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魔物資源活用機構  作者: Ichen
異界と馬車歌
2559/2963

2559. 本島北10日間 ~⑤獅子の判断基準・『神殿混濁現状』と、皆の心境『交代』・二択『死亡済』

 

 金茶の獅子は、息子と魔物を退治し終わり、そろそろあっちも結果が出たかと考えていた。


 それは連れ出されたシャンガマックも同じ。

 魔物退治で、材料になりそう(※素人判断)な魔物を、二人で解体(※主に父が)し、いくらでも入る黒い箱に消滅しないよう気を付けて入れて、蓋を閉じるや、獅子を振り向いてじっと見つめる。その目は、()()詳細を聞いていないと伝える・・・・・


 漆黒の瞳を向けられたヨーマイテスは、目を逸らしながら『言いたいことがあれば言え』と促し、獅子の顔を覗き込んだ息子に目を閉じた(※勝てない)。


「ヨーマイテス。ちゃんと目を見てくれ」


「む」


「嫌か」


「嫌なわけないだろ」


 ちらっと瞼を開けてみると、真っ黒で艶々な、やたら黒目の大きい瞳が見ている。う、と若干後ずさる獅子の頬に、シャンガマックは両手を添えて(※逃がさない)『なぜ、絵をクフムに預けた』と静かに訊いた。


「ヨーマイテスしか聞こえない精霊の声でもあった?」


「俺の推測の範囲だ。余計なことはしない」


『推測で行動に移したが、余計ではない』・・・普通、逆では?シャンガマックが不可解な表情を浮かべる。それを見て、獅子は少し首を横に振った。



「俺はこれまで、何度もある。『今起きていることは、手を出していいのか。それとも手を出すべきではないのか』その場面。お前も度々、感じたはずだ。俺が動く時と、動かない時の共通状況と条件を」


「・・・ある」


「戻る手前、お前とクフムの状態を知った(※読んだとは言わない)。お前は、言おうとしただろ?」


「うん。俺は言った方がいいかもと」


「同じだ。だから俺があいつに関わるよう、()()()。来るべくして時が来た場合、外野は手を出さないで、物事を見送る判断をすることもあれば、手を足して物事を進める判断もある。今回は」


「手を足したんだね」


 そうだと頷いた獅子は、黒い箱をひゅっと消すと、息子に背に乗るように言い、シャンガマックは彼の背中に跨った。


「戻ったら、変わっているだろう。キーニティに、イーアンの判断に従うよう、言っておいたからな」


「イーアンも・・・俺たちと同じように、見極めをして」


「あいつは()()()()()()だな。女龍は、一刻を争う判断の、責任の中に生きる」


 ズィーリーもそうだったのを、ヨーマイテスは魔導士から何度か聞いていた。

 イーアンは、強大な力を早々に手に入れた分、背負う重圧の増し方が、二代目(ズィーリー)と比にならない。しょっちゅう何かに巻き込まれ、持ち込まれ、自分でも探り、未知に立ち向かい、決して逃げない姿勢を崩さず、選択決定を繰り返している・・・・・


 獅子の重い言葉に、騎士は何も言えない。

 こうした言葉を聞く時、父は、イーアンを認めていると思う。それを口にすれば、父は『違う』と否定するけれど。

 強い者は強い物を知る―― 以前、父がそう教えてくれた以上に、父は女龍を・・・いや、()()()()を理解している気がした。



 *****



 複雑だよな、とタンクラッドは思った。


 現在、宿・・・ではなく、わざわざ移動した()()()、クフム含む、『宿泊組』が集まる。

 ドルドレンは、まだ留守。ロゼールも留守。コルステインやらセンダラは、当然抜き(※これを言うならヤロペウクも)・・・部屋には、赤ん坊ではない姿でシュンディーンも揃った。


 そして甲板外、トゥの側には、真鍮色の不思議な柄を持つダルナがいて、ついでにイングと真っ赤なダルナ(※レイカルシ)までついている。派手な色のダルナ4頭付き、黒い船。


 これはあまりに目立つため、船は一時的に沖に出た。それから、一時間経過。



 何が複雑かというと、()()()()()()にあたって、お浚いの話を聞き終わった後。


 獅子が魔物退治から戻り、回収した魔物材料を渡され、イーアンがダルナと共にすぐに来て、獅子が『クフムに話していい』と不穏漂う一言を発し、イーアンが溜息を落とした・・・続きが、船のこの時間。

 船に移動し、船を沖へ出すまでの小一時間で、『僧兵と神殿問題のお浚い』が、新しい事実も加えて、イーアンから皆に話された。



 神殿の狙いも滅茶苦茶に感じれば、それに沿って動いていたはずの僧兵も、大して従事していないし、乱れ乱れて統率力もない、末路差し掛かっていそうなこいつらは、結局何がしたいんだと、タンクラッドはしみじみ呆れた。


 自分たちが関わった、きっかけまで遡れば―――



 ゴルダーズ公の、船の動力。これが最初である。彼は、動力付きの船を『刺客』によって破壊され、殺されかけた。

『刺客』は、ティヤーの神殿から送り込まれていたから、『サブパメントゥの道具』を持っていたし、肉体も既に人のものではなかった様子。


 この、『サブパメントゥの道具』を使っていた時点で、件の『僧兵』が大きく関与していた。この男が、サブパメントゥの力を利用する要であり、最初にサブパメントゥと組んだ。


 話しを戻す。


 クフムは、ミャクギー島の神殿へ、動力の設計図そのものを届けて返却。

 これについて、ミャクギーの神殿では『秘密』の態度を取ったものの、クフムを()()()()ほど、極端には至らなかった。それは、彼に『ウィハニの女接触』の成り行きがあり、功を奏した形=利用可の立ち位置、になったからだが。


 なのに、クフムは神殿から出てすぐ、サブパメントゥに襲われた。殺されかけたことは、神殿と矛盾した動き。サブパメントゥに残存の知恵など、どうでも良さそうなものを。


 だがこれは、最近ようやく紐解かれた。

 たった一人の『僧兵』が、サブパメントゥを指示していたため、輩は僧兵の()()()()に付き合っていたわけだ。


 そもそも、神殿の大勢に姿を見せて、協力者と名乗るような開放的な種族ではない。


 ゴルダーズ公を襲ったのも、アイエラダハッド僧院を襲ったのも、『僧兵』の意図を聞いてやったサブパメントゥの動きであり、指示したのは神殿ではなく、僧兵自身という解釈になるのだが、これは確認を取っていないので推測を出ない。


 これも変な話だと思う。アイエラダハッドの貴族に売りつけ、製造を僧院に任せておいて、魔物被害が拡大したことで『外部に知恵が漏れる可能性』を閉ざそうとした。


 の、割には。アイエラダハッド生き残りのクフムを、度々襲い、様子を見ていたサブパメントゥは気まぐれ。

 僧兵が命じたなら、それは『面倒が起きないよう、見つけたら始末だけしてくれ』程度か。あいつと、こいつと、・・・くらいの気軽さを想像すると、案外これが正解に感じる。



 神殿は、僧兵を一職員くらいの認識で扱っていたようだが、現実は逆で、僧兵が危険な種族と、神殿を教唆し動かしていた・・・ その僧兵も、視野の狭い状態で『動かしている』自覚しかない。多くの罪は神殿に擦り付け、あとは知らぬ存ぜぬ。


 自分の目的しか目に入らないような人間だから、権威に胡坐をかいて温い神殿を、良いように翻弄して利用したのだろう。


 乗せられた神殿は、分かっていそうでまるで分っていないまま、一人の男の毒に染まった、と。

 元々、信者をダシにしたり、命を取ったりを気にしない輩らしいから、毒が毒を吸ってこんな悲劇が生まれたと思うのが早いか。


 魔物出現以降、隠し方もずさんに、武器の使用をするとか・・・ 神殿は、混濁の状況を()()()()と決め込んで、粗のある計画進行には、管理の手を入れもしない。



「意味が分からん。無能と欲が集まって、複雑になったか」


 改めて、これまでに出てきた事実を並べて考えた、タンクラッドの呟き。


 食堂の広い食卓に、一枚の絵が乗る。絵には一人の人物が描かれ、それは()()()()()()



 女龍は椅子に座らず、立った姿勢で食卓に両手をつき、絵を見ながら『タンクラッドの感想は正直です』と呟いた。私利私欲の塊が、ティヤーの半分を蝕んでいる。


 離れた壁際は、ミレイオの真横にシュンディーンが立ち、この状況の成り行きを見守り、傍観を決め込んでいた。

 クフムを嫌ったシュンディーンが、更に凶悪な男に入れ替わる事態をどう捉えているのか。シュンディーンは顔に出さず、ミレイオにも胸中を話さない。


 もしかすると、決定の状態次第で、シュンディーンは離れるのではないか・・・過る別れを、ミレイオはずっと気にしていたし、他の者も可能性のある()()()()を回避したいと願った。


 でも、フォラヴはシュンディーンが仮にそれを選んだとしても、理解はするし、自分もそうしようと思った。すぐに抜けたくはないが、あの僧兵がすぐ側にいる環境に、耐える気もない。

 これが()()()()()()と、考えることもできるから・・・・・


 同じく、ルオロフも『別れ』まで行かずとも、別行動は具体的に考えていた。

 別の船で、ついて行く。それくらいが可能な額は、手元にある。宿も、別で良い。皆さんと離れるのは寂しさもあるし、忙しいイーアンとは、今よりもっと会えなくなるが、僧兵の影が見える日々は、精神的に無理がある。


 クフムは、と言えば。初めて聞かされた、恐ろしい内容に酷く動揺して、頭は混乱中。

 絵を凝視し、ラサンがそんな人物だったとは信じられず、でも皆の反応を見るからに深刻で本当なのだと伝わるため、また胃が痛くなってきた。が、ここでイーアンが机から顔を上げ、目が合う。



「クフム」 「はい」


「あなたが、この男と話した内容を、皆に教えて下さい。私は一部始終を見ていましたが、あなたの口から告げて下さい」


「わ、私が?イーアンが見ていたなら、イーアンでも」


「話したのは私ではありません。あなたは、この男と受け答えしました」


 絶句しているクフムの横で、オーリンは鼻頭をちょっと擦り、『アイエラダハッドに、遣いを出さなくても済みそうだな』と皮肉を呟いた。その皮肉が分かるイーアンは、受け入れたくなさそうに弓職人を見た。


「僧兵を直に使う方法を、知っていそうですね」


「いや。俺じゃなくて、()()()()()だろ?」


 心の中を見透かすオーリンの言葉に、イーアンの瞼が下がる。受け入れるとなれば、それくらいしか思いつかない・・・ことがある。ただ、これを話す前に、クフムに話を。遣る瀬無い溜息に続け、女龍はクフムに『教えて』とやや強制的な言い方をした。



 ―――クフムは、僧兵と知らず同じ僧侶として、相手と話した旨から始めた。


 絵から声が聴こえ、彼は自ら名前を伝え、私の名前も覚えていた。

 彼は、当時、マリハディー神殿所属の『ラサン』という僧で、動力の製造場所として選ばれた僧院にいた私と、これについて話したことがあった。


 会ったのはそれきりだが、絵の彼は変わっていないように見えた。


 彼は自分がなぜ絵に居るのかを知らず、それを問いかけた私に、『絵から出られるか、所有者に聞いてくれ』と言った。

 神殿の命令で、ウィハニの女と接触するよう言われ、私は今、彼女の近くに居ると話したため、ラサンは私の心労を理由に、()()()()()()()と―――



 何で私たちといることを話したの?とミレイオに突っ込まれ、クフムはそれにも答えた。


 ザッカリアに予言された機会が()()()()()()だとしたら、自分から絶ってはいけないと思い、ウィハニの女の名前だけは出せると考え、話した。彼女の仲間の持ち物、とは言ったが、皆の名前や状況は触れていないこと。

 部屋のあちこちから、重い長い息が聞こえ、クフムはどうしていいか分からず俯く。



「この場にザッカリアがいたら。あの子は『それでいい』と言うでしょう」


 不意に、俯いた頭に女龍の言葉が乗る。顔を上げた僧侶は、白い角を掲げる女龍を、この時ほど寛大に思ったことはない。仕方なさそうに見下ろす女龍は、横に首を振り振り、『ザッカリアならね』ともう一度。


「ルオロフから、あなたの受け取った予言を代弁された時、そんなまさかと思いましたが・・・ザッカリアは、あなたに『予言は叶う』と言いましたか?」


「はい。彼は、仲間が妨げても乗り越えろ、と私に言いました。そうしないと別の未来が起こり、それは望まない未来だと」


「あなたが望まない未来?私たちの望まない未来?」


「分かりません・・・サネーティの家の庭で、ザッカリアは私を励ましました」


 項垂れるクフムに、女龍は頷く。これを聞くと、皆も何も言うことが出来ない。常にザッカリアは、真実の未来を見て、自分たちを導き、支えてきた。どんなに問題ありの状態でも、ザッカリアはその続きを知っていた。


「ザッカリアったら。私には言わないで・・・全く」


 ふーっと前髪を息で吹き飛ばすイーアン。恐る恐る見つめる僧侶に、女龍は苦笑した。


「クフムは『これ一度きりだったら、自分が動かなければ』と思い、行動した。それはザッカリアの励まし『乗り越えろ』だったのね」


「・・・そうです」


「それなら、あなたの行動は何も間違えていません。運命は動いた。僧兵・・・ラサン。ラサンは、あなたと交代し、私が」


「待って」


 クフムが神を仰ぐように女龍を見上げ、腕組みして見下ろす女龍との間に、紙が一枚乗る食卓。女龍が決定を宣言しようとしたのを遮った『待って』の声に、二人は振り向く。


「ミレイオ」


「シュンディーンは、耐えられないわよ。彼は水に戻るかも。まだ一緒に居られるかもしれないのに」


 捲し立てるように早口で伝えたミレイオの横、シュンディーンは無表情に女龍を見つめる。続いて、フォラヴが『私はいずれにしろ、妖精の国へ戻らねばならない時期』と呟いて、ぎょっとした皆が何かを言う前に、ルオロフも機会を逃さず『アネィヨーハン以外の船に乗ります』と急に言った。


 こうなると、ざっと皆の振り返るのは、女龍。クフムは自分のせいかと狼狽えたが、女龍は彼に手を少し伸ばして落ち着かせる。



「大丈夫です。クフム。あなたではない」 「ですが」


「ここまで来ますと、私も認めざる得ない。あなたは、この僧兵と繋ぐための『鎖の一つ』でした。役割らしい役目、()()()()らしい動きの一つもさせていませんが、ここでお別れでしょう」


「イーアン。私は」


 クフムにそれだけ言うと、イーアンは皆の注目を見渡した。皆は、イーアンがどうするのかと、不安や怪訝を顔に出して見ている。

 シャンガマックの奥で、床に座る獅子だけが、女龍の発言を()()ように、しっかりと碧の瞳を向けていた。



「これから、僧兵と直にこの場で話します。私が確かめたいことを聞きます。その後」


「考え直さない?他の手があるかも」


 口を挟んだミレイオの片手は、シュンディーンの腕を掴んでいる・・・顔を背ける精霊の子に、イーアンは微笑むこともしない。


「ミレイオ。最後まで聞いて下さいませんか。僧兵に聞き終わったら、交渉します。二択です。一つは、交渉拒否の後で私に・・・『完全に消される』」


「え」 「何」


 静まる場に緊張が流れる。クフムは凝視する。イーアンは一旦止めて、息を吐く。



「もう一つは、交渉承諾で『一回死んでもらう』」


 どちらかを選ばせます、と女龍は穏やかに伝えた。

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