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魔物資源活用機構  作者: Ichen
異界と馬車歌
2563/2963

2563. 本島北10日間 ~⑨ティヤー馬車歌『一の家族、二の家族』『模様馬車の家族』

 

 ドルドレンが戻っていると知らなかったイーアンだが、4人でまとめ作業を進めている途中、馬車歌の件で、獅子が何度か女龍に視線を向け、何かと思えば言われたのは、『()()()()、ドルドレンに話すか』。



「え。帰ってきています?いつ?」


「お前は、ホントに鈍いよな。旦那の気配も分からない」


 獅子の返答に目を逸らしたイーアン(※撃沈)を、シャンガマックは『そんなことはない、聴き取り中だった』と慌てて慰め、獅子をちらっと見て、今度は獅子が目を逸らす。クフム傍観。


「馬車歌について、総長が戻っているなら彼にもすぐ伝えた方が良い。な、行こうか。イーアン」


 目いっぱい落ち込んだ女龍(※旦那の気配気づかない指摘)を、せっせと励ます褐色の騎士は、机の上の紙の山を両手に抱え、クフムにも半分持たせる。

 獅子は無言(※目で叱られた)で、俯く女龍と励ます息子と僧侶の後ろについて行き、かの勇者に食堂で迎えられた。イーアンは開口一番、すまなそう。



「ドルドレン、お帰りなさい。私すぐに気付けなくて(※気にする)」


「ただいま。さっき戻ったのだ、そんなこと気にしなくて良い。今、皆にも少し話を聞いたのだが、僧兵がクフムの交代相手で、彼を尋問と・・・俺も馬車の家族を、目的地へ送り届けていたものの、実はまだ途中で」


 食堂に入るなり、被せるように話し出したドルドレンから『馬車の家族』について出て、イーアンとシャンガマックは目を見合わせる。イーアンは戸の側に立ったまま、『僧兵が、馬車歌を聴き出した』とドルドレンに何が起きたかを伝えた。黒髪の騎士は目つきが険しく変わり、その男か、と呟く。



「なんということだ。馬車の家族に何人もの死者が出た、その原因。罪悪感で、誰にも頼れず怯えながら、魔物を潜って」


「総長。話は一部ですから、落ち着いて下さい・・・ ええと、時間が取れるなら、このまま総長の報告と、僧兵に関することの報告をしましょう」


 憎々し気な総長を止め、シャンガマックは彼に椅子を勧めた。食堂は一時間前と同様、誰も抜けておらず、皆も結果を待っていたので、ドルドレンの着席に合わせて、他の者も座る。


「馬車の民で、分かったことを先に」


 イーアンがそれをまず重視し、ドルドレンから報告始め。イーアンとイングが助けた日に遡り、ドルドレンと精霊が彼らに付き添って、安全な地へ送り届けた内容は、聞く側に否定的な印象を与える。


「精霊が助けても、それかよ。怖れ方の質が尋常じゃないな」


 オーリンの明け透けな言い方に、ドルドレンも『まさに』と大きく頷く。



「どれほど怯えると、ああも頑なになるのかと疑うほどだ。それくらい、彼らにとって『やってはいけない』ことをした、罪悪感が大きく圧し掛かっている。

 実際、俺も、最初の家族を聖地に送り届けた時点で、精霊への礼もなければ、打ち明けもしない態度に、注意しかけた。だが、ポルトカリフティグは俺を止め、何も言わずにおいた・・・別れ際に、馬車歌のきっかけを得たが、これは後で話す。


 次の家族もそうだった。俺とポルトカリフティグが海を越えて迎えに来たのを、酷く怖れて謝り続けるという、過度の怯えに、いい加減これはおかしいと、俺はその態度の事情を話すように頼み、ようやく彼らの口から打ち明けを聴くことが叶った。最初の家族は石のように、うんともすんとも言わなかったが」



 言葉を切ったドルドレンは溜息を吐き、心配そうなイーアンを見て『その、()()』と重い声を落とす。


「その男が、そうだろう。俺が会った二つの家族は、僧兵と関わっていないが、『学者に馬車歌を教えた、別の家族』の失態を話していた。学者に関わった家族の内、幾人かは消えてしまったという。殺されたのではなく、文字通り、何かによって消えたのだ。これは多分、ポルトカリフティグが見たという場面である」


「・・・一貫して、誰かが知っているわけではないのね?組み合わせると、僧兵が原因で、馬車の家族の一部の人が消えてしまって、その人たちのことを知った仲間が、病的なまでに怖れている」


 ミレイオの解釈を、ドルドレンは肯定する。本当にそんな感じだよと額を押さえ、少し間を置いてから『馬車歌に移ろう』と話を変える。



「俺は、二つの馬車歌を知るに至った。まだ全体の半分もないが、二つはサブパメントゥについてであった。もしも聞くに嫌だったら、ホーミット、ミレイオは」


「そんなもの腐るほど見て聞いてきた。やわなお前らと一緒にするな」


「私も大丈夫よ。私は()()()と妖精の女王に、お墨付き貰っているもの」


 獅子は吐き捨て、赤ん坊を抱っこして背もたれに寄りかかったミレイオは『話して』と促し、少し構えた場で―― 『古代サブパメントゥだけの馬車歌』は、ドルドレンが聞いたままを伝えられた。



 実はここに、クフムもいる。先に、クフムの服の問題が終わったことと、クフムが交代の間際にいるのも知ったドルドレンは、同席を遠慮しようとした彼に『お前も聞くと良い』と引き留めた。


 それは、今後()()()()()()時、知識があれば、何が身を守るか分からないから・・・と、配慮によること。思い遣り深い総長の気持ちに、心を打たれ感謝したクフムは、身を入れて話を聞いている。



 *****



 二つのティヤー馬車歌は、『創世』の時代。


【一の家族の歌】


 サブパメントゥ地上制圧の歌。

 地上制圧の流れの全容。三度の挑戦まで許される。船と光を奪われたサブパメントゥに残された手段。

 地上の人間をサブパメントゥよりも減らし、双頭の龍の骨(※棘)を梯子板に、階段を掛けて空へ上がる。怨恨を抱える影(※怨霊)を復活させ、棘を足場に進めば()()また恐るるに足りない。

 ここに、『勇者が加担』する箇所も出るが、歌では勇者の心根次第。なぜ勇者が加担するのかは、この歌では謎。

 勇者は闇の国と手を切れば、救いと赦しが与えられる。その時、精霊は勇者を見分け、心を守る。



【二の家族の歌】


 一の続きで、勇者がサブパメントゥの手を振り払えない、ある事情が仄めかされる。

 事情の大体は曖昧にぼかされ、勇者自身を伝える言葉はないが、勇者が()()()()()を持つ様子を窺わせる。

 人間として生きている勇者に、何かの影が見え隠れし、それがサブパメントゥ自体を示すのか、サブパメントゥとの約束を示すのか、はっきりしない。

 時の剣を持つ男も登場し、龍を裏切る勇者に憤怒した、剣持ちの因縁も生まれた。

 剣持ちは勇者を追うことを選ばず、サブパメントゥを追うことを選び、死ぬまで続けた。

 この馬車歌では、人物の背景と行動に焦点が絞られ、旅路と出来事は含まれていない。



「大まかなあらすじは、こんな感じである」


 要点を搔い摘んだ歌。ミレイオは聞いていて、以前、魔導士が話していたのは、ティヤーの馬車歌だったのかしら?と過った(※1858話参照)。国名は言われていないが、内容が同じ・・・ ちらっとその時代を知る獅子を見たが、獅子はどうでも良さそうで、シャンガマックに(たてがみ)を撫でられていた(※親父がペット状態)。


 初めてこの手の話に触れたクフムは、『なぜ勇者が?(※勇者が裏切りと悪者の印象)』と、そこから疑問だが、皆さんが知っていそうな反応なので、聞けなかった。

 思ったよりも、ずっと複雑な世界の巡りがあるらしい・・・ここに集う彼らは、馬車歌を信頼する情報としているんだなと、それは分かった。そして、サブパメントゥは魔物同等か、それ以上に厄介な認識が強まった。



「勇者が『悪者決定』ではないのですね。それに、魔物も出てこない?ですよね?」


 イーアンは、気付いたことを質問する。この質問にドルドレンも『俺も思った』と頷く。


「勇者については、『悪者』の要素ではあるのだ。彼はサブパメントゥと関り、地上に混乱の手引きをする。だが、全くの悪としては歌われていないのが意外だった。一の家族の歌では、彼に対し、理解の予知があるように感じた。二の家族の歌では、事情を伝えたくても伏せている・・・そんな感じすら受ける。

 何か、『一人ではどうにも動かせない運命』を背負っていたと、思えなくもないのだ。

 そして、この二つの馬車歌の共通点は、魔物が対象ではなく、サブパメントゥというのも、これまでにない歌である」


 何か言いたげなタンクラッドの視線を受け、ドルドレンはちょっと言い淀んだが、彼に思うことを伝えた。


「ドゥージを思い出した。いや、彼と行動を共にしていた時も、俺は何度か話をしながら、勇者の俺の立場、ドゥージの立場が・・・内容や理由が異なっても、似ていると思っていた。

 初代、二代目の勇者事情は、ふざけた人でなしどころではない情報しか知らないが、実に謎部分が多い。どうしてそこまで?と疑問が浮かぶくらい、だ。彼らの代弁などする気はないにせよ、表立ってはいけない、重い理由の可能性を、ティヤー馬車歌で感じた」


「うーん。俺は、真面目なお前を相手にしているからな。何とも言えんが。どうにもならない運命に虐げられたとして、大きな存在を裏切るくらいなら、()()()()()()方を選べるようなもんだ。ドゥージと、『初代・二代目』を似ているというなら、圧倒的なその意識の開きは」


「悪かった」


 親方の突っ込みに苦しくなったドルドレンは、遮って謝る(※頭も下げた)。苦笑してドルドレンの背中をポンと叩き、『お前は、そう思いたくなるかもな』と理解を示した親方に、ドルドレンが顔を上げるより、早く。


「ドゥージは・・・自分から、全てを終わらせに。一言も、誰にも言わず、全部を背負い」


 うっかり触れた人物の名に、寂し気な呟きを落としたのはルオロフ。

 ハッとした皆が、彼を振り向く。ルオロフが狼男の姿で、最後に関わり手助けしたドゥージ。それを辛そうに思い出している顔に、イーアンは彼の胸中を察し、話を変える。



「あの。気分は悪いと思うのですが、僧兵の話した馬車の家族のことも。私から」


「そうですね。かなり気分が悪いと思いますが、この先の旅に関わりそうな印象ですから、分かったことだけでも共有しましょう」


 イーアンに続けたシャンガマックの声が、彼の機嫌悪い表情の意味を強める。ドルドレンが頷き、イーアンは話した。

 途中、クフムに確認された神殿の言葉も加わり、僧兵が何を目的にしたかも、馬車歌の紹介と共に、皆には理解できた。それはどう解釈しても、前向きには取れない感覚―――



【模様馬車の家族の歌】


 馬車に渦を巻く模様がついている家族は、違う世界に関した説明を歌に持つ。

 別の世界と繋がる『島』があり、そこは幾つもの世界を同時に束ねる。

 常に、我々の世界の中に『島』はあるが、足を踏み入れる時は、大きな揺さぶりの後。

 地面が割れ、空が弾ける衝撃によって、『島』は現れる。

 消える時は人知れず。いつ消えたのかを知る者は一人もいない。


 別の世界を繋ぐ人々がいる。数えるほどしかいない彼らは、一様に同じ条件を持つ。

 前世を覚えた体で生まれ、前世はこの世界ではない。

 どこで生まれても彼らは導かれて互いに出会い、荒れた世の混乱を鎮め、次の世へ道を敷く。


 また、『島』には選ばれた者しか入れず、『島』を守るためには二つ首の龍がいる。

 二つ首の龍は、『島』の土を踏むと守護神に変わり、『島』を何人からも阻むが、この龍を従えるのは難しく、善にも悪にも動く龍を連れてくる者は、前世を備えた人々の中でも特別。



「以上です。『島』は、クフムによると神殿の神話『聖なる大陸』なのですが、ラサンの言い方が『島』に近いということで、大陸より島の表現です」


 イーアンが話を〆ると、クフムが言い訳でサッと口を挟む。


「多分、ですよ?多分、そうってだけで。ラサンは共通語で話していましたから。でも『大陸』と彼が言う時、必ず冠詞の発音が入って気になったので、多分『島』の方が、より意味合いが近いと思いました」


「そういうところは、俺に気づかない部分だ。お前が聞いていて良かった」


 焦るクフムに、ちょっと笑ったシャンガマックが彼を誉め、それから真顔に戻ると、シャンガマックはイーアンが言うに悩む部分を引き取って教える。


「ラサンは、この歌を金で買いました。馬車の家族は移動に船を使う時があり、その場合は高額です。乗船費用を買値に提案し、自身は学者と偽って、彼らの歌を何度も聞きに行き、手に入れた情報だそうです。

 その後、ラサンがとった行動は、言わずもがなです」


「許しがたい」



 シャンガマックが話し終わるや、ドルドレンの歯軋りと被った声は、赤毛の貴族からだった。憎みを含んだ薄緑色の瞳が冷たく光る。ドルドレンが彼を見ると、ルオロフはゆっくりと首を横に振り『私が今すぐ、斬り捨ててやりたいです』と静かに伝えた。


「そんな男が。例え、運命の駒だとは言え・・・ 」


 ルオロフは苦々し気にそう言うと、くるりと踵を返し『少し甲板に出ます』と気分を害した態度丸出しで、食堂を出て行った。


 イーアンはシャンガマックと視線が合い、頷いてもらったので『ちょっと話してきますね』と彼を追った。ドルドレンも行こうとしたが、フォラヴが腕を掴み、『先ほど』と自分を含め、反対の意見を出したことを伝え、この場はイーアンが話しをする約束・・・と止めた。


「イーアンが悪いわけではないのだ」


「分かっていますが。でもルオロフは、イーアンと話す約束です」


 可哀想にと、ドルドレンは立ち止まったが、戻ってきて二人に亀裂や溝があるようなら、それはすぐに正そうと宣言するように皆に言った。



「でも。俺もかなり腹立たしいには違いないが。その元凶(※ラサン)が、この時間にここにいて、この話をするまで追い込んでなかったら、『別世界を持つ島』の馬車歌は、この時点で分からなかった。

 それは・・・怒りと別に、理解しておかないといけない部分だ」


 いつでも。言い難いことを伝えるのは、オーリンで。ドルドレンは『もう少ししたら、俺が聞けた内容である』と否定したが―――



 誰もが、このオーリンの一言に、何となく告げる含みを感じ、それは悲しいかな。現実になる。

 模様付きの馬車の家族は、ポルトカリフティグが開戦時に見た、神殿関係者と消えた者を含み、そして残った家族たちも、また。

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