと同じ渦巻き模様が描かれていたが、この家族だけは他にない世界の秘密を受け取っているとも、歌にある。


 ⑩そして、『模様付き馬車』の家族が持つ歌が、この10番目。

 別世界を抱える『島』について。島に入る方法、島がどのような性質か、島に何がいるのか。双頭の龍が島の土を踏むと、守護神のようになる。

 また、この馬車歌にだけ、異世界の記憶を持つ人々が出て、彼らは導かれて出逢い、島から新しい世界を作る・・・と。

 だがこの内容は、僧兵の情報であり、ドルドレンが直に聞いたわけではないので、他にも『重視すべき大切』があったかもしれない。



「ざっとまとめると、こうだ。あの日、オーリンが言ったように、憎き僧兵の皮肉とは言え、聞いておいて良かったのかもしれない(※2563話参照)」


「その僧兵さえ、手出ししなければ、とも思いますけれどね」


 ドルドレンに続けたイーアンは、苦虫を噛み潰したような顔を左右に振る。あいつのせいで、と誰もが同じ思いを抱く。10番目の模様付き馬車の家族は―――


 行方知れずのままで、精霊も探すのを切り上げてしまった以上、彼らの歌だけが『追い込んだに等しい僧兵』の情報頼みになってしまった。



「では。もう少し詳しく」


 沈んだ空気を払うように、ドルドレンは少し声を張り上げた。



 *****



 だが声を張り上げたところで、続きもしんみりする話だった。

 最初に見せた白い小石のような『骨』の話は、皆の心に悲しさを齎す。

 親は殺されたばかり。子供は、親の形見だろうにこれを渡す必要を判断し、会ったばかりの勇者に母の言葉と共に渡した(※2549話参照)。


 イーアンの表情が泣きそうになる。かわいそう、と呟いたイーアンに、ドルドレンも大きく頷いて『断ったのだけど』でも彼女は押し付けて渡したんだよと、その時の状況を教え、ミレイオが目元を拭く。


「歌だけ覚えたら、返してやれば?」


 涙の場面に一番遠い男・オーリンも気の毒そうで、返却を提案。お前はもう覚えたろ、と続けたタンクラッドも、親の顔。

 褐色の騎士は、自分の首元に下がる、獅子とお揃いの首飾りに手を置き、『俺だったら返しますね』と辛そうに呟く。まるで、返そうとしないような言われ方に、ドルドレン心外。


「俺も返す予定なのだ!お前たちが心配するほど、俺は無情ではない」


「分かってますよ、総長は優しいです」


 しんみりしたクフムがすぐに慰めるが、ロゼールが頬を掻きながら『返してあげるとは思うけど、なんでまだ持ってるんですか』と突っ込んだ。もう用済んだでしょ的な、突っ込み。


「お前たちに話してから、と思ったからだ。寄って集って俺を責めるとは怪しからん。()()()()()()()()()()()()、不思議じゃないのか?いつもなら、真っ先にそこに反応するだろう?そう思ったから!」


 指を突き立てて相手に怒るドルドレンに、隣のイーアンが宥め、親方とオーリンとシャンガマックは顔を逸らす。ロゼールは『ああ、そういう意味で』と流した(※気にしない)。


「それで?どうやって歌を聴かれましたか」


「・・・うむ。そうだな、教える。これは、次に会った馬車の家族に、使い方を聞いたのだ。この骨こそ、ティヤー馬車の民『太陽の手綱』の、()()()と言っても過言ではない。

 精霊ポルトカリフティグが目の前に立ち、勇者として俺がいても、この小さな『歌の骨』の方が彼らに信頼の証なのだ。

 とても不思議な聴き方で、もしかすると他の何かでも応用があるかも知れないから・・・と思って」


 ここで睨むドルドレンの目を、シャンガマックは避ける(※部下)。親方は考え込む振りでかわし、オーリンは『在りそうだよな』と同意を示すことで緩和を促す。ミレイオが苦笑して『うん。で?』の続きを願うと、咳払いした勇者は、胡乱な目を三者に向けたまま教えた。


「貝殻を使うのだ。不思議な形をしている。旅をして海を過ぎた経験があれば、見たこともありそうだが、俺は初めて見た。

 このくらいの大きさで、両端は棘のように尖り、中心が丸く膨らんでいる。その貝殻に、この骨を入れて耳を当てる。すると」


 このくらい、と両手を皿幅くらいに広げた総長に、イーアンはピンとくる。ホネガイとか、ああいった形の貝では。


「骨を入れると、貝から歌が聴こえるのですか?」


 驚くイーアンに、『完全な、馬車の言葉の歌だった』と、ドルドレンは頷く。

 クフムは口を半開きにして、何か知っていそうなので、女龍が彼に『思い当たりますか?』と尋ねると、彼は『違うかもしれませんが』と話し出す。



「私の実家がある島に、『貝の歌』という祠がありました。祠は普通の形ですが、そこにお椀型の貝を置く台があって、祈る時や知りたいことがある時は、貝に海水を汲み、教えてほしいと祈るんです」


「・・・似ているわね」


 へぇ、とミレイオ。それで?と興味を示すイーアン。ドルドレンも意外そうに瞬きして『どうなるのだ』と結果を聞くと、クフムは『夢や風に答えが乗るんです』とまた幻想的な事を言う。


「長い答えじゃないですよ。海風にいつもと違う音が混じって聞こえるとか、夢で答えが聴こえるとか、そんな感じです。私はそれで島を出て・・・ その、私のことはさておき」


 ちょっとだけ、皆さんが注目。クフムは俯いて黙り込み、イーアンは頷いた。彼は島を出るきっかけ・・・アイエラダハッド僧院に行くかどうかを祠に尋ねたんだと知る。



「話して下さって有難うございます。そうでしたか。ティヤーは海の国だから、貝と言うのが如何にも。実は、私も海の国で育ちましてね。子供の頃、砂浜に行くと、ドルドレンが話したような貝を見つけて、耳に当てました。さざ波の音が聞こえる、と好まれるものです。海の音がする、どんなに離れていても、海が聴こえる方法で」


「・・・イーアンも、ティヤーなんですか?」


 キョトンとしたクフムが聞き返し、イーアンは笑って首を横に振る。


「いいえ。異世界の、海の国です。海はどこにでもあるのですよ。どうやら貝も同じ雰囲気なんだと、今知りましたが、料理に出てくるのは、いつも二枚貝ですね」


 じっと女龍を見つめるクフム。なんか妙な親近感を持つ。ものすごい恐ろしい存在(※イーアン)なのだけど、海育ちなのかと、過去を聞かせてもらって・・・『貝に耳を当てるのは知らなかった』とぼそぼそ答えた、心の中は。


()()()()だな」


 フンと鼻で笑うオーリンが見抜いており、クフムは顔に出やすいとミレイオが笑った。イーアンもちょっと笑ったが、片手を軽く挙げて『話を戻しましょう』と脱線を謝る。


「それでドルドレンは、歌を全部覚えたのですか?貝は持って帰らなかったですね」


「必要ない。『勇者がヤバい』歌は、嫌い過ぎて強烈に刷り込まれる」


 笑っちゃいけないので笑いを押し殺す皆さんの横、イーアンは悲しそうな伴侶を『よく頑張りました』と労い、他の馬車歌も小さい骨に歌を託しているのか、そこも尋ねる。


 謎の多い品は、とことん調べようとする奥さんに、ドルドレンも聞かれそうなことは答えを用意してある。


「他の家族も、ある。だが歌い手がいるから・・・要は、歌い手に万が一が生じた時の」


 少し砕けた空気だった場が、再びしーんと静まる。イーアンは、彼の手の平の骨を撫で、『有難う』と礼を囁いた。



「では、本題だ。9つの歌は、これまでの馬車歌と一変した。それが俺の印象だ。

 テイワグナも詳しい箇所は驚きの連続だったが、テイワグナでは『始祖の龍の時代』が中心だった。二度目の旅路は、補足に近い。アイエラダハッドは『二度目の旅路』に視点があり、さらにアイエラダハッドを回った内容が濃かった。これは、ダルナという他にない秘密の存在のためだった。

 ティヤーは過去の経緯から、行動の流れ、重点がかなり絞られている。一度目、二度目の旅路と、道具や必要な考え方、この三度繰り返す旅の全体を把握するように、仕向けている風にも思う。

 知る機会はなかったが、10番目の家族の歌は、異界を包括する島まで含む。


 創世の時代、何者かがサブパメントゥを唆した件もある。誰かが吹き込み続けていた、そんな恐ろしい影も歌に残り、そして勇者の彼が、否応なしに従わざるを得ない『何か』を与えた。

 脚色も、歌だから勿論あると思う。だがそれにしても、と首を傾げるほど、真実味があるのは、続く『始祖の龍が退治を手伝い始めた』流れだ。始祖の龍の歌は、各地で少しずつ印象が変わる。


 ティヤーでは、彼女が手伝ったのは、大きな世界の流れを整える一環だった。曰くつきの勇者を先頭に出した精霊の思惑を、彼女は汲んだ。

 勇者を導いてやり、教え、学ばせ、彼に使命を自覚させた。・・・が、うむ。これは始祖の龍が思うより、根深い問題を持っていたのだな。テイワグナ馬車歌で、卵泥棒のあれを思うと」


 卵泥棒は、今やクフム以外の皆の脳裏に、重い運命として過る。それが双頭の龍を作り、勇者は手引きをしていた事実を残した(※1293話参照)。何が何でも、盗まれなければいけなかった・・・ようにさえ、思わせる。ただ、それだけが本当の話と、決定していないのだけど。


 言葉を切ったドルドレンは、腰袋からメダルを出す。小さな溜息を落として、勇者のメダルを皆に見せながら、話の続きへ。



「消えた10番目の家族の馬車。その壁に描かれていただろう。この模様。このメダルも、始祖の龍の時代のものだな・・・9番目の馬車の家族の歌にあった。彼らの時代で、それぞれの種族が、繰り返す旅の仲間のために用意した道具。

 エカンキの占い師は、俺のこの道具のことだと思うが、『過去を探る事もできる』と言った(※1885話参照)。使う場面が来るかもしれない。


 全てが今や、どこにあるかも分からないが、歌にある幾つかの品の内、俺たちが入手している場合もある。タンクラッドの剣を最初とし、イーアンの青い布、俺の冠とメダルなどはそうだ。


 テイワグナでもこの話題が出たことがあった。あの時と違うのは、アイエラダハッドでイーアンとタンクラッドが、メ―ウィックの手記を見つけた事だ。彼の手記に、宝の場所が書かれているなら、頼るのも一つの手だろう。もしかすると、メ―ウィックが既に見つけていて、亡くなる前に相応しい隠し場所に置いた可能性もある」


「ここへきて、メ―ウィックか。謎の多い男だ。そうだな、じゃバニザットだ」


 頷いた親方が、シャンガマックに振る。手帳は獅子が持っているので、シャンガマックも了解する。ざっと読んでも詳しい隠し場所や宝の情報はなかったが、読み方で違う方向を知るかも知れない。



「ティヤー馬車歌は、見え隠れする『起因』と『目的』、そして『道筋』を教えてくれるわけか」


 タンクラッドが軽くまとめ、皆が思い思いに頷く。ドルドレンは時計を見て、今はこれで終わろうと、話を〆た。


お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ